マネジメント最前線

日本全国注目施設探訪

第24回 福岡県北九州市 社会福祉法人援助会 デイサービス 聖ヨゼフの園

2024.03 老施協 MONTHLY

独自の取り組みでキラリと光る各地の高齢者福祉施設へおじゃまします!
※「第1回全国老人福祉施設大会・研究会議〜JSフェスティバル in 栃木〜」入賞施設を取材しています


利用者とスタッフが一緒に料理をすることで、認知症ケアに実績あり

キリスト教シスターたちの活動を受け継いだ老舗施設

 九州の北端にある福岡県の北部に位置し、本州に隣接した九州の玄関口といわれる政令指定都市である北九州市。その都心部であり、山陽新幹線も停車するターミナル駅であるJR小倉駅から西へ車で30分ほど行った八幡西区の閑静な住宅街の中にあるのが、「デイサービス聖ヨゼフの園」だ。

デイサービス 聖ヨゼフの園
面積1024.79㎡の敷地に立っている延床面積699㎡、鉄骨造りの2階建ての建物は、デイサービスとグループホームが併設されている
理事・鷹見台事業部統括・デイサービス管理者の逆瀬川陽祐さん
理事・鷹見台事業部統括・デイサービス管理者の逆瀬川陽祐さん

社会福祉法人慈仁会

1947年、フランス人のエミール氏をはじめ、カトリック煉獄援助修道会によって、ヨゼフ養老院を開設。1952年、社会福祉法人援助会を設立。1992年、特別養護老人ホーム聖ヨゼフの園を開設。2017年、認知症対応型通所介護(デイサービス)、認知症対応型生活介護(グループホーム)を開設。現在は、木戸邦夫理事長の下、これらの施設を運営している。

 第2次世界大戦後よりキリスト教のシスターたちが、八幡市(北九州旧5市の一つ)が営む養老院を訪問しながら奉仕を続けていたのを受け継ぐ形で、’47年にフランス人のエミール氏をはじめ、カトリック煉獄援助修道会によって、ヨゼフ養老院を開設。当初は、住む場所や身寄りのない人たちを救済してきた。その後、’52年に社会福祉法人援助会を設立し、’92年に特別養護老人ホーム聖ヨゼフの園を開設。そして、質のいいサービスを本体以外でも提供したいとの思いで、’17年に認知症対応型のデイサービス・グループホームである地域密着型施設をこの歴史ある住宅街に開設したのである。

 利用者は、北九州市在住で、原則65歳以上の認知症の診断を受けている要支援1〜2または要介護1以上の方を受け入れている。

[1]当施設では、認知症ケアのために、毎日利用者とスタッフが一緒に調理活動を行っている [2]体温測定装置などが備わり、コロナ対策も万全なエントランス

人に尽くす伝統の精神で地域と連携し社会に貢献

 同法人の理念は、「地域と連携し社会に貢献するために、『人に尽くす』伝統の精神を活かし、効果的事業を行う」としている。これは、人に尽くし地域に貢献するという同法人の伝統の良さを活かしながら、進化・安定をすることを目指す経営理念であるという。

 基本方針は、「全ての人は貴く、愛される存在であることを自覚する」「全ての人と心の触れ合いを大切にし、癒し癒される喜びの人間関係を追求する」「利用される方々が喜びの人生を過ごすことができるよう最善を尽くす」としている。これは、関わる全ての人に敬愛の念で接することが、介護の本質であり、人に尽くし、安心と喜びを提供することがこの職業の使命、そのためには、職業任務の遂行と人間的な良心を発揮することが大切だとして掲げている。

 建物は、面積1024.79㎡という敷地に、延床面積699㎡の鉄骨造りの2階建てで、住宅街の中に立っている。

 デイサービスの定員は12人。併設されているグループホームの居室は、全室個室で2ユニットの定員18人となっている。

 スタッフは、男性が7人、女性が15人の合計22人が在籍している。平均年齢は46歳である。

[3]利用者とスタッフが一緒に料理をするキッチンが備わるほか、さまざまな催し物も行っているデイサービスのリビング [4]全部で2ユニット定員18人となっているグループホームの個室 [5]利用者の体の状態に合わせて、リフトなどが備わった浴室

