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青森県 社会福祉法人 中央福祉会 特別養護老人ホーム 勝田三思園 本人や家族、スタッフと共に「揺らぎながら」みとりを考える

便秘の解消により、みとりケアの質を向上させたい。超音波診断装置(エコー)を用いて利用者の尊厳ある排せつを実現し、介護職員の業務軽減にも成功した取組は、一人一人の人生の物語を大切にしたいという思いからスタートしました。
※「第4回全国老人福祉施設大会・研究会議〜JSフェスティバル in 山口〜」奨励賞受賞施設を取材しています


勝田三思園を支える生活相談員の八戸祐人さん(写真右)と、研究発表を行った看護師長の高橋進一さん(写真中央)、そして施設長の白鳥周子さん。

社会福祉法人中央福祉会 特別養護老人ホーム
勝田三思園かったさんしえん

住所:青森県青森市勝田2丁目20-12
TEL:017-763-0036
定員:29名
URL:https://k-sanshien.site/

青森市の中心部に位置し、公園などの緑地帯に恵まれた住宅街にある「勝田三思園」。近隣には、市民センターなどの文化施設やスーパーマーケット、そして市民病院をはじめとする医療施設も近い特別養護老人ホームです。開設は2015年。

 

本人や家族、スタッフと共に「揺らぎながら」みとりを考える

 「みとり」といかに向き合うか? これは、本人はもちろん、家族が必ず対面する課題。もちろん、介護スタッフにとっても、決して避けられない永遠のテーマです。

 勝田三思園では、本人が希望するみとりケアを家族や介護スタッフが事前に話し合う「ACP」を大事にしているのですが、やはり皆さんは大いに迷われるそうです。

 高度医療が進んだ現代では、さまざまな選択肢を提示される可能性があります。本人にとっての最善のみとりケアとは何だろう? 答えのない命の問題に悩んだときに生まれる「心の揺らぎ」について、看護師長の高橋進一さんは「皆で揺らいでいけばいい」と考えます。

 「揺れ動く本人の心と一緒に、周囲の方も揺らぐのがいいと思います。共に揺らぎ、悩む。そのプロセスが本人の心を開き、共感と信頼につながるのではないでしょうか?」と高橋さん。

 悩む介護スタッフにも「正解」を押し付けないように心掛けているとのこと。「悩み続けることが大事。一緒に悩んでいこう」と寄り添い「私たちにはすべき使命がある」と励ますのだそうです。

ACPとは?

ACP(アドバンス・ケア・プランニング)とは、介護が必要となった場合に備えて、自分が希望するケアについて家族や信頼できる人たちと話し合うことを指します。勝田三思園では、それぞれの人の物語(ナラティブ)を紡ぐことを、大切なテーマに掲げています。

ACPの疑似体験ができる「どせばいい?カード」を作成
津軽弁の「どせばいい?」は「どうすればいい?」の意味。法人をあげて制作した「どせばいい?カード」は、「死」について楽しく、考えを分かち合う画期的なカードゲームです。ACPの普及に効果的と注目を集めており、制作費を募ったクラウドファンディングでは、目標額を大きく超える226万円を達成しました。

 

悩み、問い続ける姿勢が共感を生む

 ACPにおいて勝田三思園が大切にしているのは、「ナラティブ」を集める活動、「集活」です。ナラティブとは、その方が歩んできた人生そのもの。人生の物語から暗い部分を取り除いて、いい話だけを集めるのだそうです。子供の頃に親と遊んだ記憶や、一緒に過ごした楽しい時間は、尊敬する心や感謝の気持ちにつながります。たとえネガティブな過去があったとしても、ポジティブな面をクローズアップすることで「感謝」が生まれてくるのです。

 感謝の気持ちが育まれると、介護する方々も大いに救われるのだそうです。物語を紡ぎ、語ることによって得られる大きな学び。それは、家族はもちろん、介護に携わる方が抱く、「なぜ介護をするのか?」という問いに対する導きの一つになることでしょう。もしかしたら、何げない日常の会話に「本音」が隠されているかもしれません。本音を集め、共に語る中で最期の在り方を考える。それが、勝田三思園のACPなのです。

「死」について語ることは、縁起でもないと敬遠されがち。ですが、誰でも訪れる最期の時について、ざっくばらんに語る場が「デスカフェ」。みとりケアやACPに本気で取り組んでいる勝田三思園ならではのイベントです。
[左]体の状況に合わせて、寝たままの姿勢でも快適な入浴ができる特殊浴槽。その他に、リフト付き個浴槽もあります。[右]利用者同士が楽しいひとときを過ごす共同生活室。
[左]訪れた方々を温かく迎える玄関ホールには、ねぶたがトレードマークのフットボールクラブ、ラインメール青森FCのユニホームが。[右]少人数単位のリハビリテーションが行われる機能訓練室で、毎日生き生きと過ごせる健康状態を維持します。

「お食い締め」は最期のばんさん

勝田三思園は、口から食べられなくなった臨終期に、最期のばんさんとして「お食い締め」を行います。家族の思いをスプーンにのせて口元へ運ぶ。すると、食べることがかなわなくなった臨終期でも、モグモグと口が動くことがあるそうです。それは、最期まで頑張る親の姿であり、見守る家族にとっては最期の親孝行なのです。

 


 

