マネジメント最前線

チームのことば

【INTERVIEW】株式会社すかいらーくレストランツ SKR社長直結 営業政策・人事チーム リーダー 北島 正慶

2023.07 老施協 MONTHLY

最近、「ガスト」「バーミヤン」など、すかいらーくグループのレストランで配膳を担当する猫型ロボットをご覧になった方も多いのではないだろうか。2021年の暮れ頃から導入が始まり、グループ全体約2900店のうちの約2100店、台数にしておよそ3000台の導入が完了したのが2022年末。たった1年という期間で、現在必要と思われる店舗への導入がほぼ終わっているのだ。聞くと、このスピード導入には社内の精鋭で結成した特命チームの活躍が大きいといい、今回はこの特命チーム運営担当者の北島正慶氏のお話を伺ってきた。


組織が大きくなるほど方針と一人一人の役割を明確にし
スタッフ同士のコミュニケーションが大切になってくる
そして最後にしっかりとレビューをすることが大事です

猫型の配膳ロボット導入は顧客サービスの向上のため

 すかいらーくグループの店舗で現在、話題沸騰の猫型配膳ロボットの名前は「ベラボット」と言い、PUDUという中国の会社の既製品だ。現在「ガスト」「バーミヤン」「ジョナサン」「しゃぶ葉」の4つの業態を中心に、一部他の業態のレストランにも導入されている。コロナ禍の最中には外食産業が大きく売り上げを減らし、かつ人手不足も深刻というニュースが流れていた。そのため時期的にみてこの配膳ロボット導入には人員削減、作業効率化の目的があるのかと思いきや、そうではないのだそうだ。

北島「人員削減は最初から考えておらず、現状から接客サービスをさらに向上させるにはどんな手段があるかというところから検討がスタートしました。たまたまロボ導入時はコロナ禍だったので、非接触のサービスにお客様からもお褒めをいただくなどタイミングが良かったとは思いますが、コロナがきっかけではないです」

 ロボット導入の期待と成果というのはどこにあったのだろう。

北島「一番大きいのは従業員が配膳をしなくてよくなったことですね。従来は料理を運びながら入り口のお客様を気にしていたのが、来店するお客様に集中できるようになりましたし、空いた時間で店内の掃除、ドリンクの補充など、他のことに手が回るようになったことで、サービスの向上につながりました。数字的な検証でいうと、従業員一人当たりの歩行数で4割くらい減っています。お客様が帰られた後、テーブルを片付けて次のお客様をご案内するまでの時間は平均35%くらい削減できています。売り上げもピークの時間帯で2%ほど伸びましたね」

「ガスト」など、主力ブランドだけで27業態、約2900店舗を全国に展開するすかいらーくグループ。猫型ロボットはすかいらーくレストランツが運営する2063店舗に配置済み

ファミリーレストランというサービス業の原点に立ち返る

 そして冒頭でも書いたように、約2100店舗、およそ3000台のロボット導入を、わずか1年で達成。しかも特に現場の混乱もなく、あっという間にスムーズにオペレーションできていることが業界内でも注目を浴びている。この成功には、ロボット導入ミッションのために組織された特命チームの力が大きいという。

北島「最初にロボット導入を予告したときの現場の反応というのは、やっぱり半信半疑なんですね。ロボットに何ができるのか、逆に自分たちの作業が増えるんじゃないかという声もありました。そうしたところにロボットの販売業者さんが筐体を運び入れて、簡単に設定してあとは店舗スタッフにお願いしますでは、きっとうまくいかないと考えました。従業員、お客様それぞれにとってどういう設定をしたらいいかは、やはり内部の人間でないと分からない。そこで店長経験者などオペレーションを熟知したメンバーからなる特命チームを本社に作って、インストラクターとして店舗に派遣。1日かけて研修し、店舗ごとの特性なども勘案して現場スタッフや販売業者さんと共に設定を作っていくという手法を取りました。研修を重ねるごとにインストラクターにもさまざまな店舗での経験値が蓄積される上、先に導入した店舗スタッフの好評価も伝わって、次の店舗への導入がよりスピーディーになるという効果もありました。この特命チームなくしては、導入の途中で止まったりせずに、逆に加速するというところまでは行かなかっただろうと思っています」

