マネジメント最前線

日本全国注目施設探訪

第9回 徳島県美馬郡つるぎ町 社会福祉法人清寿会 特別養護老人ホーム コンフォール貞光

独自の取り組みでキラリと光る各地の高齢者福祉施設へおじゃまします!
※令和3年度全国老人福祉施設研究会議(鹿児島会議)入賞施設を取材しています


その人らしさを大切に、「おもいやり」を持って、最期まで利用者を見送る

「おもいやり」の理念を掲げ地域全体で利用者を支える

 徳島県徳島市から吉野川を西へさかのぼっていくと山間部となり、すぐ南に剣山を望むことができるつるぎ町がある。そこを流れる吉野川の支流である貞光川のほとりにあるのが、特別養護老人ホーム「コンフォール貞光」だ。

移転新築事業により、1999年に完成し、敷地面積4766㎡の中に、鉄筋コンクリート造り3階建て(一部4階)となっている建物
常務理事・統括施設長の松浦昭人さん

社会福祉法人清寿会

1974年、永尾病院を運営する医療法人仁清会の永尾徹理事長によって、徳島県美馬郡に設立。2代目永尾寿理事長が引き継ぎ、1999年に移転新築。2020年、永尾仁理事長が就任。特別養護老人ホームコンフォール貞光のほか、デイサービスセンター/在宅介護支援センターゆうま、グループホームゆずの里、小規模多機能ホーム/グループホームこもれびを運営する。

 ’75年に現在の場所から2km先の高台にある太田地区に、特別養護老人ホーム「太田荘」として開設。’00年から始まる介護保険に対応すべく、’99年に移転新築事業を行い、現在の場所に移転、名称もコンフォール貞光に改称した。

 ’05年、美馬郡半田町、貞光町、一宇村が合併して発足したつるぎ町は、山間地であり、その昔から農業が中心となっており、高齢者の夫婦や一人暮らしが多く、過疎化が進んでいる。’22年10月1日現在、人口は7972人であり、65歳以上の人口は3795人と、高齢化率は47.6%にもなっているのだ。町内には特別養護老人ホームが他にも1軒あり、人口に対してベッド数は多いが、現在は両施設共に満床となっている。しかし、同施設では、この先、過疎化で人口が減っていくにつれて、高齢者も減っていくということに危機感を持っているという。

 同施設では、その利用者の9割がつるぎ町民となっており、利用者同士もなじみの関係である。そういったこともあり、地域に根差した施設として、地域のボランティアと一緒に高齢者を支えている。

 社会福祉法人清寿会の理念として「おもいやり」を掲げ、利用者への思いやり、職員相互の思いやりを誓い、利用者が安全、安心、快適に過ごせるよう、男性25名、女性45名、合計70名のスタッフが日々仕事にいそしんでいる。

[1]4月の花見会をはじめ、さまざまな催し物が行われる屋外のサクラの木や花壇が備わるテラス(2019年撮影) [2]屋根が備わり、雨にぬれずに済む車寄せがあるエントランス [3]床に段差がなくフラットで、明るく広いエントランスホール
[4]近くに剣山を望み、美しい山々に囲まれた山間部にある立地 [5]四季折々をテーマにした楽しい壁画が飾られている地域交流スペース [6]食事を取ったり、テレビを見てくつろげる2階のリビング
[7]明るく広々として清潔な3階の個室 [8]カーテンやついたてでプライベートを確保している1階の多床室 [9]看護師が常駐し、隣にある静養室にすぐ駆け付けることができる2階の医務室

地域に開かれた施設としてさまざまなイベントを開催

 現在の建物は、’99 年に完成、敷地面積4766㎡の中に、鉄筋コンクリート造り3階建て(一部4階)には、個室、多床室合わせて、1階に5室、2階に20室、3階に22室が配され、定員は特別養護老人ホームが80人、ショートステイが20人となっている。

