こころとからだ

おとなりの知恵袋

ホテルのゲストリレーションオフィサーに学ぶ接客術 おもてなしに背伸びは不要 自然体で相手と向き合おう

今回も舞浜ビューホテル by HULICの軽部さんに、リピーターゲスト対応の実践についてお伺いします。ホテルのホスピタリティーの考え方は、介護の現場にも役立つものがあるはずです。


今回の監修

舞浜ビューホテル by HULIC
ゲストリレーションオフィサー(GRO)

軽部達也さん

ホテル業界25年従事のベテラン。ヒルトン東京お台場などを経て、2017年に東京ベイ舞浜ホテル(現・舞浜ビューホテル by HULIC)に入社

「ゲストリレーション部門に従事して間もなく10年になります。1日に2組くらいいらっしゃるリピーターゲストの方々に、快適さと、感動を持って帰っていただけるよう、日々努力しています」


まずはこちらからお客さまに踏み込んでみることが大事

 前回はゲストリレーションオフィサー(GRO)としての軽部さんの考え方、お客さまへの接し方などについてお話を伺いました。今回は具体的なアプローチ手法などについて伺っていきます。GROの大事な業務はリピーターのお客さまへの対応ですが、そのお客さまの情報はいろんな部署で共有しているのですか?

 「はい。まずはわれわれGROとフロント、ドアマンをはじめとするフロアサービススタッフ、客室係、まずはこの4部門で、その日のお客さまの状況を到着時から共有しています。その上で、チェックイン後にラウンジをご利用になったり、レストランをご予約されたりする場合は、GROがハブとなってそれぞれの部署に情報共有するという流れです」

 お客さまの中にも積極的にコミュニケーションを取りたい方と、そうでない方とがいると思います。そうしたニュアンスは、どうくみ取るものなのでしょうか?

 「経験上、お客さまの雰囲気から『今はお声掛けした方がよいかな』というタイミングは自然と感じ取れます。ただ、基本的には話しかけてほしくなさそうな雰囲気でも、まずは一度お声掛けするようにしていますね。例えば、雨の日にいったんホテルを出て戻られた方には『傘はご利用ですか?』とお声掛けをするなど、ちょっと前の動きを見ていれば状況が分かりやすいケースもあれば、何かを探しているように見える方にお声掛けをしても『ただ見ているだけだよ』なんて言われてしまったりもします。そういうときはサッと引く。お客さまの気持ちを見極めるのはなかなか難しいのですが、まずはこちらから一歩踏み込んでみようという気持ちはいつも持っています」

 大事なのはまずは声を掛けること。常にお客さまの動向を見ていないといけないですね。

 「そうなんです。実はつい最近も失敗したことが…。ラウンジのカウンター内でキャッシャーの締め作業をやっていたときのことです。自分としては少し仕事のスイッチを切ってしまっていたのだと思うんです。その間、レストランの方をずっと見ているお客さまがいらっしゃったのですが、私は目の前の作業を優先してしまいました。作業を終えて出ていったときに、そのお客さまから『レストランの入り口はどこですか?』と聞かれたので『あちらです』と答えたら、『こちらがずっと探していることに気が付いていたのに、なぜ声を掛けてくれなかったのか』とお叱りを受けました。私も時々顔を上げていたので、お客さまからすると気付いているように見えていたのだと思います。でも実際には、スイッチを切って作業に集中してしまっていて、お客さまが目に入っていませんでした。ですから、前回もお話ししたように、ホテルにいる間は接客のスイッチを完全にオフにしないことが大切だと感じています。とはいえ、常にオン状態で張り詰めたりもせず、自然体でいながら、お客さまに意識を向け続けることが大事かなと思います。スタッフと話しているときも、お客さまと接するときも、同じ表情でいるようにしています」

 オンタイムこそ自然体でいる。接客にも介護にも通じるセルフコントロール術といえますね。

相手を不快にさせず距離感を縮める手法

 まずアプローチをしないといけないということは、相手を不快にさせないテクニックも必要ですね。本当は声を掛けてほしくない場合もありますから。何か秘訣ひけつはありますか?

 「ありきたりではあるんですけど、とりあえず笑顔を忘れないことです。少し大げさかなと思うくらいの笑顔で接するようにしています。ただ、その一方で、最初から必要以上に距離を縮めようとはしません」

 それは最初の接客のときだけ?

 「最初だけです。その後、ご滞在いただいている間に自然な笑顔になっていきます。リピーターのお客さまになれば、もう最初から自然な笑顔で接しますね(笑)」

 そういう関係性になっていく、お客さまとの程よい距離感のつくり方の手法などがあるのですか?

