マネジメント最前線

介護現場NOW

人口減少社会で介護人材確保をどう解決するか 次世代の若年層に介護業界の魅力を伝えるには?

2022.12 老施協 MONTHLY

デジタルネイティブである若年層に親和性の高いICT/DX化による生産性向上を早急に進めるべき

内閣府の「改革工程表」と介護業界のICT/DX化

 介護業界で働く人々の疑問や悩み、課題を聞き出し、その解決策を専門家に伺う本連載。今回は、3回にわたり、「人口減少社会で介護人材確保をどう解決するか」について考えてきた最終回。

 団塊世代が後期高齢者となる2024年問題は言うまでもなく、その先の2040年問題は人口減少に加え、世代の人口バランスによる労働人口の減少が合わさり、かなり深刻さを増している。

 政府の重要な財政方針の一つである内閣府の「新経済・財政再生計画 改革工程表2021」を見ると、介護予防や認知症サポートなどの計画が盛り込まれている。

 中でも注目したいのは、「医療・福祉サービス改革」として「データヘルス改革の推進」が示されているということ。具体的には「ケアの内容などのデータを収集・分析するデータベースの構築、科学的介護・栄養の取り組みの推進」や「ロボット・IoT・AI・センサーの活用」などを介護分野で推し進める方針となっているのだ。

 これによって、介護分野での生産性向上を一気に推し進める施策が、2024年度の介護保険制度改正・介護報酬改定にも盛り込まれることがほぼ確実である。

 一方で、介護現場のICT/DX化はどのような現状なのだろうか。ICT/DX化などの生産性向上は、介護人材確保対策の一つでもあり、重要な取り組みである。Z世代など次世代の若年層はそうした新技術に敏感で、ICTやデータを用いた介護業務に関心も持っているという。

 そんなICT/DX化への若年層の反応や現場への進捗状況など、介護現場の実務経験者でもある東洋大学ライフデザイン学部准教授の高野龍昭先生にお話を伺った。

現役職員による座談会【介護現場のリアル】

次世代に響く? 介護現場へのICT/DX化

訪問介護会社に勤めるA社員と特養に勤めるB職員。新卒で介護業界に飛び込んだが、旧態依然の現場に戸惑いがあるようだ。

A「学校でのIT感と違い、訪問介護の実績になる記録簿が全部手書きには驚いたよ。介護報酬が絡むから、記録簿チェックも1枚ごとに何度もやるし。でも、最近はスマホアプリでサービスのスケジュール、入退室や報告事項も入力で済むようになったよ。相談は電話だけどね」

B「手書きも少しはあるよ。すごく助かるのは、スマホで利用者の動きもセンサー把握して、入り口にセンサーマットを置いて、ベッドから出たらすぐに警報が鳴るシステム。転倒も防止できる。100人も利用者がいるから、夜勤引き継ぎ報告は、今も会議でメモ取りしてるけど」

介護業界のICT/DX化は若年層の「取り込み」に効果が

 前回の本欄では、介護現場のICT/DX化をLIFE(科学的介護情報システム)の利活用と同時並行的に進めることの重要性について述べました。このことは、いわゆる「Z世代」など次世代の若年層に介護業界の魅力を伝えることの一助にもなるはずです。

 今、私は大学で介護福祉士や社会福祉士などの専門職の養成教育にあたっていますが、学生たちの授業での様子や就職活動の動向から、それに確信を持っています。

 実際、ICTを介護分野で活用するための学生たちの授業での反応は、伝統的な介護技術や介護過程を教える授業よりも格段に良好ですし、データを用いて介護実践に生かしているような施設・事業所の大学生向け就活セミナーには、目を輝かせて参加しています。

 彼らは生まれたときからPCやWEBになじんでおり、物心がついた頃にはスマートフォンを操って育っています。今の大学生は「手書き」や「電話・FAX」を嫌うとともに、データなどの根拠をさまざまな情報から得ることを好むため、そうしたことを仕事・就職先にも求める傾向があります。

 人材確保に悩む介護施設・事業所の経営者や管理職は、このような傾向も十分に知っておくべきことだと考えられます。

介護現場のICT/DX化進捗状況はまだまだ緩慢

 私が調査委員の一員として関わった「介護労働実態調査」(介護労働安定センター)の結果にも、このICT/DX化の拡大の傾向は表れています(表1)。

【表1】介護サービス事業所・施設でのICT機器の導入
出典:『令和3年度介護労働実態調査』『令和2年度介護労働実態調査』(介護労働安定センター)を基に筆者にて作図

 調査結果からICT機器の導入について、’21年と前年を比較してみると、事業所・施設の全体では「PCで利用者情報を共有している」が52.8% (前年50.4%から2.4%増)、「記録から請求システムまで一括している」が 42.8%(同39.1%から3.7%増)などの一方、「いずれも行っていない」は22.0%(同25.8%から3.8%減)となっており、ICT機器等の導入が徐々に進んでいることが分かります。

 また、サービス類型別に見ると、施設系(入所型)では「PCで利用者情報を共有している」が71.1% (同68.2%から2.9%増)と既に常識化しているとも言え、訪問サービスでは「タブレット端末等で利用者情報を共有している」が30.0%(同 22.4%から7.6%増)と導入率が徐々に伸びていることも見て取れます。

 しかし、このICT/DX化の拡大は期待されているほどではないと言ってよいでしょう。この実情は、本欄10月号で述べた介護現場での「2040年問題」への対応として、遅れをとっていると指摘しておきたいと思います。

 介護分野では、間違いなく人材確保難は継続します(表2)。そのため、ICT/DX化など生産性向上を早急に進めることが、事業の継続のために必要となります。

【表2】「介護職員の必要数」は確保可能か?
出典:75歳以上人口=2019年分は総務省『人口推計』(2019年4月確定値)、それ以外は国立社会保障人口問題研究所『日本の将来推計人口(平成29年推計)』
要介護認定者数=2019年分は厚労省『介護保険事業状況報告月報(暫定版)』(2019年4月分)、それ以外は厚労省『第8期介護保険事業計画期間における介護保険の第1号保険料及びサービス見込み量について』(2021年5月発表)
介護職員必要数=厚労省『第8期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数について』(2021年7月発表)
20~64歳人口=2019年分は総務省『人口推計』(2019年4月確定値)、それ以外は国立社会保障人口問題研究所『日本の将来推計人口(平成29年推計)』
今月の回答者
東洋大学 ライフデザイン学部 生活支援学科 生活支援学専攻 准教授 高野 龍昭さん

東洋大学 ライフデザイン学部 生活支援学科 生活支援学専攻 准教授

高野 龍昭さん

Profile●たかの・たつあき=1964年、島根県生まれ。龍谷大学文学部(社会福祉学専攻)卒業後、島根県と広島県でMSWやケアマネジャーの実践を経験した後、2005年から大学での福祉専門職養成教育と高齢者介護システムの研究に従事する。社会福祉士・介護支援専門員


取材・文=一銀海生