アーカイブ
介護新時代への前進
第1回全国老人福祉施設大会・研究会議 JSフェスティバルin栃木 潜入リポート②
2023.03 老施協 MONTHLY
老施協の全国大会と研究会議を統合した「JSフェスティバルin栃木」は、栃木名物の八木節や漫才コンビ・U字工事が登場するなど栃木感あふれる温かいイベントに。
JS FESTIVAL in TOCHIGI 2日目 / 1月27日
現場の声からひもとく
介護の未来 -実践研究発表-
27日には、介護現場の最前線である全国の老人介護施設が独自に研究、現場で実践した取り組みを発表する分科会が行われた。分科会、分散会で5〜7組の発表があり、それぞれに優秀賞と奨励賞2組が授与された。
第1分科会 分散会①
「認知症ケアの実践」
日常生活を改善することで精神状態の安定を図る
第1分科会では「臨床介護の実践ーEBC(Evidence Based Care)を求め、科学的介護を追求するー」を大テーマに、さまざまな角度から取り組まれた課題について報告が行われた。
優秀賞の「アクティブハートさかど」は、認知症の利用者の睡眠データを「眠りSCAN」で収集・観察し、排便の失敗の減少に成功。精神状態も安定し、夜間の中途覚醒や離床時間を減少させた。
奨励賞の「聖ヨゼフの園」は、介護・看護スタッフと利用者が共に自炊を行うことで得られる効果を発表。意欲・活動・対人交流の向上がみられ、認知症の状態でも幸福感を得られることが実証された。
奨励賞の「岩井あすなろ」は水分摂取・食事・運動に注目して自然に促す排便コントロールを実施。生活状況の改善により、薬に頼らない排便ができるようになった。
生活を改善することで認知症の症状も少し改善がみられている。
第1分科会 分散会②
「自立支援の実践」
自立度を高めることで寝たきりからの改善を
優秀賞を受賞した「正寿園」は、利用者に合った座位姿勢を模索。移乗も抱え上げからリフト、スタンディングリフトと変化させ、苦痛や恐怖を与えるようなケアをせず慎重に介助を行うことで床に足を着けることが可能に。上肢の活動性が回復、トイレ使用ができるなど日常生活の自立度が高まった。
奨励賞を受賞した「みどりの郷」は、ノーリフティングケアを徹底。「圧抜きグローブ」「移座えもんシート」の活用やリフトを本格的に導入することで、利用者の筋緊張が緩和され関節可動域が拡大、仙骨座りの改善などがみられた。
奨励賞を受賞した「春吉園」は、トイレでの排せつと心身機能との関係に注目。栄養や心身・動作機能、認知機能を数値化し効果を確認。これにより立位保持時間が心身機能の変化に影響を与え、トイレでの排せつ機会の重要性を説いた。
リフト使用や立位姿勢の継続で、利用者の自立が増えたようだ。
優秀賞
丸山拓郎
(特別養護老人ホーム 正寿園)
「自立支援×リフト ~寝たきり高齢者の尊厳を護る~」
奨励賞1
神野翔平
(特別養護老人ホーム みどりの郷)
「ノーリフティングケアへの道のり ~2年経過~」
奨励賞2
宮田里美
(特別養護老人ホーム 春吉園)
「ADLでの立位姿勢継続が与える影響について最終プロセスを科学的な視点で追って」
第1分科会 分散会③
「看取り・医行為の実践」
日常生活から看取りまで QOLの向上を目指して
優秀賞を受賞した「ケアプラザさがみはら」は、ACP(アドバンス・ケア・プランニング)や看取り介護説明会、お見送り会を実践。施設での看取り実施率が上昇し、「看取り」実施を決断できたご家族の割合が増えたと推測できた。
奨励賞を受賞した「アルペジオ」は、誤配膳事故や誤投薬事故防止の対策に取り組み、全入所者の顔写真を食札と薬ボックスに貼る方法を導入。現在まで誤配膳ゼロを達成。新人職員でも働きやすい職場づくりを実現している。
奨励賞を受賞した「五本松の家」は、絶食または経口摂取困難な利用者を、状態により3段階に分け、独自のルールを実践。「食べる」ことの楽しみにアプローチし、食事形態の変更や食事量アップなど、経口摂取の獲得に成功した。
利用者のよりよい生活のため、施設内で行われている日常的なことから医療との連携まで、さまざまな取り組みが発表された。
優秀賞
大塚小百合
