キャリアアップ
私らしいリーダーシップのカタチ vol.1 完璧じゃなくていい。 1歩踏み出して見えた景色
介護・福祉業界は、約7割が女性。
女性が活躍し、輝ける業界を目指して。
業界全体で見ると、従事者の約7割が女性という介護業界。
しかしながら、経営層や役職者になるとまだまだ男性が多く、 意思決定の場に女性が0人という現状も。本企画では活躍する女性リーダーを迎え、1歩踏み出せたエッセンスをお届けします。
インタビュアーを務めるのは、20代で起業し、 介護業界の若手リーダーとして活躍する株式会社Blanket代表の秋本可愛さん。第一子を出産したことで育児に仕事に奮闘している彼女が、 リアルな女性の声を掘り下げます。
「設立準備室」に誘われたことが、 法人との出会いだった
学生時代、私はST(言語聴覚士)を目指していました。卒業後は専門学校へ進もうと思っていた矢先、先生から「社会福祉法人の設立を手伝ってみない?」という話を持ち掛けられました。それが、当法人との出会いです。株式会社が社会貢献のために社会福祉法人を設立することに興味が湧いた私は設立準備室を手伝い始め、社会人になり約2年立ち上げに携わりました。その後は相談員として実務に携わり、20代半ばに部長職の打診をいただきました。人事制度がきちんと整備されていなかったこともあり、正直なところ部長職は何をするのかよくわかっていなかったのが本音です。ただ、経営層と現場を繋ぐ役目だと自認し、なんとか部長を勤めていました。
即断できたわけじゃない。 それでも施設長に
部長になって5年が経った頃、前任の施設長から「施設長を任せたい」とのお話をいただきました。そのときはさすがに「ちょっと待ってください」と悩みましたね。施設長となると運営・経営職になるため、今までとは丸っきり視点の違う仕事になります。新しい職域にチャレンジするか、かつて目指していたSTにもう一度チャレンジし直すか、迷いました。それでもこの打診を受けたのは、特養としてお看取りをはじめ、地域ケアの関係者との連携など事業が軌道に乗り始め、仕事の楽しさを感じていたから。できることが増え、やりたいことがあるならやり尽くそうと思い、施設長になることを決めました。
自信はないのに、 「完璧にこなしたい」と 力が入っていた
施設長になって最初の数年は、現場の仕事も続けていました。それは、2つの怖さがあったからです。1つ目は、孤立してしまうのではと不安だったこと。現場で仕事をしていたとき、「施設長」は現場との距離がある遠い存在でした。いざ自分が施設長になり、現場とのつながりがなくなってしまうことが怖かった。2つ目は、判断・決定することが圧倒的に多くなり、その責任があること。「私の決断が施設の決定になる」という大きなプレッシャーから、目を逸らしたかったのかもしれません。
今振り返ると、30代の頃はずっと「施設長になったのだから」と気負い、力んでいたように思います。自信もないのに「すべてを完璧にこなさないと」との思いから現場の判断一つひとつを細かくチェックし、口出ししていたことも。現場スタッフとのエネルギーのかけ方の違いに、「どうしてわかってくれないのか」と苛立ちを感じたこともあります。そんな考えが変わったのは、施設長として外部に出るようになったのがきっかけです。当時、施設長会だと若手の女性は私1人、他は年上の男性ばかりで、異業種の経営者会議でも女性は少数派。しかしながら、外部の人と会うことで「このままではいけない」と刺激を受けました。施設、法人運営を考えることが私の役割だという自覚が芽生え、グループ会社の社外取締役を務めたことも経営について考えるきっかけになりました。
リーダーも不完全だから、 スタッフとともに進む
ちょうどその時期、「リーダーは不完全でもいい」という内容の本を読んだことも、考えが変わるきっかけになりました。それまでの私は「こうしてほしい」と相手が変わることばかりを求めていました。そうではなく、まずは自分が変わらないといけない。そこでロールモデルとして、私のことを尊重し任せてくれる理事長の「見守る」姿勢を取り入れてみました。現場のことは現場のスタッフたちに任せ、困ったときには一緒に考える。するとスタッフ、そして部署全体が自ら考えるようになりました。信頼できる心強いスタッフがすでにいたことに、ようやく気がついた瞬間でした。
高い山に登れば、 またその次の高い山がある
当法人の理事、そして「グルメ杵屋 社会貢献の家」の施設長になって15年以上が経ちます。今ではケアのことは現場のリーダーに裁量を委ね、月1回の各部署との定例打合せに加え、状況に応じて進捗の確認や方向性の検討を会話する形が私たちのスタイル。また、施設内だけの視点にならないように外部の社会人講座に通うなど多角的な視点から施設運営の学びを深めています。1つ山を登れば新たな景色が広がり、その先にはまた次の山がそびえている。次々とやりたいこと、それと同じくらいできることがあり、柔軟に変化できる組織になっている実感があります。
機会を平等に創出することを大前提として、私は明瞭な選択肢であるかを意識しています。「産休が明けたら、AとBの雇用形態があります」「リーダーの仕事は、〇〇と〇〇をすることです」と選択する前からわかりやすく、イメージしやすいようにする。1日のスケジュールで伝えるのも良いかもしれません。どの選択肢を選ぶのかは本人次第だからこそ、提示する選択肢が明瞭であることが女性の不安軽減につながります。
リーダーの選任に限らず、産休・育休の取得、雇用形態の変化などスタッフが選んだ選択を歓迎できる雰囲気づくりは重要です。タイミングや状況により、選ぶことばかりが正解ではありません。本人にとっては、選ばないことも選択肢の1つ。どのような選択をとったとしても周りが前向きに受け止められるよう、日頃からコミュニケーションをとり、スタッフ一人ひとりと意思確認をしておくことが大切です。
未来の現場をリードする 次世代女性リーダー紹介
最初は「副施設長を」との打診をいただいたのですが、私は「施設長の代わりではなく、現場との架け橋になりたい」と今の役職を逆提案し、施設長補佐に就任しました。介護は多様な職種、メンバーと関わる仕事だからこそ、架け橋となる存在が重要だと思っています。子育てとの両立もあり、まだまだ至らないこともありますが、スタッフとともに悩み考え、居心地の良い現場を提供できる存在でありたいです。
前任者の役職定年をきっかけに、看護主任になりました。看護師チームの中で一番若手だったこともあり、「ベテランの前任者のようになれるかな」と不安もありました。主任として、日々周りのスタッフとのコミュニケーションを心がけ、伝え方にも気を配るようにしています。子どもの体調不良などで私がいつ抜けても支障がないよう、丁寧な申し送りを残すようにしています。施設長をはじめ頼れる存在も多く、今の仕事が楽しいです。
撮影=本田 真康/取材=秋本 可愛/文=田邉 なつほ