福祉施設SX
1人で抱え込まない チームマネジメントとリーダー育成

深刻な人手不足が叫ばれ、劇的に変化する介護現場では、現場をまとめるリーダーに大きな役割が求められています。今回は、リーダーを取り巻く現状と課題をひもとくとともに、組織としての仕組みづくりや人が育つチームづくりの実践例を紹介。リーダー層の在り方と、理想的な組織づくりのヒントを探ります。

小野寺敦志氏
国際医療福祉大学・同大学院准教授。
著書に『不安・イライラに振り回されない介護のストレスマネジメント』など。
リーダーシップも組織づくりも 小さなコミュニケーションから
2020年からのコロナ禍を経て、社会の価値観も変わってきました。そうしたなか、“なかなか中間管理職が育たない”という悩みは、日本社会共通のものとなっています。介護の現場でも、現場リーダーや主任といった管理職層の人材不足に悩む事業所が多いようです。
公益財団法人介護労働安定センターの「令和6年度介護労働実態調査結果」によれば、施設職員の離職率は12.8%と過去最低を記録したものの、事業所規模別で見ると人5~9人以下の事業所で14.5%と、小さな事業所の方が高い数値を示しています。さらに年齢別では29歳以下の18.7%を筆頭に、30代・40代の数値が高くなっています。つまり離職率の高さの背景には、現場を支えるリーダー・管理職層の負担の大きさもあると考えられます。
現在の介護現場の傾向を、国際医療福祉大学の小野寺敦志准教授はこのように指摘します。
「今の現場には外国籍の方、他業界からの中途採用の方、学校で福祉を学んできた若い世代などが入り交じっています。さらに現場の人材には、 スキルアップを目指す人もいれば、ワークライフバランスを第一に考える人もいます。人材も価値観も多様化する中で、求められるリーダー像も変化しているのです」
では、今の時代における介護業界のリーダーに必要な適性とは何なのでしょうか。
「これは福祉介護施設だけに限りませんが、現代のリーダーに求められるのは、先頭に立って引っ張るのではなく、下から支えながら職員の力を引き出す『ファシリテーター』(進行・調整役)としての役割です。『どう思う?』『こういう考え方はない?』といった会話で、本人たちに気付かせて主体性を引き出すコーチングの視点が重要になります」
そうしたリーダー像を目指すにはどうしたらいいのか?それは日常のちょっとした行動がカギになると、小野寺先生は言います。
1日10分、雑談を交えてスタッフの様子を把握
「大切なことは、部下とちょっとしたコミュニケーションを取れるかどうかです。無駄話、雑談程度でいいんです。日常会話を通じて人間関係をつくらない限り、いざというときに相手の本音は聞けません」
そうした行動から、個々の意見を吸い上げ、ボトムアップ的にケアのシステムに生かすかを考えていくことがリーダーの仕事となります。
一方で、2〜3年程度現場を経験した人が、人材がいないという理由でリーダーに抜てきされるというケースも散見されます。
「そういった状況で頼まれてリーダー職を受けてしまう人は、真面目な方が多いです。一生懸命考えて1人で抱え込み、自分を追い込んでしまいがちです」
また、部下のケアに奔走するリーダーですが、彼ら自身は上層部と現場の板挟みになり、いわゆる“サンドイッチ症候群”に陥りがちです。
「大前提として、支援する側である中間管理職が精神的に安定していなければ、困っている部下のケアなどできません。ですから、自分自身のセルフケアが何よりも最優先です。ストレスを感じたときに早めに気分を切り替える、自分なりの方法を見つけておくことです」
そうした孤独なリーダーを救う方法はあるのでしょうか。小野寺先生は同じポジションの人間同士で、交流の場をつくることが救いの手になると言います。
「自分と同じ悩みを持っているんだと共感し合うことが、中間管理職の支えになります。特に規模の小さい施設では相談相手がおらず、煮詰まりやすいため、施設を超えた中間管理職同士の交流の場を設けることも必要です。ですが、そこで出た話には、上層部は絶対に内容を問わない“無礼講”としてあげる。そんな息抜きの場が彼らを支える力になるはずです」
とはいえ、リーダーの悩みの多くは、個人の努力だけでは解決が難しいものです。小野寺先生は改めて組織全体としてのフォローの必要性を説きます。
「それも、第一歩はコミュニケーションです。施設長の方々もお忙しいでしょうが、1日10分でもいいので現場に降りてスタッフに声を掛け、雑談を交えて日頃の様子を把握する。そうすれば、組織の問題点が浮かびやすいと思います。そしてリーダーの皆さんも、自分たちだけで抱え込まず、役割の範囲を明確にすることで、負担をいかに軽減できるかを考えてほしいと思います」
こんな悩みありませんか?
