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特集(制度関連)

全国老施協版介護ICT導入モデル事業実証モデル8施設座談会

ICT・ロボット導入で介護の現場はこんなに進化している!

2024.02 老施協 MONTHLY

全国老施協が推進してきた、介護ICT導入。令和3年度から4年度にかけて実施された「全国老施協版介護ICT導入モデル事業」では、全国から選定された8施設が実際にICT機器を導入し、その効果を測定・検証し、導入モデルを構築した。
事業の成果を解説する「デジタル介護セミナー」をオンデマンド配信したり、全国老人福祉施設大会・研究会議をはじめとする各地のイベントなどで講演を行い、普及活動を続けている。また、令和5年度は、8施設において「全国老施協版介護ICT導入モデル普及研修」を開催。全国より多くの施設が訪れ、その成果を学んでいる。
今回は、実証モデル施設から担当者等が一堂に会して座談会を開催。介護の現場にICT機器を導入し、どのような変化があったか、また、導入を考えている施設が検討すべきポイントについて語った。



株式会社日本総合研究所 紀伊信之氏
ファシリテーターは、株式会社日本総合研究所の紀伊信之氏が務めた

座談会参加者

【北海道】
社会福祉法人南幌福祉会
特別養護老人ホーム 南幌みどり苑

佐久間竜太氏、高正和明氏

【東北】
社会福祉法人春圃会
特別養護老人ホーム 春圃苑

酉抜和也氏、齋藤正人氏

【関東】
社会福祉法人友愛十字会
特別養護老人ホーム 砧ホーム

鈴木健太氏、三浦好顕氏

【東海北陸】
社会福祉法人宣長康久会
地域密着型特別養護老人ホーム
ささづ苑かすが

岩井広行氏、江尻勇輝氏

【近畿】
社会福祉法人弘陵福祉会
特別養護老人ホーム 六甲の館

溝田弘美氏、溝田ラビ氏

【中国】
社会福祉法人津山福祉会
特別養護老人ホーム 高寿園

野尾徳子氏、國政理絵氏

【四国】
社会福祉法人光寿会
特別養護老人ホーム あかね

吉岡哲哉氏、山下航平氏

【九州】
社会福祉法人スマイリング・パーク
特別養護老人ホーム ほほえみの園

吉村陽子氏、塩川恵介氏

──モデル事業に参加して良かったことは?

南幌みどり苑
職員個人の成長、チームとしての成長を実感

 当施設は近年世代交代が進み、若い職員が多いのですが、視察に来た他の施設の方々に対して、機器の説明だけでなく、職員や利用者にどのように還元しているのか、その効果を自信満々に説明しているんですよね。その姿を見たときに、職員個人の成長、チームとしての成長を実感しました。

南幌みどり苑 佐久間竜太氏、高正和明氏
ビジョンは平屋建築の構造上の壁「距離」の突破
春圃苑
機器を使いこなして“見えた”成果。職員の意識の変化も

 機器を導入してはいたものの、使いこなせていませんでした。コンサルがしっかり入ったことで、職員の習熟度が上がり、50分かかっていた業務時間が20分に短縮するなど、効果が明確に表れたことです。それが職員の意識にも影響し、新しいこと、変えることについて前向きに捉えられるようになったことが、とても大きな成果だったと思います。

春圃苑 酉抜和也氏、齋藤正人氏
個別ケアの実施、入居者の睡眠の質・排泄介助の改善を目指す
砧ホーム
“状況に応じたケア”が実現。利用者の自立支援にも貢献

 具体的には、睡眠状態を見守るセンサーの導入で、朝の起床介助が大きく変わりました。訪室しなくても利用者の様子を一覧で見ることができ、状況に応じたケアの実践が可能になったのです。利用者の自立支援のみならず、職員の負担軽減など、「介護の生産性の向上」につながったのではと感じています。