(特別養護老人ホーム ケアプラザさがみはら)
「『心残りゼロケア』への挑戦 寄り添い、共に紡ぐACP」
奨励賞1
笠松裕奈
(地域密着型介護老人福祉施設 アルペジオ)
「写真でバッチリ!事故防止 働きやすい職場づくり」
奨励賞2
森川恵理子
(地域密着型特別養護老人ホーム 五本松の家)
「最期まで食べるを支える介護 ~経口摂取獲得に向けて施設内でのルール作り~」
第1分科会 分散会④
「口腔ケア・機能訓練の実践」
機能訓練に遊びを取り入れ利用者のやる気を刺激
最優秀賞を受賞した「鶴の園」は、「疲れる」「つらい」というイメージの機能訓練にアクティビティ・トイという遊びの要素を取り入れ、訓練を休みがちだった利用者が楽しみながら自ら進んで体を動かし、個別機能訓練に匹敵する運動要素・運動量が観測できている。
奨励賞を受賞した「よねやまの里」は、重度要介護高齢者に対する食支援の改善を図り、従来の食事姿勢を見直し完全側臥位法での摂食嚥下機能訓練を導入。長期にわたり経口による食事摂取ができ、誤嚥性肺炎も予防できている。
奨励賞を受賞した「まほろばの里 向山」は、歯科衛生士と共に利用者が抱えている「口腔」の課題に取り組み、「口腔ケアシート」を作成。課題と目標を共有化することで変化にも気付き、職員と利用者との相互理解が深まった。
目線を変えることで変化することや、生きることに直接つながる口腔ケアの重要度を再認識したい。
優秀賞
桂裕二
(特別養護老人ホーム 鶴の園)
「アクティビティ・トイを使用した機能訓練の試み 小さな成功体験がもたらす心の栄養補給」
奨励賞1
有間智巳
(特別養護老人ホーム よねやまの里)
「完全側臥位法の実践と摂食嚥下機能の改善 重度要介護高齢者ケアにおける食支援」
奨励賞2
片桐美由紀
(特別養護老人ホーム まほろばの里 向山)
「『食べる』ことは『生きる』こと ~自分のお口で美味しく、安全に食べ続ける為に~」
第2分科会
「特別養護老人ホームの経営力強化」
運営から経営への意識改革と災害時の取り組みについて
優秀賞を受賞した「夢うさぎ」は、赤字脱却と黒字経営、人材の確保・定着を課題に、コスト削減や収入増加への施策を実施。見直しによる経費削減、配置転換や空床の短期利用による増収、採用者の増加などの結果が得られた。
奨励賞を受賞した「せとうち」は、コロナ禍でも取り組み続けた世代間交流を発表。近隣の学校や施設とオンラインによる対話型交流会を行い、高齢者側は食事量の増加やリハビリ意欲の向上などのプラス変化が大きかったとのことだ。
奨励賞を受賞した「富竹の里」は、自然災害やコロナ禍における課題に取り組み、支援ネットワークの構築や職員と家族の命と生活を守ること、BCPの策定・改訂、自施設避難場所の確保などを実施。東日本台風時の避難成功や施設の床上げなどの成果を発表した。
災害時には施設に合ったガイドラインを設け、それを確実に実行することが大切だということだ。
優秀賞
保坂一弘
(特別養護老人ホーム 夢うさぎ)
「『運営』から『経営』への意識改革! ~はみ出し銀行マンの派遣施設長奮闘日記~」
奨励賞1
湊健二郎
(特別養護老人ホーム せとうち)
「コロナ禍でも取り組み続けた世代間交流 ~藤花会×SDGs~」
奨励賞2
嶋田直人
(特別養護老人ホーム 富竹の里)
「災害史に学ぶ~自然災害BCPの策定 ~感染症発生~いつ、どこに、どう避難する~」
第3分科会
「介護人材の新たな一歩 〜これからの採用・育成・定着〜」
働き方の工夫やICT導入後進育成が今後の大きな課題
優秀賞を受賞した「なごみの里」は、人材育成を重要な柱と考え、目標管理制度やキャリアパスおよびラダー教育システム制度の導入、教育担当主任の配置を行い、直近10年の継続職員が10名にまで増えた(導入前の10年は3名)。
奨励賞を受賞した「星風苑」は、残業ありきのシフトからの脱却や休日の確保などに取り組み、介護職員の増員、時間外労働の削減などを果たし、連休取得や週休3日制は過半数の職員から評価を得た。
奨励賞を受賞した「かざぐるま」は、インカムやライフリズムナビ+Dr.などのICTを導入し、利用者の睡眠などから業務改善を実践。データに基づいたケアを行い、全職員が共通認識を持つことで、利用者の快眠指数が増加したなどの効果が確認できた。
