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特集(制度関連)

見た目・技術の向上・味などのテクニックを紹介

グルメの秋 食事で利用者のQOLを上げよう!②

2023.10 老施協 MONTHLY

暑さが一段落して、食べ物がおいしい季節の到来!今回は高齢者の食事にスポットを当て、食に関する基礎知識や企業や施設の取り組みなどを紹介。


テクニック1 見た目を維持する
咀嚼力が低下した人にもいつもの食事を提供
調理家電デリソフター

おいしさも見た目もそのまま、料理や食材を軟らかく調理するケア家電。ソフト食や刻み食の方もこれまでの料理が食べられる。

水蒸気で驚くほど軟らかく これまでと同じ食事を提供

 食品の見た目や味はそのままに、舌でつぶせるほど軟らかくすることができる調理家電「デリソフター」。手掛けるのはパナソニック発のスタートアップ企業であるギフモ。高齢や病気などでかむ力、飲み込む力が弱くなった方、義歯などの影響で料理が硬いと感じる方も、家族や他の施設入居者と同じものを食べられるのが特徴だ。

 「祖母は116歳まで長生きしたんですが、家庭料理をとても大切にしていました。亡くなる少し前まで家族と同じものを食べていましたが、それが祖母の生きる喜びであり、活力だったのだと思います」と振り返るのは、開発担当者である水野時枝さん。一方、同じ開発担当者の小川恵さんは父親の介護を通じて、嚥下障害ケアの大変さを痛感したとのこと。

小川「家族の食事を作るのと並行して介護食を作るのは想像以上に手間がかかりました。少しでも負担を減らせればと市販の介護食も利用しましたが、当時はまだ種類も少なく、父親が満足するような食事内容にはなりませんでした」

 忙しい合間を縫って手作りしても、市販品を使っても父親は不満。「エサみたいなものを食べてまで生きている意味はない」と言われ、返す言葉もなく、つらかったと振り返る。本来、楽しいはずの食事の時間が本人にとっても、家族にとっても苦痛になってしまう…。そんな悲しみや苦痛を解消したいという思いで開発された。

小川「圧力と水蒸気を利用して調理します。専用調理皿に食材をセットし、内鍋に水を入れてスイッチを押すだけ。電気圧力鍋と同じ仕組みのため、通常の圧力鍋として炊飯などにも使えます。食材の繊維をカットできる“デリソフター専用カッター”も付属し、スタンプのように押すだけで、食材はさらに軟らかくなります」

水野「唐揚げなら約12個が載るサイズです。『想像していたより一度にたくさん調理できるんですね』と驚かれます。また、中にはクッキングシートを重ねて、倍の量を一度に調理されている施設もあります」

 ギフモでは導入後の調理オペレーション最適化にも伴走。施設の環境に合わせた動線の検討やレシピの工夫の相談にも乗ってくれる。

小川「コミュニティーサイトもあり、私たちも参加しています。レシピなどの情報交換も行われていて、これからも進化していきます」

水野「見た目が変わらないのにこんなに軟らかいのかと驚かれます。最期まで楽しく食事をする、そのシンプルで切実な夢をこの家電がかなえてくれるはず。身体機能が低下してもこれまでと同じ料理を食べることは夢ではないです」


水野時枝さん

デリソフター開発担当。みんなが同じ食事を食べられる喜びをいつまでも持ちたいと企画

小川 恵さん

デリソフター開発担当。嚥下障害の父親を介護し介護食を作る中、家族と同じ食事をと企画

野菜は約15分で舌でつぶせる軟らかさに

2.0気圧の高圧力と120℃の蒸気加熱により、味と見た目を保ちながらも短時間で軟らかく。ブロッコリーだと1/8弱の力でつぶせる(下表)。肉や魚などのタンパク質が多い食材も簡単に調理できる。


デリソフター

URL:https://gifmo.co.jp/delisofter/
価格:6万1600円(税込) サイズ:約29.0×37.5×27.9(cm) 重さ:約8.0kg


テクニック2 技術の向上
厨房にスポットを当てる食のイベントを開催
GOHANグランプリ

利用者に食事を届けている厨房スタッフの年1イベント。参加者に多くの刺激を与え、技術と意識の向上を提案し続けている。

厨房に光を当てることで全体の技術力が向上する

 国内介護施設の約70%が食事提供をアウトソーシングしている中、施設の自社厨房率が90%と高い数字を誇る株式会社SOYOKAZE。「全国統一メニューを作らず各拠点でメニューを考えています。そのことで伝統行事に合わせた料理や名産など利用者の方になじみのある料理を提供してきました。各施設の個性が生かされたレシピが展開されています」とフードサービス推進部の齋藤政人さん。

 全国に1140名もいる厨房スタッフが、料理の腕を競うイベントが「GOHANグランプリ」。実行委員会リーダー・山村千佳子さんによると、「日々の食事で磨いた技を披露している」とのこと。

山村「厨房スタッフが主役になる企画として’17年に誕生しました。今年は197拠点が参加し、技術、アイデア共に進化しています」

齋藤「他のチームがどのような考えでメニューを提案し、どのような技術を盛り込んでいるのかを身近で感じ取れるので、厨房スタッフもかなり刺激になるようです」

 栄養面や構成、食材費など、実際に施設で提供されるメニューを念頭に置いたレシピが展開されるため、レシピが身近に感じられ、アイデアに驚かされることも多い。

山村「条件があるのに、こんなに幅広いレシピができるのかと、毎回驚かされます。高齢者に適した栄養バランスと食べやすさも配慮しつつ、見た目でも楽しくさせてくれる…。改めて、食事は味や栄養を取るだけのものではないと感じさせられます。そしてここで登場したレシピが、その施設の看板メニューになってお客さまに愛されていくのもうれしい連動です」