 地域に開かれた施設として、1階には、立派なサクラの木が植えられ、四季折々の花が咲き誇る花壇がしつらえられている屋外にあるテラスや広々とした地域交流スペースなどで、毎年毎月さまざまなイベントが開催されている。

 中でも好評なのは「車椅子ウォーキング」。地域ボランティアを募り、車椅子に乗った利用者を押しながら、町内を歩くイベントだ。施設を出て、外の風を感じてゆっくりと進む。慣れ親しんだ町、たわいもない昔話もはずむ。

[1]窓が広く取られ、眺めのいい3階の大浴場 [2]個別浴槽、特別浴槽が用意されている2階の浴室 [3]建物中央の吹き抜けには、風情ある中庭がしつらえられている [4]利用者と楽しんだ若き書道家、小出聖来さんの書道パフォーマンス作品が、建物内に飾られている [5]自前で食事を調理し提供している厨房 [6]広い屋上からは、剣山をはじめ、周囲の山々や街を一望できる [7]毎年行われ好評の車椅子ウォーキング

本人の意向を第一に考えて利用者を見送る「看取りケア」

 同施設では、亡くなられる利用者を見送る「看取りケア」に力を入れている。開設から47年を迎え、数多くの利用者を見送ってきたが、利用者や家族の意向が十分反映されていないままに、作業として進んでいってしまったのではないかと疑問を持ったという。

 そこで、利用者本人の意向を第一に、その人らしい最期が迎えられるよう、多職種のスタッフがコミュニケーションを取り、看取りケアのプランを見直した。

 その結果、家族に喜ばれ、スタッフにも達成感ややりがい、自信が見られるようになった。

 今後も、本人の意向をくむ難しさなどはあるものの、ACPに真摯に取り組んでいくそうだ。

【キラリと光る取り組み】
「その人らしい最期を支える看取りケア」――これまでの看取りケアの歩みを振り返る

「令和3年度全国老人福祉施設研究会議(鹿児島会議)」最優秀賞受賞
施設長 笠井佳容子さん・看護部長 田岡真利子さん インタビュー
(左から)施設長の笠井佳容子さん、看護部長の田岡真利子さん

――この取り組みを始めたきっかけは、どのようなものだったのでしょうか?

田岡:利用者さんがお亡くなりになられた後、エンゼルケアとして、お体を拭いてお顔をきれいに処置してお帰りいただくのですが、その際、ご家族の方から、「母はこんな化粧はしない」、ご近所の方には「きれいな方だったのにこんな顔になってしまって」などといった残念な言葉が寄せられました。それを聞いて、こんなことではいけないのではないか、単なる死亡後の退所処置になっているのではないか、ということを感じました。

笠井:利用者さんやご家族の意向が十分反映されていないままに、作業としての看取りが進んでいってしまった結果だと思います。

――その取り組みは、具体的にどのようなものだったのでしょうか

笠井:「その人らしい最期」を基本に、多職種で取り組みました。まず、利用者さんとご家族に、看取りの意向調査をさせていただきました。そして、見送った後もご家族にアンケートをいただいた上、スタッフ自身にもアンケートを取り、みんなで意見を交換し、今後の課題など、振り返りのカンファレンスを行いました。そのほか、研修へ参加したり勉強会を行うことによって、これまでの看取りケアのプランを根本的に見直しました。

田岡:これまでは、具合が悪くなってくると、体調を気遣い、お風呂にもあまり入れていなかったのですが、体や顔をきれいにしたり、部屋を清潔にすることなどによって、ご家族もだんだんと心構えをしながら、死を受け入れられるように、早い段階からご家族のグリーフケアを始めるようにしています。見送る際は、最初は裏口から出て行っていただいていたのですが、やはり人生を全うしているのだから、堂々としていいのではないか、顔も隠さなくていいのではないか、と考えるようになり、ご利用いただきありがとうございましたという感謝の気持ちで、正面玄関からお見送りするようにしました。

[1]右から執り行う順番に整頓されて、並べられたエンゼルケア用品 [2]亡くなられた利用者は、スタッフが正面玄関から見送る

――その取り組みを実践するに当たって、どういう苦労がありましたか?

