福祉施設SX

レクリエーションの舞台裏

第 2 回 レクリエーションの 舞台裏 健康体操

“チャレンジする意欲”が湧く!
心まで元気にする健康体操

専門的な知識や技術を持つ方々が提供してくれるレクリエーションは、 高齢者施設の利用者にとって大きな楽しみの一つ。 今回は運動を通して高齢者のからだと心を健やかに導き、笑顔を引き出す、 健康体操を指導されている手島香代子さんをご紹介します。

人々を元気にしたい! インストラクター一筋23年

 埼玉県を拠点に、フリーのフィットネスインストラクターとしてピラティスの教室を運営する傍ら、高齢者施設で健康体操のレクリエーションを行っている手島香代子さん。もともと運動が大好きだった手島さんは大学時代にスポーツジムでアルバイトを始め、そこでイキイキとしたレッスンで人々を元気にするインストラクターの姿を見て「自分もこうなりたい!」と仕事にすることを決意。手島さんご自身が腰痛持ちであったことから、在学中から解剖学やリハビリについて学べるピラティスの勉強を始め、資格を取得。卒業後すぐにインストラクターとしてデビューしました。 

 その後、スポーツジムでダンスやエアロビクスなどの指導もしていましたが妊娠を機にピラティス一本に。2人の息子さんを育てながらインストラクター一筋で活躍されています。そんな手島さんが高齢者施設でレクリエーションを行うことになったのは、施設で働くピラティス教室の生徒さんから「利用者に体操を教えてもらえませんか?」と相談されたのがきっかけでした。

 

目を合わせ、声をかける 何よりも コミュニケーションが大切

 しかし当時の手島さんにとって高齢者施設は未知の世界。「悩みましたが、高齢になってきた両親の顔が浮かび、今後ますます増えていく高齢者の健康についてもっと学びたいと思ったのと、これまでの経験が高齢者の健康維持に役立つのであれば」と、引き受けることに。意思の疎通が難しい方も多いことから最初は手探りでしたが、得意分野であるコミュニケーション能力を生かすうちに手応えを感じるようになりました。

 「皆さんマスクをしていますが、目には思いが現れるので、お一人お一人と目を合わせながら声をかけることを大切にしました。すると顔見知りの方ができて打ち解けるようになりましたね」

 

体操を楽しむことが チャレンジ精神を 引き出すきっかけに

 表情を見ることで、利用者が楽しんでいるかどうかも確認しているそう。「そもそもからだを動かしにくい高齢の方は、最初から『できない』『面倒だ』とあきらめがちです。だから運動を『楽しそう!』と感じていただくことが第一。その楽しさが『片手だけでもやってみようかな』という意欲につながるからです」。

 心身が衰えてきた高齢者にとって意欲はとても大事なものだと手島さんは語ります。

 

意欲が生まれると 心もからだも 〝調子のいい日〟が増える

 「心とからだは連動しているので、意欲が出ると、日常生活でも散歩してみよう、誰かと話してみよう、といった『行動』につながります。反対に意欲が低下すると、どんどんふさぎ込んでしまいます」

 運動は、単に肉体の健康増進を図るものではなく、「からだを動かしてみる」という意欲が心まで動かし、心身ともに元気にするものなのです。

 「実際に健康体操によく参加されている利用者の方々から『最近歩く距離が長くなったんだよ』とか、『気分のいい日が増えました』と喜ぶお話を聞いたり、お手紙をいただいたりすると『よかった!』とうれしくなります」

「筋肉は裏切らない」から 最後は笑顔で 顔の筋肉までほぐす!

 手島さんの健康体操は気持ちのよさで利用者に人気の耳のマッサージから始まり、脳トレにもつながる手指の運動で締めくくるのが定番。 長年の経験で培ったさまざまなフィットネスの知識を取り入れ、利用者の様子を見ながら、軽い動きのなかに少し負荷のかかる運動を盛り込んでいます。

 そこで利用者のモチベーションを高めるために話すのは「筋肉は裏切らない」というフレーズ。運動はやり方次第で、やった分だけ自身のプラスになるという意味ですが、それは高齢者にもあてはまるからです。

 「何歳でも意識して運動すると筋肉になるので、『 誰々さんはこんな年齢になってから登山を始めたんですよ!』と、具体的な例を出してお話しすると、皆さんのやる気がアップしますね」

 たとえできなくても、持ち前の明るさと楽しい話で盛り上げ、最後はみんなで笑って終了。こわばりがちな顔の筋肉までほぐれるのが手島さんのレクリエーションの素晴らしさです。

やればやるほど やりがいと手応えを感じる

 これまで子どもから大人まで、あらゆる世代のレッスンを行ってきたなかで、高齢者は特に反応が素直だと感じるそう。

 「このレクリエーションを始めたばかりの頃は寝てしまう方も(笑)。それからはもっと楽しんでいただけるよう、トークや運動の内容をいろいろと工夫したら、あまり表情に変化のなかった方が声を出して笑ってくださるようになったり、以前よりも顔色や表情が明るくなった方が増えたり、本当に目覚ましい変化を感じています」

 さらに、こんなエピソードも。「健康体操に参加しているお母さまをお迎えにいらした息子さんが『あんなに楽しそうに動いている母親は久々に見た。今声をかけて帰らせることはできない』と、終わるまで何十分も待っていてくださったそうです。聞けばその女性は自宅では全く何もしない方だそうで、レクリエーションはいつも笑顔で一生懸命参加されているのでその違いに驚きました。健康体操の日を狙っていらっしゃる方も多いと聞くとやりがいを感じます」

 高齢者とのかけがえのない交流を通じて、この仕事と出会わせてくれた方に感謝していると手島さんは話します。

撮影=柿島達郎 取材・文=箭本美帆