砧ホーム 鈴木健太氏、三浦好顕氏
介護ロボットやICT機器の活用も介護職の専門性の一つ
ささづ苑かすが
自主的により良い方法を考えるようになった職員

 モデル施設となったことから、地域研修施設に選ばれ、多くの施設の方が来苑されるようになりました。その中で、職員が自主的に、人力でやっていることについて、工夫ができないか、違う方法(今回導入した機器以外で)があるのでは、と考えるようになりました。副次的効果かもしれませんが、うれしい成長が見られています。

ささづ苑かすが 岩井広行氏、江尻勇輝氏
得られた成果を法人内の他施設で全面切り替えに向けて展開中
六甲の館
ICT機器で介護メソッドとしてのノーリフトが定着

 当施設では、早い時期から、電子カルテやリフトによる移乗介助など「機器」の活用に着手してきました。そういった機器導入の効果もあって、人材定着が進んできたということがベースにあって、ICT機器の導入もスムーズにできました。また、今回のモデル事業を通し、「新しいこと(ICT機器の活用)にこんなにも効果がある」と証明されたことが大変うれしい結果でした。

六甲の館 溝田弘美氏、溝田ラビ氏
ノーリフトケアの徹底をベースにさらなるICT機器の導入を推進
高寿園
職員の体調管理面やシフト面の問題をクリア

 平成22年ごろから、電子カルテへの切り替えなどさまざまな取り組みを行う中で、その変化になじめない職員から反発があったり、退職者が出てしまうこともありました。今回のモデル事業では、コンサルの方がついて、一定の期間で一定の成果を目指して事業所・施設を挙げて取り組むことができるのでは、ということで参加しました。睡眠状態をチェックする機器の導入によって、夜間帯の介助負担が軽減し、その余裕分が日勤帯でのケアの質の向上につながるなどの好循環がありました。また、時間的余裕は職員の体調管理にも良い影響をもたらしています。

高寿園 野尾徳子氏、國政理絵氏
ICT機器とノーリフトケアでケアの質を確保
あかね
安全に適正なケア提供の環境づくり。職員へ配慮も

 モデル事業参加のきっかけは、補助金が出ること。補助金を使って、やりたかったのは、職場環境の改善です。見守りカメラなどによって、室内の様子や職員連携の状態を見える化。これは、重大事故の予防や、職員のストレスの緩和、ケアの適正化につながりました。また、メーカーとシステムの開発をすることもできました。それらの成果によって、不可避の課題である新人職員や外国人職員、他の業界からの不慣れな人でも、一定、一律のケアが行えるベースづくりができました。

あかね 吉岡哲哉氏、山下航平氏
外国人介護職員が多い中でも安心安全なケアの担保を目指す
ほほえみの園
研究の視点を持った取り組みが職員の自信に

 モデル事業に参加して、研究の観点を持てたことです。この取り組みが、どのように自分たちに還元されているかということを数字で確認できたことは、職員の自信にもつながりました。また、モデル事業が進む中で、今日本でどんな問題が起こっているのか、また今後どうするべきなのか、情報交換する場もたくさんいただけました。大きな視点で情報収集できたことも良かったことの一つです。

ほほえみの園 吉村陽子氏、塩川恵介氏
完全個室化からさまざまなICT機器を導入して対応

──これからICT機器を導入する施設に伝えたいこと、見学に来られた施設に意識して伝えていることはありますか?

