マネジメント最前線

日本全国注目施設探訪

第21回 茨城県水戸市 社会福祉法人豊心の会 特別養護老人ホーム アクティブハートさかど

2023.12 老施協 MONTHLY

独自の取り組みでキラリと光る各地の高齢者福祉施設へおじゃまします!
※「第1回全国老人福祉施設大会・研究会議〜JSフェスティバル in 栃木〜」入賞施設を取材しています


「あたたかく もっとあたたかく」をモットーに、QOLの向上にチャレンジ

地域福祉に貢献している地元企業設立の社会福祉法人

 茨城県の県庁所在地となっており、人口約27万人の中核市である水戸市。その中心部の水戸駅から車で約10分ほど南下した郊外に位置する酒門町の住宅地の中にあるのが、特別養護老人ホーム「アクティブハートさかど」だ。

特別養護老人ホーム アクティブハートさかど
面積7203.95㎡の敷地に立っている延床面積4214.13㎡の建物は、鉄筋コンクリート造りの2階建てと平屋の2棟が連結されている
理事・施設長・社会福祉士の大関雄志さん
理事・施設長・社会福祉士の大関雄志さん

社会福祉法人豊心の会

2001年、水戸ヤクルト販売株式会社が母体となり、社会福祉法人「豊心の会」を創設。初代理事長は、水戸ヤクルト販売株式会社元名誉会長の赤木昭さん(故人)。2002年、特別養護老人ホーム「アクティブライフさかど」(後に改名)を開設。2015年、つぼみさく保育園を開園。2019年、つぼみさくyume保育園を開園。現在は、今井久允理事長の下、これらの運営を行っている。

 社会福祉法人といえば、母体が医療法人や同族経営というケースであることが多い中、同施設を運営している社会福祉法人「豊心の会」の母体は、地元企業であり、40年以上にわたり福祉ヤクルトや一人暮らしの高齢者を訪問する「愛の定期便活動」などを展開し、地域福祉に貢献してきた水戸ヤクルト販売株式会社となっている。

 初代理事長は、水戸ヤクルト販売株式会社の元名誉会長である赤木昭さん(故人)が就任し、’01 年に同法人を創設。そして’02 年、特別養護老人ホーム「アクティブライフさかど」(後に改名)を開設。現在は、今井久允理事長の下、同施設などの運営を行っている。

 利用者は、水戸市内や隣接市町村から来る方が中心となっている。同施設がある酒門町は、水戸市中心部から近く、面会に便利で自然環境にも恵まれているため、利用者や家族に好評だそうだ。

[1]外の景色を見ながら利用できる井戸水を使った掛け流しの足湯 [2]屋根が備わる車寄せがあり、雨にぬれずに済むエントランス

消臭効果などを期待して施設の床下に竹炭を敷設

 同法人の理念は、「人生を より楽しく 元気で」。利用者一人一人にとって楽しみある生活を送っていただきたいとの思いを表現している。また、モットーとしては「あたたかく もっとあたたかく」。先代理事長より、「もっと」には常に探求し続けていこうという意味合いも込められている。行動指針としては、「私たちは、福祉サービス業の専門職として利用者・地域のために尽くし、自分が受けたいと思う福祉サービスの実現のため常に改善し続けます」としている。

 設備の特徴としては、消臭効果、マイナスイオン効果を期待して、約90tもの竹炭の粉末を国内各地から取り寄せ、施設内の床下や柱などに敷き詰めている。

 また、感染症予防の効果を期待する観点から、利用者とスタッフに「毎日飲用」として、乳酸菌飲料(ヤクルト)を無償配布している。この毎日飲用を開始した6年前から、インフルエンザは入居者に発生していないという。

 スタッフは、男性19人、女性56人の合計75人。この中には、外国人スタッフとして、中国人1人(パート)、スリランカ人1人(介護福祉士)、ミャンマー人2人(技能実習生)が在籍している。平均年齢は、47歳となっている。

[3]吹き抜けで明るく広いエントランスホール [4]可動式間仕切りでプライバシーが保たれている従来型の多床室 [5]それぞれに洗面所が設けられているユニット型の個室
[6]地元のアーティストである手塚雪生さんが手掛けたエントランスホール上にあるステンドグラス [7]利用者同士が集まって、食事やくつろぎの場にもなっている従来型のリビング [8]それぞれにキッチンが用意されているユニット型のリビング

