福祉施設SX
軽費老人ホームが抱える 課題と打開策 PART.02

目印となるキャラクターを活用し
高めた発信力で経営を後押し
多くの社会福祉法人が、地域の中で存在感をアピールすることが求められている今、軽費老人ホームも例外ではありません。むしろ、不可欠なセーフティネットとして、長い間、当たり前のように地域の高齢者を支えてきただけに、その存在に日の目が当たることも少なくなっていました。時を経て、さまざまな施設の選択肢が増えた今、いかに発信力を高めるかが経営を左右するようになっています。そこで今回は、発信力を得たケアハウス ウェルケア重信に、どのような好循環が訪れたのか、その具体例を紹介します。


はじまりは介護業界全体を 盛り上げたいという強い思い
ケアハウス ウェルケア重信の上野施設長は、施設の好循環についてこう振り返ります。「最初は戦略的なブランド化を目的としていたわけではなく、施設の魅力を発信することで、利用者や職員の獲得につなげたいという思いがありました。ここに入居したら楽しそう、ここで働いたら充実しそう、そう思ってもらえる施設の姿を伝えることが重要だと考えていました」
そんな時に出会ったのが、介護の仕事に対してしっかりとした理念をもつ生活相談員の岩田さんでした。自分たちの施設だけが注目されるのではなく、介護業界全体の魅力を発信し、より多くの人に関心をもってもらいたいという岩田さんの姿勢が、結果として施設の魅力を高めることにつながりました。
まずは『農福連携』で 入居者と職員、施設と地域をつなぐ
岩田さんがケアハウス ウェルケア重信に異動してすぐに思ったのが、施設の暗い雰囲気をなくし、入居者にとっても職員にとっても『名実ともに明るい施設』にしたいということ。そのためにまず力を入れたのが農業と福祉の連携でした。
「僕自身が農家出身だったので、農業は取り組みやすかったのですが、決して専門家ではありません。父親に聞けば済むのですが、そこは親子だけに聞きにくい。実は、これがよかったのです」と岩田さん。
ケアハウス ウェルケア重信の入居者の多くは農家出身なので、岩田さんたち職員が入居者の方々に教えてもらったり、時に叱られたりしながら、一緒に作物を育てていくことになり、とてもよい関係性が生まれたのだといいます。
『農福連携』の効果について、上野施設長もこう語ります。「入居者にとって、自分の知識や経験が役に立つという実感は大きな喜びとなります。農業という共通の話題は、世代や立場を超えた対話を可能にし、植物の成長を見守る喜び、収穫の達成感、そして食べる楽しみなどの体験が、施設を単なる生活の場から、生きがいを感じられる場へと変えてくれました」
そしてこの『農福連携』は地域住民との新たな接点ともなりました。地域の現役農家の方々が訪れ、アドバイスをしてくれることで、新たな交流が生まれ、収穫した野菜を使ってバーベキューをすれば、それがまた地域の人々を招くイベントとなり、交流の輪が広がっていったのです。
生み出したキャラクターは 明るく楽しい施設の『目印』
こうして『農福連携』に力を入れつつ、さらに施設の雰囲気も、入居者の表情も明るくしたいと考えた岩田さんが発案したのが、自らを「ヤングコーン先生」というキャラクターにすることでした。
「ヤングコーン先生というキャラクター名は、野菜で、みんなを明るくする黄色のコーンと、まだまだ成長中ということを合わせて選びました。最初は一度限りの試みとして、被り物をして農作業をしてみたのですが、あまり受けなかったためにもうちょっと頑張ってみようと続けているうちに、徐々に周囲から認められるようになってきました」と岩田さん。ヤングコーン先生として、積極的に地域のお祭りなどイベントにも参加。施設でのレクリエーションの司会をして外部の人にその存在が知られるようになると「うちのヤングコーン先生は、なんだか人気らしいぞ」と施設内でも関心が高まってきたのです。
施設外での評価が逆輸入され 施設内での再評価につながる
今では施設でも人気者のヤングコーン先生ですが、その人気に火がついたのは、施設外が先でした。InstagramやYouTubeなど複数のプラットフォームでの活動も積極的に行い、多くのフォロワーや支持者を獲得したことが、施設内での再評価に大いに役立ちました。
ヤングコーン先生という存在を通して、SNS上で施設について積極的に情報発信することが、施設全体のブランド価値を上げることにつながり、それがまわりまわって逆輸入のような形になり、施設の入居者や職員にとってのブランド価値ともなったのです。
当初は施設内で散見された消極的意見も、外部評価が高まるに連れて、理解から応援へ。さらには自慢に思ってもらえるまでに変化しました。
ヤングコーン先生の勇気とやる気が、施設の存在を外部に発信するための媒体となり、さらに入居者と職員、そして、地域とをつなぐ媒体ともなったのです。
SNS時代のブランディングが 生み出す経営への好循環
ヤングコーン先生が取り組みをはじめたことで、実際に施設の待機者数は5年前の4名から現在は60名へと劇的に増加。中でも、SNSを本格的に活用しはじめたこの1年間で、待機者は30名も増加しました。「待機者60名という数字は、空室があった5年前からは想像もできない状況です。施設の魅力が口コミで広がり、選ばれる施設としての地位を確立しつつあることを実感します」と上野施設長。
ハローワークからの応募が増えるなど採用面での効果も顕著です。応募者からは「ヤングコーン先生はいらっしゃいますか」「Instagramを見ました」という声が寄せられ、周辺の他法人からも「なぜそんなに応募があるのか」と驚かれるほどになったのだそう。
これこそが戦略的な情報発信と地域との関係構築の成果だと上野施設長は評価します。明るく楽しそうな職場というイメージの伝搬が人材確保にまでつながることになったのです。

