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介護ロボット&ICT啓発 第2弾① 日本の未来は ロボット&ICT次第

 人手不足が深刻化しているのは介護の世界だけではありません。少子高齢化社会に伴う労働力の不足で、昨年、2023年の人手不足を要因とした倒産は260件※と過去最多を大幅に更新しました。この状況を打破するための鍵となっているのが、ロボットやICT、AI(人工知能)などのDX(デジタルトランスフォーメーション)の活用です。
 そこで、日本の企業はどう変革して生き残ろうとしているのか。その分析の中から介護の現場にも活かせるノウハウを探ります。
※帝国データバンク調べ

人手不足が顕著な業界で ロボット導入は待ったナシ

 厚生労働省の「労働経済動向調査」「雇用動向調査」の結果、2022年2月時点での産業別人手不足感が高い産業ワースト3にランクインしているのは「医療・福祉」「建設業」「運輸業・郵便業」でした。ということは、この3業界こそもっともロボット化を進める必要があるといえます。

 実際、運輸業では特定条件下での自動運転の実用化が始まり、また建設業では自動搬送、溶接、耐火被覆など、きついといわれる作業の中でも特に重さ、暑さ、危険度などが際立つ作業で、徐々にロボットの導入が始まっています。

 建設業では、どんなにコストが高くても導入を始めないとならないのは、毎年 10万人のペースで就業者が減っていくという現実があり、業界の存続をかけて、人員確保に力をいれなければならないという危機感があるからだといいます。

 

人員の削除ではなく 人員確保の間口を広げるために

 ロボット導入には課題もあります。運輸業では何より安全性が問われ、自動車メーカーと利用者のどちらが事故の責任を負うかという問題が残ります。

 現在、ドライバーがハンドルから手を離すだけでなく、目を離すことができるレベル3の自動運転の高速道路などでの実用化が進められています。レベル3では、ドライバーはくつろいだ姿勢をとったり、ナビの調整をしたり、テレビ会議を行ったりできますが、システムが自動運転できなくなった場合に備えて、すぐに運転に戻れるようにしておかなければならないという条件があります。

 今すぐ人員の多くをロボットに置き換えることはできませんが、ロボットが人をサポートするレベルから、人がロボットをサポートするレベルに進化したことを活かせば、ドライバー確保の間口を広げることにはつながるのではないでしょうか。

 

品質を左右する作業では ロボットと人間が連携

  建設現場でも石膏ボードなどの重い資材の運搬や高所作業を自律動作できるロボットに完全に任せられるようになる日も遠くはないでしょう。

 しかし建物の品質に大きな影響が及ぶ作業に関しては、しばらくは人とロボットが連携もしくは分担しながら作業を進める必要があるといいます。たとえば微調整を加えながらの仕上げでは、ロボットに作業をさせつつ、随時監理者検査をクリアさせていくといった方法です。

 ロボットが得意なことがあれば、人が得意なこともあるので、無理にすべてをロボットに任せようとしないことも大切なのです。

 話題の生成AIもその使い道の是非が取り沙汰されていますが、下調べや情報整理、翻訳などは生成AIに任せて、仕上げは人間が行うという使い方をする人が増えています。「まだロボットに丸投げはしない」というバランス感覚をもつことも、人間の大事な叡智なのではないでしょうか。

 

人手不足解消のためだけでなく 利用者のメリットにもなる導入を

 ロボット掃除機は進化を続け、 居酒屋や食堂では配膳ロボットが活躍、スーパーマーケットへいけば、自動レジは当たり前に。今まで10台のレジに10人いたパートタイマーは、サポート役の1人だけになっているところもありますが、「自分で詰めた方が早い」「何を買ったか見られたくない」などとあえてセルフレジを選ぶ人も増えています。

 医療の世界では手術ロボットの導入も増え、医師のスキルに左右されることなく、安定して精度の高い手術が受けられるようになり、傷口も小さく、痛みも軽減されるなど、患者のメリットも増しています。

 身の回りを見てもわかるように、供給側の人手不足の解消だけでなく、利用者にもメリットを生じさせることがこれからのロボット導入の大きな意義の一つ。

 限られた人員で、質の高いサービスを届け続けるためには、ロボット化は避けては通れません。

 

取材:高本長門 監修:高木利弘