最新制度解説

特集(制度関連)

そのだ修光×平石朗 働きやすい環境づくりへの提言! 介護業界の未来へ向けて

2022.05 老施協 MONTHLY

第2弾[現在編]「全国の介護施設訪問で見えてきたこと」

3月下旬から当協議会常任理事であるそのだ修光参議院議員は全国の介護施設訪問を再開し、現場を支える皆さまとの対話を続けてきた。
2年以上続くコロナ禍に加え、昨今のウクライナ危機による経営への影響も重なり、介護の現場では予断を許さぬ緊張した状況が続いている。
第2回となる今回の対談は、〝現在〟をテーマに、現場の声を聞いて感じた介護現場の課題の現在地について、改めて意見交換をしていただき、現場訪問への思いなどを両氏に語り合ってもらった。


平石 朗

平石 朗

Profile●ひらいし・あきら=’55年、和歌山県生まれ。岡山大学法学部哲学科卒。特養老人ホーム星の里施設長、社会福祉法人尾道さつき会理事長、’11年に広島県老人福祉施設連盟会長に就任(3期6年)し、現在は顧問・代議員として活動。’19年より全国老人福祉施設協議会会長

そのだ修光

そのだ修光

Profile●そのだ・しゅうこう=’57年、鹿児島県鹿児島市生まれ。鹿児島県議を経て’96年鹿児島2区から自民党公認で衆議院選挙に当選。自民党社会部会で介護保険制度の立法化に尽力。’06年特養老人ホーム旭ヶ丘園施設長に就任。’16年参議院比例区から自民党公認で当選


介護の現場をコロナ禍から守るために国会でできること

 そのだ議員は現在、全国の介護現場を精力的に訪問している。2月は新型コロナウイルス第7波を考慮してオンラインでのミーティングを主に、3月下旬からは徐々に実際の施設訪問を増やし、6月半ばまでに70近い施設を回る予定だ。2年ぶりに訪れた現場で、2人が思いを強くしたこととは。

平石「全国訪問はまだ序盤ですが、やはり自分の足で施設を訪問し、直接会って率直に話し合えることはとても新鮮ですし、お互いにとってもいい機会になりますね」

そのだ「全くです。もう2年以上、直接訪問が難しい状態が続いていましたので、現場の皆さまと交流でき、お話が聞けることは大きいです。特にこの2年、各施設の経営者や職員の皆さまは苦しかったと思います。ですからその分、心配も重なり、直接お話しができることがとてもありがたかったです。前回も話題となった予算委員会での質問などは、NHKで中継された直後にコロナ慰労金の話も出てきましたから、国会できちんと発言したことで、現場の皆さまに届く影響を短期間で感じられて非常にうれしいですね」

平石「われわれも、ようやく直接介護施設へ訪問できるくらいまでにはコロナ感染症対策が緩和されてきた現状とはいえ、まだまだ介護の現場では気が抜けない状況です。特に※最近は、地方部での感染者数が都市部に比べて増えていることが気になっています」

そのだ「その通りです。まん延防止等重点措置がおおむね解除され、国としてこれからは経済を回すステップに移行しなければいけないことは確か。しかし、再発のリスクは大いにあり、高齢者の命を守るわれわれ社会福祉法人は、これまでの対応を緩めるわけにはいかない状況にあります」

平石「特別養護老人ホームの平均要介護度が4程度ですから、利用者の容体が急変するリスクが高いといわれる新型コロナウイルスに感染したら、命に関わる事態になってしまいます。そのため、現場の職員は少しでも感染リスクを避けるため、いまだに外食をはじめ外部との接触を控えている状況。ご家族にまでそのしわ寄せがいっているのが、心苦しい部分です」

そのだ「私も鹿児島の人間ですから、確かに東京や都市部での活動に注意しなければならない状況がまだ続いています。しかし日本の介護現場における新型コロナウイルスへの感染がここまで抑え込めている理由は、間違いなく介護現場での努力です。これは国際的に見ても一目瞭然です。とはいえ、完全にコロナが収束するまではまだ時間がかかりそうですから、介護の現場では、これまでと変わらない努力を続けていかなければならない。ですから、国会の政治の場でしっかり皆さまの不断の努力を支えるために発信していかなければいけないと意を強くしています」

平石「現場のことを国会にきちんと伝えていただくことがいかに重要かは、私も広島から出てきて会長となって、そのだ議員と活動を共にして実感しました。医療の目的は“疾病に対する診断と治療”といわれていますが、介護は“生活行為の援助”であり、日常生活のいろいろな場面で必要とされるもの。どちらも高齢者にとって重要ですが、介護は日常的な行為のため注目されにくい。そのだ先生ご自身も特養を運営されていますから、そのことを分かっておられる。慰労金に対する感謝もありますが、そうした医療と介護の根本的な違いの視点を持って、きちんと国政に発信していただいていることへの感謝は大きいです」

