介護のかたち

ケアニンとコラボ

Short Films season2が公開中!「ケアニン」と考える魅力ある職場づくりとは?

2022.07 老施協 MONTHLY

メディアの力で介護職のネガティブイメージを変える

全国老施協が映画「ケアニン」シリーズとコラボしたショートフィルムの第2弾が、6月3日にYouTube・老施協チャンネルで公開(無料)になった。そこで今回は、全国老施協の介護人材対策委員長・太田二郎氏と、このショートフィルムを含め、「ケアニン」シリーズの企画・脚本・プロデュースを手掛ける山国秀幸氏に、ショートフィルム製作の経緯や訴えたいこと、製作時の苦労、今後の介護業界に対する未来図などをお伺いした。


山国秀幸

「ケアニン」シリーズ 企画・脚本・プロデュース
山国秀幸氏

profile●やまくに・ひでゆき=1967年、大阪府生まれ。社会課題を題材とした映画の企画・プロデュース、脚本を手掛ける。映画「オレンジ・ランプ」(三原光尋監督)が’23年公開予定

太田二郎

全国老人福祉施設協議会 介護人材対策委員長
太田二郎氏

profile●おおた・じろう=1955年、愛知県生まれ。社会福祉法人 和敬会(愛知県)が運営する「特別養護老人ホームまどかの郷」施設長。老施協では常任理事、総務・組織委員長などを歴任


production note
介護現場からの声をダイレクトに反映

本作は新人から施設長まで現役介護職員約30人へのインタビューと500人以上のアンケート調査をもとに制作。まずは経緯とコンセプトを伺った。

映画「ケアニン」シリーズとは?

新人介護福祉士が主人公の映画「ケアニン~あなたでよかった~」(’17年)は、公開後話題となり、スピンオフを含む4作品で累計1900回以上の上映会が開催されている。

映画「ケアニン」シリーズ

老施協とのコラボ第1弾
ケアニン Short Films は特養を舞台にした4つの心温まる物語

2021年に全国老施協と映画「ケアニン」シリーズがコラボしseason1を製作。老施協が実施する「介護作文・フォトコンテスト」応募作品のエピソードを基に介護現場の日常を1話約2分全4話で描いた。今年キャリア別に介護職の魅力を描いたseason2も公開。

「新人介護職編」
×第12回受賞作文「未来」

辞めたいと思いながら働く新人介護士。レクリエーションで利用者の康子さんが書いた“家族の名前”とは…。

「新人介護職編」

「サラリーマン転職編」
×第11回受賞作文「ぼくちゃん、涙の数だけ生きるのよ。」

生活のためだと、割り切って他業種から転職して働く介護士。亡くなった利用者から受け取ったものは…。

「サラリーマン転職編」

「お母さんの仕事編」
×第9回受賞作文「お母さんの仕事」

介護士を母に持つ小学生の亮太。時々目に涙を見せながらも仕事を頑張る母の姿を見て書いた作文には…。

「お母さんの仕事編」

「支え、支えられる仕事編」
(特別編)

コロナ禍の介護施設。できないことが増えていき、仕事は増えた。介護士はそれを乗り越えるために…。

「支え、支えられる仕事編」

生き生きと働く介護職員でキャリア別のやりがいを表現

 全国老施協と映画「ケアニン」シリーズのコラボで製作したShort Filmsのseason2がYouTubeで無料公開になった。ケアニンとは、介護・医療従事者を指す造語だ。本作の企画・脚本・プロデュースを担当した山国さんは、映画「ケアニン」シリーズを製作した理由を「現場で働く介護職の方たちが非常にキラキラしていて、彼らにスポットを当てたかったから」だと語る。

山国「世の中の人は、僕も含めて介護の仕事についてあまり知らないので、エンターテインメントとして映画作品にすることで、幅広く認知してもらえたら社会的に意義もあると思ったんです」