南幌みどり苑

 現在検討している方に一番お伝えしたいことは、「主軸はソフトウエア」ということです。さまざまなICT機器を導入した場合に、それぞれのアプリが独立してしまうと、職員はおのおのにデータを送ることになり、業務が増えてしまいます。ばらばらに考えるのではなく、一つの端末で全てが管理できるように、総合的な仕組みづくりをすることが大切なんです。

あかね

 ICT機器と一言で言っても、本当に多岐にわたります。まず最初に、現状では足りないものは何か、どんな施設にしたいのか、明確な課題を持って取り組んでほしいですね。目指すべき姿が分からないまま機器だけを導入しても何の効果も生み出しません。また、導入後は、職員に対するケアも大きなポイントとなります。実際に活用できているのか、効率化につながっているのか、現場の状況を確認しながら進めてほしいですね。

高寿園

 当法人がノーリフティングケアやICT機器を導入したのは、課題解決をする一つの手段であり、機器を導入することが目的ではなかったということをお話ししています。施設によって課題はさまざまです。自分たちの課題を明確にすること、どのようになりたいか、目指すべき姿はどんなものかについてしっかり法人、施設で考えることが大切です。そして、その目標を達成するためにはどんな手法があるのか、どんな技術を取り入れればいいのかを検討し、全体で取り組むようにされるといいのではないでしょうか。

六甲の館

 利用者ファーストのための職員ファーストということをお伝えしています。利用者ファーストを実践してくれるのは職員なので、職員ファースト。そのためにノーリフトケアをベースにした介護ICTを活用しています。いきなり「ICTとは」という話だと、ハードルが高いのではと思いますが、私たちは、電気で動く福祉機器も含め、テクノロジーをどのように使っていったらいいかということです。

ささづ苑かすが

 まず、利用者視点で考えないと現場の職員に伝わりにくいということ。また、機器に慣れることが興味関心のあるところだと思いますが、まずやってみようという姿勢も必要だと思います。

砧ホーム

 最初から高度なことを考えるのではなく、本当に簡単なところから始めることをお勧めします。機器の操作などが難しくなって職員の手間が増えたのでは逆効果になってしまうからです。

 私たちは職員の負担軽減やサービスの仕組みの改善を目指してはいますが、最初から突き詰めていくのではなくて、「少しでも楽になること」を考えていきました。また、通信環境の整備もポイントの一つです。機器の選定も大事ですが、通信環境がしっかりしていなければ、そこが障害になってしまいます。

 最後に、道具を使うのは現場の職員だということを忘れないこと。機器を導入するなら、使いやすいことが大前提です。高性能の機器でも、実際に使う人に見てもらい、実際に触ってもらうということが大事だと考えています。

春圃苑

 視察に来られる事業所、法人には、どう進めればいいのか分からないというところが特に多い。まず課題があって、それを解決するためのツールとしてICT機器を導入するという流れでないと現場では普及しません。施設長がトップダウンで「これがいいものだから」「やらなきゃいけないから」という意識から導入したものの、現場のニーズと合っていなかったため、失敗したというケースがいくつもありました。自分の施設の課題を確認し、それに合ったものを導入するということが大切です。

ほほえみの園

 やはり、「ビジョンを明確にすること」が欠かせません。デジタル変革をすることによって施設をどういうふうにしていきたいのか。

 また、小さくでも、とにかく一歩を踏み出すことが肝心。例えば、インカムなど安価で購入できるものについては、慎重になり過ぎずに使ってみてはどうでしょうか。

──自分の施設のビジョンを明確にすることや現場の実態に合わせた検討が必要な一方で、まずアクションを起こすことも大切なんですね。ありがとうございました。


実証モデル8施設による対談・鼎談動画を撮影

座談会の後には、8施設が3グループに分かれ、対談・鼎談を行った。その模様は、YouTubeの老施協チャンネルで配信される予定。

テーマ1
モニタリングの高度化と訪室の最適化

対談:六甲の館、南幌みどり苑

テーマ2
介護記録の効率化とチームコミュニケーションの向上

鼎談:ささづ苑かすが、高寿園、あかね

テーマ3
デジタルを活用した個別ケアの推進

鼎談:春圃苑、砧ホーム、ほほえみの園

YouTube 老施協チャンネル
ご視聴はこちらから!
2月以降公開予定


撮影=磯﨑威志/取材・文=早坂美佐緒(東京コア)