マネジメント最前線

日本全国注目施設探訪

第5回 岩手県岩手郡 社会福祉法人江刺寿生会 養護老人ホーム 松寿荘

2022.08 老施協 MONTHLY

独自の取り組みでキラリと光る各地の高齢者福祉施設へおじゃまします!
※令和3年度全国老人福祉施設研究会議(鹿児島会議)入賞施設を取材しています


刑務所出所者等を対象とした取り組み「自立準備ホーム」で社会貢献

’72年に岩手県が設立した歴史ある高齢者福祉施設

 岩手県盛岡市の隣に位置する人口1万6000人ほどの町、雫石町。ここは、小岩井農場や雫石スキー場、つなぎ温泉を有する御所湖など有数の名所がある有名な観光地であり、農山村地域でもある。そんな緑豊かな自然に恵まれた環境のいい立地にあるのが、養護老人ホーム「松寿荘」だ。

松寿荘
豊かな緑に囲まれた広い敷地に立っている建物は、6つの棟からなっており、渡り廊下でつながっている
高橋昌弘
施設長の高橋昌弘さん

社会福祉法人江刺寿生会

1974年、岩手県奥州市に設立。渡辺均理事長の下、法人の理念である職員の幸せ、ご利用者の幸せ、地域貢献、凛とした経営の4つを目標に、1974年の養護老人ホーム江寿園開設をはじめとして、岩手県奥州市、雫石町内において、特別養護老人ホーム、デイサービスセンター、居宅介護支援事業、障害福祉サービス事業など、社会福祉事業を行っている。

 松寿荘は、元々’72年に岩手県が設立した県営高齢者福祉施設を、’06年から社会福祉法人江刺寿生会が引き継いだという、長い歴史を持った施設である。

「敬意と優しさのある言葉」「愛情と明るい笑顔」「清潔で好感のある身だしなみ」を法人のモットー、職員の心構えとし、おおむね65歳以上で、心身の病気、障害のある方、身寄りがない方、住む所がない方、低所得者など、身体的、環境的、経済的理由により、自宅において生活することが困難な方を対象として、主に県内33市町村の高齢者を受け入れている。

[1]高齢者福祉施設では珍しい本格的な体育館。地元民の催し物にも開放している [2]管理棟のエントランス。この前には雨にぬれずに済む車寄せがある [3]エントランス内側。入ってすぐ左には受付がある。車椅子用のスロープも完備

 緑豊かな自然に囲まれた広大な敷地には、鉄筋コンクリートで造られた管理棟、静養棟、サービス棟に、2階建ての居住棟が2棟、さらに、養護老人ホームには珍しい、100人ほどの人員を収容可能な鉄骨造りの立派な体育館を備えるなど、全6棟の建物が渡り廊下でつながれて構成されている。

 この他にも、施設内に広大な集会室や談話室などが多数あり、数々の催し物や地域住民との交流に役立っているそうだ。

[4]緑豊かな自然に恵まれた農山村地域となっている周辺環境 [5]居住棟の廊下。玄関扉横には、常に防災頭巾が用意されている [6]居室は、畳やふすまなど純和風の造りとなっている
[7]テレビ視聴やカラオケ大会など多数の催し物も開催されている居住棟の談話室 [8]日当たりが良く気持ちのいい居住棟廊下の談話室 [9]広々としてシャワーも完備されている男女別大浴場

 また、施設内には売店も設置されており、菓子やカップラーメンなどの食料品、洗剤などの日用品が販売されている。

 ちなみに、こちらでは間食は自由で、この売店や給食などの施設運営も一部入居者に役割分担してもらうなど、入居者の自由意思が尊重されているという。

 施設の庭には、家庭菜園があり、入居者や職員が自由に花や野菜を育てているのも魅力だ。

[1]菓子やカップラーメンなどの食料品や洗剤などの日用品が販売されている売店 [2]広々として明るく清潔な食堂 [3]各座席は指定席で、入居者の食事に関するデータが示されている [4]入居者の食事が全て手作りで提供されている厨房 [5]大勢の人が集まって催し物を開催することができる集会室 [6]入居者や職員が花や野菜を育てている家庭菜園

雫石町からの受託事業等多様な事業展開を実施

 こちらの施設では、介護保険事業として、「指定訪問介護事業所」「指定居宅介護支援事業所」「デイサービスセンター(地域密着型)」を運営している。

 その他にも、自主事業として、家事など生活全般について訓練を実施する「自活訓練事業」、一時的に地域生活の維持・継続に支障が生じた方を同施設に低料金で短期宿泊してもらい、復帰支援する「地域生活支援短期宿泊事業」、身元保証人がいない同施設利用者が町内の高齢者福祉施設に移籍する場合、同施設が身元保証人を代行する「低所得高齢者の身元保証人に関する相談及び代行事業」を実施。

