介護のかたち

ケアニンとコラボ

「ケアニン」Short Films season2が公開中!

2022.07 老施協 MONTHLY

山国秀幸

「ケアニン」シリーズ 企画・脚本・プロデュース
山国秀幸氏

profile●やまくに・ひでゆき=1967年、大阪府生まれ。社会課題を題材とした映画の企画・プロデュース、脚本を手掛ける。映画「オレンジ・ランプ」(三原光尋監督)が’23年公開予定

太田二郎

全国老人福祉施設協議会 介護人材対策委員長
太田二郎氏

profile●おおた・じろう=1955年、愛知県生まれ。社会福祉法人 和敬会(愛知県)が運営する「特別養護老人ホームまどかの郷」施設長。老施協では常任理事、総務・組織委員長などを歴任


episode1
初めての看取り[新人編]

つらくて、続けられないと思った…

介護の仕事を始めて2年目の未来。仕事を続けるきっかけになったご利用者の死に直面し、「頑張っても助けることはできない」と落ち込む。このつらさをどう乗り越えるのか。

亡くなったご利用者の部屋の片付けをする、新人介護士の未来

介護の仕事に、介護職員の自分に、誇りを持つ

人生の最期に寄り添うことで生き方を学ばせてもらう

「新人の介護職員さんの悩みは“対ご利用者”なんですよね」と山国さんは言う。目の前のご利用者に精いっぱい杯向き合う新人介護職員が主人公の新人編のテーマは、初めての看取りだ。season1で仕事を辞めたがっていた新人の未来が、仕事を続けることを決意するきっかけとなったご利用者の康子さん。season2ではその康子さんとの別れに苦悩する。看取りをテーマにしたのは、介護職の方々から聞いた言葉が山国さんの心に強く残っているからだ。

山国「5年前の映画製作時、僕は看取りを嫌な仕事だろうという先入観から、描くべきじゃないと思い込んでいました。でも、介護職員の方々に『とても大切な仕事なのできちんと描いてほしい』と言われたんです。生きることを手伝っている仕事なんだと。それがとても刺さったんですよね。担当した人とのお別れは必ずあって、自分の仕事を考えるきっかけに必ずなっていると思うので、今回もそこは外せないと思いました」

 現実と力量の違いから、仕事をしていると「もどかしいことが多い」と話す新人職員が多かったと山国さんは言う。劇中の未来も、大好きな康子さんとの別れに「頑張っても、頑張っても、助けることはできない、そう思い知らされた」と苦悩・葛藤していた。

太田「身内の死に立ち会ったこともない若い職員ですからね、新人職員が看取りに立ち会うという以上につらいものはないでしょう。楽しいことやつらいことを一緒に分かち合ってきたわけですから」

 新人職員が皆、涙を浮かべながら自分が経験した看取りの話をしてくれたと山国さんは振り返る。

山国「でも、皆さんすごくたくましいです。つらかったけれど、あのときこういう言葉を掛けてもらって頑張ろうと思ったという話が出てくる。20代の子から死生観が伝わってくるんです。初めて看取ったときにもう辞めようと思った人も、残されたご利用者がいたり、ご家族にお礼を言われたりして、自分たちの仕事は“ここがゴールじゃない”と気付くことが、すごくすてきだなと思いました。『人の最期に寄り添うことは自分自身学ぶことが多い。生き方を学んでいる仕事なんです』ということをおっしゃる方が多いんです」

太田「仕事は誰のためにするのかということですよね。自分のためだけじゃなくて、人の役に立つから頑張れる。それが魅力であり、やりがいである。弱い人をいたわりたいという気持ちが、誇りのある人の心。介護の仕事に誇りを持ち、そして介護を仕事としていることが自分の誇りだと思ってもらいたい。自分のやっていることがいかに大切なことか思い至れば、他人の命も存在も大切にできるんです。そういったやりがい、誇りのある仕事だということをケアニンが映し出していると思います」

避けられないことと分かっていても涙があふれる

 物語では苦悩の末、未来はそのつらさを乗り越える。それは1人で成し得たことではない。リーダーが「泣いていいんだよ。泣いて泣いて嫌になって落ち込んでも、そのたびに僕たちがそばにいるから」と声を掛ける。ご利用者から「私のときもお願い」と、自分を必要とされる。周囲の支えやそこからの気付きで乗り越えていくのだ。