リーダーが抱えやすい悩み
部下とのコミュニケーションが難しい
まずは雑談などを交えて、お互いやりやすく意見を言い合える雰囲気づくりから始めましょう。
何でも自分で抱え込んでしまう
リーダー層の人は相談する相手を見つけ、管理者も日頃から現場の様子を観察することが必要です。
相談できる相手がいない
同じポジションの人間同士で、交流の場をつくり、同じ悩みを共有することでメンタルケアが図れます。
現場と管理業務の両立が大変
現場を見て、パフォーマンス(目標達成)とメンテナンス(集団維持)のバランスを考えましょう。
人材育成に必要なことが分からない
管理側と共に、組織の一員として働く人材の適性を見極め、計画的に育てていくシステムを考えるべきです。
聖風会のリーダーを支える仕組みづくり
「1人にさせない」を合言葉に、リーダーをはじめ職員に寄り添った仕組みづくりを進めてきた聖風会。職員同士が支え合い、次世代リーダーを育てる取組について伺いました。

法人本部事務局課長
金髙良和氏
社会福祉法人聖風会
1955年の創立以来、東京都足立区・荒川区の6拠点で特別養護老人ホームなどの31施設を運営。
住所:〒121-0061 東京都足立区花畑4-39-10
TEL:03-3883-7955
リーダーを孤立させない 組織全体の仕組みづくりが重要
現場スタッフから施設長まで 1人にさせない仕組み
1955年に創設され、現在は東京都足立区・荒川区で6つの拠点で施設を運営する聖風会。「最高に価値あるものをすべての人に~地域に信頼される施設を目指して~」という法人理念が掲げられています。
「この基本理念は、全職員のアンケートを基に作りました。当時の理事長の『理念を掲げるのであれば、みんなで考えた方がいい』という発案によるものでした」
聖風会の法人本部事務局課長・金髙良和さんは「こうした風通しの良さは、今も私たちの法人の風土として定着しています」と言います。
その風土から生まれたのが、新人教育の段階から一貫して続く独自の人材育成支援システムです。
「最近『ホワイトハラスメント(優し過ぎる指導)』という言葉を聞きますが、当法人では真のプロを育てるため、厳しいところは厳しく伝えます。ただ『1人にさせない』という根底の思いがあるため、成長のために手厚いサポートを行います」
「1人にさせない」指導とはどういうものか。まず新人スタッフには、トレーナーと呼ばれる経験3〜4年程度の先輩職員が、1年間専任で付きます。
「もちろん人間ですから、新人スタッフとトレーナーとの相性もあるので、必要に応じて適宜見直しもします。そして、トレーナーの様子を見て、指導し、束ねるのがリーダーや主任の役割となります」
トレーナーも後輩を育成することでマネジメントの基礎を学べ、それが将来のリーダー職へとつながっていくのです。聖風会にはリーダー→主任→係長→課長へと続くキャリアステップがあり、さらにその上が施設長になります。
「私たちの法人の大きな特徴は、現在6人いる施設長が全員、介護現場出身だということです」
施設長も訪問介護や特養の現場からステップアップしてきています。そのため、現場の悩みや問題点をよく理解しているのが特徴です。
「ですから、現場から施設長へ相談しやすい風通しの良さがあります。もし新人が直接トップに意見を言いづらくても、リーダーや主任が間に入って伝えられるルートが確立されています。もちろん、リーダーや主任は中間で奮闘するポジションですが、その役割を務めること自体が自身の成長につながっていると考えています」
リーダー候補となる人材は、課長や係長が推薦するそうです。しかし当然、介護技術はトップクラスでも、数人のチームを統括するマネジメントが苦手な人もいます。
「まずは何度か面談を重ねて、丁寧に対話をしていきます。そこで本人から『現場で利用者と関わっていたい』という希望があるようなら、最も適した場を用意します。それができるのは、私たちのスケールメリットかもしれませんが」
独自の育成方針の成果として 外国籍のリーダーも誕生
6施設ある聖風会のスケールメリットを生かした施策に、独自のリーダー研修があります。
