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【INTERVIEW】エリアマネジメント横須賀共同事業体 代表企業 株式会社日比谷花壇 副所長 マーケティングマネージャー 軽部雄太/株式会社イノベーションパートナーズ 広報 若林広明

2023.11 老施協 MONTHLY

東を東京湾、西を相模湾に挟まれた三浦半島に位置する神奈川県横須賀市。この西側の海に面した場所に「長井海の手公園 ソレイユの丘」という広大な都市公園がある。今年4月、日比谷花壇を代表企業とする民間9社の共同事業体が大規模なリニューアルを行い再オープン。過去最高を記録した2019年度の数字を半年でクリアする勢いで来園者数を伸ばし、注目を浴びている。副所長を務める軽部雄太氏と、広報担当の若林広明氏に、官民連携、異なる業種の共同事業体、本部と現場などでの意識の共有の秘訣を聞きに伺った。


専門性の違う会社が集まって一つの方向性に
向かうためにはコンセプトの共有が大切です

民間9社による共同事業体 かつ官民連携という難しさ

 元々この「長井海の手公園 ソレイユの丘」(以下、ソレイユの丘)は、’05年に体験型農場公園としてオープン。フランス語で太陽を意味する「Soleil(ソレイユ)」を名前に持ち、南仏プロバンス風の建物を園内に配置し、当初から地元での人気は高かった。横須賀市は開園から民間の指定管理者を入れて運営を行ってきたが、大規模なリニューアルを行うにあたり、新たな管理事業者を公募。日比谷花壇を代表企業とする共同事業体のプランが採用され、大幅なリニューアルを経て今年4月にオープンした。リニューアル時には敷地面積を広げ、花畑の面積を約2倍にし、全長約300mのジップライン(宙づりになって空中を進むもの)を備えた高さ約15mのアスレチックを新設。他にもフリーキャンプ場を拡大し、新たにグランピングコテージやトレーラーキャビンなどを整備したり、ドッグランやVR等のスポーツ&ゲーム施設の新設、飲食施設もテナント制を導入した。これに従来からある温浴施設なども加えると、単なる公園というより、終日楽しめて宿泊もできる本格エンターテインメント施設といえるだろう。

「長井海の手公園 ソレイユの丘」は、2005年の開園から民間の指定管理者に運営を任せ、運営だけでなく整備、施設建設まで民間に委ねる「Park-PFI制度」を活用した最初の公園でもある
日比谷花壇は長年公共施設運営事業に携わってきた。花には当然こだわりがあり、今回花畑の面積は約2倍に。アスレチックは約15mを上る本格的なもので、ジップライン乗り場でもあり展望台でもある頂上へは階段でも行ける

軽部「実は横須賀市は人口流出が流入を上回っていて、移住、定住の促進というところも、リニューアルの目的にありました。ですので、エンターテインメント施設以外にも、Wi-Fi完備のワーケーションスペースを作り、地域交流やリモートワークにも使ってもらえるようにしてあります。ただ、それ以前に移住促進には、市外、県外から来る人たちにもっと知ってもらわなければいけないですよね。ここは市民には観光地なんですが、例えばマザー牧場みたいな施設から比べれば市外、県外の認知度はまだまだ低い。そこでファミリー以外の層にも幅広く訴求できる施設を多く新設しました」

若林「横須賀市の東海岸には記念艦三笠をはじめ、多くの人がイメージする横須賀の代表施設がある一方、われわれはヨコスカウエストコーストという呼び方をしているんですけど、西海岸には西海岸の良さがあると思っています。横須賀市としても観光拠点としてこちら側を充実させたいという指針があり、このソレイユの丘は西海岸の良さが全部詰まっているシンボルになり得ると思っていますね」

