福祉施設SX
大山会長の新年度あいさつ 介護の現場をより良くするために

介護報酬の期中改定が大きな動きとなり、政府要職者や国会議員への陳情活動で介護現場の実情を訴え続けてきた令和7年度。この流れを追い風にし、令和9年度の介護報酬改定で要望を勝ち取るためには何をすべきか。また令和8年度の新職員に向けて、働く心構えやエールを語っていただきました。

全国老人福祉施設協議会 会長
社会福祉法人蓬愛会 理事長
大山知子
新制度に基づく令和8(2026)年度がスタートしました。昨年は政府要職者への陳情を積極的に重ね、介護現場の実情を訴え続けてきた全国老施協ですが、今年度も皆さまからいただいた声を集約して、引き続き国へ訴え続けてまいります。
期中改定はプラス2.03%格差を埋めるのが課題
今年度の大きな動きとして、介護報酬プラス2.03%となる介護報酬の期中改定があります。内訳としては、他産業との地域格差是正に対応するための処遇改善分としてプラス1.95%、食材料費高騰に対応するための食費の基準費用額の引き上げ分としてプラス0.09%となっています。これにより介護職員について月額最大1.9万円、率にして6.3%(定昇込み)の賃上げが実現され、食費の基準費用額については1人1日あたり100円引き上げられます。
しかし賃金格差については、全産業の平均月額給与との差額が8.3万円もあり、介護職員の賃上げが実現しても依然隔たりが大きい状況です。今後も他産業の賃金上昇傾向は続くことが見込まれる中、あくまでも期中改定は緊急的な措置という位置付けで見ることが必要だと思っています。今年度は、令和9(2027)年度の介護報酬改定を見据えて、改定率の引き上げに向けた活動に引き続き注力してまいります。

現場の意見が詰まったアンケートは国へ陳情する際の重要なエビデンス
全国老施協と地域の老施協がサンドイッチ方式で働き掛ける
昨年は、国会議員への陳情要望活動、厚生労働省との密な打ち合わせ、政府要職者との接触を積極的に重ねて、介護現場の実情を訴え続けてきた一年でもありました。
片山さつき財務大臣の元に交渉へ行った際には、「介護はこれでもかと陳情に来るのね」と言われるほどでした。ですが我々としては、農業や建設などたくさんの業種からの陳情が届く中で、私たちの陳情が埋もれてはいけないとの思いが強くあります。”積極的に働きかけていく姿勢が大切”という思いで今後も行動していければと思っています。
そのかいがあって、全産業との賃金格差が8.3万円もあることを認識された片山大臣から、「一気に同等にすることは難しいけれど段階を追って格差を是正していかなければいけないですね」というコメントをいただきました。また高市早苗総理にも早期にお会いして現状を訴えました。高市総理も介護経験者ということもあり、介護業界の状況については大変ご理解をいただけたと感じております。
このように国へ陳情する際、全国老施協は組織内議員がいないため、各国会議員や大臣の地元の老施協の方からお声掛けしていただいて、つないでいただいております。これは老施協が全国や地域といった垣根を越えて、同じ目標を見据えているからこそできることです。これからも個々の施設が地域で活動し、その声を全国老施協が集約して、引き続き国に要望を届けてまいります。大事なことは、全国老施協は国会議員や厚生労働省へ、各都道府県・市の老施協は地元の県会議員や市会議員への働き掛けを行うことです。このサンドイッチ方式での訴えかけを主として、今後も変わらず続けていくことが務めだと思っております。

