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特集

軽費老人ホームが抱える 課題と打開策 PART.01

 経済的な理由や身体的な不安から自宅での生活が困難になった高齢者に、比較的低額な費用で住まいと生活支援を提供する軽費老人ホーム。介護が必要になる前の段階から入居でき、食事付きの集合住宅としての機能をもっています。しかし、制度の複雑さ、財政的な課題、そして社会的な認知度の低さという三重の困難に直面し、入居希望の待機者も減少傾向にあるなど、施設の経営は難しくなってきています。

 全国老施協の軽費老人ホーム・ケアハウス委員会ではこうした状況を少しでも打開すべく、制度・政策への提案や、厚生労働省との協議などを行っています。今回の特集では、全国老施協 軽費老人ホーム・ケアハウス 中川勝喜委員長に全国老施協としての取り組みを聞くとともに、ブランド力と発信力をつけたことで、経営が好循環している施設の事例を紹介します。

事務費補助金の据え置きによる 経営の圧迫

 軽費老人ホームが抱える大きな問題として、事務費補助金が20年近くも据え置かれたままの地域が少なくないということがあげられます。この間、消費税は5パーセントから10パーセントへと段階的に引き上げられ、最低賃金も上昇を続けてきました。施設が支払う経費は確実に増加しているにもかかわらず、収入は変わっていません。

 公定価格で運営される福祉施設は、民間企業のようにご利用者に値上げを転嫁することもできません。入ってくる資金は増えず、出ていく費用だけが膨らむという構造的な問題が、施設経営を圧迫しているのです。

 

施設の老朽化と共有できていない補助金情報

 軽費老人ホームが直面するもう一つの深刻な課題が、施設の老朽化です。昭和50年代から60年代に建設された軽費老人ホームにはバリアフリー化されていない建物もあり、大規模修繕や建て替えが必要な時期を迎えています。しかし、軽費老人ホームの運営構造は、年度ごとに収支が均衡するように設計されており、利益を積み立てて将来の大規模修繕に備えるという仕組みにはなっていないために資金確保は難しい状況です。

 かつては修繕補助金などの制度がありましたが、一般財源化以降は都道府県によって対応がまちまちになっています。ある施設では、地域医療介護総合確保基金を活用して、2億円以上をかけた全面改修を実現しました。これは、新たな地域密着型サービスを開始する際に、既存施設の改修費用も補助するという基金の一部を活用した事例で、グループホームを新設することで、老朽化していた軽費老人ホームの改修資金を確保できました。しかし、こうした補助金の情報は十分に共有されず、活用できていない施設が多いのが現実です。

 

根拠ある政策提言と 自治体に求める理解

 全国老施協では、会員施設に対するアンケート調査を実施し、その結果を政策提言の根拠として活用しています。47都道府県等の事務費改定状況、入居率、経営状況など、詳細なデータを収集し、問題の実態を可視化する取り組みです。

 厚生労働省も近年、自治体に対する調査を行っており、老人保健健康増進等事業としても、軽費老人ホームをテーマとした研究事業を継続しています。事業者側からの情報だけでなく、自治体側の認識や対応状況を把握することで、より包括的な実態把握が期待されます。他にも計算シートが用意され、物価上昇率や人事院勧告などの指標を用いて、本来あるべき事務費の水準を算出できるようになっています。

 しかし、こうした調査や提言等が実際の制度改定につながるには、さらなる働きかけが必要です。国への要望と同時に、各都道府県への働きかけも重要で、地方自治体の議員に対して、福祉分野の現状を理解してもらう活動も欠かせません。

 ある施設長が議員に説明に行った際、「福祉や介護の分野は正直よく分からない。だから何度も来て説明してほしい」と言われたというエピソードもあり、福祉分野への関心や理解が、政治の場では必ずしも高くないという現実もあるのです。

 

「制度の狭間」に位置する人々にとって 貴重なセーフティネット

 軽費老人ホームA型では、養護老人ホームの措置対象にはならないものの経済的に困窮している高齢者や、国民年金のみで生活し、年間収入が150万円以下という入居者が約半数を占めています。生活保護を受けるほどではないですが、一般的な賃貸住宅で家賃を払いながら生活することは困難な「制度の狭間」に位置する人々等にとって、貴重なセーフティネットとなっているのです。

 しかし、この重要な役割が社会的に十分認知されていないことが、施設の存続を危うくする一因となっています。食事付きの住まいを比較的低額で提供し、安否確認など24時間の見守り機能も備えていることを、地域のより多くの方に知っていただく必要があります。

 

 経費老人ホームの種類          
 時代背景と地域ごとのニーズを反映して、A型、B型、ケアハウス、都市型と複数の種類があり、それぞれ異なる特徴をもつ軽費老人ホーム。
 最も古いA型は食事付きで、利用料金は生活費と事務費のみ。一方、ケアハウスは、部屋代にあたる管理費が支払いに加わる。原則として既成市街地域等のみにある都市型は、定員20人以下の小規模施設で、部屋は狭いが、都市としては料金を抑えた設計となっている。

 

地域コミュニティの一部として 果たせる役割の一歩を踏み出す

 軽費老人ホームの経営維持のために、施設側でできる努力としては、地域に開かれた施設としてさまざまな形で地域貢献を行うことが挙げられます。

 独居高齢者の増加、地域の見守り機能の低下、社会的孤立の問題など、現代社会が抱える課題に対して、軽費老人ホームが地域コミュニティの一部として果たせる役割は多様です。高齢者の見守り、居場所づくり、世代間交流、地域活性化などに対して、軽費老人ホームは解決策を提供できるのではないでしょうか。

 重要なのは、完璧な正解を求めるのではなく、まず一歩を踏み出すことです。地域の祭りへの参加、カフェの開設、野菜の販売、小学校との交流など、できることからはじめ、その積み重ねを、点から線へ、線から面へと広げていくことが大事です。

 複雑化した制度、20年近く据え置かれた事務費、低い認知度という三重の困難を乗り越え、軽費老人ホームが本来の役割を果たせる環境を整えることが、今求められています。それは単に会員施設を守るということではなく、多様な高齢者の生活を支えるセーフティネットを維持するという、社会全体の課題なのです。

PART.02へ続きます。

取材・文=池田佳寿子