齋藤「上位のレシピは、全施設に共有します。もちろん技術の高さも必要となってきますが、まねをしようと思えばできなくもない。ここで誕生したレシピが多くの人の元に届くのはうれしい限りです」

 厨房に光を当てることで、利用者においしい料理が届いていく。

山村「施設では“食”が楽しみのかなり大きな割合を占めています。厨房職員の技術が上がることで、お客さまの喜びが増えていくのは、スタッフとしても見ていてうれしい限りです。これからも笑顔を増やしていきたいです」

齋藤「食事は五感で楽しむといいますが、いつまでも食事で楽しんでいただきたいと思っております。そのためには技術向上がかなり大きなカギを握っているはず。身体機能が低下してきてもどこまでできるのか、最新の医療技術と連携しながら、今後も“食べたい”と思ってもらえる料理を提供できるようにしていきたいです」


齋藤政人さん

フードサービス推進部。介護施設の厨房はもちろん、食事宅配サービスなども取りまとめる

山村千佳子さん

GOHANグランプリ実行委員会リーダー。施設では、食に関するイベントやレクに注力

今年で6回目! 各施設が力を出し尽くす

全国9エリアの代表と敗者復活で勝ち上がったチームが出場した決勝戦。赤魚とろろ焦がし焼きなどを御膳にした「にいがたケアセンターそよ風」が優勝。「酢の物はリンゴ酢のジュレの上に盛り付けられていて、その美しさと食べやすさが詰まった技術とアイデアに驚かされました。過去には塩釜焼きが登場するなど、味、目で楽しむ以外に、演出でも楽しませてくれて、料理の深さを感じます」(山村さん)

第6回優勝作。里芋のくるみみそやエビと野菜の酢の物、赤飯などが入った、「真心長寿結び御膳」
第4回大会の決勝戦に登場した「尾張旭ケアセンターそよ風」の料理

株式会社SOYOKAZE

URL:https://corp.sykz.co.jp
全国で高齢者介護事業を「そよ風」のブランドで展開


テクニック3 おいしさを追求
食事をイベントに利用者が喜ぶ食事を提供
地域密着型介護老人福祉施設 アルペジオ

高齢者の身近な存在の食事から、話題や笑顔を引き出していく。おいしさを保つ技術はもちろん楽しませるアイデアも満載。

食事は生きがいの一つ 楽しめる食事を目指す!

 施設開設時の施設長が栄養士だったこともあり、当時から“食”に力を入れてきたという地域密着型介護老人福祉施設「アルペジオ」。施設内に厨房があり、日々の食事はもちろん、イベント食も全て施設内で調理を行っている。

「食事は楽しみや生きがいにつながる大切なもの。必要な栄養をしっかり取っていただくのはもちろん、食べやすさや彩り、旬の食材にこだわっています」と語るのは、管理栄養士の笠松裕奈さん。

 おいしい料理を見栄えよくするために、食器は割れにくい強化磁器を使用。丈夫な上に手触りも良く、料理がよく映えるそう。

「利用者の方からも強化磁器は好評です。なるべくご自宅にいるときの感覚に近く、違和感なく食事を楽しんでいただけるよう、器選びや盛り付けも含め、“目で見ても楽しめる”を大切にしています」

 さらに毎月1回、「バスツアー」をテーマに全国各地の郷土料理を使用したメニューを用意。お膳には、ご当地のパンフレットものせられて、旅行気分が味わえる。

「食事をきっかけに思い出がよみがえってくる方も多いようで、かつて旅行した話など、おしゃべりも弾んでいます。食事もその土地の名産品を取り入れた特別メニューで、栄養や見た目を考えつつも“楽しい食事”を意識しています」

 他にもお誕生日食やお花見など季節イベントに合わせた特別食、調理をテーマにしたレクリエーションなども充実している。

「今年7月には職員のおばあさまに青梅をたくさんいただき、梅シロップ作りを行いました。『昔はよく作っていたのよ』とやり方を教えてくださる方もいて、大盛り上がり。調理レクのおかげで楽しみが増えたと言ってくださる方も多いです。施設に入所しても、自宅でやっていたように家事をする機会を設けることで、能力を発揮できる。それが自信の回復にもつながっているのだと感じています」

「食事がきっかけで利用者の方の笑顔も増えていく」と笠松さん。

「“楽しい食事”を意識することが何よりも大事だと思います」


笠松裕奈さん

管理栄養士。誤配膳や誤薬事故防止のため、食札に入居者の顔写真を付ける画期的な取り組みを行い話題に

おいしいと楽しさが詰まったレシピ

しらすのかき揚げ

さくらごはんのうな丼


地域密着型介護老人福祉施設 アルペジオ

住所:北海道帯広市自由が丘5-16-9
URL:https://www.koujyukai.info/facility/arpeggio/
入所29床の小規模特養


構成・文=玉置晴子/取材・文=島影真奈美/写真・イラスト=PIXTA