マネジメント最前線

日本全国注目施設探訪

第12回 富山県氷見市 社会福祉法人ひみ福祉会 特別養護老人ホーム つまま園

2023.03 老施協 MONTHLY

独自の取り組みでキラリと光る各地の高齢者福祉施設へおじゃまします!
※令和3年度全国老人福祉施設研究会議(鹿児島会議)入賞施設を取材しています


利用者とスタッフの安全、安心のため 多様な介護ロボットを積極的に導入

氷見市の多くの高齢者をトータルケアしていく

 北陸は富山県の北西部にあり、富山市から車で1時間ほど行ったところ、能登半島の付け根に位置し、富山湾に面しているため、漁業や観光業で有名な氷見市。そこにあるのが、氷見市の木である「つまま」の名を冠した特別養護老人ホーム「つまま園」だ。

特別養護老人ホーム「つまま園」の外観
総面積9612.57㎡の敷地に立っている延べ床面積5783.16㎡の建物は、従来型施設が収まっている平屋に、2007年にユニット型施設「つまま園たぶの里」が収まっている3階建てが増設されている
施設長の坂本博之さん
施設長の坂本博之さん

社会福祉法人ひみ福祉会

1985年、氷見市柳田で医院を営んでいた医師の初代山本一男理事長が創設し、法人認可。1986年に特別養護老人ホーム「すわ苑」開設。1992年に特別養護老人ホーム「つまま園」およびデイサービスセンター、在宅介護支援センター、2007年にユニット型特別養護老人ホーム「つまま園たぶの里」、2016年に定期巡回・随時対応型訪問介護看護事業、「ひみ福祉会実務者研修センター」を設立している。

 ’85年、氷見市柳田で医院を営んでいた医師の初代山本一男理事長が、昭和の大合併で一郡一市となり、県内他市と比べ高齢化率が高かった氷見市の高齢者と関わる中で、介護に困っている人々を何とか助けてあげたいという思いから、社会福祉法人「ひみ福祉会」を創設し法人認可。翌’86年には、氷見市で初めての特別養護老人ホーム「すわ苑」を設立。そして、’92年に特別養護老人ホーム「つまま園」およびショートステイ、デイサービスセンター、在宅介護支援センターを設立、’07年には同施設内にユニット型の「つまま園たぶの里」を増設している。ちなみに「たぶの里」は、「つまま」の別称「タブノキ」が由来である。他にも定期巡回・随時対応型訪問介護看護、地域包括支援センター灘浦地域相談窓口など、地域の高齢者に対してトータルケアを行っている。

 利用者は、農業や漁業などの地場産業に従事していた氷見市内の方がほとんどだという。

[1]移乗用ロボット「Hug L1」を使用して、利用者の立位保持をサポートしている様子 [2]屋根が備わり、雨にぬれずに済む車寄せがあるエントランス [3]コロナ対策もしっかり行っている、明るく広大なエントランスホール
[4]移乗介助ロボット「愛移乗くん」を使用して、利用者の立位保持をサポートし、トイレに移乗している様子 [5]移乗用ロボット「SASUKE」を使用して、利用者をベッドから移乗する様子 [6]抱え上げずつり上げて移乗する移乗用床走行リフト
[7]寝た状態で入浴可能なシャワー入浴装置「美浴」 [8]風呂場に設置された天井走行式リフトと椅子に座ったまま入浴可能なチェアインバス [9]ベランダからは南東方面に美しい立山連峰のパノラマを望むことができる

研修センターを開設し 次世代の人材を育成

 理念としては、ひみ福祉会が掲げた「笑顔あふれる暮らし〜人と人とのつながりの先に〜」を実現するために、スタッフが「思いやりの心」「感謝の心」「挑戦する心」を言葉と行動で表現している。

