マネジメント最前線

チームのことば

【INTERVIEW】ドクターメイト株式会社 サービス&コンテンツグループ 執行役員 根廻麻美

2024.02 老施協 MONTHLY

毎回、主に異業種におけるチーム作りのヒントを検証してきた当連載だが、今回は介護の世界が舞台。この業界としては珍しいスタートアップ企業として注目されているドクターメイト株式会社の執行役員で、看護師でもある根廻麻美さんに話を聞いた。介護の現場から医療へのアクセスは、当然日常的に行われなければならないのに、そこに大きな壁があると感じた若手医師、看護師、介護福祉士などが集まって、2017年から展開している新たなサービスとそのチーム作りに必要なこととは。


職種にかかわらずフラットにコミュニケーションをとることが大切
そのためには共通理念を明確にして、共有することが重要です

介護から医療へのアクセスを円滑にしたいという思いから

 ドクターメイト株式会社は、医師でもある代表の青柳直樹氏が介護の現場から医療サービスへのアクセスの悪さを解消するために、’17年に立ち上げたスタートアップ企業だ。お話を伺う根廻さんは、’19年から事業に参加している。

根廻「元々私は、総合病院で看護師をしておりまして、救急病棟、ICU病棟にいたんです。そこに運ばれてくる患者さんに接しながら、普段から予防的処置をしていたら入院せずに済んだのではないのだろうか、退院後の生活や看護はどう行われているかなど、何か病院外での看護というか、そうしたことに興味が湧いてきたんです。そんなとき、弊社の代表と縁があって関わらせてもらうことになりました。介護と医療は近いようで実は遠い。介護から医療へはアクセスしづらいという問題は、ますます深刻になってきていると思います。今は国全体として、入院日数をなるべく減らそうという動きがあって、その結果として、介護現場での医療がすごく必要になってきています。特に特養の利用者さんなど、要介護度の高い方に対して、より医療が必要なのは必然ですよね。でも現場に医師が常駐しているわけでもないし、看護師の数も少ない。結局、介護職員さんや看護師さんが利用者さんを病院に連れてくることになるんですが、早い段階で医療的な対応について相談できていたら、重症化せずに済んだ例もあるはずです」

 そこで生まれたのが、この会社の3つのサービス(写真下)だ。

介護施設の看護師に代わって、ドクターメイトの看護師が夜間オンコールの対応を行うサービス「夜間オンコール代行」。17:00〜8:30の間、看護師が電話で相談を受け、契約医師によるバックアップもリアルタイムで行えるのが強みだ。施設によっては夜間オンコール対応に看護師を手配できないところもあるので、画期的サービスといえる
介護施設スタッフからの入居者に関する相談に、専門医師がチャットで答えるサービス「日中医療相談」。各科の専門医師がチャットで相談に乗る仕組みで、的確なアドバイスをいち早く受けることができる
相談事例を基に、2022年から介護職員向けEラーニングシステム「DM-study(通称Dスタ)」を展開。自信を持ったケアにつながるだけでなく、医療知識を手軽に学ぶことができる

根廻「まず一つが、日中の医療相談サービス。職員さんがチャットを通して弊社の医師に相談できるというサービスです。もう一つが、夜間オンコール代行サービスと言いまして、日中は看護師さんがいても夜間は介護職員さんしかいないという場合、弊社契約の看護師が電話で相談を受けるというサービスになります。施設の看護師さんも自宅で夜間待機されていることが多いんですが、介護職員さんとしては昼間も働いているのを知ってますから、つい遠慮して、ちょっとしたことでは電話できないという場合に利用しやすいものになっています。こうしたサービスを提供させていただいた結果、介護職員さんのスキルアップのためのシステムが欲しいというお声も上がっていたので、実践に即した医療的な教育サービスとして、DM-study、通称『Dスタ』というEラーニングシステムを作りました」

