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第24回 宮城県 社会福祉法人 春圃会 ケアハウス 大谷 春圃苑

社会福祉法人 春圃会 ケアハウス 大谷 春圃苑
 1990年法人設立。翌年、気仙沼市・旧本吉町に特養春圃苑を開設。 以後、在宅から施設まで、さまざまな介護保険事業所を市内で展開。 明るく家庭的な雰囲気のなか、地域や家庭との結びつきを大切に、 ご利用者が生きがいを見出せるサービスの提供に努めている

 

地域とともに生きる、
その覚悟と実践の軌跡

 今回取材したのは、「第3回JSフェスティバル」において「地域共生社会を目指す」をテーマに実践研究発表を行った、社会福祉法人春圃会が運営するケアハウス大谷春圃苑。気仙沼市で介護保険事業を展開する同苑は、2018年、これまで拠点のなかった市南部の大谷地区に開設されました。施設管理者の大内恵子さんは、「大谷春圃苑があるのは、東日本大震災によって市が集団移転事業の整備を進めた場所で、罹災した103世帯のお住まいに隣接しています。ケアハウスという種別を選択したのは、特養に入りたくても介護度の条件に満たない地域の人々を支える受け皿となるためです」と話します。

 こうした土地で「地域福祉の中核となる」という法人理念を具現化するには、地域の実態に即した活動をする必要がありました。

 

訪問アンケートで、住民の 心の声を丁寧にすくい上げて

 「しかし、同地区への進出はこのときが初。開設当初は地域情報が不足していました。そこで住民の福祉的ニーズや課題を把握する取り組みから着手することにしたんです」(大内さん)

 実施したのが、全103世帯を対象にした訪問アンケートです。自苑の職員である生活支援員と協力し、手渡しで配布・回収。記入が難しい住民には職員が代筆するなど、誰一人取りこぼさない方法を取り入れました。

 アンケートで聞き取りたかったのは、日常の困りごとや相談できる人の有無、地域交流への意向、等々。苑の考えを説明したうえで用紙を手渡すという対応が奏功し、回収率は約6割に達したといいます。そして、回収後は対面での住民懇談会を開催し、結果を報告するとともに施設の役割や今後の方向性を共有。アンケート結果から見えてきた住民の〝ちいさな本音〟も見落とさないようにしながら、時間をかけて地域との関係を築いていきました。

 「春圃会はもともと地域活動やボランティアを重視してきた法人ですから地域貢献は特別なことではありません。職員にもそういう風土があったと思います」(大内さん)

 調査と対話を起点に築かれた信頼は、やがて具体的な地域交流へと展開していきます。次のページからは、その取り組みをご紹介します。

❶隣接する畑でサツマイモを栽培する大谷春圃苑。苗植えや収穫の際には、周辺住民とご利用者が一緒に作業を行う。時にご利用者が地域の子どもたちの先生となり、世代間交流を育んでいる ❷コロナ禍の中止を経て2025年に開催された夏祭り。地域住民がボランティアとして焼き鳥を焼き、来場者に振る舞った ❸初霜が降りる前の晴天の日に行うサツマイモの掘り上げ風景 ❹ご利用者が手がけた絵手紙やちぎり絵。苑に程近い道の駅大谷海岸のイベントにも展示され、地域住民や観光客に日頃の創作活動の成果を伝えている

 

発表では、生活相談員の小野寺紀瑛さん(上の写真右側)が、介護支援専門員の大内さんとともに登壇。 地域共生社会の実現に向け、住民との関係づくりを軸に展開してきた実践が紹介されました。 ここでは50枚を超える発表スライドから5枚を厳選し、取り組みの内容をダイジェストでご紹介します。

受賞者のインタビューはコチラから

 

■ 集いの場づくりを支援 広がる地域の輪
最初の取り組みは、市が実施する交流サロン事業の活用です。当苑の職員がサロンの立ち上げを支援し、地域住民が主体的に集う場づくりを後押ししました。そのなかで、忘年会や畑での野菜の収穫など、苑主催の行事に地域住民が参加するなど、新たな交流が生まれています