「チームをまとめることで精いっぱいになりがちですが、隣のチームや別の施設にも同じように悩むリーダーがいます。複数拠点のリーダーを集めた研修でブレインストーミングを行い、『そのときどう対応したの?』と悩みを共有することで、『自分は1人じゃない』と安心してもらえる取組を行ってきました」
また、外国籍スタッフの育成についても独自のアプローチがあります。
「私どもでは、翻訳アプリに頼るのではなく、あえて仕事中は日本語でのコミュニケーションを重視し、独自の日本語研修を行っています」
日本語を教えるのは、主任など現場の日本人スタッフです。
「もちろん翻訳アプリは優秀ですが、やはり現場では利用者の方と触れ合うので、日常会話のニュアンスを身に付けることが重要になるんです」
このニュアンスを日本人スタッフがどう教えるかを考えることで、教える側である日本人のリーダー層にとっても「どう伝えれば的確に指示できるか」を学ぶ良い機会になっているといいます。その結果は、当然実を結んでいます。
「当法人では、現在外国籍のリーダーもいます。今年は入社式で先輩職員代表のあいさつも務めました」
こうした取組は、時代に合わせた見直しの時期に入っているといいます。そこからは、職員の意見を取り入れながら働き方を考える、柔軟な施設の風土が見えてきます。
「出産後に産休・育休を経て戻ってくる職員はほぼ100%ですし、子育てのためにパートとして復職する元リーダー層も多くいます。ライフステージの変化だけではなく、一度辞めて外の世界を見た後に『やっぱり聖風会がいい』と戻ってくるスタッフもいるのがありがたいです」
聖風会の現場では700人を超えるスタッフが働いていますが、その年齢は20代から80代までと、実に多様であることにも驚かされます。
「デイサービスで働く77歳の女性スタッフは、当法人の特養で課長をしていた人物です。定年後に雇用形態を変えながらもずっと勤めてくれている生き字引のような方です。そうした豊富な知識と技術を持った方が、ご自分の子供、孫のような職員の働き方を見て、アドバイスをくれるんです。立場にかかわらず、萎縮せずに正直な意見をもらえることは、職員にとってとても貴重な経験ですし、財産です。これら全てが、私たちの最大の強みだと思います」
ボトムアップの組織風土と風通しの良さ、そして率直な意見交換が、さらなる職場改善につながっています。施設全体でリーダーを支える仕組みこそが、人材育成と職員の定着を支える原動力といえそうです。

後輩を育てる経験を重ねな がら、次世代のリーダーを育成しています。
チームを動かすリーダーの仕事術
多くの人の悩みを聞いてきた介護・リハビリ施設の経営コンサルタントとして活躍する三好貴之氏に、リーダーの仕事術を伺ったほか、リアルな悩みにも答えてもらいました。

三好貴之氏
病院や医療技術専門学校などで勤務した後、医療機関や介護施設のリハビリ機能強化に特化したコンサルティング業に。管理職向けのリーダーシップ研修も積極的に実施し、管理者育成も行っている。
最初から100点を目指すのではなく、減点をゼロに近づける気持ちが大事
問題はなくならない だから解決する力が必要
現場のリーダーを経験し、介護・リハビリ施設の経営コンサルタントとして活躍する三好貴之氏。介護現場のリーダーの印象や働き方を尋ねると、「介護現場のリーダーとなっている人には、現場業務と管理業務の両方をこなすプレイングマネジャーが多いと思います。その中で、現場の手数が足りないからとリーダーが自分で全部動いてしまうケースも多く見られます」と語ります。
もちろん、人に何かをお願いすることは相手の仕事を増やすことですから、拒否される場合もあります。
「この業界の仕事は人と人が関わるため、どうしても『失敗が許されない』『トラブルを起こしてはいけない』という思考になりがちです。ですから、真面目な人ほど、人に仕事を任せることに対して『自分がサボっていると思われないか』と不安になり、自分の負担をどんどん増やしてしまう傾向にあるのです」
三好氏がそんなリーダーに対して「現場から問題がなくなることはありません」と伝えていると言います。