 また、’14年より厚生労働省のモデル事業として開始、’17年より雫石町の事業として継続して受託している、転居による住宅と生活支援サービスを提供、可能な限り地域生活を送ってもらうことを目的とした「雫石町低所得高齢者等住まい・生活支援事業」も行っている。

盛岡保護観察所に登録し「自立準備ホーム」を実施

 さらに、特筆すべき事業として、’13年より盛岡保護観察所に登録して実施している「自立準備ホーム」という取り組みがある。

 これは、基本的に軽犯罪を犯した刑務所出所者等で保護観察中の方が、出所後受け入れ先がない場合、生活相談員を中心に、生活支援員、看護師、栄養士が対応し、同施設内を利用して住まいや食事、年齢や身体状況に応じた日中活動(施設内の環境整備や行事への参加)の提供を行うというものだ。

 期間は6カ月前後としており、その後は、各都道府県にある地域生活定着支援センターが中心となって住居を探したり、高齢者に関しては、同施設や他の高齢者福祉施設に長期入所するなどしている。

 この取り組みにより、結果的には、同施設の空床解消にも貢献しているという。

 なお、この取り組みについては、「令和3年度全国老人福祉施設研究会議(鹿児島会議)」最優秀賞を受賞している。

【キラリと光る取り組み】
「法務省事業『自立準備ホーム』への取り組み」

「令和3年度全国老人福祉施設研究会議(鹿児島会議)」最優秀賞受賞
松寿荘 生活相談員 遠山郁弥さん インタビュー
生活相談員の遠山郁弥さん

――この取り組みを始めたきっかけは、どのようなものだったのでしょうか?

遠山:この取り組みは2013年より始めているのですが、最初は、刑務所に服役されていた方が社会貢献活動として施設の掃除に来られたのがきっかけです。刑務所の中や保護観察中の方の中にも高齢になられている方が増えてきて、独り身で生活するのが難しくなっているケースが多く、当施設で積極的に受け入れていこうということになりました。

――この取り組みは、具体的にはどのようなものがあるのでしょうか?

遠山:住まいや食事の提供、生活支援、相談支援、外出支援などです。住まいは、まずこの施設内に部屋を確保し、本人の状態、ADLに合わせて、歩けない方や認知症の方については、施設の一部屋に滞在していただいて、健康状態などに大きく問題のない方については、施設外に職員宿舎というのがありますので、そこに滞在していただきました。

施設内にある刑務所出所者等の一時滞在部屋

――滞在されている方は、高齢者とは限らないのでしょうか?

遠山:70代〜80代など高齢の方が中心ではありますが、50代の方や過去には20代の方もいらっしゃいました。若くても障害や病気のある方、元気な方でも、家族と一緒に住んでいたけれども、事件を起こして一緒に住めなくなった方、アパートに住んでいた方でも大家に居住を敬遠されて、次の部屋が見つかるまで一時的に滞在されている方など、さまざまな事情の方がいらっしゃいます。

――自立するための支援として、どのようなことをされているのですか?

遠山:私どもではないのですが、各都道府県にある地域生活定着支援センターが中心となって住居を探したり、当施設のようなところに長期入所をあっせんしたりしています。

――この施設に滞在されている方にお仕事をしていただいたりはするのですか?

遠山:年齢や身体状況に応じて、掃除や食事の配膳など施設内の仕事や行事への参加などといった日中活動をしてもらっています。地域社会に貢献することを通じて、立ち直ってもらうことを目的としています。

――この取り組みで何か難しかったことなどはあったのでしょうか?

遠山:私たちの仕事は高齢者が対象ですので、若い方が相手だと対応方法が異なってくるということがありました。年齢や障害などに応じた対応が必要だと思いました。

――この取り組みをなされた成果は、どのようなものがあったのでしょうか?

遠山:もちろん、刑務所出所者等の方が自立するために支援し、社会貢献を果たしているという結果があった上で、支援をした方が当施設への長期入所に切り替わったり、地域生活定着支援センターからのご紹介で当施設への長期入所となったりと、結果的に当施設の空床状況の充足率の確保につながっています。少子高齢化や結婚をされない方が多くなっている現在、そしてこれからの世の中、独り身で生活するのが難しくなるというケースが増えてくると思いますので、刑務所出所者等の社会復帰の手助けになればと思います。

[1]施設外にある職員宿舎 [2]職員宿舎内観。ここで刑務所出所者等に一時的に滞在してもらう

社会福祉法人江刺寿生会 養護老人ホーム 松寿荘

社会福祉法人江刺寿生会
養護老人ホーム

松寿荘

〒020-0503
岩手県岩手郡雫石町七ツ森16-37
TEL:019-692-2511
URL:https://www.esashijyuseikai.or.jp/

[定員]
養護老人ホーム:100人
ショートステイ:2人
デイサービス:18人


撮影=山田芳朗/取材・文=石黒智樹