政治的活動と、現場改革のバランスを取ることの重要さ

平石「もうかれこれ2年前となりますが、われわれ老施協と、全国老人保健施設協会、日本認知症グループホーム協会の代表が、天皇皇后両陛下に皇居にお招きいただき、お話しさせていただいたのは、そのだ議員の国会でのご活動によって介護の現場に注目してもらえる状況が生まれたからでした。あのときは何と1時間ほど両陛下とお話しさせていただく機会がありましたが、メディアの取材も多かったせいか、介護現場へのインパクトも大きかったようです」

そのだ「あれは私もうれしく思いました。平石会長になってから老施協の体制が、再び生まれ変わってきたんです。全国老施協は、国で決まった制度をそのまま受け取って実行する団体ではなく、介護現場の課題を国に伝え、古くなった制度を変え、新しい制度を作るために提言する団体です。施設の経営、職員の処遇改善、新型コロナウイルス対応、“LIFE”(科学的介護情報システム)といったデジタル化など、さまざまな政策の現場の具体的な課題を拾い上げ、実際の現場からの声を吸い上げていかないと、なかなか国会や厚生労働省に提案できないです」

平石「一方で、所轄する省庁に違いがあったりする事案などについては、団体で一つ一つ交渉していくのは大変です。ここは、そのだ議員のご尽力なしで進めることは難しかったのが正直な感想です」

そのだ「行政の縦割りは解消に向け各省庁で努力されていますが、長年蓄積されたものですからなかなか難しい問題です。最近の例では、岸田(文雄)総理大臣が“公的価格評価検討委員会”を設置されて、看護や保育などの分野とともに介護分野も3%ほど、この2月から賃金を上げていただいた。しかし介護保険財政に入る特養などは厚労省の対応ですが、自治体の自主財源で、かつ(使途が特定されない)一般財源に入る軽費老人ホームやケアハウスなどの職員の給与は、自治体によって据え置かれてしまう例が出てきました。介護保険の財政は厚生労働省管轄ですが、一般財源は総務省の管轄ということからくる問題だったんですが、この点は総務省からも給与アップを徹底するよう全国に通達を出していただきました。これも、老施協と現場の状況を逐一報告できる体制が築けていたからです」

介護報酬改定率の推移

気持ちだけでは、世の中に介護の尊さが伝わらない

 これからも続くそのだ氏の全国訪問を前に、各地域の介護施設で働く皆さんに向けて両氏にメッセージをお願いした。

平石「今後も訪問が増えていきますので、各地域の皆さんと直接お話しができることを楽しみにしております。今、課題だなと思っているのは、先日の訪問でも話があったのですが、政治の話になかなか職員の方が関心を持ってもらえないということです。例えば日本看護協会の組織率が47%、日本医師会への医師の組織率が53%です。’20年の数字ですが、医療関係の方は長い歴史の中で組織活動の大切さを理解し、政治にも積極的に関与されてきた。それに対して介護関係は歴史も浅く、組織率が低い。例えば、日本介護福祉士会の組織率はわずか2%です。その背景には職能団体としての歴史の浅さがあると思いますが、組織に加入し、政治の場で発言するという経験が乏しいのかもしれません。また、これだけ頑張っているのだから『国はちゃんと私たちのことを見てくれるはず』という気持ちもあるかもしれない。その気持ちは理解できますけど、やはり待ちの姿勢では現状を変えられないんですよね。その点、そのだ議員は議員歴も長いですが、ご自分で特別養護老人ホームも運営され、現場に対する思いとか、優しさをお持ちなので、現場の人たちにもお話が受け入れられやすいということがあります。そこで、まずはそのだ議員を窓口に政治に関心を持ってもらって、やがては組織として制度へコミットしていくことが重要なんだということを広く理解してもらい、加盟率を上げていきたいと思っています。ただ、冒頭に議員からも話があったように、現場の職員から感謝の声が出てくるようになったのは一歩前進したと感じていますし、この先もそうした認識を多くの皆さんに持ってもらいたいですね」

そのだ「これからも現場の声に耳を傾け、時間差を置かずにその声を国政の場に伝えていくことは続けていきますので、忌憚ないご意見をいただければと思います。現在、岸田政権発足後に掲げられた“史上最大規模の経済対策”が実施されていますが、その後の世界情勢もあって状況はさらに厳しいものになってきています。先日も後藤(茂之)厚労大臣とお話する機会があり、ウクライナ危機などに伴うエネルギー料金を含む物価の高騰で、電気代や食費など、施設にとって根幹の部分となる価格が大規模な施設では何百万円という桁で上がっている。介護報酬はプラス改定といえども現場は依然苦しい状況にあることを全国老施協のデータをもってご説明し、後藤大臣にも『よく分かりました』と言っていただきました。平石会長体制で皆さんの要望をかなえて制度の中に落とし込んでいく流れができましたし、老施協を核に、政治・行政と、利用者さん・施設とのいい意味での結び付きができたと私は思っておりますから、引き続き、皆さんの声を国政に届ける仕事にまい進します。そして現場の皆さんにはしっかりとした介護をやることに専念していただきたい。そのための仕組みを確立することが私の役目だと思っています」

平石「心強いお言葉、ありがとうございます。次回また、今後の介護業界についてのお話など、伺えればと思っておりますのでよろしくお願いいたします」


撮影=桃井一至/取材・文=重信裕之