ケアハウス 『ウェルケア重信』に学ぶ
施設の魅力の高め方
ヤングコーン先生のキャラクターと、それに伴う発信力は、どの施設でもすぐに真似できるとは限りません。しかし職員がもつ個々のポテンシャルを引き出せば、施設のブランド力を高めることは可能だと上野施設長は語ります。そのノウハウをまとめました。
—01— 職員一人ひとりの得意を引き出し チーム一丸となりブランディング
上野施設長は今回の成功の背景には、施設長とヤングコーン先生の絶妙な関係性があると言います。もともと前に出るのが苦手だという施設長は、ヤングコーン先生というタレントのいわばマネージャー役。ヤングコーン先生が施設の内外で活躍しやすいように根回しをしたり、人脈を伝って地域のイベントでの出番を増やしたり、ヤングコーン先生を主役として輝かせる環境づくりに徹しています。
ヤングコーン先生自身も施設長の理解とサポートがあるからこそ、思い切った活動ができると感じていると言います。予算が必要な企画を提案しても、施設長が「大丈夫」と背中を押してくれる。この信頼関係が、創造的な活動を生み出す土壌となっていると語ります。
そしてこの関係性の根底にあるのは、職員一人ひとりの特技を伸ばしたいという施設長の考え方です。「前に出て表現したい人、撮影が得意な人、編集が得意な人、SNSを駆使できる人など、それぞれの強みを活かすことが、職場全体の活気につながります。やりたくないことを無理強いするのが一番よくありません」

—02— 訪れてくれるのを待つのではなく 積極的に地域に出向く
施設のブランド化と並行して重要なのが、地域社会との関係構築です。 ケアハウス ウェルケア重信では、ただ地域の人が訪れるのを待っているだけでなく、積極的に地域に出ていく姿勢を貫いています。
例えば秋祭りでは職員が神輿を担ぎ、地域の高齢者サロンにも定期的に顔を出します。回覧板を通じて地域のイベント情報を入手し、小さなイベントでも可能な限り参加します。そこで民生委員や地域活動に熱心な人々と知り合い、関係を深めることも重要なチャンスです。こうした地道な活動の積み重ねが、施設と地域の距離を縮めていきます。

—03—地域とつながることの重要性を いかに職員全員と共有できるか
たとえ手綱を引いていても、地域へと積極的に参画していくヤングコーン先生のようなキャラクターとは違い、地域へ出向くことに奥手な職員がいるのも事実です。そこで上野施設長は、「施設は地域に支えられて存在しており、地域住民の一員として役に立つ必要がある」という基本理念の共有に努め、職員の理解と協力を得られるようにしています。
こうして実際に地域活動に参加した職員が、その意義を実感する機会を得ることも少なくありません。例えば、神輿を一緒に担いだ地域住民が、後日入居者の家族として施設を訪れることがありました。お祭りで顔見知りになっていたことで、家族も安心顔になり、職員もそれをうれしく感じていたそう。こうした小さな出会いと縁が、施設への信頼を育んでいくのだと施設長は語ります。

—04— 地域の人々が必要としている サービスを探ることも大事
地域との関係構築において重要なのは、ニーズを把握することだと上野施設長は語ります。一方的に施設側が考えたサービスを提供するのではなく、地域の人々と対話する中で、本当に必要とされていることを見極めることが役立つのです。
例えば、災害時の一時避難場所としての機能、独居高齢者の見守り、退院後の受け入れなど、地域の人々がどんなニーズを抱えているかを聞き出すためにも、地域に積極的に出向くことは有効で、これに応える形でサービスの展開を計画することが、施設の存在価値を高め、安定した経営を維持することにつながると考えています。
地域との交流は、施設からの発信やブランド力の強化のためだけでなく、入居者が社会とのつながりを保ち、生きがいを感じるための重要な機会ともなっています。 ケアハウス ウェルケア重信では今後も、ヤングコーン先生を中心とした活動を継続し、地域のイベントへの参加、ボランティアの受け入れ、農業を通じた交流など、さまざまな取り組みを通じて、施設と地域のつながりをさらに深め、その活動をSNSで発信し続けることで、介護業界全体の一層のイメージ向上にも貢献したいと考えています。 その根底にあるのはヤングコーン先生こと岩田豊さんの、入居者の幸せと尊厳ある生活を支えたいという目標と、それを支える施設長、他の介護職員の協力に他なりません。
取材・文=池田佳寿子