こころとからだ
獣医師が語る人と動物の触れ合い活動 アニマルセラピーがもたらす人と人の絆、癒やしと効果!
今回は、日本動物病院協会(JAHA)によるCAPP(人と動物の触れ合い活動)のチームリーダーのお一人、埼玉県・七里動物病院院長・中村悟先生に、アニマルセラピーの効果について伺います。
今回の監修

七里動物病院・院長/
公益社団法人日本動物病院協会CAPP委員長/獣医師
中村悟さん
1966年兵庫県生まれ。日本大学農獣医学部卒業。1994年から七里動物病院・院長。CAPPの活動には2001年ごろから参加しています
「現在、JAHAのCAPPチームリーダーとして、埼玉県内の特養老人ホーム、県立小児医療センターなどで活動しております。アニマルセラピーは利用者さん、患者さんだけでなく、施設に従事する皆さんにもいい効果をもたらすことを実感しています」

中村先生が院長を務める七里動物病院(さいたま市見沼区)。「すべては 患者さんのために」がモットーで、地域の方から信頼される動物病院。
動物の介在で生まれるのは人同士のコミュニケーション
中村先生は、埼玉に動物病院を開業して32年。日本動物病院協会(以下JAHA)が確立したCAPP(Companion Animal Partnership Program=人と動物の触れ合い活動)にも25年ほど関わっているベテラン獣医師です。現在でもCAPPのチームリーダーとして、埼玉県内を中心に活動されています。
CAPPではチームリーダーを中心に、10〜20名のチームで全国の介護施設や福祉施設、病院などを訪問。動物を介して人に癒やしの効果をもたらすといわれるアニマルセラピーを実施しています。現在までの訪問施設数は約160施設ほどです。具体的にどのような活動をされ、どのような効果を上げているのでしょうか。中村先生に伺いました。
「私たちが動物を連れてお邪魔している施設では、定期的に利用者さんが広間などの1カ所に集まって、音楽や園芸などの活動を行っています。その一つとして、アニマルアシステッドアクティビティ(AAA)というのがあって、皆さんに動物と触れ合ってもらいます。利用者の全員が必ずしも動物が好きな人ではないんですが、膝の上に動物を乗せながらお話をされると、皆さん非常に会話が進むんですよね。実際のところ動物たちは間にいるだけで、むしろ利用者の皆さんは人とお話したいんだろうなと思うことが、今までの活動を通してよくあります」
犬や猫といった動物が、人と人のコミュニケーションの手助けになっているということですね。
「そうかもしれませんね。もちろん、動物が大好きという方もたくさんいます。しかも、いつもお気に入りの縫いぐるみを抱えていて、本物の動物が来ても縫いぐるみの方に気がいってしまっている方も中にはいるんです。でも、例えば犬がちょっと一芸を披露して、普段はあまり見られない姿を見せたりすると、そういった方々もとても喜んでくれます。参加者は認知症の方も多いので、翌月伺ったらもう忘れられているということもあるんですが、認知症がそんなに進行していない利用者さんの場合、前回の活動時の写真を貼ってベッドの近くに置いていたりすると、写真を見るたびに思い出して、介護士さんとの会話が弾むなんてこともあるようです。また、寝たきりの利用者さんなどは部屋を出て集まれないので、こちらから小さな犬を連れて部屋まで行って、胸の辺りに置いてあげたりすると喜んでもらえますし、意識があまりはっきりしていないような方でも、何かしらの刺激にはなっているんじゃないかと思うことがあります。あとは、いつ動物たちがやって来るというのは事前に分かっているケースがほとんどなので、その日を楽しみに期待しながらワクワクして待つ時間が、いい効果を出しているようです。施設で働いている方にも『(利用者さんの)こんな表情は見たことないです!』と言われることもありますね」

