マネジメント最前線

日本全国注目施設探訪

第11回 神奈川県小田原市 社会福祉法人長寿会 特別養護老人ホーム 陽光の園

2023.02 老施協 MONTHLY

独自の取り組みでキラリと光る各地の高齢者福祉施設へおじゃまします!
※令和3年度全国老人福祉施設研究会議(鹿児島会議)入賞施設を取材しています


「球心探究」の下、生活の場であることを重視し、看取りまでをケア

さまざまな社会的要支援者に対する福祉活動の総決算

 神奈川県西部の有名な観光地である箱根に隣接した小田原市。箱根連山の塔ノ峰の山麓には、箱根駅伝のコースとなっている国道があり、箱根山の上り坂に差し掛かるタスキリレーの場所となっているかまぼこ店の付近に、豊かな自然環境に恵まれた特別養護老人ホーム「陽光の園」がある。

特別養護老人ホーム「陽光の園」の外観
敷地面積5946㎡の斜面状の土地に、エントランスより手前の3階建ての建物と、奥の2階建ての建物がつながって立っている
理事長・園長の加藤馨さん
理事長・園長の加藤馨さん

社会福祉法人長寿会

1953年、創設者である加藤泰純前理事長が、老人ホーム「長寿園」を設立。1971年に社会福祉法人として認可。同年に軽費老人ホーム「箱根山荘」、1978年に特別養護老人ホーム「陽光の園」を設立した他、ショートステイ、デイサービス、ケアセンター、居宅介護支援、介護予防・地域包括支援センター「しろやま」などを運営している。現在の加藤馨理事長は、一般社団法人神奈川県高齢者福祉施設協議会の会長も務めている。

 創設者の加藤泰純前理事長は、根っからの福祉事業者であり、戦争から日本に戻り、焼け野原の東京を見て、何とかしなければいけないと、さまざまな社会的要支援者に対する福祉活動に努めた。その総決算として、’53年に老人ホーム「長寿園」をはじめ、’78年に「陽光の園」を設立したのである。

 利用者の多くは、小田原市内から入居しており、農業、漁業、小売業、製造業と、その前職も多様性に富んでいる。その他にも、箱根、湯河原、真鶴、足柄など、県西地域と呼ばれる足柄平野から入居している利用者も多く見られる。

[1]長寿会50周年を記念して2021年に建立された「長寿の鐘」 [2]屋根が備わり、雨にぬれずに済む車寄せがあり、コロナ対策がなされているエントランス [3]ロビーやトレーニングルームとつながっている広大なエントランスホール

 建物は、敷地面積5946㎡という斜面状の土地に、エントランスより手前が3階建て、奥が2階建てとなっており、2階に個室が8室、2人部屋が1室、4人部屋が9室、3階に個室が8室、2人部屋が1室、4人部屋が11室配され、定員は、特別養護老人ホームが80人、ショートステイが20人、デイサービスが30人となる。

「地上に住んでいる人たちがみんな地球と同じように丸い心であったなら争いもなく日々喜びが満ちあふれる」という「球心探究」をうたった創設者が掲げた同施設の理念は、「高齢者に円満幸福な生活を送っていただくために、うるおいとぬくもりのサービスを総合的に継続的に提供すること」。

 老人ホームはついのすみかであることを念頭に、家族的な雰囲気の中、食事を自前で提供するなど、毎日の生活の場であることを重視、入り口から看取りまで責任を持ってケアしているという。

[4]長寿会不惑を記念して1994年に建立された「球心探究」のモニュメント [5]箱根連山の塔ノ峰や相模湾を望むことができる広大な屋上 [6]建物の屋根の上に並べられている大型のソーラーパネル
[7]吹き抜けとなっており、明るい陽光が差し込む1階ロビー [8]JA神奈川のボランティアによって年2回花が植え替えられる中庭 [9]テレビを見てくつろいだり、さまざまな催し物も開催される食堂

外国人スタッフの受け入れもその昔よりいち早く取り組む

 スタッフは、現在75人、男女比は3:7となっている。同施設がワークライフバランスを重視していることもあり、最長で35年という勤続年数が長いスタッフも多く、スタッフの定着率が非常に高い。

