こころメンテ

みんなの気持ち

第14回 4月に入社して1カ月が過ぎ、研修と実際の現場とのギャップに戸惑っています… 。

2023.05 老施協 MONTHLY

健康社会学者として活動する河合 薫さんが、介護現場で忙しく働く皆さんへ、自分らしく働き、自分らしく生きるヒントを贈ります。

介護職は〝感情労働〟 利用者が笑顔になればOK

 1カ月の研修期間が終わり、「いざ出陣!」と意気込んではみたものの…、研修がちっとも役に立っていないじゃないか! あんなに苦労して泣きながら必死に毎日頑張ったのに、なんでやね〜〜ん!――。そんな悲鳴を上げている新人さんも多いのではないだろうか。

 一方、新人を受け入れる先輩たちは、「決まったことしかできない新人ばかりで腹が立つ」「若い人の社会人レベルが年々低下している」「研修の講師によって差が出てしまう」などと、現場に反映されない新人研修にご機嫌斜めだ。かつて五月病は新人さんの特権事項だったが、最近は六月病になる中堅社員も多いとか。魔の季節の到来である。とりわけ介護職は感情労働なのでイライラは最大のタブー。介護する人の不機嫌が介護される人に伝染してしまうのだ。

 感情労働とは「感情」を労働の一部として提供している労働のこと。かつて肉体労働者が自分の手足を機械の代わりに動かし、モノを生産したように、感情労働では絶えず相手の要求や主張、クレームを受け止め、それが理不尽なものでも自己の感情を押し殺し、穏便かつ的確なサービスの提供が求められる。研修で学んだ通りの介助をしても、利用者が不愉快になったらジ・エンド。逆に、たとえ研修で身に付けたスキルとは全く違うやり方でも、利用者が笑顔になればモーマンタイ! 利用者の「安心・満足」が感情労働の成果物。そこに笑顔が加われば100点満点。人生の最終章に「光」を照らす、大変だけど温かい職業が介護士という職業の本質なのだ。

 では、研修で学んだ知識を、イレギュラーだらけの泥くさい現場で最大限に生かすにはどうしたらいいか? まずは「心」で感じ、その上で「頭」で動く。例えば食事の介助では、最初に利用者と同じ高さに目線を下げ、孫になったつもりでゆっくりと話し掛ける。「今日のお洋服きれいですね」「とても顔色がいいですね」といった具合に。利用者との心の距離が縮まったと感じたら、頭をクルクルさせて研修で学んだ知識を思い出し、食事介助のスタートだ。途中で分からないことや困ったことがあったら迷わず先輩にSOSを発信しよう。先輩のやり方が研修で教わったのと違ったら、なぜ?と聞けばいい。知識だけでは駄目、経験だけでも物足りない。現場で学び、現場で悩み、現場で熱くなる経験で人は成長する。利用者が教えてくれることも多いので頑張れ、新人さん!


健康社会学者(Ph.D.)/気象予報士

河合薫

Profile●かわい・かおる=東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(Ph.D.)。千葉大学教育学部を卒業後、全日本空輸に入社。退社後、気象予報士として「ニュースステーション」(テレビ朝日系)などに出演。その後、東京大学大学院医学系研究科に進学し、現在に至る。「人の働き方は環境がつくる」をテーマに学術研究に関わるとともに、講演や執筆活動を行う

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イラスト=佐藤加奈子