見守り支援器を導入して根拠を持って介護を行う

 同施設では、’16 年より茨城県の補助金を活用して見守り支援器を導入している。これは、スタッフに科学的根拠を持って介護に取り組んでもらいたいという思いからだ。特に認知症の利用者に対して睡眠状態を把握し、それに合わせたサービスを行っている。その結果、睡眠の質が改善され、夜間の中途覚醒や離床時間が減少、認知症BPSDの改善にもつながった。

 今後も、見守り支援器のデータをしっかり分析し、看護師や他のスタッフと共有しながら、根拠を持った介護、予測できる介護を行っていきたいとしている。

 なお、この取り組みは、去る’23年1月に栃木県で開催された「第1回全国老人福祉施設大会・研究会議~JSフェスティバルin栃木~」の実践研究発表において優秀賞を受賞している。

[1]看護師が常駐しているナースステーション [2]チェアー浴など、利用者の体の状態に合わせた機械浴のある特殊浴室 [3]気持ちのいい空や景色が見渡せる広い屋上スペース [4]木を多用し、心安らぐ雰囲気の居室の廊下 [5]リハビリやグループレクリエーションが行われるデイサービスセンター [6]イベントや地域交流が行われるウッドデッキが設けられたテラス

【キラリと光る取り組み】
認知症利用者の睡眠データに基づく個別ケア実践事例
見守り支援器を活用した取り組み

「第1回全国老人福祉施設大会・研究会議〜JSフェスティバル in 栃木〜」実践研究発表優秀賞受賞
ユニットリーダー・介護福祉士 佐藤里美さん 有村幸智枝さん 相田剛志さん・理事・施設長・社会福祉士 大関雄志さん インタビュー
(左から)ユニットリーダー・介護福祉士の佐藤里美さん、有村幸智枝さん、相田剛志さん
(左から)ユニットリーダー・介護福祉士の佐藤里美さん、有村幸智枝さん、相田剛志さん

――この取り組みへのきっかけは、どのようなものだったのでしょうか?

大関:2016年から見守り支援器を導入しました。不眠を訴えるご利用者がいらっしゃったので、スタッフに確認すると、実際にどれくらい睡眠できているのか分からないことがありました。そこで、睡眠を計測できる器具があればはっきりするし、何よりもスタッフには根拠を持って介護に取り組んでもらえると思ったのが導入のきっかけでした。実際に睡眠データを確認すると、このご利用者には不眠傾向が強く出ていました。いろいろ試行錯誤したものの、結果として根本的な改善には至りませんでしたが、そのときに根拠を持って介護する取り組みの手応えを感じたのを記憶しています。今回の事例では明らかな改善に結び付くことができ、うれしく思います。

佐藤:新しく入所されたご利用者Aさんは、混合型の認知症があり、中核症状である記憶障害や見当識障害が出ており、さらに大腸がんを患っていて、排便コントロールが必要な方でした。入所される前にいた他の施設では、部屋の中にトイレがあるという環境だったのですが、当施設には部屋の中にトイレがなく、夜間にトイレを探して混乱してしまうことが多かった。トイレを探して夜中歩いてしまったり、排泄を失敗してしまうと、精神状態が不安定になり、ボストンバッグに衣服などを詰めて夜な夜な持ち歩いてしまうのです。それで、夜眠れなくて、昼夜逆転になって、昼間も眠れなくて他のご利用者にいら立ち、怒ってしまったり、ささいな光や音で暴言を吐くようになってしまいました。そのAさんの不安や困り事をスタッフみんなで理解したいと思い、その方の精神状態の安定と笑顔で生活していただけるように、この発表の取り組みを実施しました。

――取り組みの具体的な内容は、どのようなものなのでしょうか?

佐藤:最初は1ユニットに1台ずつ計3台導入しました。眠れていないと思われるご利用者や排泄のタイミングをつかみたい方、入所間もない方などを優先しながら、そこから数年かけて少しずつ増やしていきました。

大関:その後は、現場のスタッフが頑張って使いこなしてくれました。見守り支援器は、使い方を間違えると離床センサーのようになってしまう。だから、最初に使ってもらうときに、これは離床センサーではなくて、睡眠分析装置なんだと言って、スタッフに理解してもらうことで、うまく効果が発揮できているのではないかと思います。

――導入した見守り支援器は、皆さんどのように活用していますか?

