マネジメント最前線

日本全国注目施設探訪

第17回 神奈川県相模原市 社会福祉法人蓬莱会 特別養護老人ホーム ケアプラザさがみはら

2023.08 老施協 MONTHLY

独自の取り組みでキラリと光る各地の高齢者福祉施設へおじゃまします!
※「第1回全国老人福祉施設大会・研究会議〜JSフェスティバル in 栃木〜」入賞施設を取材しています


利用者も家族も後悔せずに最期を看取る「心残りゼロケア」を実践

自然と都市が融合している好立地の特別養護老人ホーム

 神奈川県北部に位置する首都圏のベッドタウン、相模原市は、近年、リニア中央新幹線「神奈川県駅(仮称)」が建設中ということもあり再開発が進み、マンションや商業施設の建設ラッシュなど急成長している。それでいて、近くには、丹沢山地や大きな公園が複数あるなど、自然と都市が融合。また、橋本駅は、JR横浜線と相模線、京王相模原線の3線が乗り入れ、圏央道相模原インターチェンジもあるなど、鉄道や自動車でのアクセスもいい。そんな好立地にあるのが、特別養護老人ホーム「ケアプラザさがみはら」だ。

ケアプラザさがみはら
総面積9494.76㎡の敷地に立っている延床面積7562.79㎡の建物は、鉄筋コンクリート造りの4階建てとなっている

社会福祉法人蓬莱会

1979年、医師であった大塚寶初代理事長が、徳島県に社会福祉法人「蓬莱会」を創設。1980年、特別養護老人ホーム「蓬莱荘」開設。2003年、高齢者総合ケアセンター「ケアプラザ美馬」開設。2012年、特別養護老人ホーム「ケアプラザさがみはら」を含む、高齢者ケアセンター「ケアプラザ相模原」開設。2014年、高齢者総合ケアセンター「ケアプラザ多摩」開設。現在は、大塚忠廣理事長の下、各施設を運営している。

 ’79年、地域老人ホームの嘱託医であった大塚寶初代理事長が、徳島県に社会福祉法人「蓬莱会」を創設。その後、徳島県に高齢者福祉施設を2拠点開設したのだが、徳島県は高齢者福祉施設が人口に対して全国で一、二を争うほど非常に多く、次の施設は全国で施設が足りない場所に開設し、社会に貢献したいという想いから、深刻な施設不足の首都圏近郊に決め、大塚忠廣理事長の母校である北里大学を擁する相模原という縁のある地に、特別養護老人ホーム「ケアプラザさがみはら」を含んだ高齢者ケアセンター「ケアプラザ相模原」を開設したのだという。

 利用者は主に相模原市内の方が多いが、大塚小百合施設長(取材当時)が出演しているYouTube「ゆるっとかいご」を見て問い合わせてくる方もいるそうだ。

[1]「アウトリビング」と名付けられた総面積1431.8㎡の広大な庭は、芝生やバーベキュー場、藤棚、花壇、畑などが設けられている [2]パラソルやテーブル、椅子も用意され、ちょっとしたオープンカフェのよう [3]建物横も、大きな木々が植えられ、「散策ロード」と名付けられた散歩道になっている
[4]3階までの吹き抜けとなっている、大きな窓で明るい1階の地域交流ホールでは、コンサートなどさまざまなイベントが行われ、家族や地域住民との交流の場となっている [5]まるで高級マンションのように重厚な、屋根が備わり、雨にぬれずに済むエントランス [6]地域交流ホールには、誰でも利用できるピアノが常設され、利用者も演奏を楽しんでいる
[7]4階テラスにはウッドデッキが設けられ、ここでも植物や野菜などが育てられている [8]便利な都市部にありながら、自然も豊かな住みよい立地 [9]「ほうらいクレド」カードを持つ施設長の大塚小百合さん(取材当時)

「アウトリビング」という利用者がくつろぐ広大な庭

 建物は、鉄筋コンクリート造りの4階建てとなっているが、特徴的なのは、「アウトリビング」と名付けられた総面積1431.8㎡の広大な庭が用意されており、芝生やバーベキュー場、藤棚、花壇、畑などが設けられ、さまざまなイベントが行われたり、利用者がくつろぐ憩いの場となっている。

 居室は、全室個室となっており、面積は13.27㎡と広く、そのうち、22室が面積23.1㎡とさらに広い特別室として用意される。

 スタッフは、現在、男性31人、女性82人の合計113人となっており、平均年齢は44歳である。

 その中で、外国人スタッフも積極的に受け入れており、現在、技能実習生としてベトナム人4人、バングラデシュ人2人、留学生としてネパール人3人、ミャンマー人1人、インドネシア人1人の合計11人が従事している。

