福祉施設SX
第28回 鹿児島県 社会福祉法人 幸伸会 特別養護老人ホーム 青山荘 介護に興味を持ってほしい それがICT導入のきっかけに
先端技術を積極的に取り入れ、業務改善に大きな成果を上げている「青山荘」。現在は、FIMによるADL評価の細分化が、ケア内容を見直すきっかけとなっているとのこと。それは、利用者の安心、そして介護職員のモチベーションアップに結び付いているのです。
※「第4回全国老人福祉施設大会・研究会議 ~JSフェスティバル in 山口〜」入賞施設を取材しています

理事長・施設長
石踊紳一郎さん

社会福祉法人 幸伸会 特別養護老人ホーム
青山荘
住所:鹿児島県肝属郡錦江町城元3724-1
TEL:0994-22-3388
利用定員:83床
URL:https://www.k-seizanso.jp
1993年に開設。鹿児島県・大隅半島に立地し、木々に囲まれた静かな環境で快適な介護サービスの提供とさまざまな活動を行っている「青山荘」は、ICT・介護ロボットを積極的に導入し、生産性向上と業務改善にも積極的に取り組んでいます。
「青山荘がICT導入に踏み切ったのは、若い方たちが介護の世界に飛び込む後押しになればいいなと考えたからです」と語ってくれたのは、施設長の石踊さん。ご自身が鹿児島国際大学・福祉科で教べんを執っておられた関係で多くの学生さんが働きに来てくれていたとのことですが、近年は人手確保が急務になったそうです。
幸伸会は外国人材の受け入れにも積極的です。青山荘では現在12名の特定技能一号と技能実習の方が働いていますが、中にはまだ日本語に戸惑いを覚える方も。特に日本語での記録は一苦労です。
「そんな背景もあって、真っ先に『ハナスト』を入れました」とのこと。ハナストは、スタッフ間の連絡から記録までをサポートしてくれるAIアプリです。パソコンに不慣れな外国人スタッフの日本語入力を手助けしてくれるので、記録の時間が大幅に削減された画期的なアプリでした。日本人スタッフにも大好評で、皆さんすぐに使いこなすことができたそうです。
同時に「眠りSCAN」と「お掃除ロボット」を導入。浴室用のリフターや移乗用リフト、とろみ自動調理器なども加わり、一気にICT化が進んだそうです。「新しい技術を投入するときは、総入れ替えするのがいいと私は思いますね。使い慣れた道具が残っていると、どうしてもそれを使いたくなってしまいますから」
方針を決めたら一気にまい進。それが新たなステップに通ずる早道なのかもしれません。



利用者の快適な生活と職員が輝ける職場を実現

機能訓練指導員認定理学療法士(発達障害)介護支援専門員
鮫島友和さん
JSフェスティバル山口大会で研究発表を行った機能訓練指導員の鮫島さんは、今年から「集団レクリエーション」をスタートさせました。月曜から金曜日の午前と午後に、皆でホールに集まってさまざまなレクリエーションを楽しむ時間には、毎日異なるテーマが設定されています。それは、生活の中に「曜日感覚」が生まれるように工夫しているとのこと。
運動だけでなく、ゲームやクイズもあるので、その準備はかなり大変なはず……。そこで活躍してくれるのが生成AIです。「クイズ作成や原稿はAIが大いに助けてくれます」と鮫島さん。現在は、BIの解析にAIが活用できるように研究中だそうです。
最新テクノロジーとうまく共存することで、職員の負担を軽減する。生まれた余裕は利用者とのコミュニケーションに充てる。それが、青山荘が目指すICT化の恩恵の一つなのです。
第4回全国老人福祉施設大会・研究会議 ~JSフェスティバル in 山口〜
実践研究発表 優秀賞受賞 誌上プレゼンテーション
「できる」ADLから「している」ADLへ
LIFEフィードバックから新たなアウトカム指標の活用

鮫島友和さん
青山荘ではADLのLIFEフィードバックの結果を踏まえて、BIだけでなくFIMでの評価を行いました。 FIMを活用したADL評価による事例と導入による変化と課題、そして今後の活用法の研究発表をお届けします。
ADLフィードバックを全国・九州と比較すると?
LIFEのADLフィードバック(青山荘と全国・九州との比較)
BIによって評価した、青山荘のADLフィードバック(令和6年度)を全国・九州地方と比較しました。全国と比べると平均より約5点低くADLも低下しており、九州地方と比較すると、平均よりも高いけれど、ADLの維持ができず低下しているという結果でした。

ADLは「Activities of DailyLiving」の略称。日常生活動作を指し、日常生活を送るために必要な食事や排せつ、更衣や移動などが含まれます。ADLの自立度が高いほど、介護の必要性は下がります。
▶ 食事[自分で食べ物を口に運びそしゃく・えんげができる]
▶ 排せつ[トイレでの排尿・排便および後始末ができる]
▶ 更衣[衣服や下着を自分で着替えることができる]
▶ 整容[洗顔や歯磨きなどを自分で整えられる]
▶ 入浴[洗身・洗髪を自力で安全に行える]
▶ 移動[ベッドから車椅子、トイレへ移動できる]
▶ 起居動作
▶ 移乗
LIFEとは、公益社団法人国民健康保険中央会が運営する情報システム・データベース。利用者のADLを提出することで、全国や地域単位での平均と比較することができ、そのフィードバックはケアの質を向上するために活用されます。
BIとFIMの違い
ADL低下の結果を踏まえて、スクリーニング的な評価を行うBIだけではなく、FIMを活用した取組を行いました。採点が簡単なBIは、ADL評価が容易という利点がありますが、現場のケアが利用者のADLに対してどのように作用するのか分かりづらく、「なんとなくできている」ケアになりやすい傾向があります。一方FIMは、採点が細かく時間もかかりますが、運動だけではなく認知面も評価します。利用者が実際に「している」動作を評価するので、現場のケアがADLに反映されやすくなります。

