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第12回 奈良県 社会福祉法人 カトリック聖ヨゼフホーム 養護老人ホーム 聖ヨゼフ・ホーム

社会福祉法人 カトリック聖ヨゼフホーム 養護老人ホーム 聖ヨゼフ・ホーム
カトリック男子修道会マリスト会を母体として1961年に法人設立。翌年、御所市に聖ヨゼフ・ホームを開設。2016年一般型特定施設入居者生活介護に類型変更

 

「どんな人も断らない」福祉的理念を実践

県内の養護老人ホーム初、 一般型の特定施設として

 カトリック聖ヨゼフホームが運営する養護老人ホーム聖ヨゼフ・ホームは、奈良県御所市(ごせし)の豊かな自然に囲まれた、静かな環境のなかにあります。  同施設の開設は1962年。以後、キリスト教カトリックの精神である「隣人愛」と「奉仕」に「福祉」を加えた3つの言の葉を大切にしながらご入居者に寄り添い、また社会福祉法人として地域社会に貢献しつつ、「どんな人も断らない」という福祉的理念を実践しています。

 2006年には外部サービス利用型の特定施設入居者生活介護の指定を受け、要介護度の高い高齢者の受け入れに対応。その後も、さまざまな生活ニーズのある方を積極的に受け入れるため、2016年に県内の養護老人ホームでは初となる一般型の特定施設入居者生活介護に類型を変更し、認知症や重度の障がい、重い介護状態などを有する高齢者に門戸を開いています。なお、受け入れに際しては要支援・介護認定を受けたご本人と面談し、契約を交わしたうえで一定の人員配置を行い、必要な介護を提供。入居後に介護度が上がっても、特養などに移ることなく生活できるよう支援をしているといいます。

 

同一敷地内での 建て替えにこだわって

 こうしたサービスをさらに拡充するため、聖ヨゼフ・ホームは2019年から敷地内での施設の全面建て替えを実施。「以前の建物は老朽化が進み、個室が少ないうえに増改築によって動線などに不便を生じていました。工期を短縮するために移転新築も検討しましたが、広大な敷地内には聖ヨゼフ・ホームと同じマリスト会を母体とする認定こども園やカトリック教会があり、ご入居者と日常的な交流をしていたことから、従来の環境を維持するために敷地内の同じ場所での建て替えにこだわりました」と話すのは法人理事・総合施設長(当協議会養護老人ホーム部会副部会長)の平岡 毅さん。

 旧施設と同じ場所での建て替えのため、工事期間を3期に分け、部分解体と部分完成を繰り返し、新施設が完成したのは2022年。木造平屋建てで延べ床面積2955㎡のゆったりとした建物は、木の温もりが感じられる開放的な空間となっています。

 

❶建て替え後に新調された機械浴。移乗用リフトも採用され、ご入居者と職員両方の負担軽減に貢献している ❷介護に特化したユニットでは床に無垢材を採用。適度な弾力性がある無垢材は転倒時の衝撃を和らげる効果がある ❸建て替え後に採用した業務用掃除ロボットが、広いフロアを効率よく清掃。AIによる全面清掃で清掃コストの削減を図る ❹聖ヨゼフ・ホームでは、四季折々の行事や食事の内容などをInstagramで積極的に発信している。「yozefuhome」で検索を

 

「顔の見える関係性を築き、
地域貢献をするのも私たちの役割」

安心安全な暮らしのために 動線やユニット配置を工夫

 「以前は2階建てだったホームが、建て替えで平屋となりました。その分、フロアの面積は広がりましたが、動線設計を考えたことで、ご入居者にも職員にも、使いやすい空間になったと思います」と話すのは、聖ヨゼフ・ホーム 施設長の福井修平さん。

 内部には13~14名を1ユニットとする4つのユニットがあり、このうち2ユニットは特定施設の契約をしている要介護高齢者の居室となっています。

 「介護に特化したユニットには転倒時のリスクを軽減するために、衝撃を吸収する効果のある無垢材を床に使用しているほか、移乗用リストや機械浴などを導入しています。また残りの2ユニットは認知症や精神疾患のある高齢者と、比較的元気な方および契約入所者のための居住スペースで、この2ユニットにはそれぞれ中央にキッチンを設け、そこからV字形に廊下を配置することで、キッチンからユニット居室の入口がすべて見渡せる設計となっています。こうすることで認知症や精神疾患をお持ちのご入居者が部屋から顔をのぞかせると職員がいることに安心感をもってもらえ、職員にとっても目が届きやすいことでの安心感があります」と福井さん。

 各ユニットは和モダン、南仏風、オーストラリア風とインテリアの趣向を変えることで、施設にありがちな単調さをなくしているのも特徴です。

 そして、ユニットと食堂の間には、ご入居者同士の憩いの場として談話スペース「八角堂」を設置。その名の通り八角形の形をしたこの空間は、職員のミーティングにも利用されているそうです。また、隣接する認定こども園の園庭に面した食堂は、大きな窓ごしに園児たちの遊ぶ姿を眺めながら食事ができる温かみのある空間となっています。

 「認定こども園の園児さんとは季節ごとに交流するだけでなく、毎日の給食を聖ヨゼフ・ホームで提供するという食事の共有を図っています。つまり、ホームのご入居者と園児さんは毎日同じ献立の食事をとっているんです」と福井さん。

 子どもたちの元気な声が聞こえる距離感で、同じ食事を味わう関係は、世代間での交わりが一体感を醸成し、それがご入居者の日々の活力につながっているのです。

 