[1]居室は全室個室となっており、面積は13.27㎡と広いもの。そのうち、22室が特別室として面積23.1㎡とさらに広いものとなっている [2]白を基調とした明るく清潔な居室の廊下 [3]地域交流ホールの吹き抜けとなっている2階、3階からも、1階で行われるイベントを見ることができる [4]利用者同士が集まって、食事やくつろぎの場にもなっているリビング [5]4階にあり眺めが良く、窓に囲まれて明るい共同スペース [6]チェアー浴やストレッチャー浴など、利用者の体の状態に合わせた機械浴のある特殊浴槽

病院でなく施設での看取りが全国平均件数の約2倍に増加

 蓬莱会の理念としては、「敬愛」「奉仕」「協和」を掲げているが、具体的に毎日どう行動したらいいかということを意識するため、スタッフは「ほうらいクレド」というクレドカードを常に携帯している。

 同施設の特徴としては、利用者一人一人の尊厳を大切にした「ユニットケア」を行っており、さらに、事業目標として、「心残りゼロケア」を掲げている。これは、利用者が老衰などで終末期を迎えるにあたり、本人や家族の希望を早期に話し合い、双方納得の上、病院ではなく施設で、後悔しない看取りを実践するという取り組みだ。

 この取り組みによって、同施設で看取った件数が、全国平均の約2倍に増加したという。

 なお、この取り組みは、「第1回全国老人福祉施設大会・研究会議〜J Sフェスティバル in 栃木〜」実践研究発表において、優秀賞を受賞している。

【キラリと光る取り組み】
「心残りゼロケア」への挑戦 寄り添い、共に紡ぐACP

「第1回全国老人福祉施設大会・研究会議〜JSフェスティバル in 栃木〜」実践研究発表優秀賞受賞
施設長(取材当時) 大塚小百合さん インタビュー
施設長の大塚小百合さん(取材当時)
施設長の大塚小百合さん(取材当時)

――この取り組みを始められたきっかけは、どのようなものだったのでしょうか?

大塚:今までは、利用者さんがいよいよ食事を食べられなくなってきたといったところから、ご家族に対して、この先の看取りのお話を切り出すということをしていたのですが、食べられなくなってから実際に進んでいく期間は人それぞれなものの、そのスピードが速い方もいらっしゃって、結局、家族が看取りの話を大事に考えたいと思っていても、考える時間もなく、施設ではなく病院で終末期を迎えるということが多々ありました。それは、ご家族だけでなく、スタッフにも本当にあれで良かったのかというもやもやが残ることも多かったのです。もっと早く家族に話しておけば良かったのではと思いつつ、こういう話はスタッフから切り出しにくい、縁起でもないとご家族に怒られるパターンもあります。それで、看取りの話、いわゆるACPは、ご本人が元気な内から、ご本人がどういう最期を希望するのか、それに対して家族はどう寄り添っていくのかということを話し合っていく過程をしっかりしていきたいと、スタッフから意見が上がってきた中で、私がご家族に看取り説明会を行ったというのが最初です。

――この取り組みを始められた結果は、どのようなものだったのでしょうか?

大塚:多くのご家族が参加してくださって、利用者さんが元気なうちの早い段階で、ご本人がどうしたいかという話をご家族としっかり話し合って、ご本人の意向に沿った最期の迎え方というのをみんなで協力して支えていき、心残りゼロで送ることを目指そうということを、説明会で始めました。しかし、終末期の延命治療や老衰で自然に亡くなった様を具体的に見た方は、ご家族、スタッフ共にほとんどいません。そこで、スタッフ向けにも同じ説明会を開催し、ご家族とスタッフが双方共通した理解を持って話し合い、情報を共有することで、進行がスムーズになりました。

――大塚さんご自身も、お母様の看取りを経験なさっているのですよね?