個人ADL表の作成
● 入居者全員分を令和7年5月に完成
( 評価期間:令和6年10月〜令和7年4月)
ケアにおける注意点
身体面 (移乗・歩行・基本動作・更衣・食事)
移乗動作および食事・整容面においてもADLは維持されています。歩行は右上肢・下肢しかん性まひを呈しているため、立位保持および歩行を行える程度の支持性は十分に見られません。移乗動作時の転倒による骨折に配慮してください。
認知面 (社会的交流・問題解決・記憶・理解・表出)
脳梗塞による失語が見られるため、はっきりとした言語表出は困難ですが、認知面は年齢相応で維持されています。今後、転倒による意欲低下および認知面の低下に配慮が必要です。現在のADLを維持するために転倒に配慮してください。

Aさんの事例
● 93歳 女性 要介護3
BI:全体65点(令和6年4月)→60点(令和7年4月)
歩行10点(令和6年4月)→5点(令和7年4月)
FIMの評価による取組を紹介します。Aさんは転倒されてからシルバーカーでの移動が難しくなり、今後の移動はどのようにすればいいか?という事例です。歩行中の転倒からの骨折ですから、車椅子で対応すればいいのでは?という声もありました。この状況での歩行評価をBIで評価すると、「やってみたらできる」という観点からADLを評価するので、ADLが低下する可能性が高いです。FIMは1点単位で「実際に行っている」ADLを評価するので、歩行と車椅子の段階を細かく数値化できます。今までのような歩行は難しくても、車椅子での自走はできるのでは?という結論に達し、本人の「自分で移動したい」という気持ちに寄り添うことができました。
BI:5点ごとに「できる」ADLを評価
| 歩行 | 15 | 45m以上の歩行、補装具(車椅子、歩行器は除く)の使用の有無は問わない |
| 10 | 45m以上の介助歩行、歩行器の使用を含む | |
| 5 | 歩行不能の場合、車椅子にて45m以上の操作が可能 | |
| 0 | 上記以外 |
FIM:1点ごとに「している」ADLを評価

今までのような歩行は難しいが、車椅子での移動はどうだろうか? 本人の「自分で移動したい」という気持ちに寄り添えるのではないだろうか?
BIは「できるADL」を評価するので、歩行を行ってみればできる状況では点数上の変化は少なくなります。一方FIMで は、介助による車椅子移動で明らかな違いが生まれます。歩行・車椅子での移動だけではなく、浴槽、トイレ、ベッドへの 移乗動作もAさんが実際に行っていないので点数は下がります。「しているADL」を評価するFIMのおかげで、排せつは介助にてトイレ誘導、移乗は見守り・軽介助、車椅子は自走で移動というケアに変更することができ、活動量を維持しながら本人の意向に合わせて転倒の予防につながるなど、統一したケアを確立できるようになりました。

エビデンスに基づいたAさんの事例ケアを実現する
● 入所者78名のADLおよびHDS-R平均点(令和7年6月)
FIM導入以降、青山荘の稼働率を令和6年度の同時期と比べた場合、99.4%と維持されており、入院数は11人から6人へと減少しました。何より現場から職員の声がよく上がるようになったことが大きな変化だと感じています。FIMは介護職員のケアの効果を実感できる指標として、科学的根拠に基づいたケアの実現の可能性を広げるのではないでしょうか? ただ、FIMが難しいという声もあり、課題も残されています。

今後の課題
FIMを継続しオリジナルケアの実現を

今後は、施設全体のFIM評価を継続し、オリジナルの施設ケアを実現したいです。また、生産性向上推進委員会を通じて、職員へのFIMの周知を進め、稼働率維持や入院数の減少を目指します。個別ケアの深化については、FIMとBI、HDS-Rの評価を3カ月ごとに実施、ケーススタディーを織り交ぜることが目標です。令和7年10月より、月に数回ケーススタディーの時間を設け、個別ケアの勉強会を始めています。
今後どのように活用していくか

撮影・取材・文=山田芳朗/写真提供=特別養護老人ホーム 青山荘
青山荘でのICT・介護ロボットの導入状況
▶ CAREKARTE
▶ ハナスト(音声記録アプリ)
▶ 移乗用リフト
▶ 浴室用リフター
▶ お掃除ロボット
▶ とろみサーバー(とろみ自動調理器)
情報を伝達、共有する「ICT」を使いこなすことで、職員の身体的・心理的疲労の軽減を達成。また、リフトなどの活用で移乗動作を一人で行うことが可能となり、職員の腰痛率と利用者の身体的負担を軽減することができました。