山国「同僚など、周りの人のお声掛け一つで変わると思うんです。インタビューした方々は乗り越えられた方々で、自身が落ち込んでいると声を掛けてくれる先輩がいるなど、職場にすごく恵まれているなと感じました。ちょっとしたことが大事なんですね。逆に言うと、それを放置されてしまうと孤独感を持ち、離職につながってしまうんじゃないでしょうか」

老施協.comで見つけた介護職員の支え合いエピソード
【新人編】

先輩の態度に悩む新人職員へ見本となるべき姿が示される

新人からの「利用者に対する先輩の暴言やイライラにストレス」という投稿に、「介護施設は専門職員なのでプロ意識を再認識してもらう必要がある。初心に帰ることが大事。暴言を吐く施設には入所したくない」と寄り添う他施設長の回答が。


episode2
願いを叶える[リーダー編]

認知症でも分かるんです!

別の施設で暮らす妻に会いたいというご利用者の願いをかなえようとご家族に相談するも、「余計なことをしないでくれ」と言われるリーダー。介護に限界はあるのか?

妻を前にしたご利用者に「会いたかったですよね」と話し掛けるリーダー

生き生きと働くリーダーの背中を見て新人が育つ

実現のために工夫すれば介護の可能性は無限に広がる

 リーダーがご利用者の願いをかなえるために奮闘する様を描く、リーダー編。「この仕事には限界がある」と言っていた新人の未来が、リーダーが思い描いている願いを実現していく姿を見て、「この仕事って何でもできるんですね」と考えが変わっていくのが印象的だ。これは山国さんが実際にリーダー職の方から聞いた言葉だという。

山国「リーダーになるとできることの幅が広がるんですね。提案して企画が通れば実現できるんです。『介護の仕事は無限なんです』とおっしゃる方がいて。『目の前のことに追われていると100%忙しいんだけれど、効率化するための工夫をすれば時間をつくれて、やれることがいっぱいあるんです』って。ご利用者だけを見ていた新人と違い、経験を積んだリーダーはご利用者のご家族も見ているので、そこに向けて何かしたいと思っている方が多いなと感じました」

 インタビューをしたリーダーの年齢がバラバラだったことも印象に残っているという。本作でのリーダーの設定は28歳だ。

太田「奥深い世界ですから。年数が長いだけでベテランと呼ばれている者もいますけれど、そこには判断力や決断力など、能力が伴わないといけないですからね」

山国「おっしゃる通り、20代前半のリーダーもいれば、40代のリーダーもいて、本当に年齢じゃなくて経験値なんだなと思いました」

 物語では、ご家族に「余計なことはしないでくれ」と言われながらも、別々の施設に暮らす認知症のご夫婦の対面を実現させる。2人が手を取り合うシーンには、涙腺が緩んでしまう。

山国「実話ベースなんです。実際に会わせてみたら、ご夫婦はお互いのことを分かったようで、反対していたご家族もその場で泣いていたそうです。経験から実現できる確信があったのだと思うのですが、独断ではなく、主任に相談するなど筋を通して結果を出す。工夫できるところがいっぱいあるんだというのがすごくすてきです」

反対していたご家族も、両親の様子に涙を流す

 劇中のリーダーは上司にご夫婦を引き合わせる許可を取り、ご家族に頭を下げ、その姿を未来をはじめ他の職員が見つめ、その行動についていく。それは、介護現場はチームだということを、そして頼れるリーダーの存在が必要であることを、取材を通して肌で感じたからだと山国さんは語る。

山国「皆の力を借りればいろいろなことができ、リーダーを中心に空気感で動いている。インタビューでは新人さんに、どういうリーダーがすごいと思いますかと尋ねると、『どんどん先回りしてやってくれる』という答えが多くて。映画の製作現場も似ていて、新人ほど走っているんです(笑)。段取りができていないってことなんですよね。でもキャリアがないと段取りはできない。『リーダーはいつも余裕があってニコニコして、下にも声を掛けてくれるので、あんなふうになりたい』と言うんですね。そういう存在があると、新人さんも上を向けるようになるんじゃないでしょうか」

太田「憧れる先輩がいる、そういうのがリーダー像であるべきだと思いますね。介護の魅力はどの職場にもあります。離職者が多い職場というのは、介護の魅力がないのではなく、人材育成にまで手がまわっていないんですね。人を育てることができていれば、それが職場の魅力になっていくんです」

老施協.comで見つけた介護職員の支え合いエピソード
【リーダー編】

Short Films season1を例に介護の魅力を再認識する投稿が

「理不尽に思うことは?」の投稿に、“100回辞めようと思った。でもずっと続けていこうと思った仕事”というせりふを例にし「本当にこの言葉通り。離職も考えたけど、利用者や職員のおかげで続けて本当良かった」と回答。励まし合うやりとりも。


episode3
人間の機能を知る[主任編]

今すぐ先生を呼んで!

