福祉施設SX
国・県・市町村が参加する研修会を栃木県から
養護老人ホーム 支弁額改定と措置制度の活用推進を目指して
市町村担当者の精度理解・現状把握・課題の明確化を県と共に国が後押し
令和8年7月28日、栃木県保健福祉部高齢対策課主催の研修会が開催されました。
参加したのは県内21市町の養護老人ホームの入所措置等の担当者と財務担当者。
厚生労働省の担当課長による支弁額改定について制度面の説明、総務省の担当課長による
地方交付税措置による財政面の説明に加えて、大山知子会長が、全国老施協会長、栃木県老施協会長双方の立場から、養護老人ホームの現状や課題についての講演を行いました。
まず求められるのは市町村担当者の制度理解と現状把握
昨今厳しい経営状況が続いている養護老人ホームにとって、老人保護措置費の支弁額改定、特に地域の情勢等を踏まえたいわゆる独自改定は、安定したサービスを提供するために不可欠な喫緊の課題といえます。しかし、多くの地方自治体で、いまだ行われていないのが現状です。全国老施協では、令和8年5月に、養護老人ホームが所在する全国660市区町村へ要望書を提出するとともに、各地の老施協と会員施設が要請活動を行う際の要望書のひな型や資料を提供するなど、注力しているところです。
そのような中、栃木県保健福祉部高齢対策課が、県内市町の担当者を対象とした研修会を企画しました。厚生労働省と総務省の担当課長に加えて、大山会長が講師として招かれ、養護老人ホームの現状や要望について、市町担当者に直接訴える機会となりました。開会のあいさつで栃木県保健福祉部原戸正道次長は、「措置制度について理解を深め、引き続き適切な措置の実施を行うとともに、老人保護措置費の独自改定に向けた積極的な取組を進めてほしい」と話しました。
研修会スケジュール
令和8(2026)年度栃木県養護老人ホームの入所措置等に係る市町担当者研修会
1.養護老人ホームに係る老人保護措置費の支弁額改定について
厚生労働省老健局高齢者支援課 濱本課長

2.養護老人ホーム措置費に係る地方交付税措置について
総務省自治財政局調整課 和田課長

3.養護老人ホームを取り巻く現状と措置費改定の必要性
全国老施協・栃木県老施協 大山会長

4.老人保護措置費の独自改定について(事例紹介)
大田原市高齢者幸福課 新井副主幹

地域の高齢者の暮らしを支える機能を 継続的に十分に発揮するために必要な独自改定
養護老人ホームに係る老人保護措置費の支弁額改定について

厚生労働省老健局
高齢者支援課
濱本健司 課長
厚生労働省老健局高齢者支援課濱本健司課長は、三位一体の改革(平成18年度)で一般財源化された措置費については、自治体で地域の情勢を踏まえた措置費支弁単価を定め、それに対して地方交付税を充てることになっているものの、実際には、介護報酬改定や消費税改定にひも付いた形になっていないケースが多いことを指摘しました。厚生労働省では、適切に措置費の改定につながるよう、考え方などを分かりやすい形で発信するようにしているといいます。具体的には、令和8年1月13日付課長通知「老人保護措置費に係る支弁額等の改定及び養護老人ホーム及び軽費老人ホームの適切な運営について」や、それを補足する4月9日付事務連絡「老人保護措置費に係る支弁額等の改定の考え方及び改定の具体例について」にまとめられています。
「地域によって、さまざまな事情があると思いますが、養護老人ホームが地域の高齢者の暮らしを支えるという機能を継続的に十分に発揮できるよう、自治体の皆さまの支援をお願いしたいと考えます」(濱本氏)
また、都道府県には、広域的な観点から、市町村に対する情報提供などの援助を行うという役割が求められるとし、今回のような研修会はその大きな一歩となるのではと、高く評価しました。
さらに高齢者支援課では、検討の手法や具体的な計算例などについてのサポート体制ができており、連絡・相談することができるとして、講演を締めくくりました。

主な改定の具体例
介護分野の職員の賃上げ・職場環境改善支援事業(令和7年度補正予算)を踏まえた改定
➡︎ 最大月額1.9万円(6か月分)
令和8年度介護報酬改定を踏まえた対応
処遇改善分 ➡︎ 最大月額1.9万円(令和8年6月〜)
基準費用額の見直し分 ➡︎ 月額3,040円増(令和8年8月〜)
地方自治体における独自改定
➡︎ 平成18年単価から1.44倍
【養護老人ホームに係る独自改定の例】

