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どう変わる?どう整える? 骨太の方針2026&2027年度介護報酬改定

7月21日に閣議決定された高市政権初の「骨太の方針」は、これまでの方針とは一線を画し、積極財政への転換を掲げる内容となりました。来年に迫る次期介護報酬改定に直結する予算編成改革にも言及していることから、全国老施協の小泉立志副会長に本方針の注目点と報酬改定への影響などについて解説していただきます。
お話を聞いたのは

社会福祉法人鶯園 常務理事
全国老人福祉施設協議会 副会長
小泉立志さん
1973年に岡山県津山市で設立された社会福祉法人鶯園の運営施設で施設長を務めた後、常務理事に就任。特別養護老人ホーム鶯園の園長も兼任する。介護現場で培った経験を生かし、施設経営や人材確保、介護報酬などの課題について、全国規模で政策提言や制度改善に取り組み、高齢者福祉の充実にも尽力している
「骨太の方針2026」例年と違う革新的内容とは
「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」は、例年6月ごろに首相を議長とする経済財政諮問会議で議論された後、閣議決定されます。政府による重点政策や経済財政運営の基本方針であり、翌年度の予算編成にも関わってくるものです。特に今年は「責任ある積極財政」を掲げる高市早苗政権として初めての方針策定です。従来の緊縮路線と投資不足の流れを断ち、成長分野への大規模投資で強い経済を構築するという財政運営の方向性は、金融市場からも大きな注目を集めています。
その「骨太の方針2026」は全4章で構成され、第1章はマクロ経済運営の基本的考え方、第2章は日本の成長力強化と安全・安心の確保、第3章は責任ある積極財政に基づく「中長期経済財政計画」、第4章は当面の経済財政運営と令和9年度予算編成に向けた考え方について書かれています。
「経済財政運営と改革の基本方針2026」
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同方針の革新的なところは、予算編成について「財政単年度主義の弊害を是正し、予算の作り方を根本から改める」としたことです。まず単年度で基礎的財政収支(プライマリーバランス)の黒字化を求めない姿勢を示し、複数年で管理するとしました。通常歳出とは別に「『強く豊かな日本』投資枠」を新設し、AIや半導体などの戦略17分野や危機管理への投資を中長期的視点で実施します。その予算措置は効果的な投資支援策を取り込めるよう、概算要求の上限を設けないそうです。また補正予算ありきの編成体制から脱却し、予見できる施策は当初予算に盛り込むことにも注目です。
国の当初予算は例年、12月下旬に政府案が閣議決定され、翌年3月末までに国会で成立する流れです。先の7月末に政府は2027年度予算の概算要求基準を閣議にて了解しました。前述した新設の投資枠における要求上限はありませんが、各省庁はそれ以外の分野について同基準を基に8月末までに財務省に概算要求し、年末まで予算交渉が行われます。
ちなみに同基準における年金や医療などの社会保障費は、前年度予算から3900億円の増加が認められました。これは予算編成過程における、高齢化による自然増加分に物価高騰を踏まえた対応への加算も含まれています。
ここまで「骨太の方針2026」概要から主に予算編成改革について見てきましたが、本特集ではさらに同方針での介護分野の注目点について、全国老施協の小泉立志副会長に読み解いていただきます。今年4月には財務省が骨太の方針策定に向けた財政制度等審議会において、「介護サービスの利益率は過去や他産業に比較して高い水準にあり、次期改定では介護報酬を適正化する必要がある」旨を提言し、マイナス改定をにおわせた経緯があります。これを受けて「骨太の方針」はどのような介護政策を打ち出したのか、解説していきます。
真に効果的な物価変動対策と果断なる賃上げは実現するか
「他職種と遜色ない処遇改善を図る」に期待
「骨太の方針2026」が例年以上に重視されているもう一つの理由は、2027年度介護報酬改定の直前に策定されたことです。その内容によって、次期改定の方向性が決定づけられるといえます。
財務省はマイナス改定の方向性を示していましたが、高市政権の同方針ではプラス改定を示唆する内容が書き入れられました。「次期介護報酬・障害福祉サービス等報酬改定では、介護・障害福祉分野の賃上げの状況や事業者の経営状況等を把握した上で、物価変動に適切に対応するとともに、他職種と遜色のない処遇改善の実現を図る」旨が記述されています。
このことについて小泉副会長は次のように評価します。
「まさに全国老施協が長年訴えてきた『他産業と遜色のない賃上げの実現』『物価上昇(見通し)分への的確な対応』との要望に沿った文言を入れてもらえたことは大変ありがたいと感じています」
ただし、下記にまとめたとおり、同方針の国の物価対応には注意が必要だと小泉氏は指摘します。
「例えば2026年度の期中改定で食費を1日あたり100円引き上げていただきました。増額自体はありがたいですが、金額の根拠が2024年度の決算書とデータが古いため物価高騰の速度に合っておらず、当会調査では基準費用額と比べて343円の差があり十分に食費を賄うことができませんでした。処遇改善についても、介護職員の賃金は全産業平均と比べ8万2000円の差があります。今後こうした差をどのように埋めていけるのか。難しい道のりではありますが、政府の果断な積極財政の取組に注目したいと思います」
一方で、同方針では「医療・介護を中心とした社会保障制度改革を着実に実行することにより、現役世代の保険料率の上昇を止め、引き下げていくことを目指す」とも明言しています。この流れから国は野放図な歳出拡大は抑えていくはずであり、介護現場には処遇改善を図りつつ、さらなる業務効率化と生産性向上を求めてくることが考えられます。