ある日、喉を詰まらせたご利用者に慌てる未来。それを見た主任は的確なフォローをしてくれる。優しさや思いやりだけでは成り立たない、介護に必要なものとは何か。

喉に詰まらせているのは、共有リビングにあったある物だと気付く

主任は専門性を増した介護のプロフェッショナル

職員を俯瞰して見守り的確にアドバイスできる

 施設長として多くの職員を見てきた太田さんは、新人と主任クラスの違いをこう語る。「新人は介護職員の一員である職員。対して主任クラスは“職人”。職業としての人です」。新人の失敗の原因を的確に指摘し、アドバイスをする。カンファレンスでは専門的な知識を持ってご利用者一人一人の状態を確認する。主任編は、そんな職人としての働きを描いている。

山国「職員の目線が、新人さんは“対ご利用者”ですが、キャリアを重ねていくと“対ご家族、マネジメント、経営”の方に向いていく。やりがいや魅力が、個人からさらに地域まで向いていくなという印象がありました。この前提の中で、主任は、『プロフェッショナルだな』と思ったので、プロとしての姿を描くべきだと思いました」

 この仕事は優しさや思いやりで語られることが多いが、それだけでは完全じゃない、というナレーションも印象的だ。

山国「常日頃変わっていく法律をアップデートして、体のことも勉強しているからこそ、新人に的確なアドバイスができるんですね」

太田「思いやりを持って教えることができるのが主任ですからね。新人はいくらでも失敗すればいいんです。その失敗が体験になり、失敗を補うだけの専門性が施設にはある。専門家集団ですから、経験豊富な知識技術を持った有資格者が大勢いてリカバーできる。自信を持って失敗せよとまでは言いませんけども(笑)、それをさせるのが主任だと思うんですよね」

 プロの仕事を表現するため、山国さんはあえて日常を描くことにこだわったという。物語の中心はご利用者の誤飲。喉を詰まらせているご利用者に未来は慌てふためくが、主任が冷静に部屋の状況を確認し、押しピンを飲み込んだことに気付いて事なきを得る。

山国「介護は日常なので、日常の中でアンテナを張って広く深く見ているということを描きました。介護を科学し、どう介護をレベルアップしていくのかということもきちんと表現したかったんです。体の支え方にも理由がある。ご利用者の様子がおかしいときに、新人とは見ているところが違う。職員を育てるということも含めて、なぜそれをしたのかを説明する」

太田「主任クラスは物事を理解し、どういう姿勢を持つべきかをきちんと教える力量を持っていなければいけませんよね。介護一つ一つの場面についてご家族や職員に説明ができる。主任ともなると、そういったマインドをきちんと自分で育てていける人材ですね」

主任の頼もしさに未来は感動する

 そうした力量を維持するには、勉強は欠かせない。仕事の参考になる本を探していた未来に、主任は自分が使っていたお古の本を手渡すが、その本に貼られている付箋の多さに驚かされる。

山国「実際のお話ではマーカーだったんですが、これもリアルなエピソードです。『忙しい中いつやっているの?』ということをやっているからこそ、そういう役割ができるんだなと思いましたし、新人もリーダーも主任のことをそう言っていましたね」

太田「見せない努力ほど、結果で見えるものなんですよ」

 経験や勉強を重ね、新人編で描かれたような看取りに大きく動揺することもなくなっていく。だが、それでもやはり、「皆さん本当に優しい」と、その心根に山国さんは感銘を受けている。

山国「大事にされている思い出を持っていて、話しながら涙を流す主任さんもいる。それはご利用者やご家族のお話なんですよね。優しくないとそういうお話はたまっていかないし、介護に誇りを持っているからこそだと思います」

老施協.comで見つけた介護職員の支え合いエピソード
【主任編】

離職に悩む主任へ他施設長が自らの施設の取り組みを提案

主任からの「離職防止の取り組みは?」に、他施設長が「一番の退職理由は人間関係。職場の縦(施設長から担当)と横(職員間)は良好? 私は職員と面談して意向や意見を聞き、施設業務や職員交流に努めています」と実践的なアドバイスも!


episode4
未来をつくる仕事[施設長編]

施設長って何してるんですか?