▶ 入所者数(年平均):50名の施設の場合
▶ 特定施設の指定を受けていない場合。金額は入所者1名・月当たり
※「H18基準額」は、「老人福祉法第11条の規定による措置事務の実施に係る指針について」(平成18年1月24日老発第0124001号)の「老人保護措置費支弁基準」による額を用いたもの。
財政支援の内容や仕組みをしっかり理解し 取りこぼしのない制度活用を
普通交付税及び施設整備事業債の仕組み解説とR7補正予算事業の紹介

総務省自治財政局
調整課
和田雅晴課長
総務省自治財政局調整課和田雅晴課長は、財政的な仕組みと市町村の事務費負担軽減対策について説明しました。
普通交付税の基本的な構造として、基準財政需要額が基準財政収入額を超える場合に、その差額が交付されます。その自治体の基準財政需要額分については、税収と普通交付税で措置されるということです。また、養護老人ホームの場合は義務的経費であるため特別にきめ細かな算定方法が採用されており、実際の被措置者数×単価(令和8年度303万4千円)で基準財政需要額が算定されます。さらに定員ではなく実人員で計算しているため、被措置者数が増えた分の費用が自治体の持ち出しになるということはありません。
施設整備費については、三位一体の改革(平成18年度)以降、国の補助金(2分の1)の代わりに、都道府県が施設整備事業債という地方債を100%起債でき、その借金返済は100%交付税措置されるという仕組みになっています。結果として、都道府県の補助と社会福祉法人の負担割合は変わらず、4分の1ずつとなります。この仕組みが理解されておらず、「国の補助金がなくなったので措置できない」とされたケースもあるといいます。しっかり理解して、財政当局と議論、交渉し、制度を活用することが社会福祉法人の便益につながります。
一方で、市町村が人手不足のために、独自改定の検討を進められないという状況があります。そこで、市町村の事務負担軽減を目的として、都道府県が広域的な観点から助言や支援を行うことが検討されています。管内の市町村に対して、改定の手順等を解説する機会を設けたり、訪問して個別に助言したりという事例を全国展開できないか。令和7年度の補正予算によるモデル事業(持続可能な行政サービスの提供に向けた広域連携モデル構築事業)においても取り組んでいます。
「これまでの地方自治体の意識は、デフレ経済におけるコスト抑制だったと思われますが、これからはインフレ基調における適正な価格転嫁へ変えていかねばなりません。行政における価格転嫁の一例が、まさに措置費の改定。しっかり議論し、改定を進めていってください」(和田氏)
普通交付税の仕組み

【施設整備事業債の仕組み】

地域の高齢者が安心して暮らせるよう 独自改定に向け積極的・前向きな検討を
養護老人ホームの現状と要望 行政の担当者に知ってほしいこと
大山知子会長は、「昨今の格差社会において、支援が必要な高齢者のセーフティーネットが養護老人ホーム。その存続が危ぶまれる状況にある」として、養護老人ホームの現状について話しました。
まず、全国の現状としては、令和元年からの6年間で、施設数は45施設減って906施設に、入所率は4.8ポイント減少して85.1%となっています(全国老施協調査)。また、福祉医療機構の調査によると、一般養護で60.3%、特定施設で54.8%と、赤字の施設が半数を超えています。このようにデータだけを見ても、現場の厳しい状況が明らかな中にありながら、老人保護措置費の支弁額改定については、独自改定済みはわずか7.3%、検討・調整中が50.2%、改定の予定なしが37.0%。大山会長は、「改定の予定なしという回答の多さに驚きを隠せません。養護老人ホームは、利益追求型の施設ではありません。このままでは、職員の人件費も払えず、利用者が安心・安全に暮らせる施設づくりに向き合うこともできない。大変なことになってしまいます」と訴えました。
次に、栃木県の現状として、入所率が81.0%と低迷していること、65歳以上の人口が増加する中で措置者数は減少していることなどを報告しました。栃木県では、令和2年に施設数が減少して10施設となって以来増減はなく、現在養護老人ホームが立地している市町は10、立地していない市町が15となっています。
入所率に注目してみると、安定した運営では95%といわれる中、80%前半での推移は非常に危機的な状況といえます。実際に80%を切った翌年の令和2年に2施設が閉鎖しています。措置者数の推移を見てみると、令和7年には、令和元年から58名減少し、措置率は0.94‰(0.15ポイント減少)となっています。では、高齢者人口が減少したのか、というとそうではありません。栃木県の65歳人口は2万6千名以上増えています。大山会長はこの状況について、次のように語りました。
「全国平均でも同様の現象が起きていますが、栃木県の高齢者人口は増え続けています。にもかかわらず措置率は下がっている。これはどういうことなのでしょうか。また、全国老施協の『養護老人ホーム被措置者数等調査』によると、令和7年度の栃木県の市町別措置者数は、最も多い宇都宮市で109名、養護老人ホームがない市町では、0〜8名程度です。措置率は、最も高い日光市で3.26‰、ほとんどの市町で1%に届かず、0.00‰の市町が4か所もあります。必要な措置が行われているとしたら、こんなにも格差がでるはずはありません。施設の有無にかかわらず、低所得等の方々はいらっしゃるし、措置入所を検討すべき方々はいらっしゃるはず。そして、われわれ養護老人ホームには受け入れる体制があります」
【独自改訂の状況】