大塚:自分も母親をがんで亡くした経験の中で、終末期に食事ができなくなったとき、家族として不安でした。でも、本当は食べられなくなるから死ぬのではなく、死にゆく体だから食べられなくなる。体が終末期へ向かっての準備を始めていて、水分や栄養も必要な分だけしか欲しないという状況の中で、無理に栄養や点滴を入れてしまうと、かえってむくみや痰絡みになったり、腹水がたまったりと、結果的に本人を苦しめることになることも起こり得るのです。実際、私も不安から病院に点滴を入れてくれと頼んだところ、どういう状況ですかと聞かれたので、ご飯が食べられないのですと言うと、病院から、ご飯が食べられないのは病気ではありません、と言われてしまいました。結局、病院にできることは、終末期の老衰死と同じで、点滴を入れるしかなかったのですが、母は痰が絡んですごく苦しそうで、体もぶよぶよにむくんでしまいました。そういう母の最期を経験して、今でも心残りになっています。もし当時、この知識を知っていたら、あのような選択はしなかったんじゃないか、母がどういう最期を迎えたいかという話も全然していなかった、本人を苦しめたという後悔もあって、実体験をご家族に話す中で、そういう思いをご家族にしてほしくないと強く思いました。そんな思いでこの取り組みを行っていった結果、当施設で看取る件数が全国平均の約2倍に増えました。また、スタッフの中にも、ACPへの取り組みを先進的に行っている施設に見学に行きたいとか、専門家である講師の方もお呼びしたいなど、看取りに関して積極的に取り組んでいく動きが出てきました。

――やはり日本では、病院で亡くなられてしまう方が多いのでしょうか?

大塚:当初、当施設の看取り率は、退所者の33%と、全国平均と同じレベルでした。特別養護老人ホームを退所される方というのは、基本的には病院に転院して帰ってこられなくなるか、死亡退所のどちらかです。よって、残りの7割は病院で延命対処をなされていました。それが、当施設で最期を迎える利用者さんがだんだん増えていき、今では退所者の6〜7割が、当施設で亡くなることを選択してくださっているということです。

――利用者さんもご家族も、施設と病院のどちらを希望しているのですか?

大塚:そこをきちんと話したことがないご家族がほとんどで、日本人の8割が病院で亡くなるのです。これは、国際比較をした際、福祉先進国のスウェーデンやオランダを見ると、在宅や施設というのが病院と同じくらいの割合です。なぜかというと、日本では、死に関して話すのがタブーとなっている文化の中で、どう死と向き合うかというのをきちんと話す機会がないのです。ですから、当施設でそういう機会を積極的につくっていく。老衰で自然に看取っていくということに関して、施設がどうしてくれるのか、苦しいのか苦しくないのか、今までご家族も想像がつかなかったから選択できなかったのですが、お話ししていくことで、穏やかで眠るように亡くなるというのが分かるし、延命治療するのも、メリットとデメリットがあるということも知る。その中で、最終的な選択のポイントは、利用者さんご本人が何を望んでいるかということ。例えば、家族や友人に囲まれて、最後まで食べたいものを食べて、好きな音楽を聴いて、穏やかに亡くなりたいのなら施設もありですし、病院は基本的に治療する場所なので、本来死を迎える場所ではありません。病院で亡くなったご遺体というのは、誰にも見せずに霊安室に運び、退院時も誰にも見せずに裏口から退院します。当施設では、利用者さんが亡くなられたら、みんなで表玄関からお見送りしています。それが、病院と施設の死の取り扱い方の違いなのです。もちろん、ご本人の希望であれば、病院で治療を続けて1分1秒でも長生きすることが悪いことではありません。どちらがいい悪いではなく、ご本人の意向と擦り合わせていく過程が大事なのです。その結果、施設での最期が望ましいとなれば、当施設としては、全力でお手伝いさせていただきます。

[1]利用者が亡くなられた際、家族、他の利用者、スタッフが参加して行われるお見送り会 [2]利用者に寄り添う大塚さん

――今後の課題や目標としては、どのようなものがあるのでしょうか?

大塚:今回、私が発表した研究をスタッフに引き継いでもらいたいと思っています。この取り組みは、私だけでなく、スタッフが中心になっていろいろ提案しながらやってくれたものであり、看取りの方法論に関しても、スタッフがフローチャートを作ってくれたのが大きく、こういう形で一つの仕組みができたのです。ご家族に、ご本人らしい最期に向き合ってもらえる仕組み作りができたので、今度は質を上げていきたい。そのために、看取りを終えたご家族にアンケートを取って、その中で一つ一つの質をどう上げていくのかというのが、今年度の看取り委員会のミッションで、来年の研究発表は、この続きでお願いしたいです。スタッフの中には、ご家族に対する関わり方に不慣れな人や、このような仕組みを作ってもまだ抵抗がある人もいるため、今後も引き続き、質の向上というものをしっかりやっていきたいと考えています。


特別養護老人ホーム ケアプラザさがみはら

社会福祉法人蓬莱会
特別養護老人ホーム

ケアプラザさがみはら

〒252-0135
神奈川県相模原市緑区大島295番地
TEL:042-713-3818
URL:https://horaikai.or.jp/spot/sagamihara1

[定員]
養護老人ホーム:130人
ショートステイ:10人


撮影=山田芳朗/取材・文=石黒智樹