 「われわれGROの場合、お客さまとの接し方はそれぞれタイプがあります。私の場合は、例えば『今日の天気はこうでしたね』とか、『東京ディズニーリゾートに行かれたんですか』といった何気ない話題から入っていくことが多いです。他にも、自分が車好きなので、『いいお車ですね、今日は道が混んでいましたね』といった会話に広げることもあります。自分の得意な領域に、自然と入ってきていただくようなごあいさつが中心になるんです。一方で、同僚の中にはお客さまの身に着けているものからヒントを見つけて『何々がお好きなんですか?』とか、お客さまの興味に寄り添ってごあいさつしていくタイプもいます。どちらが良いかということではなく、それぞれの個性を生かした接し方でいいのではないのでしょうか」

 無理して自分らしくしないよりは、自然体がいいということとも通じますね。距離感が縮まったら、次にどうお客さまに満足していただくか、感動していただくかですね。

 「そのテーマでいうと、現在、当ホテルの上層階の10階と11階を特別フロアの“ハースフロア”としてご用意しております。専用のラウンジが使えたり、スパの入浴もフリーとなっており、チェックインも専用会場でウエルカムドリンクをご提供しながら行うんです。一部のスイートルームを除くと、客室そのものの広さは9階までの客室と変わるわけではありません。その分、“ハースフロア”にはアメニティーやサービスに特別感を持たせています。この特別フロアをどう認知していただくか、何をもって感動と快適さを感じていただけるかを日々模索中です。例えば先日、東京ディズニーリゾートでもらえる誕生日のシールを貼ってご来館されたお客さまがいらっしゃいました。その方に、深夜にドア下からホテルからの誕生日のメッセージカードをお入れしたところ、翌日『ありがとうございました』とお返事をいただき、その後リピーターになってくださいました。あとこれは私が直接対応したお客さまではないんですけど、印象に残っている事例があります。ディズニー&ピクサー映画「トイ・ストーリー」シリーズの世界観の中に自分たちを置いているような、そういう雰囲気で会話をしながらホテルに入ってこられた年配のご夫婦がいらっしゃったそうです。スタッフがその世界観に合わせてお声掛けをしてみたところ、『〇〇(キャラクター名)ですか?』という問い掛けにも、『そうなんだよ、今こういう任務で来ているからさ』といったように、世界観のまま会話が続いたと聞いています。そうしたやりとりも含めて、このホテルならではの面白い事例だと思います」

 いえいえ、東京ディズニーリゾートならではのお話のようでいて、相手の世界観に合わせて話をするというのは、介護の現場にもつながることのように思います。

[左]円形型の建物の中は11層の吹き抜けとなっていて、レストラン、やショップなどが。 [右]ハースフロアの客室。特別なアメニティーや特典に加え、GROのサービスで差別化を図ります。

個性を生かした接客でそれぞれのファンを作る

 『トイ・ストーリー』のお話は、先ほどの自分の得意な話題から入る手法ですよね。それぞれの個性で対応するのでいいということでしょうか。

 「そもそも、この“ハースフロア”のオペレーションをGROで担っていこうとなった際のコンセプトとして、“それぞれのファンを作っていこう”という考え方がスタートにありました。ハード面ではなく、サービスや接客で差別化をしてリピーターの方を増やしていこうという発想です。それぞれの個性は生かしたまま、万人にウケる接客である必要はないと思います。前回はあれこれ確認しないチェックインが理想というお話をさせていただきましたが、チェックイン後で言うと、快適に過ごしていただくのは大前提として、チェックアウトの際、『このホテルに泊まって、ちょっといい思いをしたな』という、感動を何か一つ持って帰ってもらいたいんです。例えば、誕生日カードのエピソードもそうですし、チェックアウトの際に『昨日はどうでしたか?』といった、その方だけの会話を盛り込んで『また来てくださいね』で終われるのが最高だと思います。そうした思い出が何か一つでも残れば、また選んでいただける理由の一つになるのかと」

 最後に、このお仕事をしていての軽部さんにとっての達成感、一番うれしい瞬間はどんなときですか?

 「私にも同僚にもそれぞれのファンのようなお客さまがいらっしゃって、『軽部さん、また来たよ』って言って来てくださる方もいます。リピーターのお客さまの中には、ホテルに入った瞬間にこちらを目がけて来てくださり、話し掛けてくださる方がいる。それが今は一番うれしいですね」

 お話を伺っていると、ご自身がいるホテルに誇りを持ち、リピーターの方にはお客さま以上、家族未満といった絶妙な距離感を持ってお仕事されているのが分かりました。スイッチは完全には切らないけど自然体でいる。軽部さんがそうすることで、お客さま、スタッフを超えたコミュニティーが生まれているようです。GROの働き方は、介護の現場にも共通する考え方だと感じました。

[左]親しみやすい笑顔で、ニーズを先取りする軽部さん。[右]激戦区の舞浜で2025年度「じゃらん」売れた宿大賞1位(関東甲信越エリア)獲得など、リピーターの多さが実感できる実績を誇ります。

構成=宮澤祐介/取材・文=重信裕之/撮影=磯崎威志