マネジメント最前線

日本全国注目施設探訪

第1回 東京都目黒区 社会福祉法人奉優会 特別養護老人ホーム 目黒中央の家

2022.04 老施協 MONTHLY

独自の取り組みでキラリと光る各地の高齢者福祉施設へおじゃまします!


最新のICTを駆使して地域と共に新たな福祉価値を創造

ユニット型特養老人ホームと多機能型複合施設が特徴

 東京都目黒区の東急東横線学芸大学駅から徒歩7分、閑静な住宅街の中にある特別養護老人ホーム「目黒中央の家」。令和元年7月、東京都世田谷区にある社会福祉法人奉優会によって開設された目黒区初のユニット型特別養護老人ホームに、ショートステイ、小規模多機能型居宅介護、保育園、カフェのような地域交流スペースが複合した多機能型施設であり、ユニットケアの手法を活用し、これまでの暮らしを大切にした個別のケアを提供している。

 敷地面積は2219㎡、建物は介護施設を感じさせない外観にこだわり、周辺の住宅街に溶け込むようなデザインの地上5階建てで、1階が防災拠点型地域交流ホールと防災備蓄倉庫を設置、2~5階が居室フロア、4階が小規模多機能型居宅介護となる。入所定員は84人で、小規模多機能型居宅介護は定員25人、ショートステイは定員12人となっている。

施設長の小林健太郎さん
施設長の小林健太郎さん

社会福祉法人奉優会

 ’99年、東京都世田谷区に設立。香取眞惠子理事長の下、グローバルとローカルの視点から「尊厳を守る自立支援サービスで人々の生活を豊かにする」というビジョンで、新たな福祉ニーズに応えるべく取り組んでいる法人だ。

 また、女性活躍や外国人雇用を推進、ダイバーシティへの取り組みに注力している。

 要介護者が在宅での生活を継続できるよう、自宅から通う「通いサービス」「お泊りサービス」、自宅への「訪問サービス」の3つの機能を組み合わせて一体的に提供する小規模多機能型居宅介護に力を入れているのが特徴。

 令和4年4月1日現在の運営事業所数は、東京を中心に特養ホーム11箇所、小規模多機能型居宅介護11箇所、高齢者福祉センター21箇所、居宅介護支援事業所7箇所、デイサービス24箇所、グループホーム12箇所、地域包括支援センター16箇所、看護小規模多機能型居宅介護2箇所、ケアハウス1箇所、就労支援事業1箇所、子育て援助活動支援事業1箇所、訪問介護1箇所など、総合的な高齢者介護事業を展開している。

外観
公立中学校の跡地に建てられた建物は介護施設を感じさせない外観。周辺の住宅街に溶け込むようなデザインの地上5階建ての大型施設だ

ICTを活用した「科学的個別ケア」を実践

 同施設では、小林健太郎施設長が「新福祉創造」を掲げ、新たな福祉価値を生み出すべく、多様なサービスに取り組んでいる。その中でも主たるものは、ICTを活用し、入所者一人一人のデータを共有、多職種によるチームケアを行う「科学的個別ケア」だ。

「眠りスキャン」は、マットレス下に設置したセンサーにより、睡眠時の呼吸、心拍、寝返りなどを測定し、睡眠状態のデータをリアルタイムで確認、さらに、蓄積されたデータを分析することにより、入所者に質の高い睡眠を提供し、生活習慣を改善するというもの。この取り組みは、老施協が主催する「令和3年度全国老人福祉施設研究会議(鹿児島会議)」で最優秀賞を受賞している。

 また、「安心カメラ」は、ネットワークカメラにより、共有スペースの様子を24時間リアルタイムで確認、何かが起こったときの原因究明など検証を行うことができ、夜間では1フロア1人となるスタッフの負担軽減にも寄与している。

 その他にも、入所者カードと薬袋をQRコードで紐つけ、スマホなどで照合してから服薬し、スタッフの渡し間違いなどによる誤薬を防止するシステムを導入、情報共有する際にはSlackというビジネスチャットアプリを使用するなど、入所者への質の高いケアを実現するとともに、スタッフへの負担軽減にも役立っている。