施設での働き方や勤務状況の見直し、ICTの導入などにより、介護職員の定着率も上がり、新規採用の増加にもつながっている。
優秀賞
八木啓亮
(特別養護老人ホーム なごみの里)
「『育つ』施設に変わった7年間の軌跡 キャリアパス・研修・OJT・ICT・わくわく感」
奨励賞1
鈴木忠彦
(特別養護老人ホーム 星風苑)
「次世代の働き方と人材確保戦略 週休3日制の導入と効果」
奨励賞2
佐藤勝利
(サテライト型居住施設芦別慈恵園 かざぐるま)
「お客様のひと言が仕事の向き合い方を変える ~ICTの活用を通してリーダー職の姿勢が変わる~」
第4分科会
「介護新時代を切り拓く在宅サービスの取り組みと展開」
孤立している高齢者への新しいアプローチの必要性
優秀賞は「慈光園」。単身の男性高齢者は引きこもりがちで、人とのつながりが少ないという課題から、自宅での食事も偏っている可能性があると問題提起。外出するきっかけ作りとして、お弁当を通じて食生活の大切さを伝える取り組みを展開した。結果、利用者の状況を把握できるようになっただけでなく、職員の地域に目を向ける意識も高まってきているという。
奨励賞の「愛全園」は、デイサービスとショートステイの連携の重要性を、自身の取り組み例を基に解説。「利用者、家族、デイサービス・ショートステイスタッフ、ケアマネジャーといった関係者全員が情報を共有することが大切」と、多職種連携の必要性を訴えた。
奨励賞の「会津長寿園」は、職員がデイサービス利用者となってサービスを体験する取り組みを実施。実際に体験することで、良い点、悪い点が分かり、サービス向上に役立ったと報告した。
優秀賞
中津貴子
(特別養護老人ホーム 慈光園)
「出会いと食事は健康の源 ~いつまでもきょういくときょうようを~」
奨励賞1
中嶋直樹
(昭島市高齢者在宅 サービスセンター 愛全園)
「デイサービスとショートステイの連携によるシームレスな支援についての事例研究 自宅退院後の介護保険サービスの重要性について」
奨励賞2
厨子直美
(会津長寿園 デイサービスセンター)
「利用者になってデイサービスを感じる サービス向上にむけての取り組み」
第5分科会
「今求められる福祉への挑戦と経営の両立! 養護・軽費老人ホームの取り組みの実際」
個別ケアの相談援助における“終活”という大きな問題
優秀賞を受賞したのは、養護老人ホームでの終活支援で得た成果と課題を発表した「湧泉荘」。病気を受け入れ、死期について考え始めた利用者に寄り添い、納骨などで利用者が望む理想の形を模索したという。養護老人ホームの利用者は、意思疎通が難しい方、身寄りのない方、家族との関係性が良好でない方が多く、死後についての不安は他施設より多い。また、死という言葉に拒絶を示す方も多いと、今後の課題も口にした。
奨励賞を受賞した「湯山安立」は、福祉避難所としての運営を確立させるために、実際の訓練動画などを見ることで知識を深めることはもちろん、B72というカードゲームを活用して、災害をイメージし、対応力を身に付ける取り組みを定期的に行っているという。
奨励賞を受賞した「大谷春圃苑」は、地域共生社会づくりに向け、住民と共同で取り組んでいる社会貢献活動などを紹介していた。
優秀賞
小島愛作
(養護老人ホーム 湧泉荘)
「私が望む最期 いつの日か鎌倉の海へ」
奨励賞1
小野寺治
(ケアハウス 大谷春圃苑)
「住民相互の交流を育むコミュニティソーシャルワーク 交流を育み共生する社会に向けて」
奨励賞2
三上輝
(ケアハウス 湯山安立)
「福祉避難所の運営を確立するために ~災害をイメージすることから取り組んだ~」
第6分科会
「デジタル活用による現場革新・科学的介護」
ICTを導入した施設では効率化によりケアの質が向上
優秀賞を受賞した「ささづ苑かすが」は、ICT機器導入により、情報共有システムの整備と音声入力記録化を進め、大幅な業務の効率化を図ることができた。
奨励賞を受賞した「能古清和園」は、「眠りSCAN」の導入により、スタッフの巡視など業務負担軽減が身体的負担軽減につながり、また、急変時や事故防止の迅速な対応が可能になることで、スタッフの精神的負担軽減にもつながり、ケアの質が向上している。
