マネジメント最前線

介護現場NOW

人口激減社会下でどのように人を活かすか 〝社会福祉連携推進法人〟の役割とは?

2022.07 老施協 MONTHLY

社会福祉連携推進法人制度の施行により、法人同士が連携・協働化し、働く人材を融通し合うことが可能に

人口激減社会においては人材不足がさらに深刻化

 介護業界で働く人々の疑問や悩み、課題を聞き出し、その解決策を専門家に伺う本連載。今回の第4回から第6回まで3回にわたって、「人口激減社会下で人を活かすマネジメント」について取り上げる。

「うちの施設の新人がまた辞めた」「うちの法人に新卒が来てくれたことはここ数年ない」「人材派遣会社にお金を取られることばかり」

 現場からはそんな悩みの声を聞くことが多い。人材不足はもはや慢性的なものだが、これからの人口激減社会においては、事態がさらに深刻化するのは確実だ。

現役職員による座談会【介護現場のリアル】

多様な働き方がポイント?  介護職を長く続けるには

社会福祉法人の特養に勤めるA社員と訪問介護会社に勤めるB社員。どこも人材獲得に必死のようだが、最近はこんな変化があるようだ。

A「同じ仕事でマンネリはあるね。7年やってて辞めるほどじゃないけど、新人がすぐ辞めるのも気になる。介護士は高齢化してるし」

B「うちは社内で交換留学制度があって、希望者は系列の施設や訪問事業所に行けるから、気分転換にもなるし技術の幅も広がるんだよ」

A「社員も介護副業がOKなら、給与も増えるし人材も確保できるね」

B「私も短期間だけデイサービスや特養で仕事をやってみたいな」

A「スポットで人材が相互補塡できるような連携が会社にあればね」

B 「介護は資格や経験技術も一律だから、どこでも即戦力になるよ!」

【図1】今後の人口構造の急速な変化
【図1】今後の人口構造の急速な変化の図表
※出典:総務省「人口推計」、国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(平成29年推計):出生中位・死亡中位推計」(各年10月1日現在人口)、厚生労働省「人口動態統計」

 図1を見ると、’19年から’30年には、人口全体が1億2617万人から1億1913万人と減少する中、65歳以上の人口は127万人増加するのに対し、15歳~64歳の生産年齢人口は632万人も減少してしまうと予測されている。


【図2】地域別の少子高齢化の進展

2015年と比較して2045年の人口は、15歳未満は約19%減少し、75歳以上は約40%増加すると推計される。
15歳未満の人口は、全国的に減少する傾向。75歳以上の人口は、大都市とその郊外を中心に増加する傾向にある一方で、北海道、東北、中国、四国では減少する市区町村の割合が高い。

【図2】地域別の少子高齢化の進展の図表
※出典:国立社会保障・人口問題研究所「日本の地域別将来推計人口」(平成30年推計)

 また、図2を見ると、’15年から’45年には75歳以上の人口は約40%増加、特に大都市とその郊外を中心に増加、北海道、東北、中国、四国という地方では減少する傾向になると予測されている。


 このように、人口減少や急速な高齢化、地域社会の脆弱化等により社会構造が変化し、福祉の多様化、複雑化が進み、生産年齢人口の減少による人材不足の問題が深刻化する中、厚生労働省は、社会福祉法人の事業展開の在り方を検討。

 その結果、厚生労働省は、社会福祉法人同士の連携、協働化しやすい環境とするため「社会福祉連携推進法人」制度を制定した。

 この社会福祉連携推進法人が、どう人材確保に関係するのか? 医療や福祉事業の経営と政策について研究されている早稲田大学 人間科学学術院 教授の松原由美氏に解説していただいた。

社会福祉連携推進法人とは
地域医療連携推進法人との違い

 社会福祉連携推進法人とは、’22年4月より施行されたばかりの法人制度で、社会福祉事業に取り組んでいる社会福祉法人やNPO法人等を社員として、相互の業務連携を推進することを目的としています。その創設の主旨は、緩やかな連携か、合併・事業譲渡の2択しかない現状に対し、中間的な選択肢として、経営基盤を強化するための連携・協働化の選択肢を増やすことにあります。

 医療分野では、’17年に既に地域医療連携推進法人制度が施行され、全国に31法人が存在します(’22年4月1日時点)。この法人との違いから見た社会福祉連携推進法人の特色は2つあります。

 第一は、社会福祉連携推進法人では営利組織が社員になれる点です。ただし、社員の過半数が社会福祉法人であることが必須です。

 第二は、法人の活動区域について全国を対象としても良い点です。

社会福祉連携推進法人のメリットとブランドづくり

 社会福祉連携推進法人のメリットを一言でいえば、規模のメリットを社員となる社会福祉法人の自治を保ちながら享受できる点にあるといえるでしょう。人材採用や教育の連携、共同購入、災害時の支援などが考えられます。しかしこれらは、現時点でもやる気さえあれば実現可能です。

 社会福祉連携推進法人でなければできないことは何かといえば、社会福祉連携推進法人を介した社会福祉法人間の貸付です。しかしこれも、貸付の上限が直近3カ年の本部拠点における当期活動増減差額の平均値に制限されており、せいぜい300万円程度の額と想定されるため、貸付を受ける手間暇を考えれば、メリットとは言い難いと思われます。

 従来の体制のままでも取り組めるメリットばかりであれば、社会福祉連携推進法人の設立の意味はないのかというと、そんなことはありません。例えば、ある社会福祉法人では、A事業所で急に人が足りないとなれば、法人全職員向けのSlackかLINEで短時間アルバイトを募集し、時間が空いている職員などに子連れで子供を傍らで遊ばせながら、単発で働ける仕組みとしています。これを社会福祉連携推進法人下で行うことが可能です。一法人で行うよりも、より人材が融通しやすいですし、日頃からシステム化された教育を受ける制度とすることから、たとえ異職種であっても、質の面でより安心感があるでしょう。

 社会福祉連携推進法人としてのまちづくりへの参画などは、職員のモチベーションアップにも一役買うのではないでしょうか。

 さらに種別を超えたワンストップで福祉サービスを提供できる社会福祉連携推進法人としてのブランドづくりは、福祉に対する地域住民の理解を得、支援し支援される関係を構築するためにも、職員確保のためにも、今後は重要になると考えられます。

※2020年6月制定の「地域共生社会の実現のための社会福祉法等の一部を改正する法律」に基づく

【図3】地域福祉支援業務のイメージ
【図3】地域福祉支援業務の図表
※出典:社会福祉連携推進法人の運営の在り方等に関する検討会
今月の回答者
早稲田大学 人間科学学術院 教授 松原 由美さん

早稲田大学 人間科学学術院 教授
松原 由美さん

Profile●まつばら・ゆみ=慶應義塾大学大学院 経営管理研究科修了。博士(福祉経営日本福祉大学)。医療や福祉事業の経営と政策について研究。社会保障審議会医療部会 委員、社会保障審議会福祉部会 委員、神奈川県 公益認定等審議会 委員、新宿区 高齢者保健福祉推進協議会 会長、新宿区地域包括支援センター等運営協議会 会長


取材・文=一銀海生(座談会)