相手がどういう立場であれ、普段から学ぶ姿勢を持って
周りが何に対して困っているのか考えることが大切です

先進性と柔軟性の考え方がチーム作りのサポートに

 これらの事業に対し、根廻さんはサービス&コンテンツグループ執行役員という肩書でチーム作りに関わっている。どのような業務を行っているのだろうか。

根廻「介護に関わりがある医師と看護師は、合わせて100名近く在籍しています。彼らの採用から教育、サービスのオペレーション作り、サービスのクオリティー管理などが私の役目になります。サービスのクオリティー管理というのは、相談内容、それに対するアドバイス内容が医療的に適切であったかどうか。また、接遇面で問題はなかったか、利用者さんのその後の状況などを検証し、PDCAを回して各スタッフで共有するなどしてサービスの向上につなげています。数十名の看護師が在職しているとお話ししましたが、看護師は電話相談を日常的に受ける経験が少ないですから、電話で利用者さんの状況を聞いて判断するってなかなか難しい。普段は直接患者さんを見て判断しますから。その意味でこうしたクオリティー管理は弊社の事業にとって重要です」

 在籍している医師、看護師は当然自宅での業務になる。’17年に事業を始めたということは、コロナ禍以前からこのスキームを回しているということだ。やっぱりスタートアップ企業は違う。一方で、意識の共有の課題について尋ねたら、今回のインタビューに同席していた広報の畠千広さんと叶兼稔さんが説明をしてくれた。

「例えば何かを相談したいときに、全社員で遠い地方にいる同僚へ、すぐに話すことができる環境が整備されています」

「弊社のバリューの一つに“信頼のシナプスを繋げる”とある通り、コミュニケーションを大切にするという組織文化があります。そのため、常に看護師や医師、社員含めて距離を感じさせない仕組み作りを心がけていますね」

根廻「オンコールナースは、独りぼっちでやっているとイメージされがちですが、実際はさまざまなツールを使って、多くのコミュニケーションをとっています」

 どうやら隣の同僚に「これどう思う?」などと、すぐ相談ができる環境が整備されているようだ。これはありがたい。

根廻「他に働く看護師の仲間が年々と増えていく中で、オンコールのクオリティーを担保しつつ、看護師のみんなに気持ち良く働いてもらうために弊社独自のラダー制度も整備しているんです」

 この方式だと、就業方式に地方と都市部の格差がなくなるというメリットもありそうだ。

根廻「介護施設の看護師を集めるのは大変だと聞きます。採用できない理由として大きいのが、夜間待機があるというケースが多いそうなので、弊社のサービスを使って採用しやすくなったというお話も、ありがたいことによく伺います」

「看護師さんは医療的判断をする業務はありますが、病院と違って医師が常駐していないと、看護師さんに責任や精神的負担がのしかかってくる部分があります」

根廻「看護師さんは元々病院で働いていた方が多いので、(医師が常駐していない)介護現場に来ると、そのギャップに驚いて離職が増えてしまうといった声も結構いただいています。そのようなときに、365日いつでも医師へ相談できるドクターメイトの医療相談サービスも看護師さんの安心材料につながっているようです」

「各施設に嘱託医さんはいるんですが、全科にわたって嘱託契約していることは、あまり見ませんね。でも弊社のシステムなら、各科の専門の医師と契約していますので、そこも強みですね」

右がマーケティンググループユニットリーダーの叶兼稔さん、左がマーケティンググループ広報の畠千広さん。叶さんは大手コンビニやゲーム会社などでデザインやマーケティングを担当。畠さんはウエディングプランナーとしてフリーでも活躍できるほどの地位にいたが、共に家族が介護に関わっていることがきっかけでこの会社に参加した
医師、看護師、施設のチーム連携が大切だという「夜間オンコール代行」サービス。導入施設とは医師監修のマニュアルを共有し、必要に応じて夜間体制作りのアドバイスも行っているという。このシステム導入で、夜間オンコールがネックで看護師が集まりにくいという問題解消だけでなく、救急搬送が8割も減少した施設もあるという
ドクターメイト株式会社では、顧客とのコミュニケーションや社内会議など、一部の業務をリモートで行っているという。現実のオフィスでの業務と比較すると、話し掛けに行きやすい環境でもあるとのことだ

職種の専門性を超えて信頼関係を築くために

 さまざまなシステムやサービスを活用したスキームには感心するばかりだ。一方、本連載のテーマでもあるチームワーク。その礎となるスタッフ間の信頼関係を築くための難しさというのは、皆さんは感じていないだろうか。