奨励賞を受賞した「つるかめの縁」は、見守りシステム「まもる〜の」を導入して、利用者の見守りを行うだけでなく、システム活用研修や他施設と事例の共有をしたことで、さまざまな活用方法を考えることができているという。
ICTを導入した施設では、業務の効率化により、スタッフの身体的、精神的負担が減り、利用者へのケアの質が向上するという効果をもたらしているようだ。
優秀賞
江尻勇輝
(地域密着型特別養護老人ホーム ささづ苑 かすが)
「『ICT・介護ロボット活用』で現場革新 情報共有システム整備・音声入力記録化によるスマートな職場作り」
奨励賞1
山川玄貴
(特別養護老人ホーム 能古清和園)
「能古島(のこのしま)から介護を変える ~眠りSCAN導入を通して~」
奨励賞2
伊藤順哉
(特別養護老人ホーム つるかめの縁)
「見守りシステムを活用した『三方良し』の取組み 見守りだけに留まらない新しい活用方法」
先駆的特別報告
介護の未来を見据える研究発表
大学、病院、社会福祉法人などの専門家による先駆的研究の発表
27日午後からは、分科会での発表と併せて、大学や大学院の教授や講師、病院の医師、社会福祉法人の研究員など、専門家5組による研究の先駆的特別報告が行われ、現場で即座に実践が望まれるような研究が見られた。
先駆的でありながら現場で即座に実践が望まれる研究
介護現場の最前線である全国の老人介護施設の分科会発表と併せて、大学や大学院の教授や講師、病院の医師、社会福祉法人の研究員など、専門家5組が老施協総研調査研究助成事業にて実施した研究の先駆的特別報告が行われた。
①加澤佳奈氏
認知症高齢者の家族に対して、介護支援専門員による認知症の症状や日常生活機能に応じた適切なコロナ感染予防方法、認知・身体機能悪化予防方法、感染が拡大した場合や感染した場合に備えるための情報提供と実践プランの立案、実施支援を行った。コロナへの恐怖はあるものの、抑うつやストレスが軽減され、予防や備えの取り組みに寄与することができた。
「認知症高齢者の家族を対象とした、COVID-19感染拡大予防および認知・身体機能悪化予防実践への支援の効果の検討」
加澤佳奈(広島大学大学院 医系科学研究科 共生社会医学講座 寄附講座講師)
②有久勝彦氏
独自に開発した医療従事者の危険予知能力を測定する評価法が、介護分野でも利用可能かどうかを検証。危険予知能力のレベルが資格取得者レベルであるかを判定するのに使用できることが分かった。また、危険発見状況の分析では、経験年数により若干ではあるが危険発見方略の違いが確認できた。
「介護職員の危険予知能力の特徴探索およびその特徴を網羅したリスク教育の標準化の検討」
有久勝彦(関西福祉科学大学 保健医療学部 リハビリテーション学科 作業療法学専攻 准教授)
③鈴木みずえ氏
特別養護老人ホームにおける高齢者の生きる意欲を引き出すACPと看取りの実施状況を調査した。「人生の最終段階の医療・ケア」について、施設は主に家族と話し合っており、本人の意思も家族から確認していることが多く、本人から直接意思を確認する施設は少なかったという結果になった。
「介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)における高齢者の生きる意欲を引き出すAdvance Care Planning(ACP)に関する研究」
鈴木みずえ(浜松医科大学 臨床看護学講座老年看護学 教授)
④青山美紀子氏
特別養護老人ホームにおけるサービスの質を向上させるための標準化に必要な現状を明らかにし、サービスの標準化モデル指標の開発に取り組んだ。そこで、先駆的地域である東京都の福祉サービス第三者評価を基にレーダーチャート化しながら、視覚化している。
「福祉サービス第三者評価結果を活用したサービス実践ガイドラインの構築 〜特別養護老人ホームのケアの標準化サービスの課題と現状〜」
青山美紀子(亀田医療大学 高齢者看護学 講師)
⑤阿部庸子氏
