マネジメント最前線

チームのことば

【INTERVIEW】笹谷 崇/株式会社セガ アミューズメントコンテンツ事業本部 MD本部 MD市場開発部 オンラインビジネス課

2022.05 老施協 MONTHLY

 オンラインクレーンゲームをご存じだろうか。スマートフォンやパソコンでゲームマシンを操作して、クレーンゲームを楽しむというものだ。遠隔操作で実際にゲームセンターにあるのと同じマシンを操作するという点で、よくあるオンラインゲームとは大きく異なっている。ユーザーがゲーム上で実際に獲得した景品は後日配送されるという仕組みだ。そんなオンラインクレーンゲーム業界に、クレーンゲームの元祖“UFOキャッチャー”の生みの親であるセガが先月、満を持して参入した。セガのオンラインクレーンゲームの本拠地にてゼロからの立ち上げを指揮した若きリーダーにその苦労談を伺った。


チームのメンバーみんなが、働きやすい職場だと言ってくれる。その空気を大事にしてこれからも続けていきたいです

巨大な倉庫に広がる、セガのオンラインクレーンゲームの本拠地。現在は1フロアに全200台、計400機のUFOキャッチャーが稼働しており、オンライン上で24時間プレー可能だ。ユーザーは筐体の周りに設置されたカメラの映像を参考にアームを動かし、希望するアイテムの獲得を目指す

元祖の大手ながら最後発しかも手探りのスタート

 スマートフォンやPCでマシンを遠隔操作し、獲得した景品を後日配送してもらうオンラインクレーンゲームは、’12年ごろ、ゲームセンターを運営する大手ではない中小企業が始めたものだった。近所にゲームセンターがない地域などの顧客の支持を得て、その後のコロナ禍で一気に市場が広がっていった経緯がある。親としても子供がゲームセンターに入り浸るよりずっと安心だ。そんなオンラインクレーンゲーム業界に、クレーンゲームの元祖である“UFOキャッチャー”の商標を持つセガが、今年の4月にセガブランドとして参入した。クレーンゲーム業界の大手が、最後発として参入したのはなぜなのだろうか。

笹谷「通常のクレーンゲーム機が設置されているゲームセンターは風営法の適用を受ける施設で、営業時間制限や入場者の年齢制限などの規制があるわけですが、オンラインクレーンゲームは当初から24時間営業を行い、その辺がグレーなままスタートしていました。ゲームセンターの運営も行う大手としては、グレーなままでは参入できません。そんな中、’16年に、経済産業省から“風営法の適用を受けず、24時間営業も可能”という見解が出て、大手にとっても参入障壁がなくなったのです。そこで、セガでもゲームセンターの運営を行っていたグループ会社が、’17年にオンラインクレーンゲーム事業を立ち上げたのです。しかし、この会社が’20年末にグループから分離することになっちゃったんです。しかし、われわれは“UFOキャッチャー”という、元祖の商標も持っているわけですから、改めてきちんとしたものを立ち上げようじゃないか、という話になって、1年半前から準備を開始してやっとこのほどオープンした、というわけなんです」

 企画の立ち上げから1年半でオープン。さすが元祖の会社だけあるスピード感といえる。

笹谷「いやいや、逆です。うちは景品も筐体(ゲームマシン)も自社で製造しているので、外部から景品も筐体も購入して、倉庫に設置してカメラを付けて、オンラインにつなげばオッケーというほど簡単にはいかないんです。メーカーならではのレギュレーションなどはきちんと守って、稟議を通してなど社内手続きがいろいろ大変でした。ただ、おかげで、保安基準や労働環境などの部分については万全の状態でオープンさせることができましたので、そこは良かったと思います。クレーンゲームの大手で元祖なのに最後発なわけですから、ユーザーの信用がかなり高い分、小さなトラブルも起こせないというプレッシャーもありました」

ゲームセンターで味わえる、あのワクワク感。スマートフォンさえあれば、いつでもどこでも楽しめるのがオンラインクレーンゲームの特徴だ
ゲームセンターで味わえる、あのワクワク感。スマートフォンさえあれば、いつでもどこでも楽しめるのがオンラインクレーンゲームの特徴だ

 オンラインクレーンゲーム企画のスタートにあたり、チーム作りも一からスタートしたという。

笹谷「現在は、私も含めて4名の社内メンバーを統括部門としています。シフト制で勤務する現場社員が5名、さらに今回募集したアルバイトの方々を中心とした現場スタッフが約35名。このチームが3交代制で24時間の運営をしています。こちらもゲームセンターを運営していた会社が離れてしまった直後だったので、アルバイトで来てくれたスタッフの方が店舗の運営とか、筐体のメンテナンスなどの知識があるというケースも多かったんですね。ですから、こちらが教えてもらうことも多く、もう社員とかアルバイトの垣根を越えて、分からないことや問題を共有しながら準備を進めていったという感じです。現状、5名のシフト制社員が10名以上の現場スタッフをまとめて、これを3交代で回しているわけですが、10人が指示待ちでは業務がうまく回りません。現場スタッフが優秀でモチベーションの高い人が多いので助かっています。ゆくゆくは、現場スタッフの方からもチームリーダー的な人材を引き上げて登用することも、考え始めているところです」