利用者の食事を中心に3つの大きな要望を提出
今回、高市総理をはじめとする閣僚の皆さま、議員さまたちに渡した陳情は、大きく分けて3つの要望からなっております。
まず1つ目は、”利用者の食事”。食事は利用者にとって楽しみの一つです。だからこそ現場では、利用者が最後までおいしく食事を取れるようにとさまざまなやりくりをしています。期中改定では、食費の基準費用額について1人1日あたり100円引き上げられる予定です。ただ物価高騰中の今、100円では十分な食事を賄い切れず、質素になってしまうと感じています。これでは利用者にとって楽しみのひとつを減らすことになってしまいます。そうならないために、”利用者の食事”を一番に挙げました。
そして2つ目に、他業種との格差が大きい”賃金”について。3つ目には来年度に介護報酬改定がある”公定価格が今の時代にそぐわない”という旨を訴えました。
この陳情を読んだ木原稔内閣官房長官からは、「利用者ファーストですね」との言葉をいただきました。当たり前のことなのですが、改めて私たちは利用者があってこそということを認識しました。また今回の内閣と接していて感じるのは、高市総理をはじめ皆さま方が、介護の問題を自分のことのように受け入れているということです。このことは私たちにとって大変うれしいことで、来年度の介護報酬改定への大きなきっかけになりそうな気がしています。
各施設からのアンケートは陳情する際のエビデンスに
このように、陳情する上でとても重要になってくるのがエビデンスです。資料を渡しながら説明をするのですが、どれだけ困っているのか、どのような状況で厳しいのか、だからこそこのような予算措置や制度改正が必要だということを、論理的な流れで、明確に短時間で示すことが求められます。なぜその数字が必要なのかの理由が明確でなければ話が進みません。私をはじめ、介護従事者はどうしても感情で訴えがちですが、やはりそこは感情だけではなく、一つ一つのテーマごとにアンケートで実態を把握し、それを数字で示していくことが大事だと感じています。
その数字を出すために極めて重要な役割を果たすのが、全国の会員施設が答えてくださるアンケート調査です。もちろん、私が直接いろんな大会で皆さまの声を聞いてくることもありますし、各都道府県・市の老施協から上がってくる声も大事です。ですが、それよりも多くの人たちの声が詰まったアンケートは、皆さまからのリアルな声になり、集約することで確実なエビデンスとなっていきます。
もちろんそれぞれの現場は人手不足で疲弊し、ご負担の大きい状況にあることは重々承知しております。ただ、現実が厳しい、大変ということをアンケートという形で言葉にしていただくことで、やっと国に届くものになります。相当数かつ正確なデータを用意できなければ、適切な予算措置も期待できません。現場の実情を正確に届けるために、ぜひご協力をお願いできたら幸いです。
利用者の食費、雇用者の賃金といった問題と同様に、しっかりと向き合わないといけないのが、高齢者人口がピークを迎える”2040年問題”です。
2040年まで待てない待機者減の地域の在り方
令和22(2040)年までの間、医療・介護ニーズを抱える85歳以上の人口が急増する一方で、それを支える生産年齢人口が急減していきます。中でも生産年齢人口の急減は、大都市部から一般都市、さらには中山間地域・離島と、順を追って地域差が大きいと見込まれています。特に中山間地域・離島といった、人口減少地域における必要な介護サービスの確保が問題になってくると考えられています。
東京などは他の地域と比べると財源もあるので2040年まで余裕がありますが、人口減少のスピードが速く、既に待機者もいない、2040年までも持たない地域も数多くあります。そのような地域では、中長期的な視点での経営計画の検討と併せ、法人間連携等の多様な選択肢を視野に入れて、施設運用を続けていくことが大事になっていきます。
全国老施協としても、現状に向き合い、しっかりとシミュレーションを行った上で、積極的に対策を取っていければと考えています。

補助金が出ているICT効果的に利活用するのが得策
目前に差し迫っている課題である介護人材確保に向けては、多様な観点から取り組んでいくことが必要ですが、介護現場における生産性の向上の促進という意味では、これまで実施してきた”介護ロボット・ICT導入モデル実証事業”をさらに発展させていくことが大事であり急務だと感じています。
限られた人材の中で、利用者と触れ合える時間を数多くつくるためにも、任せられるところは任せていくことが大事です。ICTに補助金がついている今、導入することが得策だという時代が来ていると思っていただきたいです。
介護ロボット・ICTの導入と、その効果的な利活用方法をより普及させ、介護現場における生産性の向上を一層促進していきたいです。
協力医療機関との連携義務化と想定される大規模災害を見据えた動き
協力医療機関との連携義務化に向けて強固な関係を築く
令和9年度からは、協力医療機関との連携が義務化されます。これは利用者が施設入所中や緊急時に、スムーズかつ適切な医療を受けられる体制を構築するための取り組みです。
要件として「医師又は看護職員が相談対応を行う体制を常時確保していること」「診療を行う体制を常時確保していること」「入院を要すると認められた入所者の入院を、原則として受け入れる体制を確保した協力医療機関を定めること」の3つが求められています。
令和7年に全国老施協が実施した加算算定状況等調査では、介護老人福祉施設1780施設のうち、1456施設(81.8%)が3要件全てを満たしていることが明らかになりました。一方で、調整中の252施設の50.4%は調整が難航しているとの回答を得ています。まだ提携していない252施設をどうするのか。義務化までの時間は少ないですが、問題が山積みなので、施設と連携を取りながらベストな取り組みを行っていきたいです。

