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介護職員に対する処遇改善について考える① 政府が行う「介護職員処遇改善加算」の現状

2023.07 老施協 MONTHLY

介護人材確保のため、介護職員の待遇改善は喫緊の課題
’24年介護報酬改定における処遇改善加算の統一化に期待

介護職員の給与アップが離職防止のカギになる

 介護人材の確保においては、一定の議論がなされている今日、介護職員の報酬が少ないことも問題視されてきた。それを解消するべく、 政府は報酬の改善を行っているこ とをご存じだろうか。

 こうした介護職員の報酬などについて、今回より3回のシリーズでお届けする。第1回は、処遇改善加算の統一化について考える。

 介護職員の給与は、岸田内閣の『新しい資本主義』により、’22年2月から月額約9千円が引き上げられた。だが、それでも年収は平均300~400万円(夜勤含む)であり、他の業種と比べると、水準が低いことが分かる。

 厚生労働省では’25年には約243万人の介護職員が必要だと指標を出しているが、現状は全く足りていない。現場で働く介護職員の収入を上げていかなければ、モチベーションが下がり、離職率は上がる一方になる。そこで、人材不足の解消を目的に作られたのが「介護職員処遇改善加算」だ。

 この「介護職員処遇改善加算」は、非正規雇用職員(パート、派遣社員)にも適用される。ただし、この加算を取得するには要件がある。事業所において、キャリアパス要件や職場環境等要件を満たす必要があるのだ。満たす要件によって、加算される金額は異なる。

 また、この加算分は、事業所が必ず職員に賃金として渡さなければならない。そのために、事業所は自治体に、介護職員処遇改善「実績報告書」を提出しなければならない。加算額が、事業所によって違うのも特徴だ。

 今回より3回にわたって、経済学や政治学をベースに、介護と医療を中心とした社会保障政策を研究されている淑徳大学教授の結城康博さんにお話を伺う。

現役職員による座談会【介護現場のリアル】

事業所によって介護職員の報酬が違う?

特養に勤める職員Aさんと訪問介護会社に勤める社員のBさん。どちらも他業種から介護職に転職し、賃金の変化が少なからずあるようだ。

A「地域に密着した特養で、最初は月給が少な過ぎて、嫁に怒られた。手取りで月給は14万円しかなかった。これで正職員だからなあ。でも2年目から介護報酬や手当が付くようになったけど、まだ低いよね。ただ、代わりに残業もないし、夜勤も他の事業所より短いという優遇もある」

B「うちは特定事業所でもあるから、事業所に手当が入るようで、月収25万円くらいにはなるよ。訪問だと移動時間も残業が付くから。介護報酬で月に幾らか付くみたいだし、介護福祉士になり、また上がったよ。親会社の方針で、事業所を増やし、ベースアップもあるかもしれない」

介護職員の処遇改善加算 統一化を行うことは必至!

 介護人材不足が深刻化しているが、いまだに全産業と比べて低賃金であることが大きな要因の一つであることは否めない。政府も介護職員の処遇改善策を講じてきており、一定の努力はうかがえるが、さらなる改善策が必要である。

【図1】処遇改善に係る加算全体のイメージ(令和4年度改定後)
注:事業所の総報酬に加算率(サービスごとの介護職員数を踏まえて設定)を乗じた額を交付。
出所:厚労省HP「処遇改善に係る加算全体のイメージ(令和4年度改定後)」より作成

 現在、①介護職員処遇改善加算、②介護職員等特定処遇改善加算、③介護職員等ベースアップ等支援加算と、3種類の処遇改善加算が存在している。’22年10月時点の取得率は高いものの、取得していない事業所がまだまだあるということも見て取れる(図2を参照)。

【図2】介護職員の処遇改善に関する加算の取得状況
※②介護職員等特定処遇改善加算、③介護職員等ベースアップ等支援加算は対象サービスの全請求事業所数に占める割合
出所:厚労省HP「介護職員の処遇改善に関する加算等の取得状況」より作成

 特別養護老人ホームといった社会福祉法人などでの取得率は高い傾向だが、小規模介護事業所、例えば、地域密着型、訪問介護などといった分野においては、取得していない事業所も一定数あると聞く。

 その要因としては、3種類もの加算が設けられているため事務作業の負担が指摘される。特に、小規模介護事業所ではかなりの負担となっており、取得率の差異に影響を及ぼしている。そのため、’24年介護報酬改定においては処遇改善加算を一つにまとめ、統一化することを期待したい。

処遇改善加算引き上げによる利用者の自己負担増の懸念

 処遇改善加算のさらなる引き上げは期待したいが、どうしても利用者自己負担増の懸念が生じてしまう。「介護職員処遇改善支援補助金(’22年2月~9月の賃金引き上げ分)」であれば、全額国費であるため、利用者への自己負担を懸念する必要はないが、加算方式ではそうはいかない。

 確かに、介護職員の処遇改善は利用者に寄与してもらうことも考えられるが、全ての利用者が賛同するかといえば疑問である。小規模介護事業所の経営者の一部には、利用者への負担を懸念して、あえて取得しないというケースも見受けられる。このような経営者は、一定の理念に基づいて介護事業を展開している傾向にあるが、働いている介護職員にとっては賃金引き上げの機会が得られなくなりデメリットとなる。

 その意味では、財源問題から実現性はかなり難しいと考えられるが、筆者は処遇改善加算に関しては、利用者自己負担分を課さない制度にしていくべきと考える。実際、居宅介護支援費(ケアマネジャー)は、自己負担を課されていない。

介護職員の待遇改善は職員確保のため最優先事項

 今後の介護現場において、介護職員の待遇改善は喫緊の課題である。生産年齢人口が減少傾向にある中、ますます介護職員の確保・定着は難しくなっている。他産業も人手不足が生じているため、人材獲得競争は激化している。

 介護業界が労働市場で勝ち抜いていくためにも、処遇改善施策の充実は不可欠であり、’24年介護報酬改定の行方を注視していきたい。

今月の回答者
結城 康博さん

淑徳大学 総合福祉学部 社会福祉学科 教授
淑徳大学大学院 総合福祉研究科 社会福祉学専攻 教授

結城 康博さん

Profile●ゆうき・やすひろ=1969年生まれ。法政大学大学院修了(経済学修士、政治学博士)。介護職、ケアマネジャー、地域包括支援センター職員として従事。元社会保障審議会介護保険部会委員。「介護職はいなくなる ケアの現場で何が起きているのか」(岩波書店)、ほか著書多数


取材・文=一銀海生