「問題をゼロにしようとすると自分を追い込んでしまい、つらくなります。そうではなく、問題が起きたときに『それを解決できる能力』を身に付けることが重要です。解決する力がつけば、それはもはや問題ではなくなります。特にリーダーとして抱える悩みの多くは、人への指示をどうするかという問題だと思います」
かつて、自身のチームでも「チームワークを大事に」「お互い助け合おう」といったスローガンを掲げていたが意味はなかったと三好氏。
「よく見るスローガンは意味をなさないのです。あまりに大きな言葉だと、個々で認識の違いが生じて、かえって意思疎通が図れない。そこで『自分のことだけではなく、周りを見ながら仕事をすること』『お互いに声を掛け合いながら仕事をすること』というように、チームワークを具体的な行動レベルに定義し直しました。すると、次の日からスタッフの動きがガラッと変わったのです」
スローガンや空気感だけで伝えようとしても、人は動きません。“行動”を明確に指示することが何より大切なのです。三好氏は、指示を行う上 で「アサーション——自分も相手も大切にする表現をすることが大事」と続けます。
「感情と事実を切り離して話すことを心掛ければ具体的な指示になり、理解しやすい言葉になります。雰囲気ではなく明確さが大事です」
実は「分からないことがあったら、直接聞いてね」という声掛けも、あまり良くないと言います。
「リーダーが忙しそうにしていると、相手も気を使って絶対に聞いてこないからです。それであれば『分からないことがあったら、後でメッセージを送って』という伝え方をする方が、より相談しやすくなります。対面で直接やりとりしなければならないと思い込んでいるリーダーは多いですが、仕事上の情報が伝わればツールは何でもいいのです。例えば定型的な業務に関しては、自分でやってみせて動画に撮り、それを見てもらうというようなコミュニケーションも効果的です」
「リーダーシップというのは、最初から完璧に備わっているものではありません。現場にあるたくさんの課題から逃げずに、それをひとつひとつクリアしていく過程で身に付いていくものです」と三好氏。
「最初から100点を目指すのではなく、減点をゼロに近づけていくくらいの気持ちで取り組んでみてください。自分1人で抱え込まず、具体的な行動指示とツールをうまく活用して、周りの人を巻き込むマネジメントを実践してほしいと思います」
Q:若手職員との接し方が分かりません。仲良くなった方がいいのでしょうか。
A:例えば、現在のZ世代といわれる若者はスマホネイティブの世代。対面でしゃべることに慣れていない人も多いですから、無理に対話をして仲良くなろうとするより、正しい指示を出すことを重視すべきです。
Q:リーダーに最も必要な力は何ですか?
A:具体的な指示を出せる力です。一般の現場スタッフに対しては、本人の中に答えや情報がないことが多いので、待っていても何も出てきません。ですから、必ず行動レベルでの指示をすることです。
Q:現場業務と管理業務の両立が難しく、自分ばかり忙しくなってしまいます。
A:管理業務において多い悩みが「誰が何のためにやっているのか」と思うような、ローカルな手続き。その場合は慣例を見直し、その上で、スタッフに行動レベルの指示を行うことで、負担の軽減を図りましょう。
Q:部下を褒めるときのコツはありますか。
A:職員のいいところを伸ばすには、全て「行動」に焦点を当ててフィードバックすることが重要です。例えば「利用者さんの悩みに気付いて声を掛けたのが良かったよ」というように、具体的な行動を褒めましょう。
Q:注意しなければならないとき、どう伝えればいいでしょうか。
A:大前提として、感情的に叱るのは絶対にNGです。そして必ず口頭で起こった問題を説明し、まずは本人に考えさせる。その上で「次からどうする?」と行動の是正にのみフォーカスすることを心掛けましょう。
構成=玉置晴子/取材・文=一角二朗
介護現場を取り巻く環境変化
▶同質な職員集団
▶現場経験重視
▶個人の頑張りに依存
▶一つの施設での成長が前提
▶多様な職員が働く
▶マネジメント力も求められる
▶組織的な支援が必要
▶多様なキャリア形成が進む