高齢者における無症候性低血糖の発症状況を調査し、それを引き起こす背景要因を調査することで介護に有益な情報収集を試みた。こうした結果、無症候性低血糖発症のリスク因子は、低BMI、脳血管疾患の既往、リスペリドンおよびラメルテオンの服用であったということが判明している。
「高齢者の無症候性低血糖による認知機能低下や狭心症症状を予防するための薬物療法に関するガイドラインの提案」
阿部庸子(社会福祉法人浴風会 認知症介護研究・研修東京センター 客員研究員)
どの研究も先駆的でありながら、現場で即座に実践が望まれるようなものばかりであった。
特別講演
各現場が乗り越えるべき問題とは?
第一線で活躍する識者が現在の施設で起こっている状況についてレクチャー。withコロナや、ICTの活用や介護DXの導入など、環境変化への対応が迫られている介護経営の今や未来について語った。
居心地のいい現場を作り生産性を高めることが大事
介護福祉に従事する管理者やリーダー層などに向けて行われた特別講演。各施設などの今後のあるべき姿について語った。
①本間秀司氏
医療法人や社会福祉法人などへのコンサルティングを行っている本間氏は、「特別養護老人ホームの経営力強化」をテーマに講演。
特養の経営力強化を考える際に「各都道府県の第8次医療計画(’24~’29年)の変化が引き金を引く」ことを頭に入れておくことが大事、2年ごとの診療報酬改定に一喜一憂する病院関係者が多いが、もっと全体を見る必要があると伝えた。
少子高齢社会になることから病院も今ほど数が必要なくなる現状を紹介。医療法人が生き残ろうとする中、社会福祉法人である特養は職員が奪われないようにどうするかが大事で、その答えは働き手にとっての居心地の良さを重視するという当たり前のことにあると説明。「働きやすい場所を提供して信頼関係を高める“エンゲージメント経営”の大切さ」について改めて見直しながら、人材確保するための「管理職教育」と「次世代教育」の2本柱に注目して、法人の最大の弱点である人材不足に目を向けることが勝ち残る条件と語った。
働き手にとって特養がよりよい場所になるには収益改善が必要だが、特養のみの事業だと2~3年で定員割れ、6年ほどで赤字に転落する可能性がある施設も多い。そのような状況下で増収に転じることができる細かい例を挙げ、黒字経営の目指し方を示唆。今後は、「財務・事業計画・償却・管理会計・マーケティング」を一体管理していく経営の必要性を説いた。
「特別養護老人ホームの経営力強化 ~2040年に勝ち残る特養の条件を考える~」
本間秀司(ウェルフェアー・J・ユナイテッド株式会社)
②鎌田大啓氏
デイサービス事業継続などの相談支援事業を含む、生産性の向上を目指す介護サービスを提供している鎌田氏は「デイサービスの生き残り戦略としての生産性向上の取り組み」について講演。
稼働率も回復しつつあるデイサービスは、独自性を持っているかが大切に。そこで必要なるのは「人材の確保」と「育成」、離職率の高い介護現場の「イメージ改善」。これができれば利用者から満足度が得られ、高い収益が望める生産性の向上がみられる現場に変化する。まず良い人材を確保していくためには、経営者が今、現場で起きていることを把握することが大事。現場職員に活動を振り返るチェックシートを用いてトライ&エラーを繰り返しながら細かい改善をしていくことが近道となっていく。
現在、地域と密着しているデイサービスは「自立支援」「介護予防」「健康寿命延伸」のサービスを提供するなど総合事業を展開していくことができる場所。そのような可能性があふれるデイサービスの経営を黒字で続けていくには、地域包括ケアの輪の中に入り地域とのつながりを多くする営業努力も必要となってくると語った。
「デイサービスの生き残り戦略としての生産性向上の取り組み」
鎌田大啓(株式会社TRAPE)
③山口晴保氏
認知症研究の普及や介護予防などを行っている認知症介護研究・研修東京センターの山口氏は、「認知症ケアに係る評価について」を講演。施設系サービスや移住系サービスで問題となる、認知症に対する一つの尺度を展開した。
