アーカイブ
著名人が語る 介護に向き合う「心」の作り方
心から伝えたい、やって良かった私の介護。EXIT・りんたろー。
2023.05 老施協 MONTHLY
日々要介護者を支援しながら“心”を一定に保つのが難しいとされる介護の現場。今回は、芸能界で活躍する一方、ご家族の在宅介護や施設での介護経験を持つ方々に、ご自身の取り組みや心の在り方、何を支えにしてきたかなどを伺った。
8年間デイサービスで介護を経験
EXIT りんたろー。さん
Profile●りんたろー。=1986年3月6日生まれ。静岡県出身。兼近大樹とのお笑いコンビ「EXIT(イグジット)」のツッコミ担当。NSC東京14期生。各局のバラエティー番組に多数出演するほか、ドラマ「監察医 朝顔(第2シリーズ)」(フジテレビ)、映画「Gメン」(東映・2023年8月25日金公開)などで活躍。趣味は美容、ジム、お酒、カラオケ。特技はサッカー、フットサル(GK)、介護
いい意味で“テキトー”であることが介護とうまく付き合うコツ
僕たちのやっていることで心が軽くなる人がいる
24歳から8年間、デイサービスのスタッフとして働いていた芸人・りんたろー。さん。“チャラ男×介護”の化学反応が起きるのでは? との期待から始めたという。
「元々おばあちゃん子というのもあったのですが、チャラ男とお年寄りの方がコラボレーションしたら面白いエピソードが生まれるかなと、オープニングスタッフとして応募したのがきっかけです。興味本位で始めたらものすごく人に恵まれて。しんどいというより楽しかった思い出が大きいです」
アルバイトで入ったデイサービスは小規模だったため、食事や入浴介助、送迎、寝かしつけなど基本的な仕事はほとんど行っていた。
「お下の世話とか僕にできるのかと不安ではあったのですが、やってみると全然抵抗はなかったです。もちろん最初は驚いたこともありましたが、やってみると『早くきれいにして気持ちよくしてあげたい』という思いの方が先行していき、臭い汚いとかは全然感じなかったです。それよりも認知症の方が、普段は優しいのにその日は急に豹変して言葉が強くなったり、いつもは言わないようなひどいことを言ったりするのを目の当たりにしたときの方がしんどくて。何か心にズシーンときました」
事前に介護方法を学んでも、その通りにいかないのが介護現場だと気付かされることも多かった。
「トランス(トランスファー)もよく行っていたのですが、どんなに優しくしても、相手のメンタルがいい状態でないと、『痛い』と言われることがあって。なかなか思い通りにはいかないこともありました。でもそういうことを繰り返していると、いつの間にかコツをつかんでくるんですよ。その人に合わせた攻略法が見えてくるというか。そうなるとスムーズに進むようになり、やりがいもあって楽しいと感じるようになりました」
攻略法を見つける最大の近道は、コミュニケーションを取ること。
「相手のことを考えながら話すことが一番だと思います。聞き取りやすいようにゆっくり柔らかく話して、目線を合わせて…。僕は友達のような感覚で接していました。あとはボディータッチを多めにしていたかも。自然に触っていると安心感が出るようでどんどん心を開いてくれるんですよ。ただ、それには個人差があって…。なので焦ってはダメ。そして認知症の方は毎日リセットされるので、昨日はあんなに楽しく話したのに…みたいなことがたくさんあるけど、それは仕方がないと思うことが大事です。あとは、たとえ怒られても、きちんと謝って引きずらないこと。緊張したり苦手だと思っていることって案外伝わっちゃうんですよ。ちなみに僕は高齢者の方とお話をしていて、自分の心が洗われるような感覚がありました。独特のスロータイムが流れていて、癒やしの空間だなって思いました」
8年も続いた理由の一つに、“仕事をアルバイトと割り切っていた”ことも大きいという。
「もちろん働いているときは真剣でしたが、僕には本業があったので、仕事の時間内を楽しむという余裕があったんだと思います。例えば認知症の方が昨日のことを覚えていなくても、“そういうもんだ”と思っている自分がいて。この感覚が意外と大事な気がします。真面目過ぎると、どうしても現状を改善できない自分のことを思い詰めてしまいがちになるんで、いい意味で“テキトー”であることが、自分にとっても相手にとってもいい気がします。ガッツリ向き合い過ぎず、自分を俯瞰で見ること。この塩梅が難しいですが、自分なりの距離感を見つけていただければ。あと、悲しいですが限界があることを知っておくことも必要で。求められることに喜びはあるけど、自分にできることとできないことのラインをつくっておくことが、この仕事と楽しく付き合えるコツな気がします。そのためにはオフのときは仕事のことを忘れる勇気を持ってほしいです」
介護は、「高齢者だけではなく、その後ろにいる方も喜ばしている仕事」とりんたろー。さん。
「僕が8年間介護の仕事をしていてうれしかったこととして、送迎のときにご家族の方から『週末に自分の時間がつくれて良かった』と言われたことがあるんですよ。どうしても自分が接している高齢者の方のことばかり考えてしまいがちですが、実はその後ろにも人がいて、僕たちのやっていることで心が軽くなっている人がいるということに気付かされたというか。目には見えなくても実は多くの方を助けているのがこの仕事。これは本当に素晴らしいことだと思います。そしてその仕事が楽しければ、なお素晴らしい。決して一人で悩みを抱えず、いろんな方と協力し合いながら、これからも多くの方を喜ばしてください!」
撮影=磯﨑威志/取材・文=玉置晴子
心を保つ気分転換は
朝の散歩
日光を浴びて元気をチャージ
介護の仕事をしているときは、芸人が本業だったので気分転換が介護の仕事でした。いろんな方とお話しすることが癒やしになるというか。あとレクリエーションも100%楽しむことがリフレッシュになっていた気がします。今はワンちゃんを飼っているので、できるだけ朝に散歩をしています。日光を浴びて体を動かすことで一日の元気をもらえています。