こころとからだ

おとなりの知恵袋

ペップトークで職員の心も体も健康に ポジティブな言葉選びでやる気を引き出してみよう!

ペップトーク(PEP TALK)とは、アメリカでスポーツの試合前に監督やコーチが選手を励ますために行っている短い激励のスピーチ。今回は日本ペップトーク普及協会の風岡奈穂子氏にお話を伺います。


今回の監修

日本ペップトーク普及協会 認定講演・研修講師

風岡奈穂子さん

東京女子大文理学部心理学科卒。支援が必要な子供への言葉掛け専門家として活動中。特技は競技ダンス(ラテン)。

「子育て中に適応障害の状態になってしまい、子供が不登校になったときにペップトークで元気とやる気を取り戻しました。言葉が変わると、人生が変わります。現在は教育・福祉の現場に実践を広げています」

ついつい出る否定形の言葉を変えていきましょう

 風岡さんがペップトークと出合ったきっかけは、自身のお子さんが所属する少年野球チームでの指導法の在り方だったということです。

 「『何やってんだ、そんなんじゃねえだろう!』『できないなら帰っちまえ!』みたいな、指導者の掛け声が残っていた頃で、子供たちもみるみる元気がなくなってくるし、やる気の出る応援ってどうしたらいいんだろうと思い、本を検索したのが始まりです。日本ペップトーク普及協会では、ペップトークの反対語としてプッペトークというものを定義しています(下図「ペップトークとは!?」参照)。昭和の時代は、プッペが共通語だったと思います。戦後の混乱の中、とにかくすぐに行動を起こさないといけない。そのために脅すような言葉とか、罰やご褒美など、外からの刺激、外発的動機で他人を鼓舞する時代でした。でも今の時代は内発的動機、自らやりたい、内から湧き出るモチベーションを起こす前向きな言葉掛けが必要で、それがペップトークです。中でも相手との“共通のゴール”を持って話すことが重要。普段私たちは特にゴールを考えないで言葉を発することが多いですよね。ただ言いたいことを放り投げがちです。私も以前はそうでした。心を通わせ、チームワークを高めるためには、この言葉を発したことでその人との関係がどうなりたいのか、部下や仲間との間の信頼関係を強くするためなど、会話のゴールを意識することが重要になってきます。そのためにトレーニングは必要ですが、ペップトークは言語習得なので、英語や方言を学ぶようにコツさえ知れば、誰でも『この人と話すと心が軽くなる』『元気になる』という言葉が話せるようになります。前途の野球チームには、毎年、大人にも子供にもペップトーク講習をしていますが、今では『今のはよかったぞ』『絶対にできる!』と、声を掛け合えるほどの明るく強いチームになりました」

ぺップトークで心を前向きに!

 人は1日に6万回思考し、その80%がネガティブなことだと言われています。意識的に言葉をポジティブに変えることで、日々の気分や自己肯定感をアップすることができます。

基本となるペップトークの4ステップを覚えよう

 ペップトークには、下表にあるような4つのステップがあるそうです。「まず最初の“受容”が一番大事で、たとえば仲間が落ち込んでいて、『辞めたい』って言っているときに、忙しいとつい軽くスルーしちゃったり『そんなこと言っている場合じゃないでしょ!』って否定してしまったり。『大丈夫!大丈夫!なんとかなるよ!』と、無理矢理ポジティブにしようとしたりしがち。こうした言葉掛けだと、相手は『この辛さを分かってもらえない』と感じてしまうのです。受容というのは、『そうか。今、辞めたいと思っているんだね。辛いんだね』と、まずは事実として受け止めてあげて、ジャッジしたりとか、評価したりとか、アドバイスしたりはしないんです。心理学では“感情の社会化”って言うんですが、負の感情を誰か(外部)と共有することで、相手の心が軽くなり、また、感情を調整する能力もアップすると言われています。まずは相手の状況や感情をそのまま受容することで、相手は『分かってもらえた』『もう少し話してみよう』という気持ちになり、さらに信頼関係が構築されます。『そうなんだね。そういう状況なんだね』『そう感じているんだね』と、まずは相手の状況や感情を事実して受け入れてみてください。職員間や要介護者さん、ご家族、友人とも、驚くほどコミュニケーションがうまくいくようになりますよ」

2023年のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)決勝戦前の大谷翔平選手の“あの言葉”もペップトーク

①受容:野球をやっていれば、誰しもが聞いたことのあるような選手たちがいると思います。

②承認:憧れてしまったら超えられない。僕らは今日、超えるためにここに来た。

③行動:今日だけは彼らへの憧れを捨てて、勝つことだけを考えていきましょう。

④激励:さぁ、いこう!