アームを操作して、列車のおもちゃが運んでいるボールをつかむゲーム
アームを操作して、列車のおもちゃが運んでいるボールをつかむゲーム
小さい穴に、クレーンに取り付けられた棒を通すといったゲームも。オンラインだからこそ実現したゲームが楽しめるのも魅力だ
小さい穴に、クレーンに取り付けられた棒を通すといったゲームも。オンラインだからこそ実現したゲームが楽しめるのも魅力だ

オープンな現場が、チームのモチベーションを生む

 スタッフのモチベーションの高さは、やはりセガという老舗ブランド故のものなのだろうか。

笹谷「それもあるとは思いますが、仕事をするからには社員、スタッフ各自が責任を持って、自覚を持って“情報を共有しながら一緒に頑張ろう”という雰囲気づくりを、チームを結成した当初から行ったことが大きいかなと思いますね。もうカッコつけずに、うちらギリギリです。ごめんね、こんな状況でみたいな(笑)。でも、その結果、みんなで作り上げている空気感を共有できているような気がしています。先週オープンしたばかり(取材日は4月21日)で、おかげさまで現場の方はスムーズにいきましたが、アプリのシステム部分でちょっとした不具合が出ました。すぐに解決したんですが、そのわずかな時間に公式ツイッターで情報を発信して、ユーザーさんに対してもブラックボックスにしないというか、情報の共有を行うようにしたんです。セガの公式ツイッターには50万人近くのフォロワーがいて、そちらのSNSチームに私も参加させてもらっているので、SNSチームのメンバーにもいろいろ助けてもらいながらうまくスタートできたと思います」

 スタッフ内で職種や職能を超えて情報を共有するばかりか、ユーザーともリアルタイムに状況を共有することで不満や不安を払拭していく。これは案外、あらゆる業態に参考になるケーススタディーといえるのではないだろうか。

ユーザーにUFOキャッチャーを楽しんでほしいという思いからチームの中心として業務をこなす笹谷氏。自身も、UFOキャッチャー好きで、テレビに出たことのあるほどの腕前の持ち主だ
ユーザーにUFOキャッチャーを楽しんでほしいという思いからチームの中心として業務をこなす笹谷氏。自身も、UFOキャッチャー好きで、テレビに出たことのあるほどの腕前の持ち主だ

チームの良さを失わず面白い場所の提供を続ける

 今後、コロナ禍がやや落ち着けば、ゲームセンターにも人が戻り始める。リアルのクレーンゲームとの差別化を、セガとしてはどう考えているのだろうか。

笹谷「クレーンゲームをよくやる方はご存じでしょうけど、店舗では何度も何度も挑戦して、惜しいところまで景品が来ているお客さまには、ちょっとスタッフが景品の位置を移動させてあげたりなんてこともあるんですが、オンラインでもユーザーさんのプレー状況は確認できるので、そうした人の温かみのあるアシストみたいなことは、ある程度の公平性を保った上でできると思うんです。一方、これからは店舗ではできない遊び方というのも考えていかないといけないと思います。特にアプリゲームは無料で遊べる文化というのが定着している部分がありますので、うちでもデイリーチャレンジといって、ログインすれば一日1回、無料で遊べるブースというのを用意しています。クレーンで列車のおもちゃが運んでいるボールをつかむとか、普通の遊び方じゃないものなんですが、こういったことは店舗ではできないですよね。それにアプリですから、デジタルコンテンツ的なものを提供するとかいろいろアイデアを練りながら、次の一手をまさに検討しているところです」

 デジタルコンテンツを作るとなると、新しいチームが必要になる。

笹谷「そうですね、全く。でも、また新しいメンバーと情報を共有しながら、より面白いものを、差別化を考えながら作っていけたらと思います。幸い、このチームのみんなが口をそろえて『働きやすくて楽しい』って言ってくれているんです。最初から担当があって、これは誰の担当だからと言って任せっきりにするのではない状況が、そういう空気を醸成してくれているんだと思いますが、これからもそうした良さをチームとして失わずにユーザーさんには面白い場を提供していけたらと思います」

 考えてみれば、新規事業を立ち上げるときにはどんな担当があるかも分からないのが普通なのだから、リーダーの理念や思いが共有されていれば風通しは良くなるもの。今回の取材を通じて、笹谷さんがチームリーダーであるならうまくいきそうだと感じた。

セガのオンラインクレーンゲームは右記の二次元コードからアプリをダウンロード可能。パソコンでもプレーできる
セガのオンラインクレーンゲームは右記の二次元コードからアプリをダウンロード可能。パソコンでもプレーできる

セガUFOキャッチャーオンライン

https://sega-ufo.com/

©SEGA
※UFOキャッチャーは株式会社セガの登録商標または商標です。


株式会社セガ アミューズメントコンテンツ事業本部 MD本部 MD市場開発部 オンラインビジネス課

笹谷 崇

Profile●ささや・たかし=‘85年生まれ。‘08年セガ入社。ソフト開発からアミューズメントマシン開発など数多くの部門があるセガにおいて、クレーンゲームやコンビニくじ向けのプライズ(景品)制作やオンライン事業に長く関わる。その経験から、今回の新事業「セガUFOキャッチャーオンライン」立ち上げのリーダーに抜てきされる


撮影=高嶋一成/取材・文=重信裕之