利用者の料理作りを通し今後は社会参加も視野に

 同施設では、毎日、利用者とスタッフが一緒に昼食を作るという取り組みを行っている。これは、調理だけでなく、献立決めから買い出し、配膳準備、片付けなどまでを役割分担をして、それぞれが今までやったことがないことをすることで、認知症ケアに大変効果があり、「料理療法」という療法として確立されている。

 その効果として、利用者も家で自発的にお手伝いをするようになったり、庭いじりをしたりと、今までやったことがないことを始めたり、発語も増えるなど、認知症の症状が緩和しているという。

 今後は、利用者と作った料理を地域の方に食べていただく場を設けたり、利用者と一緒に作った野菜を一緒に販売して、社会参加していきながら、地域貢献もしていきたいと考えているそうだ。

[6]利用者同士が集まって、食事やくつろぎの場にもなっているグループホームのリビング [7]地域住民には無料で開放し、さまざまなイベントが行われる地域交流センター [8]ウッドデッキがしつらえられ、日なたぼっこができる2階のテラス

【キラリと光る取り組み】
デイサービスでの調理活動がもたらした「輝き」
認知症ケアにおける調理活動が及ぼす効果

「第1回全国老人福祉施設大会・研究会議〜JSフェスティバル in 栃木〜」実践研究発表奨励賞受賞
理事・鷹見台事業部統括・デイサービス管理者 逆瀬川陽祐さん インタビュー
理事・鷹見台事業部統括・デイサービス管理者の逆瀬川陽祐さん
理事・鷹見台事業部統括・デイサービス管理者の逆瀬川陽祐さん

――この取り組みへのきっかけは、どのようなものだったのでしょうか?

逆瀬川:私が当施設の責任者に選ばれ、デイサービスとグループホームがどのようなものかは理解していたのですが、実際に働いた経験がありませんでした。特に、認知症対応型デイサービスに従事されている方も、周りにいませんでした。そこで、勉強しようと思い、さまざまなつてを頼って、いろいろな施設に見学に行きました。それを聞いた私の知り合いの紹介で、東京で一番最初にグループホームを造った有名な介護福祉士である株式会社大起エンゼルヘルプの和田行男さんとお知り合いになれまして、東京まで見学に行かせていただいたのですが、いろいろ案内された中で、デイサービスで料理をされていたのです。私の中では、デイサービスで料理をするという概念がなかったので、それがとてもセンセーショナルでした。利用者様20人の中でやられていて、「こんな人数でできるのですか?」と聞いたら「できますよ」と、事もなげでした。その体験を当施設に持ち帰り、スタッフに「当施設で料理をしようと思う」と相談したら、「私、料理ができないからデイサービスに応募したのに」と言われましたが、とりあえずやってみようと、やり始めました。最初は、認知症ケアに役立つと聞いて始めたのですが、調べてみたら、京都教育大学の湯川夏子教授が「料理療法」というのを提唱され、療法として確立されていました。始めた当初は、スタッフも乗り気ではない様子でしたが、利用者様の変化に少しずつ気付いていきました。利用者様が生き生きとして、認知症の周辺症状である帰宅願望や徘徊が強く出ていた方が、ちょっとキッチンに入って戻っただけで落ち着かれるのです。そのとき、名古屋女子大学の中西康祐准教授と知り合い、私たちが認知症高齢者の生活についての研究に協力することになりました。利用者様が私たちと行っている調理活動、ひいては役割を持つということが認知症にもたらす効果を掘り下げて数値化したところ、日常生活を観察して認知症の有無や程度を診断する「N式老年者用精神状態尺度(NMスケール)」では、進行を止めるのが難しいとされる認知症中核症状である会話、記銘・記憶、見当識の数値に変化はありませんでしたが、意欲の指標である「Vaitality index」の意思疎通と活動に関する数値が上昇、QOLの構成要素である対人交流、活動、意欲が向上するという効果がはっきりと表れました。それからは、スタッフも、これが認知症ケアとして当施設の売りになると自覚して、やりがいとなっています。

調査協力:名古屋女子大学 中西康祐准教授 提供:認知症対応型デイサービス 聖ヨゼフの園

――取り組みの具体的な内容は、どのようなものだったのでしょうか?