スタッフの生活に寄り添い働きやすい環境を整備

 また、同施設には、スタッフが働きやすい環境が整っている。1階の防災拠点型地域交流ホールは、“グローバル”と“ローカル”を組み合わせた造語の「グローカルワークスペース」という名称で、おしゃれなカフェのようなスペースの中、施設全体に整備されたWi-Fi環境を使って、スタッフの決まった席を作らず、自由に席を選ぶフリーアドレス方式で業務を行っている。シフト制の中、効率的ではないということで始まったフリーアドレス導入後は、同じチームのスタッフだけでなく、他チームのスタッフと情報交換するなど、スタッフ同士のコミュニケーションが活性化したという。

 2階には、理美容室に「お祈り部屋」が併設されており、これは、同法人が積極的に雇用し、同施設にも約1割在籍しているという外国人スタッフの中で、イスラム教徒の多いインドネシア人スタッフのお祈りのために作られたものだ。

 また、機能訓練室にはトレーニングマシンを設置して、入所者のリハビリだけでなく、スタッフも腰痛予防のためのトレーニングなどに使用している。

 3階には、同法人初の事業所内保育所を設置、スタッフが0~2歳の乳幼児を安心して預けられる認可保育園となっている。

【キラリと光る取り組み】
入居者の睡眠の質を改善する「眠りスキャン」を導入

公的施設は単なる受け皿に甘んじてはいけない
施設長の小林健太郎さん
ベッドのマットレス下に設置された「眠りスキャン」のセンサー

「眠りスキャン」は、マットレス下に設置したセンサーにより、睡眠時の呼吸、心拍、寝返りなどを測定し、睡眠状態のデータをリアルタイムで確認するというもの。さらに、蓄積されたデータを分析することにより、入所者に質の高い睡眠を提供し、生活習慣の改善につなげている。

 例えば、ある入所者は、1日の平均睡眠時間が約55分と全く眠れていないことが判明、周期性体動指数の数値が異常に高いことから足ムズムズ症候群を併発していると仮定、管理栄養士と連携し鉄分を補給したところ、約4時間まで改善した。

 また、転倒転落を繰り返す入所者の起き出す時間を分析し、排泄介助に入るタイミングを再検討。その結果、入居3カ月で転倒転落37件だった発生数を8件まで減少させた。

 ターミナルケアでは、呼吸、心拍データの変化から早い段階で入所者の最期を意識して注視し、ご家族に連絡することができた。

 この取り組みは、「令和3年度全国老人福祉施設研究会議(鹿児島会議)」で受賞もしている。

近隣住民も施設利用が可能地域福祉へ積極的に取り組む

 こちらの開設地が元々中学校跡だったこともあり、同施設では、地域の福祉拠点、防災拠点としても力を入れている。

「グローカルワークスペース」は、自由に閲覧できる図書スペースも設けるなど、将来的には地域の方にも気軽に利用してもらうことを考えており、約200㎡の面積を持つ防災備蓄倉庫には、区のスタッフにより、水や非常食、毛布などが管理されている。

 事業所内保育所では、定員11人のうち、6人を地域の乳幼児のために開放し、受け入れている。

 最近では、地域住民が新型コロナウイルスに感染した際、その家族である高齢者をショートステイのベッドに受け入れるなどの取り組みも行っているという。

 近隣住民も施設の利用を可能とすることで、地域福祉へ積極的に取り組み、地域と共に、新たな福祉の価値を創造している「目黒中央の家」。次はどのような新しいサービスを生み出すのか、今後も大いに注目したいところだ。


社会福祉法人奉優会特別養護老人ホーム 目黒中央の家

社会福祉法人奉優会特別養護老人ホーム

目黒中央の家

〒152-0001
東京都目黒区中央町2丁目32番23号
TEL:03-5734-1620
FAX:03-5734-1624
URL:https://www.foryou.or.jp/

[定員]
特別養護老人ホーム:84人
小規模多機能型居宅介護:25人
ショートステイ:12人
事業所内保育所:11人(内、地域枠6人)


撮影=山田芳朗/取材・文=石黒智樹