マネジメント最前線

チームのことば

【INTERVIEW】武藤治彦/三井不動産商業マネジメント株式会社 運営第一本部 ららぽーと第三事業部 運営課

2022.04 老施協 MONTHLY

 ‘81年、千葉・船橋に1号店をオープンし、今月福岡に国内17施設目をオープンする「三井ショッピングパーク ららぽーと」は、日本のモール型ショッピングセンターの指針となるブランドとして業界をリードしている存在だ。
 今回は、その運営・管理を行う三井不動産商業マネジメント株式会社において、東京のアーバンドック ららぽーと豊洲、神奈川のららぽーと海老名などのオペレーションセンター所長を歴任された、武藤治彦さんのお話を伺いに、海老名を訪れた。介護施設は“チーム”の世界。本連載はさまざまなジャンルのチームのリーダーに話を伺い、成長し、信頼し合えるチームの作り方を紐解いていく。


それぞれが自分の役割の中で自分ができるベストを尽くす。そうしないと船は進んでいかない。

三井ショッピングパーク ららぽーと海老名
「三井ショッピングパーク ららぽーと海老名」。正面エントランスは、建設時に施工会社が“ハッピーハット”と呼んでいたため“ここを通ると幸せになれる”というストーリーが考えられた

「地域のライフスタイルに密着」がキーワード

 ららぽーとのような大型のショッピングセンターにおいては、施設を運営・管理するデベロッパーのスタッフと、入居する店舗のスタッフという所属の異なる大勢のメンバーが一つの施設に同居する。運営サイドにはこのチームの意識をまとめ、一丸となって施設の個性や特色を演出していく、という難しい舵取りが求められる。

武藤「’06年10月にららぽーと豊洲がオープンして私が所長に就任するのですが、翌11月に柏の葉、’07年3月に横浜もオープンしました。’06年9月にオープンしたラゾーナ川崎プラザを含めると、半年で4つの大型モールを開業するという、社としては一大プロジェクだったのです。この時にららぽーとブランドも一気に全国で5施設となり、ららぽーと全体のブランディングというものが必要になってきました。そこで地域密着型施設を目指す“ライフ・ソリューションコミュニティ”という新しいコンセプトの元、施設の運営に取り組みました。これは、ただ商品を売るだけではなくて“お客様の生活に合った提案をします”という主旨ですが、ららぽーと豊洲の時には、地域のお宅を個別訪問して冷蔵庫の中身を見せてもらうといったところまで踏み込んで、その地域のライフスタイルを研究しました。しかし、それをスタッフにただ説明するだけでは意識は根付かない。そこで具体的な例題をいっぱい作って提示しながら、スタッフ全体で意識を共有していったんです。靴を買ってくれたお客さまに、今のファッショントレンドで言うと、こうした靴にはこういうトップス、ボトムスが合います、こういうブランドさんで扱っています。あるいは、この靴を履いて地元のここに出かけるときっと似合いますよね、といった具合です。もちろん、実際の事例も店長会で報告してもらって、冊子にするなどして、全スタッフで共有するようにしました」

競合他社”ではなく、“競合する他エリア”と競争

武藤「お客様に他の店舗を推薦するのは、別にららぽーと内に限らなくてもいいんです。インフォメーションスタッフは、海老名駅の反対側にある『ViN A W ALK』さんとか、周辺の商業施設の店舗情報はもちろん、イベント内容まで把握しています。当社がららぽーと豊洲をオープンさせたあたりから、こうしたモール型の商業施設が全国に急に増えていって、業界全体で考え方が変わってきたのではないかと思っています。それは競合他社ではなく、競合他エリア、エリア対エリアの競争で売り上げを増やそうという意識です。海老名に行きたいと思う人を増やす。そういう方針であれば行政も協力しやすくなりますし、本来ライバルである他の商業施設さんとも情報交換をし合うようになる。そうすると、自然に街全体の魅力アップにも繋がっていきますよね。その結果、海老名は住みたい街ランキングでもどんどん上位に上がってきていると思います。(実際にSUUMOの’22年住みたい街ランキングでは、海老名は神奈川県内で6位。毎年、上位をキープしている)