認知症は、定量的な評価尺度がないため、介護職員もどのようなサービスを行うか悩むことが多い。そこで、「認知症状(中核症状)」「神経症状」「生活障害」「BPSD」「全身状態や内服薬」に注目した客観的な評価ができるチェックシートを紹介。さまざまな側面から症状を確認し、トータル的に現状を把握していく方法について語った。
客観的評価ができるようになることで、ケアの方法が具体的に立てられることに。また数値化することで、ケアの効果も可視化され職員のモチベーションもアップすることができたという。ただあくまでも一つの尺度なので、現場の話し合いが大事とのこと。客観的に認知症を把握し、現場で協力しながらケアする必要性を説いた。
「認知症ケアに係る評価について」
山口晴保(認知症介護研究・研修東京センター)
スタッフと利用者にとって居心地のいい現場を模索
地域と密着することで新たな需要と必然性を創出
④早坂聡久准教授
東洋大学ライフデザイン学部の早坂准教授は、「データから読み解く 軽費老人ホーム・ケアハウスの道標」と題し、現在の軽費・ケアハウスの状況について語った。
地域包括ケアシステム構築の到達目標とされる’25年が目前に迫る中、地域共生社会実現というこれまでの福祉サービスの在り方を転換していくことが必要となっている。そのような中で法人の収益の柱となっているのは、圧倒的に「介護保険事業」。だが経営は厳しく、今後の展開については「事業規模を拡充させたいとは思わない」と思う事業者が多いとのこと。
利用者側から見ると、軽費・ケアハウスに入居した主な理由は、「身体機能の低下・重度化」「家族などの介護負担」などが挙げられる中、「生活困窮」も少なくない。そして、心身と家族の状況により入居を希望する人が多いが、医療的管理が必要なため受け入れ困難な状況も起きている状況だ。そのような中で、今後カギを握るのは「医療的ケア」と「看取り」。現状は看取り経験がない施設が多いが、増やすことで利用者も増える可能性も高いとのこと。できることを増やしていくことが今後の生き残っていく上で大事となってくる。
また、在宅生活が困難な低所得高齢者に向けては、地域包括支援センターや医療機関と連携を取っていくことが大事とのこと。地域ケア会議などに積極的に参加して施設を知ってもらい、連携を深くすることで共に考え、地域における福祉全般の支援を担っていくことが大事ではないかと語った。
「データから読み解く軽費老人ホーム・ケアハウスの道標 〜老健事業から見えてきた展望とミッション〜」
早坂聡久(東洋大学 ライフデザイン学部 生活支援学科)
⑤清水正美教授
施設制度について研究している城西国際大学の清水教授は、「介護新時代に向けた養護老人ホームの未来と可能性」を語った。
入院加療を要する健康状態ではないが、精神的や家族といったネットワークの問題で生活が困窮していて在宅で生活することが困難と認められた人が入所する養護老人ホーム。運営主体によって入所率にかなり差があり、年々下がってきているのが現状とのこと。今後も生活困窮者にとっての福祉における最後の選択肢になっていくことには変わらないため、ニーズがなくなることはないと説明した。
そんな中、養護老人ホームに求められることは、入所者も職員も地域・社会も笑顔になれる社会資源としての存在になること。そのために、所得要件ではじかれている人を受け入れるための制度変更の検証や、入居加入条件などの見直しが課題となってくると語った。
「介護新時代に向けた養護老人ホームの未来と可能性 〜過去・現在(いま)を踏まえて新たな道を切り拓く〜」
清水正美(城西国際大学 福祉総合学部 福祉総合学科)
⑥坂本宗庸氏
「就職活動×Web活用における現状及び留意点と定着に向けた職場づくり」について語り、Webセミナーや面接など今の就職活動の方法について具体例を挙げた。
Web利用により、面接や説明会の会場費や交通費支給など採用活動費の削減につながっている企業が多いとのこと。ただ、対面ではない分、自社の魅力の伝達をどのように行うかが課題となっている現状があるという。学生との距離感を解消するために、施設見学会をLIVE配信するといったスタッフのリアルな姿を映して臨場感を味わってもらう効果的な方法なども提案。採用・定着の活動の成功には、組織が力を合わせて取り組むことが重要と語った。また企業のHPを見たことで応募意欲が高まったという声を紹介し、WebやSNSの有効活用の必要性を説いて締めくくった。