積極財政へのかじ切りが介護現場を支える鍵に
前述で触れた「骨太の方針2026」の介護職員に対する“他職種と遜色ない処遇改善”について、具体的に考えていきましょう。小泉氏が常務理事を務める社会福祉法人鶯園(岡山県)で2026年度期中改定の処遇改善措置を実施したケースを例にします。
「うちの法人に勤務する正規・嘱託・パートの介護従業員(約400人)に今回の処遇改善措置で月1万4000円賃上げした際、法人全体で必要となる追加費用は月額550万円となりました。この状態で、仮に全産業平均との比較額8万2000円の賃上げを行う場合、月額3245万円の費用が必要になる計算です。この数字を見ただけでも『骨太の方針』でうたわれた処遇改善を、一朝一夕で実現できないことは明らかです」
こう本音をのぞかせながらも、小泉氏は「骨太の方針」が描く世界への期待感を語ります。
「それでも一筋の光が見えるとしたら、今回の方針によって長年の経済財政運営の慣行や前例主義を躊躇なく見直す『責任ある積極政』へと大きくかじが切られたことです。これは国力強化と国民生活の向上に向けて、介護現場を支えるために真に必要な支援を国主導で果断に行う、という強い姿勢の表れといえるでしょう」
その責任ある積極財政に基づく「中長期経済財政計画」(計画期間2027年度〜2040年度)では、“強い経済”と“財政の持続可能性”を一体的に実現するという目標の下、賃金や物価動向を的確に予算に反映する方針へと転換していくとしています。
「ここは特に重要なポイントで、物価動向をタイムラグなく予算に反映していく方向性ならば、先に述べた食費の基準費用額に物価スライド制を導入しやすくなるのではないでしょうか。また、公定価格についても現場の人材確保、経営の安定、サービスの質の確保に必要な対応を取るとしています。これらは介護報酬や職員の処遇改善を大きく後押しする重要な取組ですので、ぜひとも実現していただきたいですね」(小泉氏)
“強い経済”実現に向けて国はAI活用を推進 生産性向上に取り組む介護現場にも大きな影響が
介護現場でのAI活用 国も後押しする流れへ
処遇改善とともに語られるのが、「生産性向上」です。財務省による次期改定に向けた提言でも「生産性向上と賃上げの好循環」と題して「介護現場が生産性向上に取り組み、対応可能な利用者が増え、収益が増加することで、職員の賃上げとさらなる生産性向上投資につながるという好循環を実現することが重要」と述べられています。
今回の「骨太の方針」でも近年推進されてきたDXと、高市政権の成長戦略で欠かせないフィジカルAIを軸とするAX(AIトランスフォーメーション)が併記され、介護現場においても双方を活用した生産性向上やサービスの質の向上への取組が進められることになります。こうした国の動向に小泉氏は「これからは一般的な記録ソフトやインカムを使用するだけでは、国が推進する『AXを全産業で加速し、人口減少下においても高付加価値を生み出す経済構造への転換を図る』という時流に追いつけなくなる恐れがあるでしょう」と指摘します。例えば小泉氏の施設では大手クラウドサービスのAI要約・分析ツールを活用し、介護記録の音声入力からデータ分析、報告書の作成、管理者らへの送信に至る工程をオートメーション化したといいます。
「あらかじめAIツールでプログラムしておけば、日々のルーティン的な事務作業や報告書の共有などは職員たちの手を介さず自動化できます。最近感心したのは、法人内施設で起きたヒヤリ・ハット事案をAIツールで集約し、各施設で起きやすい事故の傾向や対処方法などの分析結果が自動で出てきたことでした。このように事務作業などを効率化させることで、人手不足でも職員が入居者さんに寄り添う時間を増やしていける。今後は介護DX同様、AI活用を後押しする加算や補助金が増えていくと考えられます」
国全体の成長に向けて「人への投資」と「AI導入」が不可欠であるとする「骨太の方針」が介護現場にもたらす変革は職員の処遇向上と、働きやすい環境の再構築につながるといえそうです。