 総面積9612.57㎡の敷地には、延べ床面積5783.16㎡の建物が立っている。平屋となっている従来型施設は、個室が6部屋、多床室は2人部屋が3部屋、4人部屋が12部屋という構成で、定員は、長期入所が50人、短期入所が10人となっている。そして、この平屋に増設された3階建てとなっているユニット型施設は、2階、3階に個室が20部屋ずつの合計40部屋、4ユニットという構成で、定員は、長期入所が30人、短期入所が10人となっている。

 スタッフは、現在、男性18人、女性87人の合計105人。雇用形態は、正規が71人、非正規が34人。勤務形態は、常勤が77人、非常勤が28人。平均年齢は49.6歳。10年以上勤続されているスタッフは、56人いる。外国人スタッフは、フィリピン人が1人、中国人が1人いるが、いずれも女性で利用者とコミュニケーションが十分に取れる介護職である。

 また、’16年には、「ひみ福祉会実務者研修センター」を開設、介護福祉士の受験資格取得を目的に、次世代の介護福祉士を育成しており、卒業後、介護福祉士の資格を取得し、同施設のスタッフになった者もいるという。

[1]木目調のインテリアとなっている従来型施設の個室 [2]カーテンなどでプライバシーに配慮した従来型施設の4人部屋となる多床室 [3]屋根が高くて居心地が良く、テレビなどを見てくつろげるリビング [4]自宅の玄関をイメージしたユニット型施設「たぶの里」のエントランス [5]木目調で和風のインテリアとなっているユニット型施設「たぶの里」2階の個室 [6]施設の名前の由来となっている氷見市の木「つまま」が真ん中にそびえ立つ緑豊かな中庭

多様な介護ロボット導入でみんなが大きな効果を実感

 同施設では、利用者、スタッフの安全、安心を目的に、介護ロボットを積極的に導入。移乗用ロボットは「Hug L1」(4台)、「愛移乗くん」(3台)、「SASUKE」(1台)、見守り支援型ロボットは「眠りスキャン」(25台)、「眠りスキャンアイ」(7台)、「センサー付きベッド」(離床CATCHⅢ)(17台)、機能訓練支援免荷ロボットは免荷式歩行器「POPO」(2台)と、多様なロボットが活躍し、大きな効果を実感しているそうだ。

【キラリと光る取り組み】
移乗用ロボットを導入して
〜当園でのHug L1の効果〜

「令和3年度全国老人福祉施設研究会議(鹿児島会議)」奨励賞受賞
機能訓練指導員 浜出都さん インタビュー
機能訓練指導員の浜出都さん
機能訓練指導員の浜出都さん

――この取り組みを始めたきっかけはどのようなものだったのでしょうか?

浜出:スタッフへの腰痛予防活動がきっかけです。福祉用具を導入し、2018年に腰痛予防対策推進福祉施設に指定されました。推進施設は富山県内に13施設あります。指定にあたり、腰痛予防に即した介護マニュアルを作り、年間計画を立て、1年に2回活動の振り返りを行っています。その活動の一環として移乗用ロボットの導入を始めました。

――その活動をされる中で、なぜ移乗用ロボットの導入に至ったのでしょうか?

浜出:腰痛予防活動当初はスライディングシートやボード、床走行式リフト、天井走行式リフト等を使用し、利用者さんの自立支援とスタッフの腰痛予防を進めました。しかし、年々利用者さんの体の状態が低下し、介護をするスタッフの人手不足や、古くなった施設のトイレや居室が狭いなどの理由で、シートやボード、リフトが使えない場面が増えてきました。何かいい方法がないかとスタンディングリフトを数種類試しましたが、解決には至りませんでした。そこで、移乗用ロボットを試してみようということになったのです。

――移乗用ロボットを導入するに当たって、選定はどのようにされたのでしょうか?

