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グルメの秋 食事で利用者のQOLを上げよう!①

2023.10 老施協 MONTHLY

暑さが一段落して、食べ物がおいしい季節の到来!今回は高齢者の食事にスポットを当て、食に関する基礎知識や企業や施設の取り組みなどを紹介。


技術と知識を持って高齢者の食事に寄り添う

 天高く、馬肥ゆる秋。食欲の秋を迎え、改めて考えてみたいのが、高齢者にとっての“食事”。

「食べる楽しみは、生きる喜びにもつながります。懐かしい味に出合うと自然と気分は高揚し、会話も弾みます。しっかりかむことで唾液も出るようになり、口腔内の清潔も保ちやすく、嚥下機能も維持しやすくなる利点もあります」

 こう語るのは『「噛める」「飲み込める」がうれしい料理』(女子栄養大学出版部)など、嚥下や咀嚼に配慮したレシピ本を多数出版している栄養士の山田晴子さん。

「食べるのに少し時間がかかるというだけで普通の食事から途端に“刻み食”にしてしまうのは残念なこと。もちろん事情はあると思いますが、いくつになっても今まで食べてきたような食事を希望している高齢者は多いと思います。その人たちに技術と知識で寄り添っていくことが、高齢者の“食事”に大事なことだと思います」

 咀嚼や嚥下の機能は人によって症状が大きく異なるもの。

「私の母はいなりずしが好きでしたが、高齢になりパーキンソン病の影響もあり油揚げを食べるのが難しくなりました。一方、母と同世代で同じ病気の方に聞くと、『油揚げは平気だけどしいたけは食べられない』とおっしゃっていて。人によって違うのは当たり前で、無理をさせないことも大切です」

 もっとも、リスクを考慮するあまり、食の楽しみを軽視するのは考えものだとも指摘する。

「今の食事は、栄養バランスやエネルギー量に注目しがち。もちろん大切な要素ではありますが、やはり『食べたい』『おいしい』という気持ちも大切にしたいです。一食だけで見るのではなく、三食トータルで栄養が取れているのか、カロリーが足りているのかなど、広い視野で考えた方が無理のない食事を提供できると思います」

 調理を一工夫するだけで咀嚼や飲み込みがしやすくなり、みんなと同じ料理を味わうことも可能になるとアドバイス。

「例えばサケをほぐしたものを再び成形し“サケの切り身の形”を模した一皿を出されたら、うれしいと感じるでしょうか。ほぐした身しか食べられないのなら“ほぐした身を使った”テリーヌにしてみては?と考えることが大事です。もちろんこれまで他の人と同じように食事ができていたのに、『時間がかかるようになってきた』『かめないものが増え、残すようになってきた』といった変化が見られた場合は、料理の形態を変える必要があります。ただし、いきなり刻み食にするのではなく、まずはかみにくい・飲み込みにくい食品を、食べやすい状態に変えるところから始めるといいでしょう」

 例えば、カレーの肉がかみ切れないならひき肉に、ひき肉でむせるなら野菜にしてみるのも一案。せっかく作るなら、誰もが食べておいしい料理を目指すことが大切。

「かみにくい人向けに考えたサンドイッチが、他の人も食べやすかったり、飲み込みにくい人向けに作ったポタージュスープが誰にとっても飲みやすくおいしいと喜ばれることも。とはいえ、施設だと1人だけに特別な食事を作ることは労力とコストがかかります。そこを考慮しつつ、多くの人が喜ぶ料理は何なのかを考えて作っていくことが大事だと思います」

食べるときに注意が必要な食べ物

避けるのではなく食べられる形に調理

嚥下や咀嚼機能が低下してくると、食べられる食材も限られてくる。かむことは唾液の分泌を促し口腔の感覚を取り戻す大事な行為なので、なるべく食べやすい形にしよう。

食品 対処法
みじん切りの野菜 5~8mmくらいの大きさ、厚さに切る
サラサラした液体
(水・茶・みそ汁など)
薄くとろみをつけ、飲みやすいとろみ加減にする
繊維質の多い食品
(ごぼう・セロリなど)
たたいて繊維を壊す。繊維と直角に切り目を入れる
すすり上げて食べる食品
(麺類)
ゆでてから3~5cmの長さに切る
弾力のある食品
(こんにゃく・漬物など)
隠し包丁(切り目)を入れる

食べる人のことを考え喜ばれる料理を提供する

 かむことと同じく、飲み込めるかも高齢者の食事においてすごく大きな意味を占めてくる。そんな嚥下機能が低下している方も、とろみをつけることで食材や液体をゆっくりと喉の奥に送り込むことができ、その結果、むせることが少なくなる。“とろみづけ”というと市販のとろみ剤が知られているが、片栗粉やくず粉を水で溶いたものなど、日常的な食材の中にも役に立つものがたくさんある。

「小麦粉とバターは、フランス料理などでとろみづけに使われる材料の定番です。何にでもとろみ剤を使用するのではなく、これまで料理に使われてきたアイデアでとろみがつけられる場合は、食材を生かしたとろみをつける方法を活用してもいいと思います」

 なお、高齢者の方が好む食事というと、つい和食を思い浮かべがちだが、実は洋食や中華が好きという方も多いという。

「中でも麺類は大人気で、そばやうどんはもちろん、スパゲティに目がないという声もよく聞きます。また、ハンバーガーも思いがけず好評で驚かされたこともあります。 “高齢者だから”という色眼鏡を外し、その方の好物に注目してみるのもおすすめです」

 何が好きで、どのようなものなら食べられるのか…。食べる人のことを知ることが、喜ばれる食事につながっていく。

「麺類であれば麺を5cmに切ってみると、すする能力が低下している方も食べやすくなるし、野菜や肉は繊維を断ち切るように斜めにそぐように切るなど、包丁の入れ方次第でかみ砕きやすくなったりします。もちろんこの一手間を毎日、多くの人に行うのは大変ですが、そこはおいしく食べてもらうことを考えて作ってください」

「高齢者にとって食事を楽しもうという気持ちが日々の暮らしの張り合いになり、元気を保つことにつながります」と山田さん。食事は栄養を取るだけではない、生きるための大切な行動の一つ。作る側としては、笑顔で食事を食べてくれる姿を想像しながら無理なく工夫をし、喜ばれる料理を提供していきたいものだ。

とろみ剤で食事を安全に

飲みやすくして誤嚥のリスクを下げる

嚥下力が低下してくると、水のようにサラサラとした液体でもむせやすくなるため、液体にとろみをつけて飲みやすくする。無味なものや味のアクセントになるものを使用しよう。

とろみをつける材料 割合 ポイント
片栗粉 片栗粉:水=1:1 和洋中問わず、いろいろな料理に合うため、幅広く使える
くず粉 くず粉:水=1:1 くずだけでなく、じゃがいもなどのでんぷんが原料のものも
小麦粉+バター 小麦粉:バター=1:1 フランス料理の定番。コクがあり、クリーミーな仕上がりに
とろみ剤 商品によって配合は異なる 加えるだけでとろみがつく。商品によって食感、味が異なる


山田晴子さん

山田晴子さん

栄養士。元日本歯科大学附属病院臨床講師。「かみやすい飲み込みやすい食事のくふう」「改訂新版 かむ・のみこむが困難な人の食事」(共に女子栄養大学出版部)など、高齢者と食に関する著書多数


構成・文=玉置晴子/取材・文=島影真奈美/写真・イラスト=PIXTA