カフェを活用して 地域の福祉活動をも担いたい

 これ以外にも、聖ヨゼフ・ホームには食堂の脇にミサや職員研修などを行う「マリストホール」や、カフェテリアが内設されています。  

 「カフェテリアは単なる施設内の休憩室ではなく、行政と連携して、これまで隔月開催だったオレンジカフェをこの4月から毎月開催するほか、地域住民に貸し出すなど多世代間の交流の場として活用しています。このカフェテリアには外部から直接入ることができるので、今後はもっと地域の皆さんにご活用いただきたいと思っています。行政の手が及びにくいところまで福祉を届けるのが私たちの役割。地域の方と顔の見える関係性を築くうえでも、このカフェに来ていただき、介護や障がい、貧困やDVなどで苦しんでいる方の相談に乗り、適切な場所におつなぎしたいと思っています」と福井さん。

 安心・安全なご入居者の暮らしと、異世代交流、地域連携を踏まえた聖ヨゼフ・ホーム。建て替え後は全国から見学者が訪れているそうです。

 

❶談話スペース「八角堂」。公園のベンチに座るように気軽に利用してほしいとの思いを込め、ベンチスタイルとなっている  ❷ホーム内にある4つのユニットはそれぞれ内装の趣が異なる。写真はオーストラリア風に設えられた居住空間

❸隣接する食堂と繋げば、100名以上を収容できる多目的ホール「マリストホール」。毎週水曜日にミサを開催するほか、各種研修にも使用されている ❹手前がカフェテリア、奥が食堂。カフェテリアでは、4月1日より認知症の人やその家族のためのオレンジカフェが毎月開催される

 

 

2023年に開催された「第2回JSフェスティバルin岐阜」において養護老人ホーム 聖ヨゼフ・ホームの『食を通した共生社会の実現へ~給食提供からはじめる福祉のかたち~』が奨励賞を受賞。ここでは実践研究にかかわった同ホームの管理栄養士・森本美幸さんに取り組みや課題などのお話をうかがいました。

 

―改めて、発表された内容を教えてください  

 聖ヨゼフ・ホームの建て替えと同時に、同じ敷地内にある幼稚園も給食提供が必須となる認定こども園への移行が検討されていました。そこで設立当時の神父様の言葉「双方が笑顔溢るるように」をコンセプトに、ホームでご入居者の食事と園児さんたちの給食提供を同一献立で提供する食の「ハイブリッド型支援」に着手することになりました。その過程をまとめたのが今回の内容となります。

 

―具体的に、どのような課題がありましたか?  

 まずは、幼児食を導入することで従来より100食分増加となるため、そこまで食数が増えてもうまく稼働するのかどうか。次に、ご入居者にお出しする食事と幼児食を同一献立に本当にできるのか。そして、アレルギーをもっている園児さんへの献立対応をいかに行うかという点です。

 

―そのことに、どう対応されたのでしょうか?  

 最初の食数の増加については、一気に100食を増やすのではなく、園児さんの来園が少ない春休みを利用して、約30食の増加から始めました。また、3週間ごとのサイクルメニューを取り入れて、園児さんや調理職員に給食に慣れてもらうようにしました。次に、同一献立については、平日の昼食は園児さんに適した食品を使用することとし、認定こども園(当時はまだ幼稚園)と委託先の給食会社とホームの私たちとで検討を重ね、献立を作成していきました。最後のアレルギー対応に関しても、献立作成時にアレルギー食材の除去や代替え対応の調整を行い、通常食とは区別して調理・提供するようにしました。それでも開始してしばらくして、唐揚げを料理する際、献立表には記載のない卵を、鶏肉をやわらかくするために少しだけ使用してしまい、アレルギーの誤食事故が起こってしまいました。

 

―そのとき、体調不良などは出たのですか?  

 幸い何事もなく済みましたが、このことを教訓に、調理職員への食物アレルギーに対する指導を徹底し、朝礼時には専属調理師と除去・代替えの最終確認をするなど、高齢者食と幼児食(アレルギー対応食)、個々に合わせた食事の提供を周知徹底しました。

 

―ハイブリッド型支援をスタートして今で3年目とのことですが、現状はいかがですか?  

 実は、昨年春に給食会社が変わり、今は以前の給食会社と築き上げたことを土台に、新会社とやりとりを重ねているところで、新しい取り組みはまだできていない状況です。一番大変だったのは、新会社に移行するまでの3か月間、食材だけを給食会社から仕入れて自園調理したことですね。

 

―毎日160食の調理を、ですか?  

 はい。そのときは福井施設長も白衣を着て厨房に入り、幼児食と高齢者食の大量調理を手伝ってくれました。大変な時期に先頭に立って引っ張ってくれたおかげで、事故なく新しい給食会社にバトンタッチできました。今はまだその後の新しい取り組みに着手できていませんが、大変な3か月を無事故で乗り切れたことを誇りに、これからもおいしく安全な食事づくりに取り組みたいと思っています。

 

 

―最後に、園児さんとご入居者が同じ献立を味わうことの意義を教えてください  

 食べることは当たり前の営みですが、食材を収穫して調理し、食卓に出すまでには食材を育てる人、運ぶ人、調理する人と、いろんな人のつながりがあります。ハイブリッド型支援をはじめたことで、ご入居者と園児さんとの間でこうしたつながりを感じられるのは大きいと改めて実感しています。「子どもらも食べてるんやったら、頑張って食べるわ」と食事に対して意欲的になるご入居者も多く、ご入居者の生きる意欲につながっているように感じています。

社会福祉法人 カトリック聖ヨゼフホーム 養護老人ホーム 聖ヨゼフ・ホーム
●奈良県御所市戸毛54-6  ●tel. 0745-67-2015  ●入所定員: 50名(一般型特定施設)  ●yozefu-home.or.jp

撮影=高夏数弥 写真提供=社会福祉法人 カトリック聖ヨゼフホーム 取材・文=冨部志保子