福祉施設SX
9/21 世界アルツハイマーデーに考える 高齢者施設における認知症高齢者の意思決定支援の重要性
世界アルツハイマーデーとは
1994年9月 21 日にスコットランドのエジンバラで第10 回国際アルツハイマー病協会国際会議が開催されたことから、この日は「世界アルツハイマーデー」と定められ、この日を中心に認知症の啓発を実施しています。
そこで本年の1月に施行された「認知症基本法」の基本的施策の中に書かれている「認知症の人の意思決定の支援」について解説します。
意思決定支援の重要性
意思決定の支援は、施設にいる高齢者の場合はケアを提供する専門職などが中心となり、本人の意思や状況を継続的に把握しながら日常生活から人生の最終段階に向けての必要な支援を行う体制、「意思決定支援チーム」が必要であるとされています。
そこで次ページからは3つの事例をもとに、 いかに意思決定支援のプロセスを進めればよいか、そのヒントを紹介します。
●本人の意思の尊重
●本人の意思決定能力への配慮
●早期からの継続的支援
意思決定支援の3要素
①「意思形成支援」
本人が意思を形成するのに必要な情報が本人にわかるように正しく説明され、本人が何を望んでいるかを引き出すこと。
②「意思表明支援」
本人としっかりコミュニケーションをとったうえで本人の意思を引き出し、時間や状況によりその意思が変化していないかを確認すること。
③「意思実現支援」
自発的に形成され、表明された本人の意思を利用可能な社会資源を用いて、日常生活や社会生活に反映させること。
POINT 意思を形成するための信頼関係をつくる
●安心できるようにケアスタッフ側から、自分が誰なのか(職種・氏名)や何をするのかを伝えましょう。理解してもらえない部分があっても、笑顔を忘れず信頼関係をつくることを心がけましょう。
●孤独を感じさせないように、アイコンタクトやスキンシップを図りながら、本人がいつも呼ばれているお名前を確認してこまめに声掛けしましょう。認知症があっても、顔なじみの関係となることができます。
●同じことを繰り返す人には記憶の障害だけでなく、不安な感情がコントロールできずに、その原因が伝えられない場合があります。繰り返される言動の背景や思いを探り、その原因を探ってみるようにしましょう。
●からだに痛みなどの原因があると考えられる場合は適切な治療が受けられるように、看護職や医師と連携していきましょう。
●これまでどんな生活をしていたのか、どのようなことが好きだったのか、趣味、役割などの情報を家族から聞き出したり、本人の楽しみにつながる実施可能な活動を本人・家族とともに考えましょう。
POINT 具体的なケア場面で 意思を表明できるように支援する
●重度認知症高齢者でも、好き・嫌いを笑顔や顔をこわばらせることで本人の意思を伝えることができます。ケアスタッフが言語的・非言語的コミュニケーションの方法を工夫することで意思が表明しやすくなるようにしましょう。
●意欲が低下している場合は楽しみは増し、生活上の困り事や不快に思う体験を探して、不快な経験を少なくしましょう。
●時間の経過や状況により本人の気分が変わる場合もあるので、対応するスタッフを変えたりタイミングを見計らって意思を確認しましょう。
●ケアをする中で、日常生活の過ごし方や嗜好(意思)を本人に聞いてみましょう。
※ご本人がうまく言葉で表現できないと、ついスタッフが支援してしまいがちです。ご本人の思いにじっくり耳を傾けてみましょう。
POINT 本人のペース・価値観に応じて支援する
●意思実現にあたって、本人の能力を最大限に活かすことを心がけましょう。
●チーム(多職種協働)による支援、社会資源の利用など、様々な手段を検討・活用しましょう。
● 自分は動きたいのに、転倒の心配から動きを制限されてしまう場合には、転倒の危険があることをていねいに説明しましょう。
●形成・表明された意思の客観的合理性に関する慎重な検討と配慮をするようにしましょう。
認知症高齢者は言語的コミュニケーションが苦手なために外観からはまるで意思を持っていないかのように見えるかもしれません。実際には自分の価値観・感受性や意思を強く持っている私たちと同じひとりの人です。
認知機能障害のためにそれを言葉で表現できないことから、引き出していく必要があります。 ケアスタッフは、認知機能の障害に影響して起こる認知症高齢者のコミュニケーション能力を理解し、ぜひ、本人の意思を引き出す技術を磨いてください。
文=池田佳寿子