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特集(制度関連)

必読!特別養護老人ホームにおける コロナ「5類」移行後の感染対策①

2023.05 老施協 MONTHLY

感染症法上の分類が変わっても、新型コロナウイルスの病原性や感染力が衰えるわけではない。国民生活が活発化することで、むしろ高齢者の感染・重症化のリスクが高まる可能性も。高齢者施設が備えるべき、これからの感染対策を考える。


高山義浩 氏

沖縄県立中部病院 感染症内科・地域ケア科

高山義浩

Profile●たかやま・よしひろ=九州大学病院、佐久総合病院、厚生労働省を経て、2010年より現病院において感染症診療に従事。また、同院に地域ケア科を立ち上げ在宅緩和ケアを開始。2020年3月より厚生労働省参与。2021年9月より沖縄県政策参与。著書多数


自治体での行政検査が縮小 入居者感染にどう備える?

 新型コロナウイルスの感染症法上の位置付けが、5月8日より季節性インフルエンザと同じ「5類」に引き下げられた。厳格な対策を可能とする「2類相当」感染症として全数把握されてきた感染者数が、全国約5000の医療機関による定点把握になるなど、コロナ対策を取り巻く環境が大きく変化。地域の感染動向がつかみにくくなる中、重症化リスクが高い入居者を守るために、どう対応すべきか。

 感染症と公衆衛生を専門とする沖縄県立中部病院の高山義浩氏は「5類移行後は入居者に感染症を疑う症状が出た場合、従来とは手続きが違ってきます。多くの自治体で行政検査が縮小されるため、必要な検査が行われるかのご確認を。また行政主導の入院調整が終了。自治体に今後の検査補助の有無を確認し、施設の嘱託医や連携医療機関とは、コロナ陽性者の受け入れについて話し合っておく必要があります」と注意を促す。

 国は高齢者施設への政策・措置は当面継続するとしているが、検査補助は限定的かつ地域差もある。入院調整は段階的に医療機関間で行われるようになるため、緊急時に遅れが生じないよう備えるべきだ。

「地域の医療・介護資源は限られています。これを機に高齢者施設などの関係各所が連携を深め、効果的かつ持続可能な感染対策を実施していくための“体制づくり”が今、求められていると思います」

 こう語る高山氏には後述する「感染症のエキスパート 高山義浩先生が答えるQ&A」で具体的な感染対策についてもアドバイスをいただくほか、集団感染対応に尽力した施設の実践例やコロナ禍でも地域交流を続けた施設の取り組みも紹介していく。

5月8日以降の感染対策 一般社会と特養の違い

一般社会の主な変更点
  • マスクの着用は、個人の主体的な選択を尊重し、着用は個人の判断に委ねることを基本とする
  • 手洗い等の手指衛生や換気は、政府として一律に求めないが、新型コロナの基本的感染対策として引き続き有効と見なす
  • 「三つの密」の回避は、政府として一律に求めないが、不特定多数の人がいる混雑した場所では有効と見なす
  • 外出等の制限、患者登録、健康観察等がなしに
  • 治療費に自己負担額が生じる

※ワクチンのみ、2023年度中は自己負担なし

など

特養などの介護施設では
  • 手指衛生などの標準予防策に加え、コロナ流行期には「5類」移行前から実施してきた感染対策を堅持。サージカルマスクの常時着用のほか、室内での密を避け、効果的な換気を行うなどエアロゾル感染対策を実施する
  • 面会の再開が望ましいが、施設内へのウイルス持ち込みを防ぐため、訪問者に発熱やせきなどの症状がないことを確認。流行が拡大した場合、面会制限を再検討する
  • 職員の行動制限も緩和されるが、いつどこで感染してもおかしくないという意識を持って、症状確認と標準予防策を徹底する
  • 入所者に症状を認めた場合、かかりつけ医に相談して早めの検査を依頼。複数の感染者へと広がった場合は所轄の保健所に検査方針を含めて相談する

など


参考:厚生労働省「新型コロナウイルス感染症の感染症法上の位置付け変更後の基本的感染対策の考え方について」、神奈川県ホームページ、第118回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード「医療機関と高齢者施設における新型コロナウイルス対策についての見解−感染症法上の類型変更を見据えて−」


感染症のエキスパート 高山義浩先生が答えるQ&A

頑張り過ぎない体制づくりで持続可能な感染対策を!

