アーカイブ

特集(制度関連)

著名人が語る 介護に向き合う「心」の作り方

心から伝えたい、やって良かった私の介護。上条百里奈

2023.05 老施協 MONTHLY

日々要介護者を支援しながら“心”を一定に保つのが難しいとされる介護の現場。今回は、芸能界で活躍する一方、ご家族の在宅介護や施設での介護経験を持つ方々に、ご自身の取り組みや心の在り方、何を支えにしてきたかなどを伺った。


モデル、介護士、大学非常勤講師として活動
上条百里奈さん

EXIT りんたろーさん

Profile●かみじょう・ゆりな=1989年7月18日生まれ。長野県出身。介護福祉士として現場に従事しながらモデルとしても東京コレクション等のランウェイ、CM、広告等に出演。厚生労働省「介護のしごと魅力発信等事業」(厚労省HP)プロジェクトパーソナリティー、日経SDGsフォーラム登壇ほか多数


人生を伴走している時間そのものが毎回うれしいです

利用者の家族も一緒になって考え方を共有することが大切

 モデル活動をしながら、小規模多機能型居宅介護で介護福祉士としても働いている上条さん。元々は医療の世界を夢見ていたが、中学生時代の職業体験で訪れた介護老人保健施設での経験が、介護職を目指すきっかけだったそう。

「授業の一環で訪れた施設で、介護職の方が強い意志とこだわりを持って働いているのを知りました。介護っておむつを替えたり、食事を口に運ぶだけじゃないんだと。私の“命を救いたい”という思いは、生命維持というより、その人が生きている実感をどう持ってもらうかなので、医療職ではなく介護職に興味を持つようになりました」

 その後、ボランティアとして施設で働き、短大の介護福祉学科を経て介護福祉士を取得。介護老人保健施設に就職することになったが、ボランティアでは気付けなかった問題にも直面したという。

「介護の専門性や技術、知識を高めたら利用者の方を幸せにできると思っていました。ですが働いてみて、介護で救えることは本当に少ない。現場は介護以外のあらゆる社会問題、例えば貧困や情報格差、メディアの介護ネガティブイメージなど、専門性だけでは解決できないことが絡んでくる。そこも解決しないと、おじいちゃんおばあちゃんは笑顔にならないということに気が付き苦しみました」

 そんなときに出合ったのがモデルという職種だったという。

「学会を終えて東京経由で帰るときにスカウトされました。そして、介護を受けることは恥ずかしくないし、利用者の支えになることをどうやったら伝えられるだろうと思ったとき『テレビだ!』と(笑)。私は背が高いのでモデルに挑戦してみようって決意したんです」

 モデルと介護福祉士、2つの職種にまい進する上条さん。現在は、在宅介護がメインのため、利用者はもちろん、ご家族との関係性を大切にしているという。

「ご家族との関係性を築いていかないと、どうサポートしていくのかという相談もできません。ご家族の方がちょっとした悩み事を言ってくれるような関係性をいかにつくれるかが大事です。介護福祉士やケアマネジャーだけでなく、ご家族もチームケアの一員に入っていただき考えを共有することが大切。何より直接介護だけが介護じゃないと思います。うちの事業所は利用者のご家族と飲みに行ったり退居された利用者のご家族といまだに仲がいいケースもあります。こういった関係が続くのもやりがいの一つ。ご家族の方に『あなたの存在がうれしい』と言われたときは本当に幸せな瞬間でした」

 また、家族との関係性を築くためには、介護業界でも注目のDX化が非常に役立つツールだという。

「介護生活情報を収集し、客観的なデータを共有できることが大きい。例えばGPSを活用すると、どこにいるのか、どうやって家まで帰ってくるのかというアセスメントにもつながります。何度も迷子や無銭飲食などで警察のお世話になっていた利用者がいて『どこにお出かけしたのですか?』と聞いても『出かけてないわよ、ずっと家にいたわよ』との返答。でも迷子になる日には共通点があることが分かりました。大好きだったお兄さんに会いに行きたかったんです。在宅センサーは、ベッド以外で寝たり頻繁にトイレへ行っているなど、一人のときの行動もデータとして残る。人が介入できないところまで知ることができるんです。そこがIoTを使うことの利点。情報があれば適切なケアにつながると思うし、何よりグラフやデータを家族で共有すると重大さも伝わります。例えば、医師から『あなたは◯◯のアレルギーがありますね』と言われたら、自分に症状や自覚がなくても多くの人は信じますよね? 中には今後の生活に気を付けてみようと思う方もいるかもしれません。それは医者の向こうに血液検査という裏付けデータがあるからなんです」

 現在は大学院に通い、日本介護福祉学会評議員や大学の非常勤講師としても活動している上条さんに、今後の目標を伺った。

「介護職だけでは解決できない社会的な問題にアプローチしたり、社会問題に介護分野はどう貢献できるのかを考えていきたいです。具体的には、アカデミックなところで研究や論文を通じて情報を上に向けて発信。介護職の労働衛生や自立支援介護の実践につながる分野を論文にして問題解決につなげていきたいです。あと介護職の方は自分の不調に目を向けない人が多い。でも、これからは自分のケアもおろそかにせず自分の人生も楽しんでほしいですね」

長年約束していたお酒を飲むことができて、満面の笑みを見せる利用者と上条さん

心を保つ気分転換は
ヘアセットやメーク

モデルの仕事も息抜きの一つです!

お休みのときは、髪の毛をセットしたり、メークをして楽しんでいます。モデル業が多かった20代は介護の仕事が息抜きになっていたんですけど、今は介護の仕事が中心なので、モデルの仕事もいいリフレッシュになりますね。あとは、お散歩したり、大食いの動画や、かわいいイヌの映像を見たりして癒やされたり、パワーをチャージしています。


撮影=桃井一至/取材・文=宮澤祐介