こころとからだ
ポジティブワードで環境や人間関係が一変! 働きやすい空間づくりのため ペップトークを実践しよう!
ペップトーク(PEP TALK)とは、スポーツの試合前にリーダーが行う激励スピーチ。
前回に引き続き、風岡先生に、ペップトークの介護現場での生かし方について、今回は具体例も交えながら伺っていきましょう。
今回の監修

日本ペップトーク普及協会 認定講演・研修講師
風岡奈穂子さん
東京女子大文理学部心理学科卒。支援が必要な子供への言葉掛け専門家として活動中。特技は競技ダンス(ラテン)。
「子育て中に適応障害の状態になってしまい、子供が不登校になったときにペップトークで元気とやる気を取り戻しました。言葉が変わると、人生が変わります。現在は教育・福祉の現場に実践を広げています」
前回は、ペップトークの基本となる4ステップについてお話を伺いました。“受容”では相手のネガティブな状況や心情を受け入れて、丁寧にくみ取ります。その上で、ジャッジや評価をせず、まず感情を共有(=感情の社会化)することが大事です。次の“承認”では足りないもの、ないものに目を向けるのではなく、まず、あるものを認めます。そして、ネガティブな状況や感情をポジティブに捉え方を変換していきます。“行動”では「◯◯しないで」という、してほしくないこと+否定形ではなく、「◯◯しよう」という、してほしいことをダイレクトに伝えることが大切。そのようにして、脳に成功のイメージを描かせることが重要でした。そして最後の背中の一押しである言葉が“激励”です。


介護の現場で活用するペップトーク
今回は、介護現場に即した事例も交えた具体例を、風岡さんに伺っていきたいと思います。
「1人暮らしをしていた私の叔母が、骨折を機に施設にお世話になっていたので、介護・福祉の現場で働く皆さまの大変さ、ありがたさは心から実感しています。医療や介護は命を預かる現場ですから、安全のためには、まずはできていないところを探すことから始まるお仕事だと思います。そこはすごく大事なこととして捉えていただきつつ、感情が伴う対人コミュニケーションの場面においては『これができていないですよ』という否定的な表現を『ここまではできていますよ』というポジティブな表現と視点に切り替えて、ポジティブに伝えてほしいのです。そうすることで相手の自己肯定感も高まり、要介護者の方のモチベーションアップだけでなく、職員さんの離職防止、ハラスメント防止にも効果があるのではないでしょうか。私の講師仲間のお母さまの話ですが、『転ばないようにね。転んだら寝たきりになっちゃうからね』って言われてからは、散歩の時間になっても『転んだら寝たきりになっちゃうから歩かない』って言って困った、と聞いたことがあります。でも伝え方が上手な人は『また元気に歩いてきてくださいね!』『○○さんなら大丈夫ですよ!』ってポジティブな言葉で送り出して、すっかりやる気にさせたりします。ちょっとした言葉で、薬だけじゃない元気のもらい方もあると思います。とはいえ、命を預かる現場では、ついネガティブな言葉が先に口をついて出てしまうこともあるでしょう。その場合は、「そんな自分もOK!」と受容してあげて、“追いペップ”です。気付いたときにポジティブな言葉で上書きすればいいのです」
ポジティブな思いこそ口に出して言うべきもの
私(インタビュアー)の母は、施設での扱いが不公平だといつも愚痴を言っています。
「そのまま受け止めていいんです。受容ですね。『不公平と思っているんだね、そうなんだー』ってまずは聞いてあげる。そうすれば『そうなのよ、こうでこうでこうでね』ってきっとおっしゃると思うんですね。それで『私は分かってもらえた』となるように、相手の負の感情を閉じ込めず、まずは受け入れることが大切です。ジャッジをせずに事実として受け止めて、次に『でも、あの人はこんないいところもあるじゃない?』『こういう事情があるらしいよ』って見方を変えてあげるのが2ステップ目の承認ですね。そうすれば、『あら、そうなの?』ってなることが多いと思います」
たしかにそうなっています(笑)。
「次に行動の指示なのですが『次に何かがあったら確認してあげるから言ってね』と伝えてあげるだけでもいいですね。『言っていいんだ』って思ってもらう。聞いてくれる人がいると分かるだけで、安心しますよね。または『じゃあ、元気にこれをしようか』『気分転換においしいものでも食べよう』と行動を促せば、『うん』と言ってご機嫌になってくれそうじゃないですか。実は私、学校のみんなでペップトークをしようというペップトーク実践モデル中学校を3校ほど担当していたんですが、そこでは学生たちにも『ご機嫌を増やそう』って伝えています」
この「あるもの承認ワークシート」(下図)は、そのモデル校で使っているものですか?
「そうですね。いろいろな講演会で皆さんにプレゼントしているものです。真ん中にネガティブなイメージ、人だったら『だらしない』とか『怒りっぽい』とか書いて、その周りにはその人のいいところを書く。『友達が多い』『いつも笑顔』とか。そうすると案外いい人じゃない?と、見え方が変わってきます。その人のいいところって、心で思っていてもなかなか口には出さないじゃないですか。企業研修では承認カードというのを作って、4人テーブルで互いにポジティブな印象を伝え合うというのをやるんですが、普段言われたことのないような、こそばゆいような印象が出てくるんですね。『あなたは向上心のある人だと思います』とか、書かれた本人は意外そうに『ええー!?』なんて。お互い照れながらも承認し合う。伝えることで相手がこんなに喜んでくれるんだと分かると、言いやすい環境が生まれて、職場の雰囲気も激変します。いいところを認め合う承認の言葉が、ご機嫌を増やしていくんです」
コピーして使って!
「あるもの承認」ワークシート
まず真ん中にその人の残念だと思うことを書き、周りには良いところ、得意な所を書いてみてください。この「あるもの承認」をすると「いい人だった」と見方が変わってきます。