逆瀬川:毎日、私を含めてどのスタッフもキッチンに入り、利用者様に交代で担当していただくことになっています。調理だけではなく、献立決めから始めて、買い出し、切る、ちぎるなどの食材の下ごしらえ、焼く、煮るなどの加熱作業、盛り付け、配膳準備、皿洗いなどの片付けまで、7つのパートに分けて役割分担していただいています。大切にしているのは、今までやったことがないことに挑戦していただくことです。中西准教授もおっしゃっていますが、そういうことがQOLや意欲向上につながると、明確にデータに表れているということです。

[1]利用者とスタッフが一緒に調理活動を行っている、リビングに併設されたオープンキッチン [2]2口備え付けられているコンロは利用者の安全のため、IHが採用されている

――献立はどのように決められていますか?

逆瀬川:利用者様自身が細かく発案することは難しく、好きな食べ物や食べたい物を聞いても、大抵何でもいいとおっしゃられるので、一緒に料理の本を見ながら「これ、おいしそうですね」と相談しながら決めたり、昔どんな物を作られていたかを伺う回想法だったりです。ご本人が思い出せなくてもご家族に聞いたり、昔、たこ焼き店をやっていた方にたこ焼きを作ってもらったりもしました。そして、買い物が認知症ケアにものすごくいいです。認知症になられて一番少なくなるのが、社会との接点なのです。買い物に行くと人がたくさんいますし、物がたくさんありますし、たくさん歩きますし、IADL(手段的日常生活動作)として効果的です。

――安全対策としては、どのようなことをされているのでしょうか?

逆瀬川:もちろん全ての作業をスタッフが付いて見守るのですが、火をかけっ放しにしない、何かを取りに行く際、火元を離れるときは必ず周りのスタッフに周知する、油で揚げる作業はスタッフのみ、といったところでしょうか。開設して6年、 利用者様の刃物の事故は一回もありません。何年も包丁を持っていなかった方でも、指を切らないようにやられますし、手続き記憶があるのでしょう。利用者様はご自宅では、 「危ないから」 や 「時間がかかってしまう」などが理由で、 なかなか料理に携わることができていません。でも、当施設ならできるじゃないですか、とやっていただく。私たちはサイクルを大切にしており、依頼する、人に頼られる、できたら出来栄えがどうであれ褒める、自信がつく、満たされる。そうすれば、うれしいじゃないですか。そういう生活をしていく上での気持ちのスパイス的なものも大切だと思います。

[3][4][5][6]利用者は、献立決め、買い出し、食材の下ごしらえ、加熱作業、盛り付け、配膳準備、片付けといった7つのパートを役割分担して、毎日スタッフと一緒に昼食を作っている

――この取り組みの成果としては、どのようなものがあったのでしょうか?

逆瀬川:利用者様が、当施設に行きたいと思っていただいているのが一番じゃないですかね。当施設の利用者様は、認知症の進行に伴い、普通のデイサービスでの利用が難しくなった方や、デイサービスそのものの利用を拒否されてこられた方がほとんどです。多くの方が、入所寸前で家庭で面倒を見るのが限界、普通のデイサービスは無理。でも入所はまださせたくないと頑張られている方の最後のとりでだと思ってやっています。

――利用者様には、実際にどのような効果が見られるようになりましたでしょうか?

逆瀬川:家で自発的にお手伝いをするようになられたり、やったことがない庭いじりを始めたりされたそうです。今までにやったことがないことをやれるようになっています。また、発語も増えたりしています。やはり、役割を与えられるということが大切なのですが、その中でも調理活動がものすごく効果があるのではないかと思っています。

――この取り組みに関して、今後の課題、目標がありましたら、教えてください。

逆瀬川:この取り組みは非常に効果があり、ほぼ完成したかなと思いますので、やってみたいという施設さんがありましたら、アドバイスさせていただきたいと思います。あとは、利用者様と作った料理を地域の方に食べていただく場を設けたり、利用者様と菜園で野菜を作っているので、これを利用者様と一緒に販売したりすれば、いい社会参加になるとともに地域貢献になるのではないかと考えています。

[7][8]自分たちが食べる野菜を、利用者とスタッフが一緒に作っている家庭菜園

デイサービス 聖ヨゼフの園

社会福祉法人援助会
デイサービス

聖ヨゼフの園

〒807-0853
福岡県北九州市八幡西区鷹見台1-4-17
TEL:093-603-8222
URL:http://www.st-joseph.or.jp/service/day_service.html

[定員]
デイサービス:12人
グループホーム:18人(2ユニット)


撮影=山田芳朗・聖ヨゼフの園/取材・文=石黒智樹