 

①受容のポイント

感情をくみとる 事実の受け入れ
相手が置かれている感情をただ受け入れます。評価や指導、アドバイスはこの段階ではしません。人は分かってもらえると安心し、信頼関係ができていきます。

心の器(感情をくみとる)

ストレスの掛かる状況があると、それに影響して、負の感情があふれ出してしまいます。受容とは、その気持ちを共有することで、心の余裕や安心感を取り戻す言葉掛けです。

見方をポジティブに変換し、行動の指示を明確に伝える

 次に“承認”について。まず大事なのが見方を変えることだそうです。

 「ステップ1の受容で、ネガティブな状況や感情を事実として受け入れましたよね。その上で、ステップ2はそのネガティブをポジティブに変換していく承認になります。例えば忙しいという状況は、コインの裏を表にひっくり返すようにポジティブなとらえ方をすると、充実していると考えることもできます。失敗したというときも、チャレンジした証拠や改善と成長のチャンスと言えますよね。人の印象でもわがままと思う人がいても自分の信念があるとポジティブにとらえられたら、イライラしていた人への見方が変わります。事実は一つですが解釈は無数。このようにポジティブに捉え変えることを“とらえかた変換”と言います。もうひとつの、見方を変えるコツが“あるもの承認”です。人はどうしても足りないこと、できていないことに注目しがち。そして『これもできてない、またダメだ。あの人は無理!』とかになってしまいます。そこを“あるもの”に目を向けていきます。今はピンチだけど私たちにあるものは経験や思いやり、仲間だったりします。状況でも人でも、すでにあるもの、得意や出来ているところを認めていくことで、心が前向きになっていきます。そして行動するエネルギーも沸いてくるのです。」

②承認のポイント

見方を変える 捉え方変換とあるもの承認
受容で受けた相手のネガティブな状況や感情を、ポジティブなものに捉え直し、“ないもの”から“あるもの”へとフォーカスを変えていきます。

捉え方変換

物事には必ずポジティブな面とネガティブな面があります。ポジティブな面から捉えることで、印象も状況も変わってきます。

・大ざっぱ➡おおらか(印象)

・忙しい➡充実している(状況)

あるもの承認

ないものではなく、まずはあるものに目を向けましょう。そうすることで問題点と思えた部分も、さらに良くなる改善点に見えてきます。

 

 「3ステップ目は相手に“行動”を促す段階。ここでのポイントは、してほしいことを肯定形で伝えること。実は脳は否定形と肯定形を区別できません。失敗するなと言われても、失敗しようと言われても、脳には失敗というイメージが浮かんでしまうんです。そしてイメージは現実化すると言われています。例えば『こぼさないで!』と言うと、頭の中にこぼすイメージが浮かび『ほら、やっぱりこぼした!』というような現実がおきがち。これを『お皿もって食べよう』など、してほしいことを伝えると、指示が伝わりやすくなります。このように、〜しないで!を〜しようと肯定形に変える言葉かけを“してほしい変換”と呼んでいます」

③行動のポイント

ポジティブに してほしい変換!

してほしくないことを否定系で伝えるのではなく、してほしい行動を相手に伝えます。「〜するな」ではなく、「〜しよう」と伝えると良いでしょう。

してほしい変換

相手が今の状況で可能な行動の指示を、ポジティブな表現で伝えます。短く分かりやすい行動の指示は、認知症の方などにも有効といえます。

・よそ見をするな➡前を向こう

・遅刻をするな➡5分前集合にしよう

 

 最後の背中のひと押しの言葉が4ステップ目の“激励”です。

「ここで肝心なのは、相手に響く激励の言葉は、相手の性格や置かれた状況で異なるということ(下記)。結果を出す言葉がやる気になるなら激励型ですし、安心でやる気になる人なら見守り型。私たちは自分が言われてうれしい言葉を言いがちですが、講演や研修でどんな言葉がうれしいかって聞くと、みんなバラバラ。普段の会話の中でも『どんな言葉を言われたらうれしい?』って本人に直接聞くのもアリだと思います」

④激励のポイント

相手に合わせた 背中の一押し

激励は最後の一押し。響く言葉は、相手の性格やそのときの状況、心理状態で異なります。相手が言ってほしい一言で、背中を押すことが重要です。

激励型で強く押す

おまえに任せた! 結果を出してこい!

見守り型で優しく押す

大丈夫だよ。みんながついているよ。

 

 風岡さんが読者におすすめしたいのが「セルフペップトーク」です。

「日々、頑張っている皆さんにおすすめしたいのが「セルフペップトーク」(下図)。まずは自分のグラスを満たし、あふれた分でまわりを満たしていくことが大事です。まずは自分を応援してみてください! 3・3・7拍子で「できる・できる・私はできる」や「やれる・終わる・定時で帰宅」など、ポジティブなひとりごとを自分の好きな3・3・7で作って言ってみてください。ほんとに元気になりますよ!」

まずは自分を応援することから始めてみよう

セルフペップトーク

下の図は心理学でいうシャンパンタワーの法則。相手を励ましたり元気にするためには、まずは自分のグラスを満たすことが大切です。そこで本文で紹介したような、自分に向けてのポジティブな独り言が有用になってきます。

 

 次回は現場でよくある事例を交えながら、ペップトークの活用編をお送りします。まずはセルフペップトークで自分を応援するところから、早速はじめてみてください!


構成=宮澤祐介/取材・文=重信裕之/撮影=松井雄希