「ありがとう」は最高のペップトーク
「ペップトークは基本的にはリーダーがチームメンバーの本領を発揮させるために磨かれた言葉の力ですから、まずはリーダーの方から『ありがとう』を増やしてほしいと思っています。『ありがとう』は最高のペップトークって言われているんです。何から始めたらいいでしょうかって聞かれたときは『ありがとう』を増やしてくださいとお伝えしています。結果を出してくれて“ありがとう”はもちろんですし、結果が出なくても、行動してくれた、頑張ってくれたことに“ありがとう”。行動できていなくても、思いはあるし、可能性もある、いてくれて“ありがとう”なんです。この存在への感謝が、一番大事なところです」
私たちは普段、つい感謝の意思を「すみません」で伝えてしまうことも多いですよね。
「そうですね。エレベータでボタン押してもらったりなど、ちょっとした場面でも、『すみません』を『ありがとう』に変えましょうとよくお話しします。本来の意味は『有り難い』からきていますから、本来は有るのが難しいはずのことがそこにある。空気、水、体などもそうですよね。それこそ『あるもの承認』なんですよ。私たちの日常には“ありがとう”があふれています。そして『有り難い』の反対の言葉は『当たり前』。当たり前だと思っていると文句も出るしプッペになりがちなんです」
たしかに家庭でのちょっとしたけんかの理由も、こっちが「当たり前」と思っていることをやってくれていないということが多いです。
「『やって当たり前でしょ』って思っていると、『何でできていないの?』ってなっちゃいますよね」
では、共通のゴールも、あまり自分の“べき”を押し付けてはいけないものでしょうか?
「そうです。自分の“べき”は相手に変わってもらうなど、自分視点のゴールを作りがちです。相手にも“こうしたい”という意思とゴールがあることを受け入れて、一緒に目指せるゴールはどこだろう?と、考えることが大事。お互いが幸せを感じる時間にする、努力と成長を喜び合える関係性など、抽象度の高いゴールを設定して、それをかなえるための言葉を選ぶとよいと思います」
体を使って表現することでよりポジティブな自分に
最後の一押しの“激励”については、相手によって響く激励の言葉がいろいろ違うお話を前回伺いました。
「下の左図でいうと、皆さんは、どの言葉でやる気になりますか? 公演で手を挙げていただくと、皆さんの反応はバラバラです。何故なら、ひとりひとりに響く言葉が違うからです。前回もお話ししましたが、自分が言われてうれしい言葉ではなく、その人が言われてうれしい言葉を選ぶこと。相手が言ってほしい言葉がペップトークになるのです」

相手の気持ちに寄り添える自分を維持するには、自分にも心の余裕が必要になってきますね。
「そのためにおすすめなのが、これも前回お話ししたセルフペップトークです。3・3・7拍子の、『できる、できる、私はできる』といったポジティブな独り言ですね。協会代表が20個の3・3・7で作った歌詞を曲に乗せて、『アファームミー』という、自分を励ます協会公式ソング(アファームaffirm=宣言)があるんです。この曲を、私が以前体験した手話うたで歌ったらすごい気持ちいいだろうなーと思ったんです。ダンスをしていたこともあり、体を動かすことで心も元気になるという実感が強かったので、私がリーダーになって手話うたを作ってYou Tubeに上げています。「ペップトーク手話うた」で検索し、ぜひご覧になってみてください。振り付けを詳しく解説した本も昨年出版されました。何より、人は手を挙げて『残念!』って叫んだり、下を向いて『最高!』なんてあんまり言わないですよね。心身相関で、体の動きも大事だと思っているんです。介護施設の職員さん、要介護者さん皆さんで、体操のような感じでこの歌を振り付けと一緒に歌ってもらったりすると、心も前向きになると思いますので、ぜひ試してみていただきたいです」
言葉の力で環境や人間関係を一変させることができるペップトーク。介護の現場でも活用できる部分はたくさんありそうです。
「AFFIRM ME 自分を信じて」のCDや、風岡先生らによる「元気になる!ペップトーク手話うた」といった教材も出版されています。

[右]元気になる!ペップトーク手話うた
構成=宮澤祐介/取材・文=重信裕之/撮影=松井雄希
ネガティブな言葉を掛けてしまったときは【追いペップ】で上書きを!
先に「○○しないで」と伝えてしまったとしたら、その理由も丁寧に伝えて、最後は「○○してくださいね」とポジティブな言葉で脳にイメージを上書きしてあげましょう。
「◯◯しないで」という表現は認知機能の弱い方、推測の難しい自閉傾向のある方には“何をしていいのか具体的に分からない”表現になります。
「◯◯しよう」と、具体的で肯定的な伝え方が伝わりやすいです。