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日本全国注目施設探訪

第19回 北海道釧路市 社会福祉法人扶躬会 特別養護老人ホーム 鶴の園

2023.10 老施協 MONTHLY

独自の取り組みでキラリと光る各地の高齢者福祉施設へおじゃまします!
※「第1回全国老人福祉施設大会・研究会議〜JSフェスティバル in 栃木〜」入賞施設を取材しています


広大な敷地の中に、特養、サ高住、クリニックがそろった〝福祉村〟

人工透析に特化したクリニックを敷地内に併設

 北海道東部の太平洋沿岸に位置し、漁業や観光業、製造業が盛んな都市である釧路市。その北部にある阿寒湖方面に釧路駅より車で45分、釧路空港より車で15分ほど走った場所にあるのが、特別養護老人ホーム「鶴の園」である。

特別養護老人ホーム 鶴の園の外観
敷地面積2万4869㎡の敷地に立っている建物面積4929.75㎡の建物は、鉄筋コンクリート造りの平屋と2階建てが連結されている
常務理事、総合施設長の林 隆浩さん
常務理事、総合施設長の林 隆浩さん

社会福祉法人扶躬会

1977年、医療法人「扶恵会」に属する釧路中央病院の医師が、社会福祉法人「扶躬会」を創設。同年、特別養護老人ホーム「鶴の園」を開設。2014年、「鶴の園」移転。2016年、同敷地内に「鶴の園クリニック」、サービス付き高齢者向け住宅「ライフステージ鶴の園」、訪問介護事業所「鶴の園」、居宅介護支援事業所「鶴の園」開設。2018年、特別養護老人ホーム「ぬさまい」開設。現在は、末岡巧理事長の下、各施設を運営している。

 ’77年、医療法人「扶恵会」に属する釧路中央病院の医師が、老人福祉対策として、社会福祉法人「扶躬会」を創設。当初、現在の場所から10kmほど離れた阿寒高校跡地に「鶴の園」を開設した。

 そして、’14年に同施設を現在の場所である阿寒小学校跡地に移転。ここでは、利用者がずっと住み続けられるような福祉村構想により、’16年に同敷地内に「鶴の園クリニック」、サービス付き高齢者向け住宅「ライフステージ鶴の園」、訪問介護事業所「鶴の園」、居宅介護支援事業所「鶴の園」を開設した。

 「鶴の園クリニック」は、人工透析に特化した病院となっており、専用ベッド6床を用意。その他にも、内科、循環器科、整形外科、ペインクリニック、一般外来も受け付けており、近くに病院がない遠方からの患者も多く利用し、地域医療に貢献している。さらに、通所リハビリ室も設けている。

 「鶴の園」自体も、地元釧路だけでなく、十勝、根室、オホーツク、帯広など、幅広い地域から利用者が入居しているという。

 ちなみに、施設名の通り、釧路湿原から、特別天然記念物であるタンチョウやフクロウが、敷地内を訪れることがよくあるそうだ。

[1]アクティビティ・トイで楽しく遊びながら、リハビリを行っている利用者 [2]屋根が備わり、雨にぬれずに済むエントランス [3]大きなガラス窓で明るく広い清潔なエントランスホール
[4]窓が多く明るい地域交流ラウンジでは、コンサートなど催し物が行われる [5]リハビリを行うための多くの機器が用意されている機能回復室 [6]ユニット型の居室は全て個室であり、角部屋の窓は2面にまたがった凝ったもの
[7]利用者同士が集まって、食事やくつろぎの場にもなっているリビング [8]利用者の頭髪を常時清潔に保つ理髪室 [9]全部で10あるユニット名は、全て花の名前が付けられている
敷地内には、近くの釧路湿原から特別天然記念物のタンチョウやフクロウなど自然動物たちが訪れる

外国人スタッフを受け入れ 今から人材確保難に備える

 「扶躬会」の理念は、「人の温かさを大切に、支える力になっていきます」となっている。これは、体が不自由なため、日常生活において常に多くの介助を必要としながらも、家庭で介護を受けることが困難なお年寄りが利用し、お互いに生きる喜びを楽しみ、健康で明るい生活を送れることを目的としている。スタッフ誰もが覚えられて、すぐに言えるよう、分かりやすいものにしているという。