軽部「やっぱり東側にはない景観だとか、時間の流れのゆっくりさとかですね。だからここでキャンプをするのは楽しいんだと思います。(日比谷花壇の)社内に横須賀に元々住んでいる人物がいて、このプロジェクトにも参加してもらったんですが、その人が言うには、ここにしかないものって、ゆっくりした時間の移ろいと、大きな空と太陽。これが紡ぎ出す景観の変化だって言うんですね。夕日が海に沈むときの輝きとか」

 一方、こうしたコンセプトを、9社で擦り合わせ、さらに官民で連携するのは大変だったようだ。

軽部「京浜急行電鉄さんのような電鉄会社をはじめ、建築だったり設計だったり、専門領域が違う会社が集まりますので、意識の擦り合わせは大変だったと聞いています。各社が思うこだわりや市の公募資料や広報資料などから読み解くコンセプトを片っ端からホワイトボードに書き出していって、時間をかけて絞り込んでいきました。『海と大地と、人をつなぎ、新しい出会いと発見のある場所へ』というビジョンと、『YOKOSUKA WEST COAST STYLE PARK』というテーマができました。市との連携においても、公共施設としての役割とエンターテインメント施設としての立ち位置の認識合わせは大変だったんですが、市が掲げる目標からずれないという点に留意して、各社と話し合いを進めていきました」

日常でもあり、非日常 新しいエンタメ施設を構築

 公園としての日常と、エンターテインメント施設としての非日常、今後どちらに力点を置いた運営がされていくのだろうか。

若林「どちらかが重要というより、両方大事なわけです。地元の人たちには、それこそ毎日でも来ていただける日常であってほしい半面、遠方の人たちに注目されるには、ここ独自の魅力や非日常性もないといけないと思うんです。その掛け合いをうまく組み込んでいくのは今後の課題ではありますね」

軽部「非日常という点ではグランピングやアスレチックがリニューアルの目玉ですが、われわれは日比谷花壇で生花業なので、花に対するこだわりもあります。生花業ならではのノウハウで、旬の花がない時期にも楽しんでいただけるような工夫もしているんです」

若林「生花だけではない、花の見せ方というところですね」

軽部「この長井ベース(写真3枚目)の入り口にある車全体をサボテンで装飾したオブジェとかは、私たちならではのものだと思います。『すべての明日に、はなやぎを。』というのが日比谷花壇の企業ポリシーで、このソレイユの丘ほどこの言葉を体現できる施設はないと」

そもそもの始まりである農業体験も充実。秋の収穫イベントはここならではのものとして、ファミリーを中心ににぎわい人気を博した
海を望むグランピングコテージはじめ、トレーラーキャビン、車を横付けするオートキャンプ場など、キャンプ施設は多様性に富む
無料スペース「長井ベース」。ここはワーケーションスペースとしてリモートワークの場所や、地域交流の拠点にも活用される
この施設にペットが入れなかったのがむしろ驚きだが、リニューアルに合わせてドッグランを含め、ペットのための施設も充実させた

 日常でもあり、非日常でもあるエンタメ施設。こうした難しいコンセプトを現場のスタッフと共有するのもまた難しそうだ。

軽部「現場のスタッフの皆さんは、われわれが参加する以前からいらっしゃる人も多く、こちらから見れば大先輩。なので敬意をしっかり持ちながら、今後の運営や対応について密に意見交換はしました。ここは最初からソレイユ=太陽をテーマにした公園だったので、太陽のように明るく元気に健康的に、お客さまに笑顔を与えられる存在じゃなきゃいけない、だからいつでも笑顔でいようと。シンプルですがそういうふうに現場スタッフとは意識を共有しています。やっぱり非日常って、感動や驚きを伴うものだと思いますし」

若林「現場のスタッフさんにはテナントの方もいますので、共有値を上げていくには、そうした言葉による共通認識は必要なんです」

車全体をサボテンで装飾したオブジェや建物入り口のフラワーアレンジメントなどは生花業ならでは。右に書かれた「YOKOSUKA WEST COAST」はこの施設にとって大事なワードなので、ロゴもこだわって制作したという