 また、“多国籍協働”を掲げ、外国人スタッフの受け入れについては、その昔からいち早く取り組んでおり、’70年代より欧米人(英国、カナダ、米国)の受け入れをはじめとし、’85年より東北亜(韓国、台湾、中国)、EPA(経済連携協定) が結ばれた’16年よりベトナム人の受け入れを開始。現在は、ベトナム人が7人、ミャンマー人が2人、中国人が1人、韓国人が1人と、多くの外国人スタッフが、さまざまな現場で活躍している。

[1]洗面台やトイレなど、設備が整っている和風の個室 [2]半円形で全てのベッド横に窓があり、プライバシーに配慮した4人部屋の多床室 [3]日本語の勉強をしているベトナム人スタッフ [4]105歳になる利用者の赤坂みよ子さんとベトナム人スタッフ [5]嘱託の医師と看護師が待機、看取りケアも支援する医務室 [6]箱根山系の地下水を利用した風呂は、利用者の体の状態に合わせて、車椅子に座ったまま入浴できる座位浴槽や寝台浴槽、一般浴槽など、1階から3階に3種類が用意されている [7]自前で料理を提供する厨房とミャンマー人の調理スタッフ

コロナから利用者を守るため情報共有し工夫して取り組む

 ’20年初頭から猛威を振るった新型コロナウイルス。同施設では、高齢の利用者を守るため、コロナ感染対策に全力で取り組んだ。

 当初は未知の部分が多かったため、とにかく情報の収集と共有を徹底。そして、利用者とスタッフ共に健康管理や清掃を徹底、生活空間の区分け(ゾーニング)など環境を工夫しながら、面会や行事を行うなど、利用者が楽しく明るく過ごせるよう努めたという。

 今後も、自分たちができることは何か、今できることは何かということを常に見つめて、引き続き対策に取り組んでいくそうだ。

【キラリと光る取り組み】
コロナウイルスから守りたいものがある
〜コロナ状況下でも福祉のこころを大切に〜

「令和3年度全国老人福祉施設研究会議(鹿児島会議)」奨励賞受賞
介護福祉士 澤地美明さん・古屋智恵さん 理事長・園長 加藤馨さん インタビュー
(左から)介護福祉士の澤地美明さん、古屋智恵さん
(左から)介護福祉士の澤地美明さん、古屋智恵さん

――この取り組みを始められた当初の状況は、どんなものだったのでしょうか?

澤地:まずコロナが発生した当初は、私たちにとって未知のものでしたし、とにかく分からないことだらけで、手探りの状態でした。私たちは高齢者を守る立場として、コロナにどのように立ち向かっていくか、不安な状態から始まりました。高齢者はそもそも持病があったり、介護が必要とされている方なので、その方たちを守っていくために、自分たちが不安なままではいけない、いつか不安を自信に変えていかなくてはならない。それが、この取り組みを始めた際の私たちの意志です。

古屋:私もコロナで人々が亡くなったり、マスクが足りなくなったりするのを見て、不安になりました。施設の利用者さんたちのことが、とても心配になったのを覚えています。

――まずはどういうところから、この取り組みを始めていかれたのでしょうか?

澤地:とにかく最初は情報が少なかったので、正確な情報を収集して共有するのが大事だと考えました。厚生労働省の情報をメインに、施設内で共有することを重視し、必ず月に3回は定例会議を行い、情報を精査し、現場に的確に落として共有していきました。その際には、部屋の換気を行い、ソーシャルディスタンスを取り、シールドを装着するなど、感染対策をしっかり行って開催しています。会議で扱われた情報は、廊下の掲示板に掲示して、スタッフに周知しています。

――その得られた情報を基に、どのような対策を実施されているのでしょうか?