■ 若い親世代が参加 しやすい行事を工夫
続いて、若い親世代の地域行事への参加率の低さを課題に始まったのが、夏休みの自由研究にも役立つ星空観察会、地区協働の夏祭りなど、子どもを主体とした行事です。保護者も自然に関われる機会を生み出すことで、親世代の参加促進と住民同士の交流拡大にもつながりました

■ 自粛期間も間接的な 交流を継続して
取り組み開始から2年後、コロナ禍で活動は困難になってしまいました。それでも築いた関係性を絶やさないため、敬老の日には紅白饅頭を、クリスマスにはご利用者手づくりのカードとお菓子を地域の子どもたちに贈る取り組みなどを実施。地域との信頼を下支えしてきました

■ 住民とともに外部に 出向く行事も実施
さらに、ご利用者と地域住民が畑で育てたサツマイモを活用した「焼きいもカフェ」を、自施設にとどまらず児童養護施設でも実施しました。当日は地域住民や他事業所の職員もボランティアとして参加。子どもたちの生活背景への理解を深め、地域で支える意識が育まれました

■地域貢献が育む ご利用者の生きがい
ほかにも、ご利用者が苑で採種した朝顔の種を、ご利用者の皆さんで選別・小分けして、地域の病院や調剤薬局に配布する活動も行っています。この活動は地元の新聞でも紹介され、ご利用者の社会参加の実感や生きがいの創出を後押しすることにつながっています

 

 

 

支援しながらも 主役は地域

 

 大谷春圃苑のある大谷西区は震災後に形成された集団移転団地。新旧の住民が交わる一方で、人口減少と高齢化が進んでいます。苑の開設当初103あった世帯数は現在100を下回り、空き家の増加も懸念されています。こうした課題を内包する町に、定休日のある事業所ではなく365日24時間体制で運営する施設が根を下ろした意味は大きいと、大内さんは話します。

 「最初のアンケートのときから期待されているのがわかりました。こちらもその想いに応えるべく、長く地域と関わり続ける覚悟でした」  それには地域全体を見ることが不可欠だと大内さん。具体的に、どういうことでしょうか。

 「難しい話ではなく、職員が地域の会議に顔を出すだけでも地域貢献になります。法人としての前に、個人として地域の一員であるという意識を持つことが大切だと思います」

 一方で関わり方には節度も求められます。

 「出過ぎることなく、時には静観する姿勢も必要です。最終的には住民の方が自主的に動けることが取り組みのゴールだと思っています」

 支援しながらも主役は地域。その考え方は、介護のケアマインドとも重なるようです。

 

経験が導いた 支援の本質

 

 プロフィールにもあるように、大内さんのキャリアの始まりは調理職。調理員として入職し、定年までこの仕事を続けようと思っていた2000年、突然、介護職への異動を命じられたのです。

 「驚きました。でもオールラウンダーを育てたいという法人の方針を聞き、やってみようと気持ちを切り替えて介護資格を取得し、居宅支援や訪問介護なども経験して今に至ります」

 こうした歩みのなかで養われたのは、ご利用者の暮らしを多面的に捉える視点です。食事、身体介護、在宅ケア。それぞれの現場を経験してきたからこそ、生活全体を見渡しながら支援のあり方を考えることができるのでしょう。

 今も昔も、大内さんの視線が向かうのは、刻々と変化する地域の姿です。ニーズは一様ではなく、時代や暮らしの変化とともに移ろっていくもの。だからこそ、その機微を捉え続け、人と人とが緩やかにつながり続ける機会を提案することが、地域のなかで役割を果たし続けるための基盤となる―。

 ケアハウス大谷春圃苑の取り組みは、地域とともにある未来を照らしています。

 

社会福祉法人 春圃会 ケアハウス 大谷 春圃苑
● 宮城県気仙沼市本吉町長根151-1   ● tel 0226-25-8322  ● 入所定員:20名 ● https://www.syunpo-kai.com/

写真提供=社会福祉法人 春圃会 取材・文=冨部志保子