 現場の生の声を反映した作品は評判を呼び、劇場公開から5年たった今でも自治体や学校、介護施設などが主催の上映会が各地で催されている。そして、映画2作目の製作を経て、老施協とショートフィルムを製作することになったのだ。第1弾は昨年に、そして第2弾となる本作が今年6月に公開された。映し出されるのは、生き生きと現場で働く介護職員の姿だ。

太田「近年、介護分野でも『生産性向上』という言葉が使われるようになりましたが、介護の分野には不釣り合いな言葉ですよね。介護分野の生産性とは何かを考えたとき、それは “職員がどれだけ生き生きと働けるか”だと思ったんです。いかに生き生きと介護職員が働けるかをビジュアルでお示しができたらきっと説得力がある。介護の現場でたくさんの困難や苦難を乗り越えて、生き生きと働いているケアニンという姿。多くの難を乗り越えた先にあるのが『ありがとう』で、漢字で書くと『有難う』は『難が有る』と書く。作品を見て、介護の苦労の先にはありがとうという言葉があることをぜひ知ってほしいですね」

 そして、第2弾の本作では、老施協から「それぞれのキャリアに応じた映像作品を作ってほしい」との提案がなされた。その意図や苦労を2人はこう語る。

太田「介護現場に入ったものの、自分は向いていないんじゃないか、やっていけるのかと思い悩みながらも毎日頑張っている介護の現場の人もいます。やっているうちにその人らしくなっていく、そのプロセスをぜひ感じ取ってほしい。だから新人から施設長にステップアップしていく、そのプロセスごとに作っていただきたかったんです。経験が人を育てていくので、失敗もプラスになっていくんだよとストーリーで示してもらいたいと思っていました」

山国「正直、キャリアごとに物語を作るのは非常に難しかったですね。でもケアニンの力を生かして、全国の介護職の皆さんのモチベーションを上げていきたいという言葉を非常に熱心にいただいたので、製作する僕らもそれに応えようという思いで取り組めました。広い目線で、できるだけ多くの人に共感してもらわなければいけない。介護従事者の方へのオンラインインタビューやアンケートを基に、職種ごとにやりがいなどをロジカルに分析したんです」

 こうして出来上がったショートフィルムは、特別養護老人ホームを舞台にした、新人編、リーダー編、主任編、施設長編の4作品。新人介護福祉士・未来の目線で、それぞれのポジションでの苦労ややりがいを、ポジティブな内容で描いている。そこには、長年、介護職につきまとっているネガティブなイメージを払拭したいという思いが込められている。

山国「メディアでは介護職の負の部分ばかりをピックアップされがちです。主人公の設定で、悲しい、かわいそうな設定のときに介護職が出てくるんですよ。作り手が自分たちの都合のいいものを作るためにひもづけようとする」

太田「でもseason2では、それぞれの職域ポストで頑張ってくれている方々が、ご苦労はあるんですけれども最後に誰かに必要とされている自分を発見して、介護のやりがいに結び付けてくれています。こちらの意図を非常によく捉えてくださいました」

 ネガティブなイメージは、メディアの力で変えていけるのだと、山国さんは言葉に力を込める。

山国「僕はメディアの力を信じているんです。昔、テレビで海上保安庁の寮を取材した番組を見たとき、海上保安官を目指した理由を寮生全員が『映画“海猿”を見たから』って言うんです。だからケアニンもそういうものになれたらという思いがあります。映画の作り手側も年を取ってきて賛同者も増えてきているので、もっと変わっていくのではないでしょうか」

 ネガティブなイメージから、介護職全般で人手不足や離職問題が取り上げられがちだが、老施協では待遇改善やコロナ対策などの取り組みに力を入れてきた。

太田「雇用条件、処遇改善は随分と進み、定着率も改善されてきています。ですので、介護職の未来は明るいと思って今の職場を続けてほしい。それを後押ししてくれるのがケアニンだと思います」

