最新制度解説

特集(制度関連)

心と体の健康のために必要なこと。

介護レクリエーションで楽しもう!①

2022.12 老施協 MONTHLY

クリスマスやお正月など、イベント満載の季節。心身共に楽しく健康的に過ごせるように、おすすめのレクリエーションを紹介します。


イベントにも導入できる最新レクをチェック!

 特別養護老人ホームは入所者の多くが後期高齢者で要介護度が高く、日常生活動作(ADL)の低下や何らかの認知症状も見られる。故にレクリエーションは積極的に機能回復を目指すより、いかに楽しんでもらいながら廃用症候群の予防や残存機能を維持し、生活の質(QOL)向上を図っていくかが優先課題となる。そこで、特養の特性を踏まえつつ、高齢者における健康増進学研究の第一人者とレク作りのプロに取材。学術的な面とレクの実情、両面から迫り、入所者と一緒に盛り上がりながらリハビリ効果も期待できるレクの新知識を紹介しよう。

Q クリスマスやお正月など、過去に経験した季節のイベントを味わうことは、脳の活性化や老化防止に役立ちますか?

A 「お正月のカルタや福笑いなど、昔(子供の頃に)やった遊びを高齢期になって改めて行うことは、明確に臨床的な効果があるとは言えませんが、一時的に脳の活性化につながる可能性はあると思います。なお、回想法という、昔の懐かしい写真や音楽、昔使っていたなじみ深い家庭用品などを見たり、触れたりしながら、昔の経験や思い出を語り合う一種の心理療法がありますが、それに近いかもしれません。また、これらを職員・スタッフや施設利用者らと一緒にやることで心理的・社会的効果も得られますので、おすすめです」

筑波大学 体育系 大藏倫博教授

Q 施設で人気のレクはなんですか?

A 「書道、カラオケ、脳トレ(特に間違い探し)、体操の時間です」

レクリエーショントレーナー 三瓶あづさ⽒


学術的知見から知るレク
介護レクリエーションはなぜ必要なのか?

利用者の体や心にとってレクリエーションが有効であることは知っているが、どのような良い効果をもたらしているのか?
健康増進学&老年体力学などを研究する筑波大学の大藏倫博教授に、学術的な面から解説をしてもらいました。

健康増進学&⽼年体⼒学のプロフェッショナル

筑波⼤学体育系

⼤藏倫博

Profile●おおくら・ともひろ=筑波大学体育系教授・高精細医療イノベーション研究コア長。2000年、筑波大学にて、体育科学の博士号を取得後、国立長寿医療研究センター研究員、米国ルイジアナ州立大学ペニントンバイオメディカルリサーチセンター研究員などを経て、2020年に筑波大学教授に。現在も国立長寿医療研究センターの客員研究員などを務める


ハードな運動は必要なし!指先を動かすだけでも効果大

 内閣府の’22年版「高齢社会白書」によると、日本人の健康寿命は’10年と’19年の比較で、男性は2.26年延びて72・68年、女性は1.76年延びて75.38年に。75歳以上で運動習慣がある人は男性46.9%、女性37.8%と20〜64歳の男女と比べ高水準で、今どきの高齢者の健康意識の高まりをうかがわせる。またよく外出し、社会活動(体操や句会への参加や地域活動など)をする高齢者は生きがいを感じやすく、健康度が高い傾向にあることも確認された。このことから、高齢者の健康度は運動頻度や社会参加の有無に影響されることが分かる。また、同調査では高齢化により’19年までの10年で65歳以上の要介護者らは約186万人増えたと報告。今後、特養などでのレクリエーションは、要介護高齢者の重症化予防に寄与する地域資源として、重要視されていくだろう。

 では、レクリエーションがどのように高齢者の心と体の健康に影響を与えているのか。長年地域の高齢者の健康状態を調査している筑波大学の大藏倫博教授は次のように説明する。

「運動習慣を持つことは大事ですが、高齢者はハードな運動をする必要はありません。低強度運動という、少し息が弾む程度の歩行など軽めの運動がいい。実際、椅子に座った状態での足踏み、ラジオ体操程度の身体運動、手指のグーパー&指回し運動を各5〜10分行った後のストループテストでは、最も負担が少ない手指運動後でいち早く反応するように(表1)。一過性でも指先を動かすことで脳血流が増え、目標や課題を遂行するために自己の意思や行動を調整する認知システムである、脳の実行機能が向上したといえます」

[表1]運動後のストループ⼲渉量の変化
出典:Abe T, Fujii K, Hyodo K, Kitano N, Okura T. Effects of acute exercise in the sitting position on executive function evaluated by the Stroop task in healthy older adults. J Phys Ther Sci, 30(4):609-613, 2018. (ストループ干渉量の変化)

ストループ⼲渉とは?