養護老人ホームの経営状況(赤字割合)


骨太の方針及び令和9年度介護報酬改定に向けた全国老施協の要望事項
①各自治体が「老人保護措置費に係る支弁額等の改定※」を確実に履行するためには、政府による直接介入が必要不可欠です。
※「老人保護措置費に係る支弁額等の改定の考え方及び改定の具体例について(令和8年4月9日付老健局高齢者支援課事務連絡)」
②大規模修繕や建て替えに対する各自治体による施設整備補助が図られるよう要望します。(特養、養護、軽費・ケアハウス)
65歳以上の人口は増加しているが措置率は減少 措置制度は適切に活用されている?
なぜ措置者数が増えないのか。そこには、行政が低所得等の高齢者を生活保護に回してしまうケースが多く見られることが影響しています。事務負担の問題があるのか、措置費分により自治体の負担が増えてしまうという誤った理解のためか。しかし、前出(6頁)の説明にあったように、養護老人ホームでは、実際の被措置者数×単価で基準財政需要額が算定され、交付税措置される仕組み。制度をいま一度確認し、適切に措置制度を運用することが求められます。また、生活保護には「他法優先」という原則がありますから、まず、老人福祉法の中で対応できるかどうかを検討すべきです。
また、老人保護措置費の支弁額改定について、栃木県における令和8年1月時の改定状況調査では、令和6年度介護報酬改定を踏まえた対応や5.4万円補助金、その他処遇改善、消費税については、多くの市町で対応済みでした。しかし、独自改定について「改定・対応できる見込み」としたのは、大田原市のみ。その他の市町では、事務費、生活費共に「改定・対応できるか分からない」という回答でした。この結果について大山会長は、「非常に残念な回答と言わざるを得ません。この独自改定は、我々が地域の高齢者のためにしっかり働く上で必要な部分です。過去の累積分1.44倍も含めた改定について積極的な、前向きな検討をぜひともお願いします。最後まで住み慣れた街で安心して暮らせるかどうか。利用者の生活が自治体職員の皆さんの手腕に懸かっています」と訴えました。
栃木県の入所率と措置者数

※措置率は「措置者数÷65歳以上人口×1000(‰) 」で算出。
※65歳以上人口は総務省「住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数」の「令和7年1月1日住民基本台帳年齢階級別人口(市区町村別)(日本人住民)」。
行政の担当者と現場、双方の制度理解と問題意識の共有がカギに
栃木県内で唯一、老人保護措置費の独自改定を行った大田原市。保健福祉部高齢者幸福課高齢支援係 新井智之副主幹(写真右端)が、令和8年4月の基準改定に至る経緯や算定の考え方、具体的な改定内容を紹介した。主な流れは次のとおり。
- 〜令和6年度 各種通知に基づく引き上げを実施。施設の経営状況や措置費引き上げについて、担当者レベルで意見交換
- 令和7年度 実施計画の資料提出、施設へのヒアリングを経て、予算に関する内部協議(12〜1月)、予算内示(2月)、予算確定(3月)
- 令和8年度 基準改定実施(4月より)
【栃木県の改定状況(令和8年1月時点)】

※栃木県老施協調べ、令和8年1月時点(各施設へ所在市町の状況を調査したもの)
研修会を終えて
──県主催の研修会でしたが、手応えは?
大山会長 各自治体への要請活動は、全国老施協としても栃木県老施協としても行っているのですが、県が問題意識を示し、このような研修会を開催してくれたことには大変大きな意義があると思います。手厳しいことも言いましたが、直接各市町の担当者の方々に、現状を示し、われわれの思いを伝える絶好の機会だったと思います。
──今後の活動はどのように?
大山会長 栃木県では、今回、厚生労働省、総務省の担当課長から、制度のポイントなどを伺うことができました。今後の要請活動を進めていく上で役立つ大きな一歩になったと思います。他の都道府県においても同様に、制度知識や現状について、われわれと自治体担当者が共に学び、情報を共有していくことがカギになるのではないでしょうか。
構成・取材・文=早坂美佐緒(東京コア)/撮影=磯﨑威志