浜出:富山県介護ロボット普及促進モデル事業に応募することになりました。まず介護ロボットの情報を集め、その中から関心の高い機器をデモし、利用者さんに試用し、介護現場で使えるか確認しました。また会議等で、機器の紹介や使用に関しての勉強会を開催し、現場の意見も聞き、必要な機器の見定めを行いました。さらに、介護ロボットを導入している他施設への見学も行い、イメージを膨らませました。まとめた内容を富山県介護ロボット普及促進事業に応募し、採択されました。現在施設には、「Hug L1」「愛移乗くん」「SASUKE」の3種類があります。

移乗用ロボット「Hug L1」
移乗用ロボット「Hug L1」
移乗用ロボット「愛移乗くん」
移乗用ロボット「愛移乗くん」
移乗用ロボット「SASUKE」
移乗用ロボット「SASUKE」

――この3種類の移乗ロボットそれぞれ特徴や機能がどう異なっているのでしょうか?

浜出:Hug L1は立つことはできるが立位保持が難しい方、愛移乗くんは座位が可能だが、立つことができない方のトイレ移乗、機械浴の椅子への移乗や車椅子への移乗の際に使用しています。SASUKEは重症で皮膚が弱い方やリフトが怖い方などに、主に車椅子とベッドの移乗介助時に使用しています。利用者さんの状態により使える状況が異なりますし、自立支援の観点から使い分けています。

――スタッフの反響はいかがでしょうか?

浜出:当施設では特に操作が簡単で、小回りが利くという利点があるHug L1の浸透度が高かったです。実際に使用した人数も多く、使用前には予想していなかった効果を利用者さん、スタッフ双方に感じることもできたので、スタッフの反響も含めてレポートにまとめ、今回の発表に至りました。

――この取り組みをなされた成果にはどのようなものがあったのでしょうか?

浜出:利用者さんの生活動作の維持が図れます。特に足底が床に接地し、骨盤が前傾した座位、立位姿勢を生活の中で取れることが大きいと感じています。スタッフによる抱え上げでの介助では、関わるスタッフにより技術に差が出てしまうことや、利用者さんの能力を引き出せず、全介助に陥ってしまうことがよくありますが、Hug L1ではどのスタッフが介助をしても同じ技術を提供することができ、また利用者さんの能力をうまく使うことができます。Hug L1を使用している利用者さんは 2年、3年と比較的長い期間にわたって立位能力が維持される傾向があります。さらに便座に座ることで自然排便が促せます。残尿や残便が減り、下剤の減量やオムツ外しにつながりました。足のケガ等で使用を中止すると、急速にADLが低下した事例も経験したので、リハビリの効果に改めて気付くことができました。抱え上げの介助が必要ないのでスタッフの負担も少なく、余裕を持ったケアが行え、利用者とスタッフの関係性の好循環を生み出していると思います。

――今後、さらに取り組まれたい課題がありましたら教えてください。

浜出:介護ロボットの使用は、スタッフのスキルの差もあり、マニュアルがあっても利用者さんの変化に気付きにくく、使用中止の見極め等を行うことが難しいことがあります。慣れに従い自己流な使用になってしまって、ヒヤリハットに気付かず事故につながる危険性もあることも挙げられます。福祉用具等を用いた介護技術は、“機器の使い方”だけを覚えるものではなく、“どういう理由があってそのように操作するのか”をしっかり理解することが重要ですが、その原理を伝えていくことが大変難しいと感じています。その他、腰痛予防委員以外のスタッフへの周知徹底や育成指導の課題も感じています。導入後のフォローアップも重要で、機器の定期点検、不具合や故障時の対応等、継続的なリスク管理等もあります。今後、これらもマニュアル等を作成し、どのスタッフでも対応できる仕組み作りを行っていきたいと考えています。


つまま園

社会福祉法人ひみ福祉会
特別養護老人ホーム

つまま園

〒935-0002
富山県氷見市阿尾410番地
TEL:0766-72-4165
URL:https://care-net.biz/16/tumamaen/
   https://himifukushikai.com/tsumamaen/

[定員]
特別養護老人ホーム:80人
(従来型50人、ユニット型30人)
ショートステイ:20人
(従来型10人、ユニット型10人)
デイサービス:40人


撮影=山田芳朗/取材・文=石黒智樹