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介護現場NOW

人口減少社会で介護人材確保をどう解決するか 来たるべき「2040年問題」への対策とは?

2022.10 老施協 MONTHLY

厳しい状況にある雇用・人材確保対策だけでは不十分
科学的介護など生産性向上の方策を重視することが不可欠

改正介護保険法の議論と生産性向上のためのメソッド

 介護業界で働く人々の疑問や悩み、課題を聞き、解決策を専門家に伺う本連載。今回から3回にわたり、「人口減少社会で介護人材確保をどう解決するか」を考える。

 団塊世代が後期高齢者となる2025年問題は言うまでもなく、その先の2040年問題は人口減少と世代の人口バランスによる労働力低下が合わさり、深刻さを増している。その対策法として、さまざまな議論が上がっている。

 ’24 年度施行の改正介護保険法について、制度改正に向けた議論が進み、秋からの国会でさらに激しい議論になると予想される。

 議論のポイントは①高齢者の負担の増大(ケアマネジメントへの利用者負担、2割3割負担層の拡大など)②保険給付の見直し(要介護2までの通所介護などの一部の保険給付を総合事業へ移行、福祉用具貸与の品目縮小など)③人材確保対策と生産性向上(処遇改善やICT/DX化の推進など)があるが、見通しはついていない。

 介護現場での人材確保や処遇改善については、『介護労働実態調査』(介護労働安定センター)、『福祉人材センター・バンク職業紹介実績報告年間調査結果(’21年度分)等の公表された資料を参照すると、介護職員の離職防止対策や給与向上などの成果は上がっているものの、有効求人倍率は高止まりしたままであり、採用難はいまだ改善できてはいないのが現状である。また、人材確保を目指すだけでなく、科学的介護やDX化の推進も、今後気になるところだ。

 来るべき’24年度の制度改正を見据えての介護実践現場の人材確保、生産性向上について、介護の現場の実務経験者でもある東洋大学 ライフデザイン学部准教授の高野龍昭先生にお話を伺った。

介護現場の処遇改善の一方で雇用難・人材確保難は継続

『令和3年度介護労働実態調査』(介護労働安定センター)が8月に発表されました。これは大規模な年次調査で、政府も注目しているものです。私自身もこの調査の実施・分析等に加わっています。

 今回の調査結果では、介護職員(訪問介護員を含む)の離職率は、そのピークであった平成19年度(約22%)と比べ、およそ3分の2の約14%に低下していることが分かります。全産業平均の離職率と同水準に落ち着いています。

 また、介護労働者の所定内賃金(月給)は経年的に微増傾向にあり、10年前の平成24年度(約21万2000円)と比べると、約15%増の約24万5000円となっていることも示されています。全産業平均と比べると4万円ほどの差はありますが、その差は徐々に縮小されています。また、コロナ禍の影響で他業種が賃金水準を落とす中、介護分野は継続的に増加傾向にあることも読み取れます。

 こうして見ると、介護業界は「離職率が高い」「賃金が安い」と言われ続けてきましたが、この調査結果からは、それらは既に過去のことだと言っていいでしょう。

 ただし、介護事業所・施設にとっての人材不足感を見ると、前年度(約61%)を上回る約63%であり、それ以前のデータと比較してみても高止まりしている状況にあります。別のデータ(中央福祉人材センター『職業紹介実績報告』)を見ても、ここ10年ほどの間の介護職員の有効求人倍率は4倍から5倍前後で推移するなど、人材確保難が喫緊の課題だと言えます。

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グループホームに勤めるA社員(50代)と有料老人ホームに勤めるB社員(40代)。10年働いている2人が、収入や待遇について語る。

A「入社した頃は、ボーナスがない年もあった。当時は夜勤入れて手取り19万円。同級生に言うと安いと驚かれたし、副業も時折しないとやっていけなかったけど。でも処遇改善加算がついたり、コロナ禍には特別報酬もあったから、改善されてきていると思う。離職も減って、職場の雰囲気も良くなっているんじゃないかな」

B「介護福祉士の資格が取れて月給が上がったよ。前は重労働だったけど、機械の導入でケアも楽になったし、有給消化を推進されて休みやすい。契約社員ではあるけれど、残業もつけられて、だいぶ待遇は良くなってきてるよね」

人口減少、後期高齢者の増加「2040年問題」への備え

 雇用・人材確保に関して厳しい状況にあるこの介護分野ですが、わが国の人口推計データを見る限り、私はそのこと自体が改善することは難しいと考えています。それどころか、どんなに処遇改善を図っても、いずれ介護人材そのものが絶対的に不足すると考えています。その理由は、いわゆる「2040年問題」にあります。

 わが国の2040年問題とは、一般的には人口の減少・生産年齢人口の減少・後期高齢者の増加が2040年に向けて同時に進行し、労働力不足を招くことを言います。しかし、介護分野に焦点を当ててこれを分析予測すると深刻な課題があることが分かります(表1)。

【表1】2040年問題の一例

~2015年の人口(実績)を100としたときのその後の伸び率~

出典:国立社会保障人口問題研究所『日本の将来推計人口(平成29年推計)』を基に筆者作図

 今後、人口が増え続けるのは85歳以上の年齢階層のみであり、その他の年齢階層は全て減少局面に入ります。現時点では、85歳以上では要介護認定率が約6割に達していることから(表2)、今後は介護ニーズが急増するとともに、その支え手となる生産年齢人口(15〜64歳)は3割近く減少します。

【表2】年齢階層別の要介護認定率
出典:厚生労働省老健局『介護保険事業状況報告(月報:2021年9月末)』および総務省統計局『人口推計(2021年10月1日人口)』を基に筆者作成

 従って、今後は人材確保対策だけでなく、ICT化やタスク・シフティングなど、生産性向上の方策を重視することが不可欠であることが指摘できます。

今月の回答者
東洋大学 ライフデザイン学部 生活支援学科 生活支援学専攻 准教授 高野 龍昭さん

東洋大学 ライフデザイン学部 生活支援学科 生活支援学専攻 准教授
高野 龍昭さん

Profile●たかの・たつあき=1964年、島根県生まれ。龍谷大学文学部(社会福祉学専攻)卒業後、島根県と広島県でMSWやケアマネジャーの実践を経験した後、2005年から大学での福祉専門職養成教育と高齢者介護システムの研究に従事する。社会福祉士・介護支援専門員


取材・文=一銀海生