「感染対策というと〝手指衛生やマスク着用”といったイメージが先行しますが、一番大事な感染対策が後回しにされやすい」と高山氏。クラスターが発生した複数の高齢者施設からヒアリングした際、「風邪症状があった職員が人手不足だからと病欠を申し出ずに夜勤を頑張った後、施設内で感染が広がったケースが少なからずありました。医療や介護現場で重要な感染対策は、症状のある職員は出勤しないこと。さらには体調不良の職員が気兼ねせずに仕事を休める体制をつくること」だと指摘する。

 介護現場の常態的な人手不足は喫緊の課題だ。しかし、それとは別に、感染症の流行などで職員が足りない状況でも施設の中核業務を継続できる体制を構築することが極めて重要だと高山氏は言う。

「非常時のための業務継続計画(BCP※1)を考える必要があります。職員がコロナ陽性や濃厚接触者になって欠勤した場合でも〝継続すべき重要業務”について、優先順位を付けて整理することから始めましょう。足りない資源をいかに工夫して補っていくかという発想も大切なポイントです」

 例えば、急に人員不足になったら、おやつの時間や入浴を中止する。その分、必須である食事・排せつ・服薬介助にマンパワーを向ける。非常時には、少ない人員でやりくりできる範囲に業務をとどめるべきだ。「入居者側にも対策に協力を求め、全てを完璧にやろうとせずに現実的な対応を心掛けてほしい」と高山氏は語る。

 持続可能でない対策は続かない。感染対策だけを頑張り過ぎても職員も入居者も疲れてしまう。

「ぜひ、『高齢者の尊厳ある暮らしを支えるために働いている』という介護職の原点を大事にしながら、改めて感染対策を考えてみていただけたらと思います」

※1 BCP(Business Continuity Plan) 参考:厚生労働省「介護施設・事業所における業務継続計画(BCP)作成支援に関する研修」

Q1 感染者のオムツを含むゴミや洗濯物は、保健師の指導もあり3日待って処理していますが、今後も3日必要ですか?

A 「環境中のウイルスは時間と共に感染性を失います。このため、ウイルスに汚染されたゴミなどを3日程度放置すれば、接触による感染リスクはほぼなくなります。このことから、3日間待って処理するよう求められてきました。5類移行後は、こうした取り扱いを行政から指導されることはなくなるでしょう。汚染物品を扱った後は顔を触らないように意識し、すぐに手指衛生をすることでも感染予防できます。回収事業者とも相談しつつ、現実的かつ持続可能な回収方法を検討してください」

Q2 感染者の食器は、今後も使い捨てで対応した方がいいですか?

A 「コロナもインフルエンザも洗剤に触れると速やかにウイルスは死滅するため、基本的には食器洗浄を行えば、二次感染は防げますが、問題は食器を回収して洗い場に運ぶ過程でウイルスが広がる可能性があることです。そのリスクを回避するために使い捨て食器の利用が推奨されてきました。ただし、汚染されていることを認識した職員が洗い場まで運搬し、他の入居者が触れない動線を確保する。こうしたスキームを構築できれば、使い捨て食器を使い続ける必要はありません」

Q3 5月8日以降、療養期間は5日間+症状軽快して24時間とありますが、施設職員の日数はどうすればいいですか?

A 「ウイルスの排出期間には個人差がありますが、発症2日前から発症後7〜10日間は感染性のウイルスを排出しているといわれています。これは5類に移行しても変わりありません。このため、職員が感染した場合、少なくとも5日間は仕事を休み、さらに5日間は周囲に感染させるリスクがあると認識して、常にマスクを着用して手指衛生を心掛け、入居者の直接のケアに関わらないなど業務を工夫してください。この期間は他の職員と食事を一緒にしないなど、職場感染予防も大切です」

Q4 夏祭りや秋祭りなどのイベントの際に、気を付けなければならない感染対策を教えてください。

A 「まず、参加者の症状確認を徹底しましょう。発熱やせきなどの症状がある方は、参加を控えていただくことが一番大切です。また、1カ所に集まる人数を制限したり、野外でのイベントに切り替えることも有効です。会場の様子をオンラインで中継したり、SNSで写真を配布したりすることで、参加者が集中することを回避しながらご家族の納得が得られる方法があると思います。また、地域でコロナが一定以上の流行となっているときは、開催を延期することも検討してください」

Q5 今後、家族と面会時の感染対策はどうすればいいですか?

A 「施設内にウイルスが持ち込まれないように注意すべきですが、面会を制限することによって入居者に身体的・心理的・社会的な衰えをもたらす可能性についても配慮する必要があります。訪問者を受け入れるときは、訪問者一人一人に発熱や咳嗽などの症状がないことを確認してください。そして、施設が求める感染対策を遵守していただく必要があります。その際、できるだけ面会場所を限定し、窓を少し開けて換気するなど注意してください。屋外でも過ごしやすい季節なら、施設の庭などで面会してもらってもいいでしょう。なお、住宅型施設などのプライベートな室内においては、訪問者がマスクを外して入居者と一緒に食事をしたり、孫を抱くなど触れ合ったりすることもできるでしょう。ただし、地域におけるコロナの流行状況が悪化してきた場合は、感染対策を守ることが難しい小さなお子さんの面会を制限したり、一時的に全ての面会を中止にしたりすることが求められるでしょう」


構成=及川静/取材・文=菅野美和/イラスト=佐藤加奈子