有村:私の担当しているユニットでは、認知症のご利用者が多く、排泄のタイミングがつかめる方が少なくて、夜間に声を掛けることがあるのですが、ご本人としては、何で寝ているのに起こすのかという感じで、暴力的な言葉や行動が出てしまっていました。そこで、覚醒時間や尿意便意がある時間に合わせて、排泄誘導をするということに使いました。

相田:自分の担当しているユニットにも、不眠傾向のご利用者がいらっしゃって、精神科の病院で睡眠薬などをもらっていたのですが、睡眠の状態がよく分からないまま処方されているので、効き過ぎてしまったりしていました。見守り支援器を導入してからは、睡眠の状況をリポートの形で先生に正しく伝えることができるので、薬の処方など、より適切な対応ができるようになりました。

佐藤:私は起床ケアに使っていまして、ご利用者の目覚めや起き上がりなどが全て分かるので、しっかり覚醒したタイミングで起こしてあげて、それでお食事を召し上がっていただいています。体が眠った状態だと、誤嚥性肺炎のリスクなどが高まるので、そういうところに気遣いながらやっています。

――この取り組みの成果としては、どういったものがありましたか?

佐藤:見守り支援器の夜間データから、中途覚醒などの睡眠状態をスタッフ全員が把握して、それに合わせたサービスを提供できたことで、ご利用者の睡眠の質が改善して、QOLの維持向上につながっています。データを活用することで、その方の体調に合わせたサービスが可能になり、さらに日頃の睡眠状況がデータとして残るので、ケアカンファレンスの際、データを見ながら体調の変化などを根拠を持って見直すことができるようになりました。また、睡眠の状況がリアルタイムで分かるので、覚醒したタイミングでケアに入ることができ、認知症の方のBPSDを防ぐことができます。そして、データからこのサービスはやって良かったのだという結果として見えるので、スタッフのモチベーションアップにもつながっていると思います。

有村:朝、出勤して必ずデータを見て、皆さん眠れているかなとか、昨夜何やっていたんだろうとか、ケースを拾って調べてみようとか、人数の少ない夜勤中の様子が分かるのは安心感があります。また、データをスタッフで共有すると、おのおのの考えのずれが客観的に分かるので、主観的な感情が少なくなり、スタッフ同士のコミュニケーションが円滑になりました。そして、自分の仕事のタイミングではなく、ご利用者の状態のタイミングに合わせて、自分で考えて仕事ができるようになったことが、モチベーションアップ、スキルアップにつながっていると思います。見守り支援器は、使いだすともうなくてはならないものになっていますね。

相田:起床時などにデータを見て、眠れていなかったら、今どれくらい寝かせていいのか見て分かって納得するケアができます。

大関:データが残るので、根拠を持った介護、予測できる介護に結び付いています。

――見守り支援器という新しいものを導入する際は、大変だったのではないでしょうか?

大関:最初は少しずつ緩く始めて、現場のスタッフも少しずつ慣れながら自然に使いこなしてくれたので、そんなに大変だと感じたことはありませんでした。

――見守り支援器を運用していく上での問題点は何かありましたでしょうか?

大関:先日、見守り支援器のメーカーさんとは、時短や介護の質の向上につながるアイデアを意見交換させていただきました。

有村:設定によっては、少し起きただけでアラームが鳴るので、すぐに訪室するとご利用者から「どうして起きたことが分かったの?」と気にされるため、タイミングを見計らって訪室した方が良いと感じる場合もあります。

大関:体動で検知するので、ベッド上で全く動かない方は常に睡眠モードの表示になってしまって、使えないという弱点もありました。

――この取り組みに関して、今後の課題や目標がありましたら、教えてください。

佐藤:排泄の失敗だけではなく、排便のコントロールも眠りに深く関わっていたことに大変気付かされました。便秘や下痢、体調の不良が続いたりすると、夜眠れなかったり昼間不安定になります。今後は、見守り支援器のデータをしっかり分析し、看護師の方や他のスタッフときちんと連携しながら、アプローチしていきたいと考えています。

[1]利用者のベッドマット下に設置し、センサーの役割を果たす見守り支援器 [2]見守り支援器から送られてきた利用者それぞれのデータはパソコンで一覧できる

特別養護老人ホーム アクティブハートさかど

社会福祉法人豊心の会
特別養護老人ホーム

アクティブハートさかど

〒310-0841
茨城県水戸市酒門町字西割4390番
TEL:029-248-5511
URL:http://ah-sakado.com/

[定員]
特別養護老人ホーム:80人(従来型50人、ユニット型30人)
ショートステイ:10人
デイサービスセンター:25人


撮影=山田芳朗・アクティブハートさかど/取材・文=石黒智樹