「就職活動×Web活用における現状及び留意点と定着に向けた職場づくり」
坂本宗庸(株式会社リクルート HELPMAN JAPANグループ)
六者六様の目線で介護施設の未来が語られた本講演。さまざまな提案があったが、やはりスタッフと利用者が居心地のいい現場を作ることが施設にとって大事と語っていたのが印象的だった。
老施協カレッジ&討論会&エンディング
学びと気付きと笑顔があふれた2日間
情報を発信するために必要なSNSの活用法などを専門家が語った「全国老施協カレッジ」や、「老施協.com」のアンケート結果を基に現場の職員が意見を交わした「徹底討論会」では気付きを提供。また笑顔があふれていた「施設対抗大喜利大会」では、施設が一丸となって笑わせていた。
全国老施協カレッジ「SNSを中心とした情報発信とWeb運用」
SNS初心者に向けて活用法や基本情報を伝授
これからSNSを導入しようとしている施設向けに、施設運営で重要な情報発信を行うために必要なSNSの活用法や基礎情報などを大手自動車メーカーなどの広告運用を行っているゲンダイエージェンシーの小林剛氏がレクチャー。
施設の様子を外部に発信でき、入居者の家族や地域との信頼関係を築くことに役立つSNS。LINEといった多くの人が目にしたことがあるツールから、GoogleビジネスプロフィールといったGoogle検索やマップなどと連携できるものまでを紹介した。またテクニックや分析ツールの活用の重要性についても語った。
徹底討論会「全国老施協徹底生討論」
アプリと連動した討論会はリアルな意見を出し合う場に
老施協のコミュニティーアプリである「老施協.com」と連動し、アンケートの結果を基に若手現場職員が討論を開始。特別養護老人ホーム鈴鹿グリーンホームの永戸明香里さんとグエン ティ タィン フオンさん、介護老人福祉施設ピアポート千壽苑の中島好英さん、特別養護老人ホーム楽生園の畠山亜末さんらが参加した。
「利用者・家族とのコミュニケーションのコツは?」という質問には、「会話の内容を工夫する」と「話し方を工夫する」が拮抗。現場で利用者や家族と接している参加者だけに、具体例を出してコミュニケーションの重要さを語った。
施設対抗大喜利大会&ご当地プレゼント抽選会
チーム戦の大喜利大会では介護職員ならではの回答が
U字工事の漫才からスタートした「施設対抗大喜利大会」。養護老人ホーム聖ヨゼフ・ホーム、特別養護老人ホーム柏きらりの風、特別養護老人ホーム山笑、特別養護老人ホーム義明苑、特別養護老人ホーム第二日就苑の5施設の代表者が参加。おそろいのユニホームを着用するなど優勝への熱い気持ちがほとばしっていた。
「日常生活でつい出てしまう介護職員ならではの職業病は?」というお題には、「おむつ介助の仕上がりでその日の運勢占いがち」「夢の中でも介助しちゃう」といった職員ならではの回答が飛び出て会場は共感の嵐に。「ICTは何の略?」には「今、ちょー、楽しい」「入れ歯 ちゃんと 取りました?」など、U字工事の2人もうなる回答も。チームワークの良さも相まって、笑いにあふれた大会になった。
2日間のエンディングとなった「ご当地プレゼント抽選会」は、栃木の名産品や栃木のホテル宿泊券が当たる抽選会。豪華な賞品に会場からは歓声が上がり、笑顔のままで本イベントは終了した。
一般社団法人 栃木県老人福祉施設協議会 会長 大山知子氏の総括
「JSフェスティバル in 栃木」を終えて
記念すべき第1回の大会・研究会議合同の「JSフェスティバルin栃木」は成功裏に終了。全国老施協副会長、大会・フォーラム委員会担当副会長でもある、大山知子・栃木県老施協会長に総括を伺った。完成間もない駅前立地という絶好の施設ながら、事前下見は1回しかできないなど、苦労もあったという。
大山知子
Profile●おおやま・ともこ=全国老施協副会長、大会・フォーラム委員会、養護老人ホーム部会、軽費老人ホーム・ケアハウス部会等に所属。栃木県老施協会長
来場していただいた皆さんが「楽しかった」と言っていただいたのが本当に良かった!