 確かにららぽーとブランドの施設は、マンションと共に建設されるなど、街ごと作る、という開発が多い。さらに運河に面して船の発着場を併設している豊洲、東大と千葉大のキャンパスが近く商業施設とともに研究施設を併設させた柏の葉、I KEA、Costcoと隣接した新三郷など、街の個性も作り上げている印象がある。

ハードに込められているコンセプトを引き継ぐ

武藤「ハードを作った人の思いを共有するというのも大事なテーマです。有名な話ですが、東京ディズニーランドを建設する際、パーク内に入ると他の建物が見えないように周辺のホテルの高さも抑えましたよね。夢の国を作るんだから他の建物が見えてしまうのは興醒めになってしまう、と。このハードがあるからこそ、キャストにも夢の国の住人としてゲストを招く、というコンセプトがより根付きやすくなったと思います。実はららぽーとにも、それぞれの施設に作り手のこだわりがあって、同じような外観のものはほとんどないんです。ららぽーと豊洲の場合は、上から見ると船が港に停泊しているような形になっているので、開業の時のセレモニーではマーチンングバンドを入れて船の出港をイメージしたりしました。そうすると施設のスタッフは、立場は違えど、みんながクルーってことになりますよね。実は私自身、以前、海上自衛隊にいたことがあって納得できる部分がありました。旧海軍からの伝統である船乗りの心得として『スマートで、目先が利いて几帳面、負けず魂、これぞ船乗り』なんて言葉があるんですけど、限られた人が限られた中で海に出る船乗りにとって、クルーはみな家族みたいな存在になります。そしてそれぞれが役割をしっかり果たさないと船は進まなくなってしまう。これはいかなる組織でも言えることだと思います」

お客様からの自発的感謝の言葉を見逃さないように

武藤「商業施設の場合、今、このお客さんに対して自分にできるベストはなにかを追求する、ということですね。その指針の一つとして、当社では“ららスター”という表彰制度を設けています。お客様からの感謝の声が多かったスタッフを所長が本社に推薦して審査します。手紙やメール、あるいはインフォメーションスタッフに直接、自発的に届いたお客様からの感謝の声を含めて判断しています。表彰されるのは店舗スタッフに限らず、警備や清掃のスタッフも表彰されます。それぞれの立場で、このエリアのお客さまに自分ができるベストを提供するという意識が浸透すると、いろんなスタッフに感謝の声が届くようになる。もちろん、感謝を伝えるという行動をたまたま起こしてくれた場合に顕在化するので、実際は感謝されているのに埋もれちゃっているケースはあり得ます。でも、普段から事例の共有化を進めていると『私もいいことしてるのに』と思って腐っちゃうのではなく、『私もこういう行動をしています』と積極的にアピールしてくれるようになって、結果的に全体のモチベーションアップにつながっていると思います。その結果、同じブランドのスタッフでも、“ららぽーとで働きたい”と思う、あるいは“ららぽーとで働いていたことが信用になる”、と思っていただけるよう、これからも施設と街の両方の価値を上げていきたいですね」

 ららぽーとが作る新しい街が、地域の人々の暮らしを変えていく。

むとう・はるひこ/三井不動産商業マネジメント株式会社 運営第一本部 ららぽーと第三事業部 運営課

三井不動産商業マネジメント株式会社
運営第一本部 ららぽーと第三事業部 運営課

武藤治彦

Profile●むとう・はるひこ=海上自衛隊、スポーツインストラクターを経て1991年入社。ラ・フェット多摩南大沢(現・三井アウトレットパーク多摩南大沢)、ラゾーナ川崎プラザなどのオペレーションセンター所長なども歴任、現在は後進の指導にあたる


撮影=高嶋一成/取材・文=重信裕之