 チームは最大17名在籍していたというから、1年の間に1人のインストラクターが100店舗以上の研修を担当していることになる。導入時にチームリーダーだった花元浩昭さん(後述)によれば「どうしても本社から誰か来るとなると現場スタッフが身構えちゃう。ですが、このミッションは現場からも喜ばれ、インストラクターも高い使命感と達成感を味わえたのが良かった」ということだ。

北島「チームメンバーからは、やっていてすごく楽しい、お客様にもスタッフにも感謝される、本当にサービス業としての原点に立ち返った感覚を持てているという感想が多いです。ロボット自体がかわいいので、お客様からも好評。お子さんなどは、従業員が接客に来るとがっかりされちゃうこともあるそうです(笑)。スタッフからもかわいがられていたりして、楽しい職場だから気持ちも乗っていくし、従業員にとっていいお店は、お客様にとってもいいお店になるという効果も感じています」

店舗で活躍する猫型配膳ロボット「ベラボット」は、子供たちから大人気。表情が変わったり、耳をなでると反応するが、触り過ぎると嫌がる設定になっているそうだ。店舗内にはいわば架空の線路が敷かれていて、複線区間や単線区間も決められているのでロボットたちはぶつからずに擦れ違えるという。今のところは配膳(上げ膳)専用で、片付け(下げ膳)には使わないが、一部食べ放題の店舗では下げ膳用のパスボックスが下の段に置かれている

DXにおいて大切なことは創出した時間の使い方

 かくして飲食業界における新たなDXのモデルを圧倒的スピード感で成功させた北島さんから見て、介護業界におけるDXにどんなイメージを持たれているか、ちょっと強引だが同じ顧客サービス業のお一人として伺ってみた。

北島「私は介護業界には全くの素人なので意見を申し上げるのはせんえつですが、今回のロボ導入を経験して思ったのは、DXによる効率化で生まれた時間を何に充てるかを最初に決めておくことが重要かなと感じています。例えば介護施設であれば、部屋に入った瞬間に要介護者の方のデータがタブレットなどで見られれば、検査・検診以外のコミュニケーションに時間を費やせますし、さらに介護しているスタッフの動きもデータとして集めると、要介護者それぞれにどれだけの時間や手間をかけているかなどが可視化されて、コミュニケーションやサービスの不公平感などをなくすこともできるかもしれませんね。私の考える顧客サービスとは、相手によって対応を全て変えていかなければいけないものなんです。ですから、聞くことがすごく大事で、お客様が何を考えていて、どうすると喜んでもらえるか、いつでもどんどん聞き出していって、自分の対応を変えていくべきだと思っています。常連様と言われるお客様はそのことの繰り返しによって定着されていくものです。介護業界では個々の要介護者の方の情報を複数のスタッフで共有されていると思いますが、飲食店でも昨日あるお客様と話した内容が今日は他のスタッフに引き継がれていくというのにDXが役に立つかもしれませんよね。お孫さんがサッカーの試合に出るって聞いたら、試合後にどうでしたか?と聞くだけで、自然と話が膨らみますものね」

 2900店舗もの店舗数を抱えてそこまで考える…?

北島「店舗数は関係ないと思います。一店一店の積み重ねがたまたま2900という数字なだけ。商品を売るなら、性能と品質を担保した同じ商品を製造することが求められているかと思いますが、飲食業では一店一店、一人一人のお客様に合わせてサービスを提供しなければならないと考えていますね」

 伺っていると、業界最大手でありながら顧客満足度が高い、すかいらーくグループの強さの一端が見えてきた気がする。何か、特徴があって伝統的なフィロソフィーがグループにあるのだろうか。

