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特集

いま、介護を学ぶ人たち2 外国人専門学校生

2040年に向けて介護人材の不足が懸念されているなか、少子化が進んでいることもあり、そもそも介護を学ぶ若い人たちの絶対数も減少しています。しかし、そんななかでも介護の仕事に高く関心を抱き、やりがいを求めて学んでいる学生や生徒がいます。こうした人たちの思いをくみ、いかに育てて、活躍の場を与えられるかどうかが、これからの施設の存続にも大きく関わっているのではないでしょうか。今回は「介護業界の希望」ともいえる意識の高い学生・生徒のインタビューを紹介し、こうした声に鑑みつつ、いかにして介護人材を増やせるか、そのための課題と展望を専門家が検証します。

 

ミスをしたら、ちゃんと注意してほしい

祖父が教えてくれた 日本という選択肢

 若い頃、日本に留学していた祖父からこの国のよさをよく聞かされていたこともあり、介護を学ぶなら日本しかないと思いました。

 それで半年間、言葉や文化を勉強してから来日しました。でも、ベトナムで勉強した日本語と、実際の会話にはギャップがありました。日本に来てみると、会話のスピードが速く、方言も多くて、とても難しいと感じたんです。特に「帰っぺ(茨城弁で「帰ろう」の意味)」や「どっかい?(同「どこか」)」などの言葉は、最初まったく意味がわかりませんでした。

 ですから、1年生のときのはじめての実習では日本語が不安でしたが、職員さんやご入居者が「あなたは可愛いからきっと大丈夫」とやさしく笑顔で接してくれて、本当にうれしかったです。配属先の施設では介護の技術だけでなく、日本語の表現や文化も丁寧に教えてもらえました。感謝の気持ちでいっぱいです。

 

施設のなかに外国人のための 学習クラスなどがあれば

 ただひとつ、少しストレスに感じたのは、自分が間違ったことをしても注意されなかったことです。そのとき、自分でもミスをしたとわかったので、「ここは違いますよ」と、ちゃんと注意してほしいと思いました。でも、まわりの誰も何も言ってくれなかったので、それが怖く感じました。そういった部分に日本独特の文化を感じることもありました。

 今は、日本の施設で長く働きたいと思っています。笑顔の多い職場で、ご入居者を笑顔にできる介護福祉士になりたいです。そして、もっと深く日本語を理解できるように、施設のなかに外国人向けの日本語学習クラスやeラーニングなどがあると助かると感じています。

 私にとって日本の介護はとても魅力的です。ベトナムでは高齢者の介護は家族が担うのが普通ですが、日本では専門職が支える仕組みがあります。そんな日本のなかで、しっかりと努力して介護の仕事に就けるよう、これからも頑張っていきたいです。

 

 

日本で働き、後輩たちの希望になりたい

職員のやさしいフォローに 救われた実習での体験

 介護の道を選んだのは、日本語学校でネパール人の先輩から話を聞いたことがきっかけでした。もともとおじいちゃんやおばあちゃんから人生の話を聞いたり、一緒に過ごしたりするのが好きだったんです。介護が必要な高齢者の方を支えながら、日本で生活できるのは素敵だなと思い、留学を決意しました。

 日本に来たときは、ひらがなやカタカナもほとんど書けなくて、「たちつてと」の発音にも苦労しました。でも今はN2レベルまで日本語を習得でき、少しずつ日本の生活にも慣れてきました。

 この学校では実習の機会がたくさんあって、最初は不安もありました。自分の日本語がちゃんと伝わるか、職員さんがどんなふうに接してくれるか。でも実際に行ってみると、職員さんもご入居者もとてもやさしくて、、「日本に来てくれてありがとう」と言ってもらえたときは、自分が大切にされていることを感じて、本当にうれしかったです。ご入居者が笑顔で「ありがとう」と言ってくれると、役に立てているんだなと実感できました。

 もちろん、驚いたこともあります。認知症の方が同じことを何度も繰り返して話す場面などは、最初は戸惑いました。でも、その方の不安をやわらげることが自分の喜びにもなりました。

 反対に、別の施設では自分が歌えない日本の歌を「歌って」と何度も言われ、少し怖い思いをしたこともあります。けれど、そんなときも職員さんが「彼は外国人だから今は歌えないけど、次に来るときはきっと歌えるようになっているから、そのときまで待ちましょうね」とフォローしてくれたので、安心できました。

 

日本語の壁も 未来への希望で乗り越える

 記録を書くのは今も大変です。漢字だけでなく、専門用語がたくさんあるので、それを理解して書くのに、とても時間がかかります。でも、自分が外国人であることを理解して、ゆっくり丁寧に教えてくださることに感謝しています。

 これからも日本で長く働いて、家族も日本に呼べたらいいなと思っています。

 日本は安全で、文化や人のやさしさがとても魅力的です。自分自身がネパールから来た留学生として、介護福祉の現場で後輩の励みになれたらと思っています。そして、外国人でも安心して働ける職場をもっと増やしていけたらと願っています。

 

次回は福祉科に通う日本人高校生の声です。

 

取材・文=冨部志保子