 建物は、2万4869㎡という広大な敷地の中に、4929.75㎡の鉄筋コンクリート造りの平屋と2階建てが連結されている。

 ユニット型の居室は全て個室であり、1ユニット10部屋の合計10ユニット100部屋となっている。

 スタッフは、男性52人、女性104人の合計156人。この中には、外国人の技能実習生として、全てミャンマー人の3人がいる。同施設では、新卒などの人材確保が難しくなる前に、外国人の積極的な受け入れを予定しており、現在は14人まで増やす計画であり、全体の2割を目指しているが、最終的には4〜5割になるのではないかと見ているそうだ。

 スタッフの平均年齢は、男性が40.8歳、女性が46.9歳、全体では、44.8歳となっている。

[1]チェアー浴やストレッチャー浴、シャワー浴など、利用者の体の状態に合わせた機械浴のある浴場 [2]浴場からもすぐにアクセス可能なトイレ [3]看護師が常駐している医務室 [4]敷地内に開設されている鶴の園クリニック [5]鶴の園クリニックは、人工透析に特化され、全6床が用意されている [6]鶴の園クリニック内の通所リハビリテーションルーム

「アクティビティ・トイ」で楽しくリハビリして自立支援

 同施設では、利用者のリハビリにアクティビティ・トイ(おもちゃ)を導入している。これは、強制的にやらされて効果が得られないケースが多いことを改善すべく、遊びを楽しみながら自分が本当にしたいことを実現し、利用者主体の自立支援とするものである。

 今後は、アクティビティ・トイをきっかけに、おもちゃだけでなく、さまざまな方法で、利用者のより積極的なリハビリへの活用を展開していきたいそうだ。

【キラリと光る取り組み】
アクティビティ・トイを使用した機能訓練の試み
小さな成功体験がもたらす心の栄養補給

「第1回全国老人福祉施設大会・研究会議〜JSフェスティバル in 栃木〜」実践研究発表優秀賞受賞
作業療法士 桂 裕二さん インタビュー
作業療法士の桂 裕二さん
作業療法士の桂 裕二さん

――この取り組みへのきっかけは、どのようなものだったのでしょうか?

桂:養成校卒業後から認知症利用者に関わることが多かったのですが、リハビリを拒否する利用者さんが多くいました。リハビリというと、脳卒中などになって、病院に行って、つらいのを我慢しながらリハビリをやって、ようやく施設に入ってホッとしているのに、もうこれ以上したくない。リハビリをしても、自分のやりたいことなんかどうせかなわない。何々をしたいと言っても、家族や介護スタッフ、作業療法士に、遠回しにこんな障害だと無理だと言われてしまうので、やる気がなくなってしまう。だから、私はこのままでいいですっていう方が多くなってしまうのです。でも、散歩や畑仕事、料理などには喜んで参加してくれる方も多い。そこで、利用者さんが成功体験を得られるような意欲を持って活動をする場面を、リハビリに活用できないか?と思ったことがきっかけです。その頃、アクティビティ・ケアという概念に出会い、自分が考えていることが間違いではなかったことが分かり、このやり方に自信を持って取り組めるようになりました。

――そこで、アクティビティ・トイ(おもちゃ)を使い始めたのですね?

桂:例えば、私たちが利用者さんの拘縮している右手を無理やり開いても、やりたくないのに開くので痛い。だから、もう私の右手は悪いので触らないでくださいと隠してしまう。そこで、「かえるさんジャンプ」というおもちゃを使ったときに、利用者さんは初め左手で使っていたのですが、元々右利きの方なので、右手を使いたいと思ったのか、右手を使いだしたら指が開いてきたのです。本当は使えるのだけど、周りに使えないという評価をされているので、使えないと思い込んでしまっているのです。同じ開くという行為でも、楽しい中で自ら手を動かしてもらったりすると、私もまだできるんだとか、私の手はまだいい手なんですねと言ってもらえることがあって、うれしくなることもありました。側から見れば、まだまだおもちゃはただ遊んでるだけという認識が多いのですが、現場の介護スタッフも利用者さんとおもちゃでどんどん遊んでくれれば、みんな元気になり十分リハビリになるということを広めていきたいです。

――こういったアクティビティ・トイは、どちらで見つけてくるのですか?