北島「個人的な回答になりますが、組織に大事なものとして、方針と作業割り当てというのは常に意識しています。組織が大きくなるほど方針を明確に、何のために動いているかを示さないと、個々がいろんなことを見失ってしまいます。そして一人一人の役割を明確にして、だからあなたは必要な人材なのだというところまで伝えることが大事だと思います。今回のロボ導入も、この役割分担の明確化は役に立ったと考えています。次にコミュニケーションをしっかり取ること。上司と部下の間はもちろん、従業員同士の関係性も店舗にとっては大事になってくるので、常に気を配らないといけないですね。ある方針に向かう途中段階では、コミュニケーションを密にすることが目標達成のためになおさら大事なことだと思います。そして最後にしっかりレビューをすることです。ロボットの導入でいえば、先ほどお話しした歩行数や片付け時間の削減はフィードバックした上で、さらに数字を良くするにはどうしたらいいかといった具合に、そこで止まらないようにコミュニケーションを取りながら考えていくようにしています」

ロボット導入の責任者の花元浩昭さんと北島さん。花元さんは、今回採用したPUDU社を含め、3社の配膳ロボットを比較検討した結果「ベラボット」に決定した。そのかわいい見た目も決定理由の一つではあるそう。今回のスピード導入のチーム作りも行った。この知見、ノウハウも、北島さんが言うように伝承されていくことになるだろう

地位や役職を問わず、常に教育を施し
教育を受け続けるのが接客業の本質です

お店での体験を良くするため
組織の目標は外に設定する

北島「組織というのは、どうしても内側に目が行きがちです。数字的な目標は内側の設定としては分かりやすいんですが、じゃあそれは何のためにクリアすべき数字かというと、お客様の満足度を上げ、店舗での体験をよりいいものにするためです。つまり、組織の目標は本来、外にあるものである。と、そこまで理解してもらうように努めています。評価と効果と言いますか、個々のスタッフに、あなたはこういうことができるのが素晴らしい。だけどここを良くしたらもっと喜ばれるよね、といった具合にいいところを評価しつつ、新たな課題を出す。この繰り返しが、モチベーションも上げ、サービスも向上させていくポイントではないかと思っていますね」

 ここまで丁寧にスタッフ、顧客に対して考えながら3000店近い店舗で同品質のサービスを提供できているところが、グループの力なのだと感じた。最後に、北島さんにとっての顧客サービスの、今後のビジョンについて伺った。

北島「人は言われたことをただやっていると、マンネリ化するし、惰性で動くようになってしまいます。ただ、お客様にどうしたら喜んでもらえるかというのは、極論すると答えがないんです。何万人のお客様がいたら何万通りの対応があるわけですから。答えがないからいくらでも努力できる。“よりおいしく、よりきれいに”も突き詰めていったら際限がないですよね。だから現場のアルバイトさんのように業務が特化されていてそのことに集中しているスタッフの方が、時に社員よりすごい人材に育っていったりします。こうしたスキルや経験値をどれだけ次の世代に伝えていけるか、教えていけるかという仕事にしていきたい。そういう意味では、もう本当にひたすら教育。社員、アルバイト問わず、どの役職になろうとずっと教育をし、教育を受け続けるのがすかいらーくのような会社の仕事なんだろうなと感じています」

 こうした真摯な姿勢を貫く人が本部にいるところが、すかいらーくを外食産業の雄に押し上げたのだと納得させられた。

配膳の時間から解放されたスタッフはより接客サービスに専念できるようになり、かわいいロボットともども評判は上々だという。名札を付けて、お客さんにも喜ばれているロボットもいるそうだ
「チーズINハンバーグ&海老フライ」(ガスト)、「バーミヤンラーメン」(バーミヤン)、「藍屋華膳」(藍屋)など、和洋中問わず幅広い店舗展開をしているすかいらーくグループ。誰もが一度は味わったことがあるだろう

株式会社すかいらーくレストランツ SKR社長直結 営業政策・人事チーム リーダー 北島正慶

株式会社すかいらーくレストランツ
SKR社長直結 営業政策・人事チーム リーダー

北島正慶

Profile●きたじま・まさよし=1996年入社。店舗マネジャーを経て、新店の立ち上げ担当、エリアマネジャー、人事・教育担当、営業推進、IT開発チームのリーダーなど、本部の役職を歴任し、昨年から現職。現在は営業政策担当でもあり、人事担当でもある。従業員のモチベーションアップと増収を両面で検討するプロジェクトを現在進行中だという


撮影=磯﨑威志/取材・文=重信裕之