マネジメント最前線

介護現場NOW

人口減少社会で介護人材確保をどう解決するか 介護のICT/DX化はどこまで進捗しているのか?

2022.11 老施協 MONTHLY

ICT/DX化とLIFE利活用は非常に親和性が高い
LIFEは介護業界において経営的にも実践的にも重要

ICT/DXとLIFEは2040年問題の救世主

 介護業界で働く人々の疑問や悩み、課題を聞き出し、その解決策を専門家に伺う本連載。今回は3回にわたってお届けしている、「人口減少社会で介護人材確保をどう解決するか」について考える2回目。

 2040年問題は、人口減少と世代間の労働人口バランスの悪化による労働力低下が合わさり、かなり深刻さを増している。ここで救世主となるのが、介護ロボットなどICT/DXの導入である。これは、介護実践現場での生産性向上のために不可欠と言われている。

現役職員による座談会【介護現場のリアル】

DX化は浸透済み? ロボットの実装あれこれ

特養に勤めるA職員と有料老人ホームに勤めるB職員。システムやロボット導入を語る。

A「ロボットって、介護をアシストする機械だよね。見守りセンサーもそう。転倒のリスクを防ぐためにベッドでの利用者さんの状態がプライバシー保護のためシルエットで出て座ってるか起き上がったかが分かるから、自立した利用者さんの排泄介助のタイミングも計れて便利なんだ」

B「うちは入浴介助のリフトアップね。車椅子からの移乗もクレーンみたいな機器でつり上げられるから負担が少なくて助かる。一般浴での浴槽のまたぎができない利用者さんは、電動の回転する椅子を使う。それに、見守りシステムもあって、各自のスマホに連動されるから、夜勤も楽になり、見落としもなく、転落リスクも減ったよ」

 厚生労働省と経済産業省は、’12年に「ロボット技術の介護利用における重点分野」を示し、その導入支援をしているものの、『令和3年度介護労働実態調査』などを見ても、その導入は極めて低調である。介護報酬の改定などでもICT化の経済誘導策が取られているものの、さほどの進展がないのが現実だ。これでは2040年問題に対応できないのではないか、と懸念する。

 一方、’21 年度の介護保険制度改正で本格導入されたLIFE(科学的介護情報システム)の活用も遅れている現状がある。LIFEとは、利用者のADLや機能など心身の状態に関する情報を登録すると、インターネットを通じて厚生労働省へ送信され、入力内容が分析、当該施設などにフィードバックされる情報システムだ。その利活用にはI CT/DX化と一体的に考える必要がある。これは、近年の介護保険制度における最大のプロジェクトであり、乗り遅れることは施設にとっては死活問題ともなるはずである。

 こうしたさまざまな状況を踏まえて、介護実践現場での人材確保、業務の生産性向上について、介護の現場の実務経験者でもある東洋大学ライフデザイン学部准教授の高野龍昭先生にお話を伺った。

ICT/DX化の遅れは介護分野の将来的な懸念に

 前回の本欄では、介護事業所・施設等が2040年問題などに対処するための方策としてICT化などが重要であると述べました。しかし、私も調査・分析に関わった『令和3年度介護労働実態調査』(介護労働安定センター)からは、介護現場のICT/DX化が立ち遅れていることが分かります。

 例えば、介護ロボットの導入をしている事業所等は、「見守り・コミュニケーション」で約3.0%(施設型・在宅型の合計)、「移乗介助」で約2.4%(装着型・非装着型の合計)などと僅少であるとともに、「導入していない」と「無回答」は合計で約93%となっています(表1)。一方で、導入のための課題として「導入コストが高い」という回答が多く(約57%)、導入支援策の不十分さやICT機器の技術的な懸念もうかがうことができます。

【表1】介護サービス事業所・施設での介護ロボット等の導入

(2021年10月時点での実績:複数回答:n=8,742)

出典:『令和3年度介護労働実態調査』(介護労働安定センター)を基に高野龍昭にて作図

 さまざまな事情があるとは言え、介護分野でのロボット技術の導入支援は’13 年度から厚労省・経産省が本腰を入れた対策を講じ始めており、それから10年が経過する中、前述のような現時点での実態は危機感をもって捉えるべきでしょう。将来的な介護人材確保に有効かつ恒常的な対策が見いだせない今、ICT/DX化は早急に進めるべきだと考えます。

現場のICT/DX化とLIFE利活用は表裏一体

 私は、ICT/DX化とLIFE(科学的介護情報システム)の利活用は、非常に親和性が高いと考えています。LIFE関連のデータを収集してそれを所定のWEBサイトにアップしたり、職員間でそのデータを共有しながらフィードバックを受けて支援計画などを見直して、それを記録することなど、ICT技術を活用すれば利便性が向上することは明らかであり、この両者については表裏一体のものだと理解できるでしょう。

 介護事業所・施設でのLIFEの利活用の状況については、今年6月に全国老施協が興味深い調査結果を発表しています。

 その調査(『令和4年4月加算算定状況等調査』)によれば、今年4月時点でLIFE関連加算のうち最もベーシックなものである科学的介護推進体制加算を取得しているのは、特養ホーム約62%、デイサービス約49%のほか、特定施設入居者生活介護では約33%にとどまっています(表2)。いずれも、思いのほか低い取得率です。

【表2】LIFEに関連する介護報酬の加算:科学的介護推進体制加算の取得状況(2022年4月現在)
出典:(公社)全国老人福祉施設協議会『令和4年4月加算算定状況等調査』を基に高野龍昭作図

 介護に関する政策研究をしている私たちは、LIFEは一つの国家的プロジェクトと見ており、これに対応できないとなると(賛否は別として)、経営的な意味は言うまでもなく、介護実践の上でも取り残されることになります。

 さらに言えば、いわゆる「Z世代」などの若年層は、分野を問わずICTやデータ利活用を志向する傾向もあります。したがって、デジタルネイティブの世代に介護の魅力を体感させるには、こうした新技術の活用も不可欠です。

今月の回答者

東洋大学 ライフデザイン学部 生活支援学科 生活支援学専攻 准教授 高野 龍昭さん

東洋大学 ライフデザイン学部 生活支援学科 生活支援学専攻 准教授
高野 龍昭さん

Profile●たかの・たつあき=1964年、島根県生まれ。龍谷大学文学部(社会福祉学専攻)卒業後、島根県と広島県でMSWやケアマネジャーの実践を経験した後、2005年から大学での福祉専門職養成教育と高齢者介護システムの研究に従事する。社会福祉士・介護支援専門員


取材・文=一銀海生