手探り状態からながら方向性を提示できた催しに
第1回となる全国老施協大会・研究会議、「JSフェスティバルin 栃木」にご参加された全ての皆さまにこの場を借りて感謝申し上げます。ウィズ・コロナの中にもかかわらず、現場参加の方が約1000名、Web参加の方約500名を合わせて、当初目標の参加者数に到達できました。
施設からのボランティアの看護師さんに加え、地元の病院からも看護師さんを派遣してもらって準備した救護室も利用者はゼロ。2日間のイベントを事故なく終えられたことに安堵しております。
特養、養護、軽費・ケアハウス、デイサービス、あらゆる業態で経営の悪化が続く厳しい状況の中、問題意識を持って皆さんご参集され、各シンポジウム、分科会も時に立見が出るほどの盛況ぶりでした。大会と研究会議を一本化したことで、管理者と現場の職員さんが共に参加されるケースも見受けられ、意識を共有していただいたことで、新たな発見もあったのではないかと期待しております。
また、これまで大会も研究会議も開催したことのない中、準備に奔走していただいた栃木県老施協のスタッフの皆さまにも改めて感謝申し上げます。コロナ禍ということもあり、対面での事前打ち合わせも、現地の下見も1回しかできなかったことを考えると、素晴らしいチームワークであったと思っております。今回は完成して間もない「ライトキューブ宇都宮」初の全館貸し切りのイベントとなりましたが、来賓で来ていただいた福田知事からも活気があって素晴らしかったというコメントをいただいたと聞いております。大会・フォーラム委員会において、参加率を上げるためには毎回大都市部で開催すればいいのではないかというご意見もあった中、大会と研究会議を一本化し、地元色を押し出した楽しめる催しも入れて、参加する方のモチベーションアップにもつなげようという趣旨で、ジャズや漫才での進行、萩野公介さんのトークショーなども開催しながら新しいイベントの形を模索したのですが、会員の皆さんからは「楽しかった、久しぶりにみんなと会えて良かった」という言葉を数多くいただきました。管理者と現場職員の意識の共有ができて、学びもあり、地域を訪れる楽しみもあり、明日からの業務の活力となる。そうした意味では一定の成果をあげられたかなと思っております。同時開催された介護機器展に参加された30社近い皆さんからも、多くのお問い合わせをいただくなどの反響がありました。
イベントを終えてみて感じたのは、柔軟性を持って頭の中にバリアを作らないで考えることの大切さ。これはロボット・ICTや経営改善など、現場の業務でも言えることですし、イベントの構想を練る部分においても言えること。幸い、第1回ということでそこは自由にできた部分もありましたが、第2回以降も自由な発想で、会員の皆さんが楽しく学べる場になっていくことを期待しております。
次回は紅葉の美しい時季に、歴史の里、岐阜県で開催されます。そこでまた皆さんとお会いできることを楽しみにしております。
栃木県老施協の皆さん 2日間、お疲れさまでした!
撮影=磯崎威志、山田芳朗/取材・文=玉置晴子、重信裕之、石黒智樹、宮澤祐介
優秀賞
佐藤里美
(特別養護老人ホーム アクティブハートさかど)
「認知症利用者の睡眠データに基づく個別ケア実践事例 見守り支援器を活用した取り組み」
奨励賞1
逆瀬川陽祐
(デイサービス 聖ヨゼフの園)
「デイサービスの調理活動がもたらした『輝き』認知症ケアにおける調理活動が及ぼす効果」
奨励賞2
田中信次
(介護老人福祉施設 岩井あすなろ)
「当たり前の排便コントロール 自立支援介護理論の実践から」