ある日、スーツ姿で出掛ける施設長。新人の未来には、施設長が日々どんな仕事をしているかが分からない。先輩やご利用者に聞く施設長の仕事、自身の目で見たものとは。

職員一人一人にも細やかに目を配る施設長(右)

施設長は介護現場の先にある地域社会まで考える

施設と、地域の未来をつくる広い視野を持って考える人

 山国さんは職員たちと話す際、最後に必ず「施設長は何をしているんですか?」と聞いていたそう。

山国「皆『知らない』と答えるんです。太田委員長も『何やってるんですかね、僕たち』って(笑)。背負っているものがたくさんあるのに、すごくリラックスされている役職という印象ですね」

太田「自分のことは自分で言いづらいですね(笑)。何をやっているか分からないくらい、やらなければならないことが多岐にわたっているんじゃないでしょうか」

 スーツ姿で講演に出掛けるなど、施設長編では、職員には見えづらい施設長の仕事を紹介している。太田さんの言う通り、その仕事は多岐にわたる。山国さんも「施設長は介護現場だけでなく、その先の社会を見ているんだということに気付き、驚いた」と語る。

山国「未来の介護職員になるかもしれないと学校へ説明に行く。それは普段から地域と違和感なくお付き合いしていないとできない。思いがすごくあるし、権限もできてくる。どう人材を確保し、教育し、地域と関わるか、視点が全然違う。これはもう介護の仕事じゃないなと思ったので、タイトルを『未来をつくる仕事』にしたんです」

 ナレーションでは「人を見て、地域を見て、そして未来をつくる仕事」だと語られる。

太田「社会福祉法人は民間企業とは物の見方や考え方が違いますから。その街の高齢者福祉がどうなっているのか、どこまで社会的資源として施設が機能していくのか。立地する地域も福祉の視野で見ていかなければいけないので、常に動いて地域の動向を考えている方が多いと思います」

 広い視野を持って取り組む施設長。物語では、施設をユニット型にリニューアルした背景が語られるが、これにはモデルが存在する。

山国「理事長に提案して予算を割いてリニューアルされたのですが、すごいことなのにご自身は大したことだと思っていないんです。『かかった費用を回収するのは相当時間がかかるからビジネスではない。それよりも施設のハードを変えることで、理想のケアを目指すことを皆で共有できるからやった』と。施設長になるとこういう視点も出てくることを物語に入れました」

ご利用者の誕生日を祝う施設長。今も昔も心はケアニン

 一方で、施設長がかつてご利用者に「泣き虫かっちゃん」と呼ばれていたことを知り、未来は驚く。

山国「施設長も元々は現場が好きな人。おばあちゃんの『昔はね、うれしいことがあるとすぐ泣いちゃって』というセリフで、この人もケアニンだったんだということも伝えたかったんです」

 実際の現場でも、苦労が絶えないと太田さんは語る。

太田「理想ばかり言っていると、事務から資金どうするんですかと言われますし(笑)。ICTの財源どうしようかと、そういう話で頭を痛めるんです。こんな大変な仕事は他にないですよね」

山国「皆さんそう言われていました。でも、やっていくのが仕事だと、腹のくくり方が半端ないなと思います。『代わってほしい』って、皆さんおっしゃいます(笑)」

太田「よく分かります(笑)」

山国「上の立場ほどご利用者の笑顔は当たり前になり、地域の笑顔になっていく。職員が笑顔でなければご利用者は笑顔にならないよね、ご利用者が笑顔でなければご家族が笑顔にならないよねって、俯瞰している。それは、とてつもない仕事だと思います」

老施協.comで見つけた介護職員の支え合いエピソード
【施設長編】

職場結婚に関するお悩みに複数の施設長が後押しする姿も

「職場結婚は一方が退職?」の相談に、ある施設長は「退職ではなく異動」と答え、別の施設長は「公私混同しないよう、夫婦は評価する側とされる側に分かれない。それ以外は個人を尊重」と回答。ルールだけではない前向きな意見が寄せられた。


取材・文=岸上佳緒里 ©2021「ケアニン 2」製作委員会/公益社団法人 全国老人福祉施設協議会