「私自身は医療従事者ではないのですが、そういう資格のある人に相対するときには、今でもちょっと心理的ハードルは高くなることがあります。変なこと言ったら怒られるんじゃないかとか。そうしたことを思わせないためには、普段から学ぶ姿勢を持って、相手が何に困っているかをまず考えるといった、コミュニケーションが重要になってくるかなと思いますね」

根廻「誰とでもフラットに接するということは結構考えていると思います。この業界独特なんでしょうが…(やや言いよどんで)やっぱりヒエラルキーがすごいんですよ。それが畠さんも感じている話しにくさにつながっていると思っていて、職種で言っていいことと悪いことなんかないというスタンスは社内外に対して意識していると思います。結局、職種間でのコミュニケーションがうまくいかなくて困るのは利用者さんだったり患者さんだったりしますから」

 職種にかかわらずフラットにコミュニケーションをとる。そのために何か方策はないだろうか。

根廻「施設理念を明確にするというのが大切かなと思います。医師、看護師、介護福祉士、ケアマネ、事務職も含め、みんなが何のために自分がここにいるのか、それが施設の理念にきっと表れていますよね。医師のミッション、看護師のミッションの前に、施設のミッション。それが共有できればおのずとみんなが同じ方向を向いてくるのではないかと思います」

 今回は本社オフィスにお邪魔したのだが、根廻さん、同席した広報のお二人も含め、オフィスはみな若い人ばかりだった。どうやってこれだけ若いメンバーだけで、介護サービスの会社を立ち上げることができたのだろうか。

「みなバックボーンはいろいろだと思うんですが、何かしら介護の現場に対しての課題を感じるきっかけがあった人間がほとんどだと思います。僕はデザインやマーケティングが専門だったんですが、妻が介護職員なので、その課題を身近に感じていました」

「私は一番長いのはブライダル業界なんです。ただ家族が施設に入所して現実を知ったので、うまく次の世代にいいものをいい形にしてバトンタッチしていきたいなと」

 根廻さんは前述の通り、元々看護師だが、宮城県出身だ。

根廻「ちょうど高校を卒業したばかりで東日本大震災に遭ったんです。その時点で看護師になることは決めてはいたんですが、身近でああいうことが起きるとやっぱり覚悟は変わりましたね。震災直後はみなアドレナリンが出ているし、頑張ろうって意欲も湧くんですけど、だんだん心理的に疲弊していって、患者さんや利用者さんはもちろん、職員さんの心理的サポートが必要になってくるときが必ず来ると思います。今回の能登の被災地にも、そうしたサポートを届けることができたらと感じています」

 今回は若くて有能な人材が、介護の世界に続々と集まっている現場を目撃することができた。最後に、同社、そして根廻さんの5年、10年先のビジョンを伺ってみた。

根廻「今の事業は施設のサポートという形ではあるんですが、5年後、10年後は、介護と医療をつなぐ中の一つの仕組みになっていたいなと思っています。日本は今のままじゃ介護費、医療費がかかり過ぎですし、人材も不足していて、持続可能な仕組みにはなっていないと思う。それを持続可能な仕組みに変えるお手伝いが、少しでもできればと思っています」

 必ず根廻さんの想いがカタチになっていることだろう。

根廻さんを囲む、ドクターメイトの医療チームのメンバー。ラダー(はしご)と呼ばれる、個々の能力を段階的に評価する仕組みを詳細に作成することで、メンバーの役割を明確にできたことがモチベーションアップやチームワークに寄与しているという
医師、看護師、介護士、弁護士をはじめ、さまざまな経歴を持つ若いスタッフたち。社員は約130人。平均年齢は35.4歳(アルバイト含む・インターン除く)という、フレッシュなチームだ

ドクターメイト株式会社 サービス&コンテンツグループ 執行役員 根廻麻美

ドクターメイト株式会社
サービス&コンテンツグループ 執行役員

根廻麻美

Profile●ねまわり・まみ=宮城県大崎市生まれ。総合病院看護師を経て2019年ドクターメイトに入社。「管理者経験がなかったので」という理由から、2020年に千葉大学大学院看護学研究科に入学。同校ではケア施設看護システム管理学を専攻し、看護に特化したマネジメントを学ぶ。2023年に同社の執行役員に就任。「社名にもあるメイト(=仲間)として、介護現場に寄り添って支えていき、メイトをもっと増やしていきたい」と語る


撮影=磯﨑威志/取材・文=重信裕之