桂:私は、認定NPO法人である芸術と遊び創造協会の高齢者アクティビティ開発センターというところで、アクティビティインストラクターやアクティビティディレクターという活動をしていて、そこでこういうおもちゃを使っています。元々保育が専門だったのですが、子供も高齢者も一緒にやりたいと活動しているこの団体と出会ったのです。

――こちらの団体がそういうアクティビティ・トイを開発しているのですか?

桂:子供のためのおもちゃをいろいろ開発していたのですが、私の担任がこれはリハビリに使えるのではないかと研究し始めて、高齢者にも使えるということで広まりました。

[1]アクティビティ・トイである「かえるさんジャンプ」で遊び、指のリハビリを行っている利用者 [2]リハビリに役立つアクティビティ・トイが種類豊富に用意されている

――この取り組みの成果としては、どういったものがありましたか?

桂:今までリハビリはつらい、痛い、楽しくないというネガティブな印象を持ち、リハビリを拒否していた利用者さんが、本人が楽しいと思える活動を取り入れ活用することで、楽しみながらリハビリに結び付いています。リハビリはPT(理学療法士)、OT(作業療法士)、ST(言語聴覚士)の専門職のみが行うというイメージがありましたが、利用者が楽しみながら活動すること自体がリハビリにつながるということをスタッフに理解してもらってから、リハビリの捉え方が変わってきたと思います。また、利用者さんがおもちゃで遊んでいる姿をスタッフが見て、この方はこんなに動けるんだというアセスメントにもなることが分かりました。おもちゃで遊んでいて、何かが床に落ちる、そうすると、車椅子の方が立って拾おうとするのです。ユニットに行くと、スタッフが全部やってくれるので、何もやらなくなってしまう。利用者さんが普段ユニットの中でやっているADL(日常生活動作)と本気で遊んでいるときのADLが結構違っていて、そこを現場のスタッフが気付くというのが大事ではないでしょうか。そうすると、危険予知にもなりますし、リスク管理にもつながると思います。

――この取り組みに関して、今後の課題や目標がありましたら、教えてください

桂:この利用者さんの指の機能を上げたいといったときに、介護スタッフが、このおもちゃが効果があるといったように選べるようになるといいと思います。今は、楽しんでいただけるおもちゃをセレクトしていますが、それを分かってくれたら、今度はこのおもちゃを使ったら指が動くとか、下肢機能がもっと上がるということを理解してくれると、効果的にレベルアップすると思うのです。楽しいの先へというのを現場のスタッフにどう伝えていくかが今後の課題です。それができるようになれば、作業療法士はいらなくなるのかもしれません。たまたまおもちゃというものを使っていますが、散歩に行くでもいいですし、山菜採りに行ったら本気で手が動くかもしれないので、おもちゃをきっかけに利用者さんの本気をどう出すかというところに目を向けてもらうというのが一番の目標かもしれません。おもちゃだけで全てを語ろうとは思っていなくて、介護スタッフが知るきっかけになったりとか、利用者が本気になったらこんなに動くんだという場面をどう提供するか、というところに介護スタッフの視点が向けば、一番利用者さんの機能訓練や自立心ができるのではないかと考えています。


特別養護老人ホーム 鶴の園

社会福祉法人扶躬会 特別養護老人ホーム

鶴の園

〒085-0214
北海道釧路市阿寒町富士見2丁目5番10号
TEL:0154-66-1010
URL:https://www.shafuku-fukyukai.or.jp/tsurunosono

[定員]
特別養護老人ホーム:100人


撮影=山田芳朗/取材・文=石黒智樹