池田朱那

「ケアニン」Short Films season2 主演
池田朱那

profile●いけだ・あかな=2001年10月31日生まれ、群馬県出身。大河ドラマ「青天を衝け」(2021年NHK総合ほか)、映画「20歳のソウル」(2022年公開)などに出演。8/5金放送・配信開始のWOWOWオリジナルドラマ「ワンナイト・モーニング」第5話に出演

KAiGO PRiDE 理事
石本淳也氏が語る介護の魅力

profile●いしもと・じゅんや=1971年、熊本県生まれ。熊本県介護福祉士会会長。社会福祉法人リデルライトホームが運営する特別養護老人ホームの施設長。2016〜2020年に史上最年少で日本介護福祉士会会長を務めた

一般社団法人 KAiGO PRiDE
https://kaigopride.jp/

石本淳也

介護ってすごい仕事だと従事者に誇りを持ってほしい

「KAiGO PRiDE」では、全国各地で介護職に就く人をモデルに写真や映像作品を製作し、クリエーティブの力で介護をブランディングしている。介護職に注目を集め、また従事者自身が職種に誇りを持てるようにするための活動だ。介護職の魅力を「シンプルに言えば、人をハッピーにする仕事」だと語る石本さんに、魅力的な職場づくりについて話を伺った。

「介護職がネガティブに捉えられがちなのは、僕たち従事者が悪いイメージを発信し過ぎた結果が一因と考えます。自分たちで悪くしたイメージを変えるのは自分たちしかいない。だから介護の魅力を伝えていくには、まず個々の“セルフリスペクト”が必要。自分が自分の仕事を尊敬できなかったら、周りからリスペクトを得られるわけありませんよね。介護は目的ではなく手段です。目的は、食事介助でおなかがいっぱいになる、入浴介助で気持ち良くなるという、“日々のプチハッピー”を作ることで、これがやりがいです。こんな自分を必要としてくれるなんて、すごいことだと思いませんか?

 また、各施設に職員が憧れるようなロールモデルが少ないことも課題だと思います。「ケアニン」のショートフィルムでは、施設長は主任の、主任はリーダーの、リーダーは新人のロールモデルになっていて、とてもすてきな職場です。中核になって働き皆が尊敬できる人がいたら、それが職場の魅力になり、辞めたいとは思いません。それにはマネジメント力もとても大事です。適材適所に人材を配置する、多様性のある働き方を推進する…。施設が専門性や制度などをアップデートし、時代の流れに合わせてケアや働く環境を改善し、働きやすい職場にしていく。キラキラ輝いて働く人がいる施設には、人材も集まってきます。

 介護職はライフクリエーター。僕にも辞めたいと思った新人時代があり、先輩方の教えやご利用者との出会い・別れを経て、気付き、身に付いてきた思いです」


「ケアニン」Short Films season2
全4本がWEBで無料公開中!

●出演=池田朱那、野川彗、金子さやか、浜田学、一條真紀子、鈴木武、清水伸ほか/●監督=三原光尋/●企画・脚本・プロデュース=山国秀幸/●脚本=渡嘉敷海音/●音楽=宮﨑道/●プロデューサー=髙瀬博行、小川明日香/●撮影=鈴木周一郎/●照明=志村昭裕/●録音=西岡正巳/●スタイリスト=岩田友裕、チバヤスヒロ/●ヘアメーク=伊藤里香/●編集=宮島竜治/●整音=田中俊/●介護指導=鈴木真/●協力=鬼塚裕司/●宣伝デザイン=ヒグラシデザイン/●制作=ワンダーラボラトリー/●製作=公益社団法人 全国老人福祉施設協議会/●撮影協力=社会福祉法人 蓬愛会 地域密着型特別養護老人ホーム 美渉

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取材・文=岸上佳緒里 ©2021「ケアニン 2」製作委員会/公益社団法人 全国老人福祉施設協議会