ストループ干渉とは、同時に提供される2つの情報が干渉し合い、理解を困難にする現象のこと。例えば、サンタクロースが青い服を着ていると違和感を抱くように、色とセットになっている情報に反応することを指す。上記のグラフには、どれだけ早く違和感に反応できるかの測定を4つの行動の前後で実施し、その変化量を表示。グラフのマイナス値は反応が早くなったことを示している。縦軸は反応速度の変化量、帯はアベレージを示す。

 冒頭で触れた“健康寿命”については、大藏教授も運動や認知訓練、社会参加など6つの心掛けが重要と指摘する(表2)。また教授の最新研究では高齢者の睡眠障害の改善策も示された。ここでも軽めの運動が効果を発揮し、入眠時間が短縮され、睡眠満足度も高まることが実証された(表3)。

[表2]健康寿命の延伸や認知症予防に必要な6つの⼼掛け

[表3]レクを⾏う時間帯と入眠潜時の関係

「高齢者の睡眠障害の改善を介して、認知機能に好影響を与える運動強度の解明」の研究は、高齢者60名を対象として、低強度運動を午前中(起床から正午まで)に行う「午前グループ」と、夜間(午後6時から就寝まで)に行う「夜間グループ」に30名ずつ無作為に分けて行われた。両グループ共に、メトロノームに合わせて、1分間に70歩の速さで高さ10cmの踏み台を使った踏み台昇降を毎日30分、8週間行った。

出典:Seol J, Fujii Y, Inoue T, Kitano N, Tsunoda K, Okura T. Effects of morning versus evening home-based exercise on subjective and objective sleep parameters in older adults: a randomized controlled trial. Journal of Geriatric Psychiatry and Neurology. 34(3): 232-242, 2021.(「高齢者の睡眠障害の改善を介して認知機能に好影響を与える運動強度の解明」)

「この研究はADL自立の高齢者を午前と夜間でグループ分けし、踏み台昇降運動を毎日30分間実施。8週間後、夜間グループで睡眠効果と中途覚醒時間に改善が見られました。注目すべきは、眠りにつくまでの入眠潜時が改善し、深い眠りによって満足感を得た人が多かったのが夜間グループだったこと。夜、ぬるめの湯船に浸かると副交感神経が優位になってよく眠れますが、それと同じ効果があると思われます。低強度運動で身体の深部体温が0.5度ほど上がった後、下がりだしたときに人は眠気を催します。そのタイミングで就寝するのがベストです」

Q 学術的な面から見て、どんなレクが有効ですか?

A まずは楽しめること!これが重要です

「まずは楽しく、⼈とのつながり(コミュニケーション)を⾼められることが重要です。そして、安全に取り組めることも忘れてはなりません。この2つを踏まえて、「歩く脳トレ」のように、運動を交えて⾏うとより効果が期待できます。特に歩⾏運動が重要で、これに加えて頭を使う(脳賦活)運動がベターです。同時に⼿指巧緻性動作(⼿指の運動)を⾏うとより効果的なので、⼿をグーパーしたり、ボールを投げるなどの動作をプラスすると良いでしょう」

不眠に悩む高齢者に朗報!夜やる軽い運動がカギ

 これを要介護者に応用するには、どのようなレク体制にすべきか。大藏教授は「踏み台昇降が無理な場合、椅子に座って足踏みをするだけでも効果はある」と語る。

「施設の夕食が午後6時開始なら、食後から就寝の3時間くらい前までの間に足踏み運動を取り入れたレクを行うと、より効果的だと思います。その際、運動と一緒に簡単な脳トレゲームもグループで楽しみながらできれば理想的。マルチタスクなレクには、認知症予防効果も期待されているからです」

 さらに要介護者もADL改善が期待できる、大藏教授イチ押しのレクは『介護レクリエーションで年末年始を楽しもう!②』で深掘りする。

⼤藏教授の結論
ベストなのは体を動かしながら脳トレもできるレクリエーション

地域でのレク活動中に思い付いたマスゲーム

大藏教授は以前、転倒&認知症予防プログラムとしてマス目をつけたマットを用いた「スクエアステップ®」を開発し、地域でレク活動をしていた。そのとき、参加女性がマットにお手玉を投げて遊んだのを見て思い付いたのが、運動と脳トレが一緒にできる「マットス®」だ。4×4個のマスにボールを4回トスして合計点を競う。投動作は車椅子やつえ歩行の要介護者でも実践可能。ボールが落ちた場所の合計点数を計算することで脳機能が活性化し、グループワークで人との交流も活発になる。実際、プレー中の脳血流量は素振りや引き算に比べて高い数値を示した(下図)。「皆さんワイワイ白熱してプレーされ、長期継続する方も多い」と大藏教授。マットス開発の経験から要介護者向けのレク作りのコツを問うと、意外な答えが。「地域でレク活動をしてきて実感したのは、高齢者は慣れ親しんだゲームなどを長く続けた方が安心して参加できるということ。毎回あれこれとレク作りに悩むよりは、マットスなどリハビリ効果の高いものを長期的に続ける方がいい。その際、“このレクを何のために続けるのか”という目的をしっかり伝えると、モチベーションも向上します。主軸となるレクが決まれば、他のレクは補強的に行えばいいので、担当スタッフも気が楽になるのでは?」(大藏氏)

「年1回マットス大会を企画し、練習を重ねるレクもおすすめ」と大藏氏。詳しいプレー方法は「マットス協会」でご確認を
各課題の実施前後の脳血流量の変化
出典:藤井悠也と大藏、ニュースポーツ“MATTOSS”実践中の脳血流量変化-近赤外分光法 (fNIRS)を用いた検討-第9回日本認知症予防学会学術集会、2019

クリスマス向け間違い探し

施設でも⼈気だという間違い探し。7つの間違いを探しましょう。拡⼤コピーしてご使⽤ください。
答えは『介護レクリエーションで楽しもう!②』へ。


構成=及川静/取材・⽂=菅野美和