澤地:利用者さんを支えていく上で、とても大切になってくるのが、スタッフの健康管理。私たちの健康なくては利用者さんの健康は守れないということで、スタッフの健康管理を徹底しました。検温やPCR検査を実施して、必ず陰性を確認してから出勤することにしました。スタッフにも陽性者が出たことがあったのですが、そのときもPCR検査のおかげで、未然にまん延を防ぐことができました。

古屋:職場から毎日の体調管理を指示されていたので、それを徹底し、出勤時のマスクと就業時のマスクを交換、手洗い、うがいを小まめに実行するなど、コロナ禍以前にも増して、気を付けるように心掛けています。

澤地:利用者さんの健康管理に関しても、スタッフと同じく毎日の検温と風邪症状の観察を徹底して行っています。また、感染経路に関する研修会を行って、しっかりと理解した上で利用者さんと関わることによって、利用者さんを守るようにしています。

古屋:自分自身も高齢者施設で働くスタッフの自覚として、人混みの場所に行ったり、県をまたぐ移動はしないよう自粛しています。

澤地:気を付けなくてはいけないのが、接触感染のリスク。共用する場所を消毒するのが重要になってきますので、手すり、ドアノブ、トイレ、床の消毒を徹底しました。今までにない仕事が増えても人を増やすわけにはいかず、限られた人数の中でどれだけできるか、という戦いの中で、ロボット掃除機など機械を導入して補っていました。また、3階のフロアは、外から来られるショートステイの利用者さんと入居の利用者さんが同居することになり、感染リスクが高まりますので、生活空間を分けることにしました。特に、食事時の感染リスクが高いので、食堂は2つに分けるなど、ゾーニングを実施しています。

――陰圧室というものがありますが、これはどういうものなのでしょうか?

加藤:県からの要請もあって、当施設は、ショートステイで濃厚接触者の受け入れ施設になっています。そのため、陰圧室に濃厚接触者を受け入れるほか、感染の疑いがある利用者さんも利用していただいています。

澤地:濃厚接触者受け入れのケースというのは、ご家族がコロナにかかってしまって、在宅で介護されていた方が濃厚接触者になってしまうケースがほとんどです。そうすると、介護者がいない状態になってしまいます。そこで、濃厚接触者を守るという意味で、当施設が受け入れを引き受けています。同時に、入居者さんも守っていかなくてはいけないので、この陰圧室が役立っています。

外から空気を取り入れ、中の空気を外に出さない、濃厚接触者を受け入れるための陰圧室

――利用者さんとご家族の面会についても、ユニークな方法で行われていますね?

澤地:世間の閉塞感がとにかく充満していたので、たとえスカイプを通した面会であっても、利用者さんは笑顔になっていました。当施設の理念が家庭的ということもあり、ご家族との面会については、工夫して行い、大切にしています。

加藤:行事も同じです。コロナ禍の波と波の合間で感染対策をしっかり行いながら工夫して、利用者さんが楽しく明るく過ごせるよう、なるべく行事や面会を行っています。

澤地:当施設は、最期にお亡くなりになる看取りまでお手伝いさせていただいているので、看取り期になると可能な限り個室に移っていただいて面会していただいています。

[1]感染対策として、2階にいる妻が、3階にいる夫と糸電話で会話 [2]感染対策として、気持ちのいい屋外でご家族と面会

――この取り組みをなされた成果としては、どのようなものがあったのでしょうか?

澤地:スタッフの中で情報共有が徹底できたので、コロナ陽性者が発生した際の対応が、臨機応変にできるようになりました。コロナに対する不安も、正しい対応策を行うことにより、自信につながりました。

古屋:情報共有して、工夫することにより、施設で行事ができるようになりました。利用者さんも楽しんで笑顔を見せてくれています。

――今後、さらに取り組んでみたいと思う課題などがありましたら、教えてください。

澤地:コロナ禍になって、普通の生活がすごく幸せだったということを改めて実感しました。そんな状況の中、日常がどんなに大切なものだったのかを振り返りながら、自分たちができることは何か、今できることは何かということを常に見つめて、利用者さん、ご家族の方に、それを届けるという役割を担っていかなくてはいけないと感じています。

古屋:今までの感染対策をしっかりした上で、コロナ禍になってからできていない外出を工夫してできたらと考えています。


陽光の園

社会福祉法人長寿会
特別養護老人ホーム

陽光の園

〒250-0031
神奈川県小田原市入生田475
TEL:0465-24-0013
URL:https://kanagawa-koureikyo.or.jp/tyoujyu/

[定員]
特別養護老人ホーム:80人
ショートステイ:20人
デイサービス:30人


撮影=山田芳朗/取材・文=石黒智樹