高齢者施設や病院、学校などを訪問し、動物の持っているぬくもりや優しさに触れていただくボランティア活動です。


アニマルセラピーの効果はどう実証されているのか
動物の癒やし効果は肌感覚で分かるのですが、学術的に検証されている動物たちの癒やし効果とは、どんなものがあるのでしょうか?
「これは学術的というか経験値的ですが、この活動があった日は参加者の皆さんがよく睡眠を取られることははっきりしています。多分、それなりに体力を使うということもあるのですが、このよく寝てくれることが、施設のスタッフの方にとっては夜間ケアの負担が軽減されると好評です。学術的には麻布大学の菊水健史教授の研究が有名で、お互い触れ合うことで、人間も動物もオキシトシンという幸せホルモンといわれる物質の分泌が多くなることは証明されています」
オキシトシンは女性が出産の際に多く分泌して、子供への愛情を深めるよう進化したという“絆ホルモン”ともいわれるものですね。
「そうです。“子育てホルモン”ととも言われています。この、多幸感を得られるというのは利用者の方にとって大きなことだと思います。あとは移動の効果と言いますか、リードを持って廊下で犬の散歩をするアクティビティもあって、そのときは普段あまり歩かない高齢者の方が一生懸命に歩かれるんですね。以前、犬を飼っていたことのある方なんかは『昔はよくこうやって散歩していたのよねー』なんて話しながら」
一方で、動物が苦手な利用者の方もいらっしゃいますよね?
「確かに1割くらいは、この活動中に部屋を出てこられない方もいらっしゃいます。施設の方も無理強いはしませんからね。でも、それほど好きじゃないくらいの方は、遠巻きに広間に集まって、結局は私たちが動物を連れて伺うと抱っこしてくれることも多いですね。ですから、多少の好き嫌いはあれど動物との触れ合い活動が一番多く人が集まるため、部屋が空くから掃除がはかどる、という施設の方の意見もあります」
確かに、それも一種の“移動”の効果とも言えそうですね。意外な点で施設の方にも利点がありますね。
「私たちはいつも、動物が10頭くらいと、そのハンドラー(飼い主)であるボランティアさん、あとはサポートスタッフとして動物を連れていないボランティアさんも入れて10〜20名くらいで伺うんですが、動物が苦手な利用者さんも、そうしたボランティアさんと話が弾むので、集まっていただけることも多いのです」
そのボランティアになるにはどうすればいいんですか?
「アニマルセラピーにボランティアとして参加するには、人は講習を受けていただき、動物はチームリーダーが適性を見て、参加可能と判断できればCAPPに登録していただくというような流れになっていますね。IAHAIOという国際組織(下記参照)がさまざまなガイドラインを作成していますので、JAHAがそれらを参考にして参加のための基準を設けています」


施設利用者以上に効果があるのは介護従事者!?
先ほど、よく眠られるので夜間ケアの負担軽減、みんな移動してくれるので部屋の掃除がはかどるというお話もありました。介護士さんはじめ、施設で働く方へのメンタル面での効果はありませんか?
「あります!むしろ、どちらかというと従事者の方々の効果は大きいんじゃないかと。参加者の話を聞くと、そう思うこともあります」
どういうことでしょうか?
「私たちが施設にお邪魔した際、まず会議室とか広い場所をお借りしてミーティングを行うんですけど、もうそのあたりから、皆さん待ちきれなくてのぞきに来られたり、抱っこしに来られたりしますね。何度か訪れている施設だと、皆さん犬や猫の名前も覚えられていて、『○○ちゃーん』って声を掛けてくれたりします。それと同じことは病院でも。看護師さんや保育士さんが楽しみに待っていてくれます」
介護施設だけでなく、病院に行かれることもあるんですね。
「私たちが行くのは埼玉県立小児医療センターと、あとは埼玉県立精神医療センター。どちらの施設も小中学生が多いので、やっぱりみんな楽しみにしていてくれることが多いんですよ。小児医療センターには生まれつきの重い病で入院している子どももいて、ずっと付き添っていらっしゃるそのご家族が、ひととき動物に癒やされて一緒に写真を撮って喜んでくれたりもしますね」
私もですが、子供も大人も、高齢者も、みんな動物には癒やされます。今さらですが、その癒やしの根源はどこにあるんでしょうかね?
「どこなんでしょうね(笑)。例えば今日、私が何でこの子(ニコちゃん)と一緒に来たかというと、手ぶらで来ると、多分ですが私は緊張してしまうと思うんです。この子はまだ何にもできないですけど、こうして抱っこしていることで私の血圧がきっと落ち着いているんじゃないかなと思います。アニマルセラピーの効果の科学的根拠について世界各国でさまざまな検証が行われていますが、相手が動物なので客観性のある学術調査がなかなか難しいようなんですね。でも確実に効果はあると思います。人間と犬や猫は、1万年以上前から共に生活してきたので、ある種の絆はきっとあるのだと思えます。何といってもオキシトシンの別名は“絆ホルモン”ですし」

次回は具体的に読者の皆さんの働かれている施設で、アニマルセラピーを実施するにあたってのポイントなどを、中村先生やJAHAのご担当者に伺っていこうと思います。
構成=宮澤祐介/取材・文=重信裕之/撮影=磯崎威志
IAHAIOとは?
International Association of Human- Animal Interaction Organizations
=人と動物の関係に関する国際組織
「IAHAIO(アイアハイオ)」とは人と動物との相互作用の正しい理解を促進させるために各国で活動している学会、協会などの国際的な連合体です。米英仏の団体が中心となって1992年に設立。JAHAはHAB思想(人と動物の絆)の普及啓発、特にCAPP活動が国際的に評価され、1994年にナショナル・メンバーとして加盟を承認されました。また、2003年にはヒトと動物の関係学会もナショナル・メンバーに承認されています。