リピーターを増やすにはまだまだ多くの施策が必要

 リニューアルから半年で過去最高の来園者数に迫る勢いで、国土交通大臣賞も受賞。今回のプロジェクトは大成功なはずだ。しかし、既にお二人は下半期に向けて危機感も持っていると言うのだ。

軽部「われわれの感覚としては、この8月くらいからリニューアル景気はなくなってきたように感じています。ニュースで報道される機会も減ってきましたし。一回は面白そうなので来た。で、良かったからまた来たい!を作り出すことが大事だということは、プロジェクト開始時から考えています」

若林「季節のイベントをはじめ、いろいろな企画をトライアルとしてやっています。何が正解かはこれから成果を見てですが、やはり花は訴求しやすいと思います。例えばナノハナの季節、マザー牧場にナノハナを見に行っても、来週はまた違うお花の名所に行こうとなることが多い。定番の花は押さえつつ、ここにしかないものをどうやって訴求していくかが課題ですね」

軽部「今(10月下旬)はコスモスが咲いているんですが、アスレチック施設の上に作った展望台から眺めると、施設のロゴマークと同じ形に見えるように花で月をかたどったりしているんです。他にもウチならではのコンテンツを作るというのは伝え方も含め、まだ難しさも感じています」

若林「SNSなどで発信はしているんですけど、さらに工夫をしていきたいと考えています」

軽部「夏のヒマワリ、冬のナノハナは元々定番のイベントとしてソレイユの丘にも根付いている。なのでそれを大切にしながら、いろいろ考えていきたいですね」

 最後に、これからのソレイユの丘のビジョンをどう捉えているか、お二人それぞれに伺ってみた。

若林「広報の立場では、個人、団体、さらに幅広い年齢層に向けて、いろいろな仕掛けを今後も続けていかなければならないと感じています。公園としての公共性も維持しつつ、市と一緒になってエンタメ施設としての自由度も上げていければいいかなと思っています」

軽部「地元の人にとって、ここは小さい頃にはよく来たけど大きくなったら行かない、思い出の場所になっていたんです。それを違う思い出に変えたいなと思っています。例えば記念日とか大切な日だからこそソレイユに行くみたいな施設にしたいんです。今回『ヴェント・レオーネ』という、ハイクオリティーなイタリアンレストランを誘致したんですが、これによってソレイユの丘が大人のデートにも使える施設という部分が訴求できていると思います」

 他にはない景観と時間を体験しに、ぜひ出掛けてみてほしい。

チーム運営がうまくいった結果、「第39回都市公園等コンクール」の都市公園制度制定150周年記念部門で最高賞となる国土交通大臣賞を受賞。10月下旬に表彰式が行われた。官民連携で既存施設と新規施設の相乗効果が発揮されたといった点が評価された

エリアマネジメント横須賀共同事業体 代表企業 株式会社日比谷花壇 副所長 マーケティングマネージャー 軽部雄太

エリアマネジメント横須賀共同事業体
代表企業 株式会社日比谷花壇
副所長 マーケティングマネージャー

軽部雄太

Profile●かるべ・ゆうた=2020年入社し、地域創生事業統括部に所属。2021年から、「エリアマネジメント横須賀共同事業体」として公募採択された「長井海の手公園等交流拠点機能拡充事業」のリニューアルへ向けた準備に携わる。2023年4月のリニューアルオープン後は、副所長兼マーケティングマネージャーとして、集客アップの方策やリピーター確保の方策を立案している

株式会社イノベーションパートナーズ 広報 若林広明

株式会社イノベーションパートナーズ
広報

若林広明

Profile●わかばやし・ひろあき=2020年にイノベーションパートナーズに入社。地域創生やブランディング等の新規事業開発やPR、プロモーション支援事業を行っている。ナショナルクライアントのプロモーション支援や地域創生事業に携わり、長井海の手公園 ソレイユの丘では広報担当として、市外、県内外への情報発信に力を入れる


撮影=磯﨑威志/取材・文=重信裕之