第4回全国老人福祉施設大会・研究会議 〜JSフェスティバル in 山口〜
実践研究発表 奨励賞受賞 誌上プレゼンテーション

利用者の尊厳ある排せつと介護職員の業務軽減につながるエコーの活用

発表者:
特別養護老人ホーム 勝田三思園
看護師長

高橋進一さん

高齢者の便秘に漫然と刺激性下剤を使用するのではなく、エコーによって直腸内の便の有無を確認する。
エコー観察による直腸内の可視化と介護職員との連携強化で、便秘の改善に成功した試みをご紹介します。

 

慢性便秘症への取組と対策

エコーによる可視化
“体内の見える化”を可能にした超音波診断装置(エコー)。おなかに当てることで、腸内の様子を可視化することができます。看護師が行う問診や視診、触診といった従来のフィジカルアセスメントでは判断しにくいことも、エコーによる可視化によって、さらなる安全と安心をもたらす効果が期待できます。

 

勝田三思園が実践するACPとは?
勝田三思園のみとりケアは、ACPを繰り返し行うことにあり、ナラティブアプローチによって、その方の人生の物語を紡ぎ、価値観を集める「集活」が重要だと考えています。また、そのACP活動の中から、私たち自身も人として大きな学びが得られるのです。

「物語(ナラティブ)」を紡ぎ、
語るケア

 

その方の価値観を集める
「集活」へ

⬇︎

人として大切な
学びを得る

(Health Humanities)

 

便秘の悪循環とエコーのタイミング
下図は、高橋進一さん作成の便秘とエコー使用のタイミングです(QOLのみならずQODにまで関連付けたのは国内でも先駆的な取組)。便秘になって食欲が減ると食事と水分量が減り、脱水につながります。同時に、体重や筋肉量、腹圧が低下し、排便周期が不安定になり、便秘なのかイレウスなのかの見極めが難しくなります。「エコー観察ポイント」で異変を感じたら、直ちにエコーで診察を行い、直腸内を可視化して判断します。

Copyright©2025高橋進一Roushikyou.

 

慢性便秘症への取組
慢性便秘症のフローチャートでは、第一選択薬がモビコールなどの浸透圧性下剤で、次に上皮機能変容薬と胆汁酸トランスポーター阻害薬、そして、乳酸菌などのプロバイオティクスに代表される、代替・補助治療薬の順番となります。刺激性下剤は、必要なときに使うオンデマンド治療薬であって、毎日漫然と使うものではないことがガイドラインで示されました。

出典:便通異常症診療ガイドライン2023−慢性便秘症(日本消化管学会 編/南江堂)

 

可視化によって便の位置と量を確認
エコーの観察順序は、左図のフローチャートに従って行います。まずは、横断像から便の有無を確認し、次に縦断像で便の量と位置を把握します。画像では、S字結腸にある便を確認することができ、あさってに出てくることと、約200gの量であることが推測できます。

 

エコーの実施と成果

実際の取組
まずは、排せつ日誌から便秘が疑われる方を「排泄委員会」が選びます。エコーを実施し、下剤の見直しを行った後、おむつに便が排出されると便秘の解消だけでなく、排便周期を知ることができます。便秘が解消されない場合は、上皮機能変容薬へ変更することで対応します。

 

エコーによって無駄な浣腸が激減
介護職員の客観的評価のフィードバックとエコーにより、観察評価の回数を減らすことができました。グリセリン浣腸が従来の1/3に減り、何より“浣腸の空振り”が著しく減少。さらに、刺激性下剤を見直すことで水様便が有形便に。水様便が漏れて背中まで伝うことが少なくなり、業務の軽減にもつながりました。

CHECK!

慢性便秘症へのエコーの有用性

 

慢性便秘症の病態機能評価にエコーを使用した報告は少ないが、有用である可能性があり、使用が推奨されています。なぜなら、直腸に便がないことが分かれば無駄な浣腸をしなくて済み、腸管穿孔の合併症が避けられるからです。

 

みとりの質の向上を!

命が閉じるまで尊厳のある生活を
おむつ一つを取ってみても、職員ファーストの状態が利用者の尊厳を侵害する可能性があります。おむつをつけることで尊厳を傷つけてしまい、時には虐待となってしまうかもしれない。それを避けるために、便の性状を整え、排せつの予測ができることが苦痛の軽減となり、命が閉じる瞬間まで尊厳を保つことができるのです。

今後の課題

エコーの導入でおむつ交換の業務軽減に期待
現在、各地で病院関係者によるエコー研究会が立ち上がっています。今後は、エコーの技術向上や知識の蓄積が予想されており、特に、エコーの排尿予想により、おむつの交換回数を大幅に減らす試みが進んでいます。特養においても、インセンティブの導入で、エコーの導入環境が改善されることを期待したいと思います。

課題点

▶︎エコーの技術向上と知識の蓄積、使用範囲の拡大
▶︎おむつ交換回数を1日4回から3回へと減らす
▶︎便秘の解消により幸せホルモンのセロトニンを増やす
▶︎QODの向上でみとりの質を向上させる

介護者が困難だと感じている介助活動

出典:家族介護者の実態と支援方策に関する調査研究事業報告書
(全国国民健康保険診療施設協議会)2018年11月09日更新

撮影・取材・文=山田芳朗/写真提供=特別養護老人ホーム 勝田三思園