田岡:核家族化となっている若いスタッフには、死に対する経験が少なく、恐怖しかないという人が多くて、「怖い」「どうしていいか分からない」「自分に当たったらどうしよう」といったような声が聞かれました。また、「亡くなる場所は病院ではないのですか?」という声も多かったのですが、病院は治療するところであり、治療できない方を病院に送るのは違うのではないか、という考えから、当施設では、見慣れた場所で、家にいるように見送ってあげようと、若いスタッフの不安を取り除きながら教育しています。

――この取り組みをなされた成果は、どのようなものがあったのでしょうか?

笠井:ご近所の方が「最期の顔が、亡くなった方の顔に見えないくらいツヤツヤしてきれいだった」、ご家族の方からも「最期の顔がきれいで穏やかだったから、こちらにお願いして良かった」などの声をいただき、満足度調査アンケートでも80〜90%の方から良いという回答をいただくようになりました。スタッフも、看取りの勉強を重ねたり、看護師に質問したり、さまざまな経験を積むことで自信になっており、アンケートを取ると、不安も減ってきています。一番大切にしているのは、利用者さんご本人の意向。自分たちはこれがいいのではと思っても、そうではなく、振り返り修正しながら、ご本人の意向を大切にできるような姿勢になりました。スタッフみんなで、最期までより良く生きる最善のことをしようという考え方に変わってきました。

田岡:死に接することで、いかに今生きている時間を大切にするかということを、若いスタッフが考えるようになりました。看取りは死ぬ介助ではなく生きる介助だという考え方に変わり、今ここにいる時間をいかに濃密にするか、積極的な意見がスタッフから上がるようになりました。怖い、つらいではなくて、これで良かったんだと後悔がなくなるように、取り組んでくれています。

――亡くなる前の残り少ない時間を充実させるために、例えばどんなことをしましたか?

田岡:私の恩師で音楽の先生がいらっしゃって、当施設に入所されたのですが、ピアノが好きだったので、ピアノを弾いてくださいとお願いして、弾いていただきました。また、娘さんの話を聞くなど、人生の引き出しを開けながら話をすると、目が輝いたりします。亡くなる前だからといって寝かせておくのではなく、なるべくできることをしていただき、日常の中から小さな喜びを見つけていただくことが大切なのではないでしょうか。

――今後、さらに取り組まれたい課題がありましたら、教えてください。

笠井:現在、入所されている利用者さんの意向を再調査するとともに、今後、新規に入られる利用者さんについては、ご本人とご家族の両方の意向を確認し、節目節目で本人の意向を聞き、そこを中心に私たちが動いていく、ACPに取り組んでいきたいと考えています。

田岡:やはり本人の人生なので、本人が決めるべきなのでは。本人を置き去りにして、家族がこれが本人にとって一番いい選択だろうと押し付けるようなことをしないで、もう少し本人の意思を聞く。人間の気持ちは変わりますので、その都度、本人の意向を確認する。利用者さんの長い人生の中で、その死に私たちが関わるのは一瞬。常識的な価値観を排除して、利用者さんの話を聞き、情報を共有しながら、多職種でご家族と一緒に利用者さんを最期まで看取っていきたいと思います。

隣に医務室があり、常駐している看護師がすぐに駆け付けることができる静養室

コンフォール貞光

社会福祉法人清寿会 特別養護老人ホーム

コンフォール貞光

〒779-4101
徳島県美馬郡つるぎ町貞光字中須賀78番地
TEL:0883-62-3244
URL:https://www.seijyukai.org/

[定員]
特別養護老人ホーム:80人
ショートステイ:20人


撮影=山田芳朗/取材・文=石黒智樹