「責任ある積極財政」元年〜日本の挑戦を起動する!〜政策ファイル
2040年に向けた社会保障制度改革が始動!給付と負担の見直し議論も本格化
“骨太効果”を追い風に改定議論に力を尽くす!
「骨太の方針2026」の主軸となる「中長期経済財政計画」では、質の高い全世代型社会保障の実現に向けた社会保障制度改革が強化され、介護業界にとっても重要な政策が来年度より続々と実施されることになります。
「今後の成長型経済に合わせた社会保障制度を構築するため、今回の方針で現役世代の保険料率の負担軽減が明言されました。その一環として、介護保険における『2割負担の判断基準の見直し』についても今年度中に結論を得るとしました。2割負担の対象拡大は、ここ数年の制度改正時で先送りされてきた論点です。拡大が決まれば介護事業者は利用者らへの説明対応が必要になります。特養の場合、既に入居されている対象者の方々には了承していただきやすいかもしれませんが、デイサービスの場合は対象者の利用控えにつながる可能性もあるので、議論の行方を注視したいです」(小泉氏)
国が目指すのは「国民が全国どこに住んでいても安全に生活でき、必要な医療や介護を受けられる社会」です。しかし、近年の物価高や人手不足で介護施設の経営は厳しさを増しており、離島や中山間地域を中心に介護崩壊ともいうべき状況が起きていることも事実です。そうした理想と現実のギャップを、介護業界はどう埋めていくべきでしょうか。
「今回の方針には、これからの介護福祉施設における経営環境や職員の働き方を前向きに後押しする重要な方針が数多く盛り込まれています。それらが実現したら本当に素晴らしいことですが、そのためには越えるべき壁が多くあります。賃上げや物価対応以外にも複雑な加算体系の是正、軽度者の訪問・通所介護を介護保険から外す議論への反対、老朽化した施設の修繕や建て替えへの補助要請など、国や地方自治体に介護現場の実態を根拠に改善を訴え続ける必要があります。この秋から年末は次期改定議論も山場を迎えます。『骨太の方針』効果で大幅なプラス改定を勝ち取れるよう強く働き掛けていきましょう」(小泉氏)
全世代型社会保障の構築❶
(成長型経済に合わせた持続可能な社会保障制度)
出典:2026年7月内閣府特命担当大臣(経済財政政策) 経済財政運営と改革の基本方針2026
「責任ある積極財政」元年〜日本の挑戦を起動する!〜政策ファイル

構成=及川静/取材・文=菅野美和
主な取組
【医療・介護・福祉サービスの体制整備】
▶ DX/AX、多職種連携を含むチーム医療等による生産性の向上
▶ 物価と賃金の変動への適切な対応、介護・福祉分野における他職種と遜色のない処遇改善の実現
▶ 病床数の適正化、医療機関の連携・再編・集約化
▶ 地域包括ケアシステムの深化
▶ 医療・介護・福祉分野の人材の養成・確保・定着
▶ 施設・設備の計画的な整備への支援
【社会保障制度改革の着実な実行】
▶ 医療保険における高齢者の窓口負担の見直し
▶ 介護保険における2割負担の判断基準の見直しなど