全国老施協DWATを派遣して災害時にも日常の安心を提供
近年、多発している大規模災害に関しては、令和6(2024)年の能登半島地震での動きが今後の指標になっていくと考えています。
大規模災害時に被災した高齢者施設へ、介護専門職(介護職、看護職、生活相談員、ケアマネジャー、施設長など)を派遣し、介護サービス支援や環境整備を行う人的支援体制である「全国老施協DWAT」は、大きな活躍を見せました。福祉避難所や介護施設への支援に特化し、介護に従事する仲間が仲間を支えることで、いつもと変わらないケアを被災者に届けることができたことは、大きな一歩だったと思っています。
ただ、長期間にわたったこともあり、組織力やネットワークの構築が欠かせないことも教訓となりました。近い将来想定される、南海トラフ地震等の大規模災害の支援を見据え、全国老施協、各地域の老施協の組織力を生かした、災害支援体制を構築していく必要があると考えています。それは全国と地方との連携が非常に大事で、これまで以上に連携を取っていくことが必要になっています。
令和9年度改定は正念場基本報酬アップへ現場の声を届ける
ここまで大まかな話をしてきましたが、令和8年度は、令和9年度改定に向けての勝負の年です。この1年の動きが、その先の介護現場の未来を大きく左右すると言っても過言ではありません。私たちはこの重要な局面において、明確な意思と戦略を持って取り組んでいきます。
同時に、令和9年度の介護報酬改定を見据えた具体的な動きを、これまで以上に加速させていかなければなりません。本改定に関して国へ交渉していくには相当な時間を要します。だからこそ今この瞬間から、あらゆる手段を講じて準備を進めていく必要があります。
介護報酬加算の充実にとどまらず 基本報酬の大幅アップを実現する
アンケートなどを通じて現場の声を丁寧にすくい上げ、実効性のある陳情を作成し、国会議員に対して強く訴えていきます。この基本的な流れはこれまでと同様ですが、令和9年度改定においては、加算の充実にとどまらず、本丸である基本報酬の大幅な引き上げを実現するという強い決意のもと、これまで以上に踏み込んだ働きかけを行っていきます。
全国老施協は、介護という仕事を”やりがい”だけで語られるものではなく、誇りと適正な処遇が両立する後悔のない仕事にしていくことが使命だと考えています。そのために基本報酬の底上げは避けて通れません。各関係機関に対しても、現場の実情を踏まえた現実的かつ切実な要望を粘り強く伝え、確実に形にしていきます。そして何より、その成果を少しでも現場で働く皆さまへ還元していくことに全力を尽くします。
介護の仕事については、いまだに十分に理解されていない側面があるのも事実です。しかしそれは同時に、正しく伝えていく余地があるということでもあります。現場の価値や専門性を社会に発信し、イメージを変えていくことも、私たちの重要な役割です。制度・政策の実現にはスピードが必要。”素早いキャッチと行動力”を胸に、現場の声をいち早く捉え、即座に政策へとつなげていきます。その積み重ねが、大きな改定の実現につながります。
今年度も変わらず、そしてこれまで以上に力強く、声を上げ続けていきます。現場の皆さま一人ひとりの声が、制度を動かす原動力です。ともにこの”勝負の年”を乗り越え、次の改定につなげていきましょう。
引き続き、皆さまのお力添えをたまわりますよう、よろしくお願いいたします。
全国老施協会長 大山知子

構成=佐藤義徳/撮影=磯﨑威志/取材・文=玉置晴子